Interview

2020.6.22

「足を運びたくなる農園」東信吾さんの話

伊藤 優子

FabCafe Hida/Hidakuma 森のコミュニケーター

こんにちは。FabCafe Hidaで、cafeと宿泊を担当している優子です。いつもcafeで、地域内外のお客様をお迎えする私たちが、FabCafe Hidaを飛び出して、飛騨で活躍される様々な人と出会い、まだ知らない飛騨の魅力を知り、訪れる方にその魅力を伝えたい。そんな思いを持って今回会いに行ったのは、パプリカ、にんにく、パクチー、ほうれん草などこだわりを持って野菜をつくっている東農園の東信吾さん。肉厚ジューシーなパプリカは、りんごのような甘さで野菜嫌いの子供も喜ぶびっくりするような美味しさです。

私自身も東農園のパプリカとパクチーのファンで、元々嫌いだったパクチーが、東農園のパクチーを食べて食べられるようになりました。美味しいパプリカを遠く離れた友人に送ったり、おすすめしたり、毎年、本当に楽しみにしています。そんな東さんにインタビューをお願いすると「それなら、畑にきてください。今は、スナップエンドウが最高においしいです」とのお返事をいただき早速訪問しました。東さんからは、農業をはじめたきっかけや、野菜作りのこだわり、野菜を通した人々との出会いなど、たくさんお話を伺いました。人と自然との関係や農業の良さを感じてもらえるのではないかと思います。

「まず、食べて欲しいです」

「自分でとって食べてください。採れたてはうまいんですよ」
という東さんに案内してもらい、スナップエンドウを収穫して食べました。
「え、、あまい」と、私たちが驚くと、
「でしょ?やったあ」と、東さんの笑顔が溢れる。

「人間と一緒で野菜も暑いと呼吸するんです。呼吸って糖分がエネルギーなので、あんまり暑いと呼吸いっぱいして糖分を消費しちゃうんですよね。だからとれたてが一番うまいのは呼吸まだしていないんで、糖分蓄えて甘いんです。それが2、3日経つと呼吸も荒くなってエネルギー使って甘くなくなっちゃう。採れたてを食べてもらいたいってのはそこなんです」

こんなパンパンにぎっしり詰まったスナップエンドウ初めてみました。とうもろこしみたいに甘くて美味しい。野菜を食べて甘さの理由なんて、知らなかったし、今まで考えたことなかったです。

胸を張って継ぎたいと思わなかった家業を継いだ理由

ーーー東農園をはじめたきっかけを教えてください。

東:
昔の農業の印象は、汚い稼げないっていう時代だったと思うんですけど、農家に生まれた長男でしたが、農業が嫌いでした。朝早くから遅くまで泥だらけで、クタクタで帰ってくる父を毎日見ていて全然かっこいいと思わなかったんです。今では、それがかっこいいと思う様になったのですが。笑
例えば、シェフとか、自分にしかできないものを創り出す職人には憧れがありました。みんな同じことをするっていうのが昔から苦手だったのもあります。だから実家の農業に対し昔は胸を張って継ぎたいと思いませんでした。

人生の転機

人生の転機があったのは、大学卒業後に研修させて頂いた種苗会社でのできごと。冬に採りたての大根をかぶりついたら、びっくりするくらい甘くて。野菜は、自分を凍らせないように体液を濃くするんだよ。と、美味しい野菜作りを教えていただきました。野菜の良い遺伝子を掛け合わせていい種を作るスペシャリストのもとで、どうやったら甘くなるかとか、なんで虫がつくのかっていうのをロジカルに教えてもらい、それまで肥料と水をやれば、野菜はおいしく育つと思っていたけど、全然そうじゃない、もっと深い世界がある。自分で美味しい野菜をつくれる。それを知った時に、のめり込みました。

おいしい国産のパプリカをつくる

ーーー東さんのパプリカが本当に大好きなんです。パプリカを始めたきっかけってあったんですか?

東:
高山に帰ってきて野菜を10品目くらい自分でつくりました。それらを直売所に出したら、パプリカを食べてくれたお客様から「また買いにきたよ。国産のパプリカを初めて食べたけどすごく美味しかった」という言葉をいただきました。それが嬉しくて、調べたら、パプリカって国産で10%しかなくて、基本的にオランダや韓国産。しかも、土でつくるパプリカというのも珍しくて、基本的には化学肥料で、水耕栽培でつくるんです。高山市上宝で、パプリカ栽培をやってみえた先輩に基礎を教えて頂き、自分なりの作り方を模索しています。

東:
じゃあ土でつくる意味って何かな?って考えて微生物に行き着き、微生物とか有機のアミノ酸を使うことで、美味しい野菜ができるってことがわかりました。今食べてくれるお客様が美味しいって言ってくれるけど、来年はもっと感動させたい。毎年ずっとずっと考えてどうしたらいいんだろうって、原点にかえったり美味しい野菜をつくる仲間に相談したりして少しずつ自分のカタチが分かりはじめました。

ーーー お父さんの農家とは別のカタチということですか?

