Event report

2021.5.24

テクノロジーがニューノーマルを切り開く。「コロナ社会対応ITサービス プロトタイプ発表会」イベントレポート

FabCafe Nagoya 編集部

Nagoya

3月17日(水)、FabCafe Nagoyaにて、あるピッチが開催された。

岐阜県が誇る大規模IT拠点ソフトピアジャパン」に入居するベンチャー企業8社が開発している、withコロナ時代を乗り越えるための新しいITサービスのプロトタイプをプレゼンするというものだ。

本会場であるFabCafe Nagoyaに加えて、大垣・恵那・飛騨の3箇所にサテライト会場を設置。Zoomによる生配信を加えたハイブリッド形式で行われたピッチイベントをレポートしよう。

ソフトピアジャパンは、岐阜県が1996年に開設した中部圏の一大IT拠点

まだインターネットの普及も進んでいなかった頃に、「東洋初のシリコンバレー」を目指して整備した。12.7haの広大な敷地に、4つの大型施設や企業オフィスビルなどが立ち並び、約150社が敷地内に入居している。また、高度IT人材育成の拠点として入居するIAMAS(イアマス:情報科学芸術大学院大学)」は、日本を代表するメディアアーティスト・真鍋大度を輩出したことでも知られている。

今回ピッチに立った8社の内6社は、その中でもベンチャー企業のビジネス支援を展開するサポートセンターを備える「ドリーム・コア」の入居企業だ。

ソフトピアジャパンセンター ドリーム・コア

ピッチに先立って、岐阜県産業技術課IT利用促進室の浅井珠美室長から、「新型コロナウイルス感染症が、外出自粛などさまざまな制約を私たちの生活に課したことで、オンライン化やリモートワークなど新しい技術が普及するターニングポイントになった。ソフトピアジャパンでも新しいITサービス開発の取り組みが実施され、本日の発表会を機に新しいサービスが世の中に広がるきっかけになれば喜ばしい」とコメントがあった。

そして、株式会社FabCafe Nagoya代表取締役の矢橋友宏からのオープニングトークとして、イノベーションに関するいくつかの学術研究や事例について触れたのち、「モノづくりのメッカである東海地区にさまざまなカテゴリーのクリエイター、起業家、学生が集まることで、新しいムーブメントを起こせると思っている。FabCafe Nagoyaもそうしたコミュニティの場を目指している。

これからピッチに立つみなさんも、ぜひイベント終了後にはたくさんコミュニケーションをとって欲しい」とのメッセージを伝え、ピッチはスタートした。

株式会社FabCafe Nagoya代表取締役・矢橋友宏

コロナ禍で窮地に立たされた飲食店のオーナーが口々にもらした、「この窮状を支えてくれているのは常連客の皆さんだ」という言葉をヒントに、株式会社WEB-WING(発表者:代表取締役・羽田敏也)が開発を進めるのは、スマホだけで簡単に飲食チケットを発行できる「Shop-Ticket」というシステム。
コーヒーチケットのような回数券から、1回限りの食事券まで、スマホ1台あればチケットの販売が手軽に行えるというものだ。一般的な紙のチケットの発行はデザインや印刷のコストがかかるので、個人経営の飲食店にはやや敷居の高い販促施策だが、そのハードルを解消し、常連客との繋がりをより深めることができる。
客側は簡単な登録だけで購入したチケットを、スマホ上で購入・使用できるので利便性も高い。非接触決済が普及するトレンドにマッチした、飲食店には心強いシステムだ。
先着100社程度に、9ヶ月間無償提供を予定しているとのこと。気になる飲食店は、ぜひお問い合わせを。

