Event report

2016.8.21

“はかる” セッション – Fab Meetup Kyoto 特別編レポート

創業123年のメーカーからニューヨークのスタートアップまでさまざまな”はかる”が登場

MTRL KYOTOを舞台に、毎月多彩なプレゼンテーションが繰り広げられる《Fab Meetup Kyoto》。2016年7月27日はその特別編として、「はかる」技術を使ったソリューションを提供する大手企業とスタートアップが集合。京都を拠点とする企業を中心からニューヨークの新進スタートアップまで全7社が登壇しました。

築110年のクリエイティブラウンジでリラックスしてお酒を飲みながらものづくりに欠かせない「はかる」技術の未来を考えたイベントの模様をレポートします。

  1. 株式会社イシダ
  2. 株式会社ハカルス
  3. KTC 京都機械工具株式会社
  4. 地方独立行政法人京都市産業技術研究所
  5. 株式会社アップパフォーマ
  6. オムロン株式会社
  7. The Crated

はかるのイノベーション / 株式会社イシダ

最初の登壇者は、1893年創業の計量器メーカー・株式会社イシダの広報を務める黒澤健太郎さん。今回は「はかるのイノベーション」をテーマに、123年の歴史のなかで多様化してきた「量り」について、3つの技術とプロダクトを紹介していただきました。

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まずひとつめは、ダイナミック計量システム「IMAS-G」。これまでの計量器では、物が静止した状態でないと正確にはかれないというのが常識でした。しかしこのシステムでは、アームで掴んで運ぶいう一連の動作のなかで重量をはかることができます。デモンストレーション映像では、物を掴むのとほぼ同時に重さが表示されていました。貝や野菜などの仕分けの現場で使用されているそうです。

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2つめは、重量推定機能付X線検査機「IX-GE」。X線検査機とは、その名の通り検査物にX線を照射し、その透過率によって異物を検査する機械で、もともとは金属片やガラス片、骨などを見つけるために開発されたものでした。その技術を利用して、密度・体積から重量を推定し算出できるようにしたのがこの製品です。「IMAS-G」と同じく、出荷前の野菜のランク分け(大・中・小)などに利用されています。

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3つめは、スナック菓子の袋詰めなどを行う「コンピュータスケール」。ポテトチップスのように、ひとつひとつの重さや形がバラバラな物を組み合わせて計量する機械です。ホッパーと呼ばれる計量器部分に物を入れると、あらかじめ設定した重さになるよう最適な組み合わせを選別。必要な分だけ下に落とすという仕組みになっています。世界シェア70%を誇る、同社の主力製品です。

これら3つの計量システムを実際に目にする機会はなかなかありませんが、デパ地下などでお惣菜を計量し、その重さに応じた金額を表示する計量器「UNI-9」の実物も持ってきていただきました。私たちの食生活の裏側には、さまざまな「はかる」技術が使われているようです。

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HACARUS / 株式会社ハカルス

続いて登壇したのは、株式会社ハカルスのセールス・マーケティング担当である川上果穂さん。2014年創業のスタートアップ企業で、川上さんは今年の4月に入社されたばかりだそうです。

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同社がミッションとして掲げているのは「テクノロジーを駆使した医食同源の実現」。食を通じて世の中すべての人に健康になってほしいという思いから、重さと一緒に栄養価もはかれるキッチンスケール「HACARUS」を開発しています。

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実際にニンジンを使ったデモンストレーションが行われました。「HACARUS」にはモニターディスプレイがないので一見まな板のようにも見えますが、電源を入れると竹の天板に光でグラム数が浮き上がります。アプリと連動しているので、スマホの画面上にも「197g」という重さが表示されました。さらに「ニンジン」とスマホに語りかけると、197g中にエネルギーやタンパク質、糖質、食物繊維といった栄養価がどれだけ含まれているかを算出してくれます。

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とはいえ、栄養価だけではバランスが取れているのかどうか、一般の人には分かりにくいもの。このアプリでは、1日に必要な栄養素を赤・黄色・緑という3色の三角形で表示してくれるので、足りないものを視覚的に把握することができます。
ユーザー登録をする際には、身長・体重をはじめ日頃の運動量や使用する目的などを入力して自分用にカスタマイズ。それに基づいたアドバイスが、毎食後に管理栄養士から届きます。ユーザーが増えると同社の管理栄養士だけでは対応しきれなくなるので、人工知能を使用するそうです。

今回は実際に「HACARUS」の使い勝手を体感してもらえるよう、軽食を準備してその栄養素を測っていただきました。食を通した健康づくりの第一歩としての「はかる」仕組みに、参加者のみなさんは興味津々でした。

HACARUS Instagram

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ネジの締付け「測る」工具の重要性 / KTC 京都機械工具株式会社

1950年創立のKTC 京都機械工具株式会社は、さまざまな工具を生産している京都のメーカーです。この日はカスタマーサービス部の部長である小池覚さんが、ネジ回しにフォーカスを当てて「工具ではかる」をテーマにプレゼンをしていただきました。

