Event report

2022.2.22

OMRON Human Renaissance vol.6「未来実践編 自律社会に向けて③ ~豊かな生き方をつくるために~ 」

FabCafe編集部

OMRON  Human Renaissance vol.6「未来実践編 自律社会に向けて ~豊かな生き方をつくるために~ 」

人の創造性・可能性を高める近未来社会を目指すオムロンのグループ内シンクタンクであるヒューマンルネッサンス研究所が主催する「OMRON  Human Renaissance」。オムロンの未来シナリオ「SINIC理論」と未来創造を実践するゲストとの共通認識をきっかけとしながら、これからの社会の「ありたい姿」を考えるオンラインイベントです。

6回目の開催となる今回は、「日本の伝統を次世代へつなぐ」をコンセプトとしながら活動を展開される株式会社和える代表の矢島里佳さんをお招きし、これからの時代の“豊かな生き方”について議論しました。

「伝統と現代人の感性を“和える”ものづくり」や「生きることと働くことを“和える”生き方」などについてディスカッションし、未来社会に向けた豊かな生き方について考えた当日の様子をレポートします。


ゲストトーク:ご機嫌に生きていくために、伝統文化と現代のライフスタイルを和える

イベント冒頭で、矢島さんに「伝統と現代人の感性を“和える”ものづくり」や「生きることと働くことを“和える”生き方」などについてトークして頂きました。

「会社名である“和える”は、料理の和えるからきています。混ぜるではなく、和えることで、個々の本質が失われず相乗効果が生まれ、より魅力的なものになっていきます。私たちは、会社を通じて生きると働くを和えていき、ご機嫌に生きていたいと思いながら11年間活動してきました」と矢島さん。和えるは創業以来、日本の伝統や先人の智慧と、今を生きる私たちの感性や感覚を和えることをミッションに活動してきました。和えるのロゴは、このような先人の智慧と今を生きる私たちの感性の2つを表現しています。

「歴史は繰り返すと良く言われますが、先人たちの智慧を学ぶことで、ある程度未来は予測できると思っています。先人の智慧と私たちの感性を和えることでより美しい未来の到来がイメージできる、そんなところにいつもワクワクしています」と矢島さんは話します。

和えるのミッションは、日本の伝統を次世代につなぐこと。学生時代、JTBさんの会報誌でフリーのライターとして連載をしていた矢島さんは、さまざまな職人に出逢いその生き様に惚れたことから、和えるという着想を得ました。

「職人さんたちの生きると働くを和える生き方に出逢い、私もそんな生き方をしたい、と思ったのです。お金や経済の奴隷になって働いているから、ご機嫌じゃない人が多いのではないかと。だから、文化と経済を和えている職人さんたちが、これからより重要な存在になっていくのではないかと感じました。そして、この魅力を、次の世代に伝えたい、と思ったのです」。矢島さんは、言葉だけでは伝えきれないその魅力を、物や五感を通して伝えていくことに挑戦したいと感じ、そのアイデアをビジネスコンテストに応募したところ見事受賞。「和える」という名の会社が誕生し、現在まで活動が続いています。「自身の会社を“和えるくん”と呼んで、息子のように、社員は家族のように一緒に成長してきました」と矢島さん。

和えるは、さまざまな分野で事業を展開していますが、事業と捉えているというより、“和えるくん”ができるメニューという感覚です。街や空間をメディア媒体に変えていく事業や企業のリブランディングをはじめ、里山が楽しいから人が集まり、結果として持続する事業を通じて、経済と自然が和えられて成り立つ状態を作り出すことなど、ご機嫌な社会を作るために何ができるか想像して、ワクワクしてしまいます。“0歳からの伝統ブランドaeru”と題し、日本の伝統産業品を出産祝いとしてプロデュース、金継ぎなどのお直しサービスを通して、日本の精神文化を伝えるなどの事業も行っています。「私たちは小売業ではなく、物を通して伝えるジャーナリズム という意識を大切にしています」と矢島さん。