新型コロナウイルスの感染拡大とともに、一般の医療機関で受け付けられるようになったPCR検査だが、検査センターでの検査結果を医療機関や自治体に通達するルールがまちまちで、未だに電話かFAXに頼っている場合も多い。
株式会社かけはし(発表者:代表取締役・今川崇司[写真右]が発表したのは、患者ひとりひとりに固有のQRコードを発行し、検査の受付から、結果の通達、集計までの流れをスピーディーに行う事の出来る仕組みだ。
この仕組みを使えば、保健所の負担を大幅に削減できるほか、結果をほぼリアルタイムで集計し公表することもできる。今回はPCR検査の効率化を例にプロトタイプを作成したが、他の検査でも利用できるほか、一度発行してしまえばマイナンバーのように他の用途でも利用可能だ。
マイナンバー制度は番号に紐づく情報があまりにも重要すぎて制約が厳しく利用用途が限られてくる。その為、生活者と実際に接する様々な実務を行う地方自治体でこそ、使い勝手がよく、過度に個人情報に紐づかない形のIDを発行することが、社会全体の効率化や人との接触機会を減らすには必要だ。
今回発表されたプロトタイプはその好例とも言える。

コロナ禍で企業に急遽求められたのは、リモートワークへの対応だった。一般的なデスクワーカーであれば、パソコンと通信環境さえ整えばリモートワークへの移行は可能だが、生産現場に携わるスタッフのリモート化は一筋縄ではいかない。
サイトー株式会社(発表者:セクションリーダー伊藤浩希)が考案したのは、現場スタッフの中でも品質管理の砦である「目視検査員」の業務のリモート化システム。
一般に目視検査員は、一箇所に集まって集中的に製品や部品の検品を目視で行うため、「密状態」が発生する。サイトー株式会社の提案は、カメラやモーターから構成する撮影制御デバイスを生産現場に設置し、デバイス上においた製品の状態を、目視検査員が自宅のパソコンの画面上で確認するというもの。あらかじめチェック対象の製品リストを作成し、検品結果の入力フローも構築することで、結果の情報共有をスムーズに進めることができる。
今後は検品精度向上のため、デバイスと周辺の照明の関係の最適化を進めるほか、検査員のチェック画面上でキズの大きさなどを計測できる仕組みなどを導入していくとのこと。

デジタルサイネージの普及が進む中、その在り方を進化させるアイディアを発表したの合同会社4DPocket(発表者:代表・石郷祐介)。
あらかじめ設定された映像を次々とディスプレイに表示するのが一般的なデジタルサイネージだが、その表現が、目の前にいる人間に合わせて、しかも距離に連動して変化するとしたらどうだろうか。AIカメラが目の前の人間の性別や年齢を認識し、表示する内容を相手に合わせて最適化する。しかも、相手が離れた場所にいる時はポスターのように大きな文字でキャッチコピーや写真を表示し、距離が近づくにつれてパンフレットのように情報が具体的で詳細なものに変わっていくという。デバイスと人間のコミュニケーションの起点に「距離」という、ありそうでなかった視点を持ち込んだアイディアだ。
観光地に設置する際には、周辺の観光スポットの混雑状況などをモニターカメラで把握し、リアルタイムで情報提供することで、周辺スポットの混雑回避を促せるとのこと。

新型コロナウイルスの感染拡大とともに、密の回避のためにソーシャルディスタンスの確保が求められ、イベント会場などでは収容率を50%以下に抑えるなどの要請があった。しかし、具体的に収容率50%以下を達成するには、椅子やテーブルの配置はどうすればいいのかは提示されない。
イベント担当者は、事前に会場を下見したり、当日手探りで配置をするなどの煩わしさに悩まされた。これを解消するのがRunLand株式会社 (発表者:代表取締役・國島匡)の提案するシステムだ。
まずはシステム上に、空間の広さ(縦×横寸法)と部屋の最大収容人数、テーブルや椅子の寸法、目指す収容率などを入力する。すると、その収容率に合わせた椅子やテーブルの配置図が自動的に作成される。作成された図面をプリントして当日の会場に持っていけば、あとは図面通りに椅子やテーブルを並べるだけなのだ。
イベント事業も手がける同社だからこそ気づいた、イベント事業者の痒いところに手が届くサービスと言えそうだ。