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まずは、ネジが締まる原理の解説から。ネジは締め付けられると、綱引きの綱のように伸びていきます。それが元に戻ろうとする「軸力」という力によって、物が押さえつけられるのだそうです。それでは、締めれば締めるほど強力に押さえつけられるのかというと、そうではありません。ネジの伸びが一定の値を越えると、伸びる一方で元に戻らなくなり、やがて破断してしまうのです。

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そこで必要になるのが、締め付ける力をはかれる工具・トルクレンチ。軸力そのものをはかるのは難しいので、トルク法という計算式によってネジにかかる回転力を算出します。

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トルクレンチが開発された背景には、ものづくりの素材が変化してきたという時代の流れがありました。かつては鉄でつくられていたものでも、最近では軽量化するためにアルミやカーボンなどが使われるようになってきています。こうした素材は、ネジを締めすぎると破損や事故の原因になりかねません。ネジ1本が、企業全体を揺るがしかねない時代になってきているのです。

同社の進化形デジタルトルクツール「デジラチェ[メモルク]」シリーズは、ネジを回したときにかかっている力を手元のモニターで数値確認できるだけでなく、そのデータをPCに転送して作業状況を管理することもできるという優れもの。新幹線の製造にも使われているそうです。

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今後は工具だけでなく、ネジそのものの変化も進んでいくとのこと。すでに展示会では、ボルトにICタグを埋め込み、工具とボルトが会話するという製品が発表されています。近い将来、ネジと工具の常識は大きく変化するかもしれません。

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はかるでわかる、伝統工芸品鑑賞の“コツ”の科学 / 地方独立行政法人京都市産業技術研究所

歴史あるメーカーとスタートアップ企業が交互に登場する中で、異色だったプレゼンターが地方独立行政法人京都市産業技術研究所(以下 京都市産技研)デザインチームの竹浪祐介さんです。京都市産技研は、今年で創立100周年。ものづくり中小企業の手助けをする施設です。

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京都市産技研で伝統工芸の支援をするようになってからずっと、「伝統工芸品の価値って何だろう?」という疑問を抱いているという竹浪さん。著名人の評価やブランド力といった周辺的な理由だけでなく、物それ自体が普遍的な価値をもっているのではないかという想像のもと、伝統工芸品を見る熟練者の鑑定方法をはかることを考えました。

そのために使用しているのが、視線の動きをリアルタイムで追うことができる「アイトラッカー」という機器。お茶の先生や茶道具商といったプロ中のプロに装着してもらい、物を見ているときの視線を記録します。

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スライドで見せてくださったのは、初心者と熟練者のお茶碗の見方を比較した映像と、分析結果をまとめたグラフ。見どころの分からない初心者は視線がふらふらと動き回っているのに対し、熟練者は視線をあまり動かしていません。1点を見ることで全体をふんわりと把握する「周辺視」という見方なのだそうです。しかし、熟練者本人にインタビューすると「全体をまんべんなく見ている」という回答があるのだとか。はかることによって、本人も自覚していないことが明確になるようです。

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このアイトラッカーは、伝統技能の継承にも活用されているとのこと。ベテランが見ているポイントがわかれば、初心者もよりスピーディに習得することができます。伝統工芸を後世に伝えていくためにテクノロジーが活用されているとは驚きでした。

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EAGLE EYE / 株式会社アップパフォーマ

2014年に創業した株式会社アップパフォーマでは、サッカープレーヤーのためのウェアラブルデバイス「Eagle Eye」を開発しています。この日はCEOである山田修平さんにプレゼンテーションをしていただきました。

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アマチュアのサッカーチームをターゲットにセンサー機器を作ろうと思い、実際にリサーチとヒアリングをしていた山田さんが感じたのは、アマチュアでの指導現場での指示や分析は「非常にアバウト」だということ。監督・コーチの指示は「あの辺に」「もう少しスペースとって」といった感覚的なもので、数字はまったく出てきません。また、指導はビデオで撮影してから後で見返すという方法が一般的ですが、それすら面倒でやっていないというチームがほとんどだったのだとか。プレーヤー自身も指示をよく理解できず、自分が上達しているかよくわからないまま「何となくやっている」という状況だったようです。

そこで、サッカープレーヤーにとって必要な情報を数値化・可視化すれば、指導が分かりやすくなるのではないかというアイデアがうまれ、「Eagle Eye」の開発へと至りました。


「Eagle Eye」の内部にはGPSと加速度センサーが入っていて、身につけてプレイすることによりポジションや走行距離、スプリントの回数、加速度などを記録できます。アマチュアが導入しやすいようにメインビュアーはスマートフォンにして、コストを抑えました。収集したデータは時系列や平均値での比較が可能なので、変化に気付きやすく、目標も明確に設定できます。

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また、「Eagle Eye」の特徴で興味深いのは「正確にはかりすぎない」こと。人間の感覚はアバウトなものなので、1cm単位ではかってもコストがかさむばかりで理解が追いつきません。アマチュアでも理解しやすく、データとして分析できる程度に細かいという精度のラインを探り、製品化したのだそうです。
会場にはスポーツファンの参加者も多かったようで、終了後には質問が多く寄せられていました。