東:
そうですね。でも僕がチャレンジする上で、ゼロから1にするっていう作業じゃなくて、親の土台があって、全部揃えられていて、それを使って自分の道を切り拓いているので、感謝してます。やりづらさもあるけど大規模でこのほうれん草をつくっているっていうのがベーシックに、入るお金もあるからたくさんチャレンジできています。だからこそ、いつか親に恩返しできるように頑張りたいです。

見えない世界だから、空想で考える

ーーーお野菜が美味しくなる秘訣はずばりなんですか?

東:
僕もまだまだ未熟ですが、野菜をよく見て、何を欲しがっているかを感じることが一番大事だと思います。毎日見てるとなんとなくですがやっぱりわかる気がします。それで栄養あげた時に、すごい生き生きしてくれる。野菜作りは、風邪引いたから病院に行くっていう感覚と、風邪をひかないような体づくりを漢方とかでする、僕は後者の考えを目指しています。そのために細胞を強くしなければいけないので、光合成産物の炭水化物をしっかり与えることで強い体になるんです。プラスその炭水化物が余ると糖分になるんですよ。

東:
甘みのブドウ糖は、C6H12O6っていう化学式になっていて、たくさんつくって、炭水化物がガチって固まると、糖分になるんです。だからその炭水化物をどんどんつくってあげると、強い細胞にもなり甘くなるから光合成はしっかりさせてあげる。そのためにミネラルをしっかり使ってあげることと、炭水化物やアミノ酸たっぷりな有機肥料を使います。魚カスのペーストや米ぬかですね。余剰炭水化物が上からも下からもどんどんでてくるんです。そうするとね、びっくりするくらい美味しい野菜になります。だからカンとかじゃないんです。

東:
純粋に食べてくれる人を喜ばせたいとか感動させたいって常に、思えばそういう行動になっていくと思います。そこしか見てないです。土の中は、見えない世界だから、空想で考える。それがバチっとハマった時に、美味しい野菜になって全国の人が美味しいと言ってくれる。こんないい仕事はないって思います。人に幸せを作れるし、自分もわくわくするし、汗かいて気持ちよくて、お日様と一緒に畑行って、お日様と一緒に帰って、夕焼けがすっごい綺麗で、帰ってすぐビール飲んでね。1日のこと考えながら、あとは家族との時間をつくれたりする。僕がめざす農業のカタチそこにあるんです。僕は農業って若い人にほどやってほしいと思っています。めちゃくちゃ楽しいですよ。

農業の魅力を伝えていくこと

東:
若い方にこそオススメしたい農業の魅力、 沢山あると思います。農業は自分を表現できる素晴らしい仕事のひとつです。スマホひとつに全て集約される情報社会。今正解なのかもわからない情報の中だけで生きている人もたくさんいると思うんです。僕は、若い人や小さい子たちにもちゃんと土を触るとか、本物を知って、自分の頭で考えてほしいです。夢中になって草採って暑い中に吹く風が涼しくて気持ちいいとか、ふと見上げた空や景色に黄昏たくなる。幸せな瞬間が毎日ある。当たり前のことに幸せを感じるんです。情報ばっかを鵜呑みにして生きちゃうと、迷子になっちゃう可能性もあるから、体動かして本物を見て食べてほしいです。

 

ーーーコロナの影響で各地で大変なことになってると思うんですけど東さんの仕事には何か影響はありましたか?

東:
今ありがたいことにいろんな人が来てくれて、でも実は人手不足がすごいんですよ農家って。そんな中、コロナで悪い影響ではなくて、いい影響がありましたね。というのも、高山は、観光業が盛んなんですけど、宿の人とかコロナで仕事ができなくなった人たちが、うちに来てくれるようになりました。普段会わないような人たちが働きに来てくれたりとか、新しい繋がりができたんです。辛い時だからこそ、自然を見て、風を感じて、汗かいて仕事するっていうこと。ほんと人間の原点だと思うんですけど、そういうのをみんなで共感できたんです。僕たちがやってることや見ている世界をいろんな人に伝えることで、人が来てくれて感動を覚えてくれて。そうした中で持続可能な農業をしていくのが面白いなって思います。

ーーー東さんが目指している東農園のカタチはありますか?