コロナ禍は私たちの日常生活だけでなく、アートとの関わり方にも大きな影響を与えた。岐阜県は多くの一流作家・芸術家を輩出しているが、彼らのメインの活動シーンはギャラリーやイベントだったので、そうした機会が急減し、作品の発表の場が失われている。
株式会社カーくる (発表者:代表取締役CEO・外狩敦史)が提案した「Art Works Gallery」は、そんな芸術家たちの発表の場を、オンライン上に作るサービスだ。
ギャラリーなどで実際にアート作品を間近に見る代わりに、360°の高画質VR空間にギャラリーを再現し、感染リスクのない環境でアートを鑑賞できる。ギャラリーでは作家と交流ができるが、そうした体験を作家の取材コンテンツの充実などで補う。気に入った作品はオンラインで購入も可能だ。
手作りアイテムを誰もが売買できる既存のプラットフォームの気軽さとは違って、プロの芸術家の作品の魅力をしっかりとオンラインで表現し、日本の芸術家を海外に知ってもらうことも視野に入れて開発を進めている。

日本のハードのインフラの充実は素晴らしいが、その分そのメンテナンスには多大な労力がかかる。中でも構造物の損傷状況の把握には多くの人的リソースを要する。
株式会社アプリコア(発表者:代表取締役・石田剛)が開発するのはそんなインフラ構造物の点検作業を大きく効率化できるシステムだ。
まず、点検は①現場写真の撮影②損傷状況の把握③損傷状況のデータベース登録というタスクに分解できる。このシステムは自社開発のカメラとセットになっており、広い空間は360°をパノラマ撮影し、見つかった傷を画像上にタグ付けし、損傷状況のデータベースと紐づけることができる。そうした映像やデータはタブレット端末でいつでも確認できる。つまり、構造物の点検・診断・対処の3つのステップのなかで行われるさまざまなコミュニケーションを、このシステムを通じてスマートに行えるのだ。
現場に行くという移動行為を減らしながら、緻密な修繕計画をオフィスで立てることができる、インフラ維持の心強い味方となりそうだ。

コロナ禍を機に、行政のデジタル化の必要性が問われるようになった。今は行政文書のほとんどは紙ベースで、様式は多種多様、量も膨大となると、一朝一夕で全てをデジタル化するのは難しいだろう。
しかし、AIとOCR(光学文字認識)技術の組み合わせでその課題に挑むのがデジタル・ボックス株式会社(発表者:代表取締役・宮田明)の「電子自治体移行DX支援システム」だ。
既存のOCRシステムによる文書認識には、①書式ごとの読み取り設定が必要②読み込んだ文書の仕分けが必要③手書き文書の文字認識精度はまだまだ不十分④誤認識を修正する作業が膨大、といった問題がある。それを同社のシステムは、4台のAIが合議制で文字認識することで認識精度を上げるなど、独自の仕組みを使って解消している。さらに紙からデータに変換された文書はWordやExcelファイルとしても出力可能なため、単なる文書保管ではなく行政できちんと利用できるものになる。
行政のDXのためには、膨大なデータのデジタル化が避けて通れない。同社のシステムがその一助となるだろう。

思いのこもった8本のピッチが繰り広げられたのち、8社のうち3社(株式会社WEB-WING、株式会社かけはし 、合同会社4DPocket)の代表とFabCafe Nagoya矢橋氏によるトークセッションが行われた。

矢橋氏からの鋭い質問に対し、3社の代表が短い時間では伝えられなかった思いや目論みを返し、会場の空気は徐々に温度を増していった。そして最後には矢橋氏から「サスティナブル」をキーワードに、「これからのビジネスはサスティナブルであることが前提となる。無理をして続ける、無理をしないと続かないビジネスは、今回のコロナ禍でもかなり厳しい状況にあるし、今後もまた新しい感染症が現れるたびに窮地に立たされるかもしれない。他人事と考えず、サスティナブルなサービス開発も意識して欲しい。」「それにしても、東海地区でこんなにもユニークなソフト開発がされているとは知らなかった。東海地区はハードウェアが強いが、そこにソフトが強い人が集まるのはとてもいいことだと思う。」とのコメントがあり、イベントは閉幕を迎えた。

飲食店向けのチケットから電子自治体の実現まで、本当に多種多様の提案が繰り広げられた本イベント。

今後各社は引き続きサービスのブラッシュアップを進めていくとのこと。技術には、社会を変える力がある。数ヶ月後、あるいは数年後に、8つのサービスを私たちが実際に体験する日が来ることが楽しみだ。(執筆:中島正博)


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