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オムロンの画像センシング技術とソリューションコンポビジネス / オムロン株式会社

ヘルスケア関連をはじめ、精密機器に関する幅広い分野に事業を展開しているオムロン株式会社。「はかる」というテーマにあわせて上辻雅義さんが紹介してくださったのは、人を検知するカメラ付きのセンサーデバイスです。

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約20年前から「OKAO® Vision」という技術を開発してきた同社。画像処理において人を認識する技術で、デジタルカメラには早くから搭載されていました。画像から顔の向きや年齢、性別、表情の喜怒哀楽などを読み取ることができます。
同社では、OKAO® Vision の技術を提供するにあたって、メーカー側が多くの物を作って販売するのではなく、多様なソリューションに利用できるデバイスをつくり、ユーザー主導で製品を開発する「ソリューションコンポ」という仕組みを採用しました。

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その仕組みのコアとなるのが、「OKAO® Vision」を搭載した「ヒューマンビジョンコンポ」(以下HVC)。カメラとモジュール基板から構成される画像センシングデバイスで、人体検出、顔検出、手検出、顔向き推定、視線推定、目つむり推定、年齢推定、性別推定、表情推定に加え、顔認証、ペット検出の機能があり、デバイスひとつでさまざまな用途に役立てることができます

たとえば、「HVC」を使って利用する「家族目線」シリーズのアプリケーション。赤ちゃんやペット、高齢者を見守るためのものですが、ただ顔を認識するというだけでなく、赤ちゃんが笑顔になったときやペットが動いたときなどに写真を撮るという楽しい機能が加わっています。

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BtoCだけでなく、もちろんBtoBでも「HVC」は有用。自動販売機やサイネージ、アミューズメント機器などに取り付けて、年齢・性別ごとにどれだけのお客さんがきたかというデータを収集すれば、マーケティングに役立てることができます。
オープンイノベーションにこだわり、さまざまなハッカソンやアイデアソンに提供されているという「HVC」。使い手の側から今後はどのような提案がなされるのか、期待が高まります。

人認識センサーでスマートフォンアプリを開発しよう Sensing Egg Project for Human Vison Components(HVC)

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SMART FABRIC MANUFACTURING TECHNOLOGIES / The Crated

最後の登壇者は、ニューヨークのスタートアップであるThe CratedのMeisha Brooksさん。国内外のスタートアップを支援する「Monozukuri Boot Camp byMakers Boot Camp + FabFoundry (NYC)」に参加しつつ、コラボレーションできる企業を探すため、1カ月間京都に滞在しています。Meishaさんは大阪大学や富士通など日本でのプロジェクト経験も豊かなエンジニアで、プレゼンは流暢な日本語で行われました。

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The Cratedが開発しているのは、「Smart Apparel(スマートアパレル)」と呼ばれるウェアラブルなプロダクト。アドバンスド宇宙服やバイオフィードバック用のシームレススーツなどを実現させる技術だそうです。


自然な衣服の形になるので、通常の機械のような配線やハンダ付けは行われません。柔らかな導電性ファブリックに導電性インクで複雑な回路を描き、裁縫によって組み立てます。普通の洋服と同じように洗濯できるよう、絶縁体が入るそうです。縦横に伸びるストレッチファブリックのデモンストレーション映像が披露されました。この技術を使って、着ている人の身体をあたためたり、体温を検知して色が変わったりする衣服のプロトタイピングが行われています。

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The Crated のチームは Meisha さん自身がファッションモデルとして活躍した経歴があるなど、アパレル業界に精通しているため、機能性だけではなくファッションとしても洗練された製品を作ることができます。Smart Apparelの製造拡大がなかなか難しい理由のひとつとして、アパレル業界とテクノロジー業界とがスムーズにコミュニケーションを取れないという現状があるそうです。その間をつなぐのがThe Crated。縫製士への詳細な仕様書を作ることで、製造過程の問題をクリアすることも可能です。

メディカル系から工業系まで、幅広いプロダクトを考えているというMeishaさん。Smart Apparelが身近になる未来が楽しみです。

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以上、計7組による「はかる」プロダクトに関するプレゼンテーションのレポートをお送りしました。当日は平日の夜にもかかわらず、企業にお勤めの方・伝統工芸に関わる方・学生・フリーランスなど60名以上の方にお集まりいただきました。

MTRL KYOTO では 様々な「つくる」に関するイベントやワークショップ、ミートアップを開催しています。また、MTRL KYOTO を運営するロフトワークでは、製品開発・マーケティング・プロモーションなど、さまざまな企業の課題を、クリエイティブの力を使って解決するお手伝いを行っています。

イベント | MTRL KYOTO(マテリアル京都)

実績・事例 |株式会社ロフトワーク

お問い合わせ | MTRL KYOTO(マテリアル京都)

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“はかる”セッション – Fab Meetup Kyoto 特別編
2016.7.27(Wed) 19:00-21:30
60名が来場

Author

  • FabCafe Kyoto編集部

    FabCafe Kyotoが作成した記事です。

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