東:
林業も畜産も農業も、地域で循環していく社会が、昔は当たり前だったけど今は分離してる。でも高山って、宝がたくさんあって、ちょっと上行くとススキがたくさん生えていて、それを自分で畑に入れています。茅葺職人の藤原拓馬さんと出会ってから、飛騨の合掌造りの茅葺きの端材もらえたりとか、家具メーカーの飛騨産業さんのヒノキの抽出液、細胞のミトコンドリアの動きが活発化するのでそういうの使ったりとか。地域にいろんなものがあるから、それで助け合って独自のものつくっていければ、地域でより良い関係ができるんじゃないかなと思います。

東:
飛騨の農業の礎を築いてくださった先輩方に敬意を払い、自分なりの野菜作りをさせていただいている中で気付いたことがあります。 今までの自分じゃ絶対に出会えないような人やお店ともご縁を頂いたり、気に入ってくれた方が、贈り物として使って下さりまた新しいご縁を頂く。 畑に向き合い、いい野菜ができることで自分の価値観も広がって行くのが面白いと思います。 自分の作り出した物を通して色んな方に出会えるのも、ものづくりの楽しさじゃないんでしょうか。 たくさんの方が飛騨高山の自然や食、観光、伝統工芸などをより愛してくれるようなきっかけ作りにうちの野菜がなれたら、こんな嬉しいことはないと思います。 いつか地元や仲間に恩返しができるよう頑張りたいです。

足を運びたくなる農園、味を伝えたくなる野菜

野菜を通じた様々な出会いから、いろんな分野で活動する人たちが共感したり、刺激し合って繋がっていき、東さんの言うように厚みをつくっていっています。東さんの言葉からは、随所に感謝の想いが表れつくるだけでなく、その感謝の気持ちをも食べてくれる人やこれから農業をはじめる人たちに、伝えようとする事を何よりも大事にされているのだと感じました。何事もそうですが、今の自分があるのは先人たちが築いてきた基本があるということを東さんのお話を聞いて改めて考えさせられました。

こだわりの食材を使ったレストランの料理人が自ら足を運び、野菜を選び、届け、伝える時代。そんな料理人ではない人たちでも、そのおいしい瞬間を味わう豊かさが、もっと日常にあってもいいのではないか?分け隔てなく受け入れ、与える東さんの柔らかい姿勢からもそんなことも感じさせられました。

「ついさっきも、お客さん来てたんですよ」と、私の友人が、スナップエンドウを買いに来ていたことを教えてくれた東さん。飛騨にあるスーパーや、最近はコンビニでも気軽に東農園の野菜を買うことができます。でもあえて、みんな農園へ出向き購入したくなるのはなぜか?ここへ来たらわかります。作物と言葉でちゃんと教えてくれます。足を運びたくなる農園、味を伝えたくなる野菜。手土産にもいい。東農園は農業をより身近に、そしてとびきりの美味しさを教えてくれる場所です。

飛騨の美味しい作物や空気に囲まれながら伝統文化を学ぶ合宿をしませんか?

ヒダクマでは、教育機関、企業などを対象に、林業や、まちづくりなどを学ぶことができる合宿・滞在プログラムを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちら

他にもFabCafe Hidaでは飛騨の様々なアーティストや職人さん、飛騨で活動する方の思いや暮らしにフォーカスして語らう会「語りBar」や、飛騨の森や森に携わる様々な専門家に出会うトークイベント「森のレッスン」などイベントを開催しています。現在はオンラインでも企画を考えていますので、お楽しみに!FabCafe Hidaのイベントはこちら

Author

  • 伊藤 優子

    FabCafe Hida/Hidakuma 森のコミュニケーター

    1986年生まれ。東濃ヒノキの産地・加子母出身。インテリア科の高校・専門学校卒業後、下呂温泉の仲居として9年間働く。2017年にFabCafe Hidaにジョインし、飛騨のまちで永く愛されるお店づくりをモットーに、cafeでのメニュー開発やイベント企画運営・宿泊を担当。定番メニューのカヌレなどを考案。地元の針葉樹の森と飛騨の広葉樹の森を繋げる架け橋になるのが夢。朝が好き。

    1986年生まれ。東濃ヒノキの産地・加子母出身。インテリア科の高校・専門学校卒業後、下呂温泉の仲居として9年間働く。2017年にFabCafe Hidaにジョインし、飛騨のまちで永く愛されるお店づくりをモットーに、cafeでのメニュー開発やイベント企画運営・宿泊を担当。定番メニューのカヌレなどを考案。地元の針葉樹の森と飛騨の広葉樹の森を繋げる架け橋になるのが夢。朝が好き。

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