Column
2025.11.18
FabCafe編集部
2025年4月より、レジデンスプログラム『COUNTER POINT』16期のメンバーとして活動したアーティスト、数宝朱音さん。誰でも簡単にピクセルアートが制作できるモデリングソフト「MagicaVoxel(マジカボクセル)」を駆使し作品作りに没頭する傍ら、広くFabCafe Kyoto内外で他者と交流しながらデジタルアートに触れ合うための機会作りを行なってきました。好奇心の赴くままに制作に励んだレジデンス活動、そしてFabCafe Kyotoの出張プログラムへの参画から、成果展に至るまでの道のりを総括します。
COUNTER POINT|カウンターポイント
「COUNTER POINT」は、FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。
「組織を頼らず自分たちの手で面白いことがしたい」「本業とは別に実現したいことがある」そんな好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための、3ヶ月限定の公開実験の場です。
流浪する河原者たちが新しいスタイルの芸能”歌舞伎”を生み出した京都・鴨川の近く、築120年を超える古民家をリノベーションしたFabCafe Kyotoを舞台に、個人の衝動をベースにした新たなエコシステムの構築にチャレンジしています。
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「うまくいかない」を楽しむ制作と学びの共有
奈良県を中心に活動するアーティスト・数宝朱音(すほう・あかね)さん。大阪芸術大学アートサイエンス学科卒業後、京都市内のギャラリーに勤務する傍らデジタルアートのワークショップを各地で実施しています。自身の活動テーマは「アナログとデジタルの共生」。技術を強目的的な手段ではなく、自己表現を通じた他者との関係構築のためのツールとして捉えた姿勢に共感を覚え、FabCafe Kyotoでのレジデンス活動がスタートしました。
2025年5月から開始したレジデンス期間では、主にピクセルモデリングソフト「MagicaVoxel」を用いた個人制作と、それをもとにした複数のワークショップを実施。作品制作の目的は、完成品の制作ではなく、試行錯誤そのものを観察すること。レジデンス期間中は主に3Dプリンターを活用した日常的なモデリングと出力のプロセスを繰り返しました。

活動中は成功や失敗の区別を設けず、工程の中で発生する偶然やエラーを積極的に歓待しながらアイデアを繰り返し形にする姿勢が一貫して見られました。このような制作態度は、デジタル工作ツールを専門的スキルではなく、「創造の手触りを取り戻すための媒介」として位置づけるもの。活動前には、自身にとって「難しい機械」であったという3Dプリンターも、結果として「もう一度触ってみたくなるツール」へと変化したと語ります。


参加者とともに考える、一過性ではない学びの場
個人制作と並行し、期間中、6月の毎週火曜日に「ピクセルモデリングクラブ 『かくかくしかじか』」を開催。参加者は学生から社会人まで幅広く、各回2〜3名が参加しました。「教える/教わる」という一方向的な関係性を意図的に避け、同じ机を囲み、時に雑談を通しながらナレッジを共有。スキルを伝達することと同じくらい、参加者からも何かを受け取ることを重視していたと語ります。ワークショップ終了後には、自ら教本を購入し自発的に制作に取り組む参加者や、制作したモデルをお店まで見せに来てくださる参加者の方の姿も見られました。
「デジタルアートはあくまでもツールであり、作品づくりは人との対話のきっかけでもある。」この実践は、参加者が自走的に学び、制作を通して自らの関心を掘り下げる循環を生み出しました。
その後、同様のアプローチはFabCafe Kyotoが継続的に連携するTSURUMIこどもホスピス*でのワークショップにも展開されました。子どもたちが時に没頭しながら自分のペースでモデリングを行い、成果物を通して他者と関わる姿は、「見守られながら続けること」の価値を改めて示すものでした。中には、「新しい特技が見つかった」という参加者の声も。


* FabCafe Kyotoは、2023年度より大阪鶴見緑地のコミュニティ型子どもホスピス「TSURUMIこどもホスピス」と共同でワークショップを企画しています。「つくる」体験を通じて、身体的・精神的にさまざまな事情を持つ子どもたちの「できた!」を後押しすることを目指します。第3回となる2025年度は、施設を利用する中高生を主対象として、部活動のような雰囲気でものづくりに取り組める連続プログラムを実施しました。
見守りと自走の原理
奈良を拠点に活動する数宝さん。普段は一人での制作が中心ですが、今回のレジデンスでは試行の傍らに、常に他者の眼差しが存在します。外部出張企画へのジョインなどを経て、活動期間はいつの間にか当初の3ヶ月を大きく上回る6ヶ月ほどにわたりました。ワークショップの参加者や、FabCafe Kyotoで働くメンバー、日々お店に訪れるさまざまなステークホルダーとの出会いやコミュニケーションによって、自身の中の「つくりたい」が思わぬ方向にドライブする、諦めかけたアイデアが拾われ、妥協したディティールに容赦なくツッコミが入る…そうして日々驚くスピードでアイデアを形にし続ける数宝さんの純な創造へのモチベーションは、周囲の人々に伝播します。
今回のレジデンスを通して、「変化を共に楽しむこと」「誰かと迷いながら考えること」が、ものづくりの持続性を支える要素であると実感したと語ります。
「FabCafe Kyotoは、創造的な挑戦を支えるシェルターのような場所でした。」
数宝さんがそう語ってくれたように、ものづくりを続けること、その過程を他者と共有することの意味を再確認できる、賑やかで力強い滞在となりました。


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