また、自分たちのやっていることと信じていることに矛盾が生じないように、ビジネスモデルも何を和えれば良いのか、考える必要があると矢島さんは続けます。「私たちにとって大切なのは、『日本の伝統が次世代につながること』、『三方よし以上』、『文化と経済が両輪で育まれること』。この3つのチェックポイントを確認して、事業としてやるかやらないかを判断します」。

仕事への姿勢からも、「自分らしく、どう豊かな暮らしを育んでいくか」について、インスピレーションを得られるトークとなりました。

SINIC理論とは

次に本イベントのベースとなるSINIC理論について、株式会社ヒューマンルネッサンス研究所・代表取締役社長の中間真一さんよりご説明いただきました。SINIC理論とは、1970年にオムロンの創業者・立石一真らが発表した未来予測理論です。

SINIC理論は、技術、科学、社会が、相互に影響を及ぼし合い、円環的な関係の中で各々が発展していくと説きます。そして、その発展の中心にあるのは、人間の進歩志向意欲であり、人間の欲求です。

人間社会の発展の歴史をみると、原始社会から農業社会、工業社会、現代の情報社会へと、段階的な発展を遂げてきました。SINIC理論ではこの先の未来社会を自律社会、さらに自然社会が到来すると予測しており、現代は自律社会への移行期である最適化社会と位置付けられます。

矢島さんのトークを受け、中間さんは、「現代社会は物に心を和える時代であり、これから来る自律社会とは、蓄積された知が最先端の知に和えられて、人間らしい豊さが引き出される成熟社会」と話します。「そんな未来に向けて求められるのは、自立・連携・創造の3つの要素を和えることで引き出される“コンビビアリティ(節度ある自立共生・共愉)”。そんな自立共生・共愉に向けて、私たちはどう未来を作っていけば良いのか、今回のトークで話してみたいと思います」と締め括りました。

クロストーク:未来のために、何を和えていくか

矢島さんのトークのあとは、株式会社ロフトワーク / MTRLプロデューサーの小原和也をモデレーターに、株式会社ヒューマンルネッサンス研究所・代表取締役社長の中間真一さんと、株式会社ヒューマンルネッサンス研究所・副主任研究員の小林勝司さんを交えて、未来社会に向けた豊かな生き方について、3つの議題でクロストークを行いました。

SINIC理論を和える

中間さんは、「私たち人類は、社会発展の螺旋階段を登っています。SINIC理論によると、現在は最適化社会で、次は自律社会、自然社会が来ると予測されています」と話します。「SINIC理論は地図ではなく羅針盤です。未来の航路をみんなで作っていきたい。そのための議論が今日のトークです」。

矢島さんは、これからの社会は精神性の時代が来て、近未来で必要とされるものは日本にあるのではないか?という自身の直感について、SINIC理論を知ることでより現実味を帯びたような気がすると話します。

「70歳以上の方々と話すと、日本の先人の智慧の深みを感じます。去年秋田県五城目町で立ち上げたaeru satoyama(里山事業)では、山で遊ぶ智慧に溢れたおじいちゃんから多くを学んでいます。彼らと一緒に山に入ると、これはこう使える、これはこうやって遊べる、という体感に基づいて教えてくれるんです。便利になり過ぎる前の時代を生きた人たちは、“知識”ではなく“智慧”があると思っています」と矢島さん。

これを受けて、「心豊かになるためには、感受性が必要」と中間さんも同意します。「感受性が豊かになるには3つの要素が必要だと思っており、まず野性が必要で、ここから感性が芽生え、そして色々知りたくなるので知性につながります。この、野性・感性・知性の3点セットを持つことが自律社会の豊かな人間像だと思います。矢島さんの言っていた団塊の世代以上の人は、この野性を持っているのではと思うんです。SINIC理論で予測されている自然社会は、ぐるっと一周して原始社会の上にくるハイパー原始社会であり、今こそ野性の時代なのではないでしょうか」。

矢島さんは、「現在では、“知性”から始まりがちで、順番が逆になっている気がします」と、中間さんの議論に賛同しました。

人とものの関係性はどう変わっていくのか

次に小林さんから、「人とものの関係性はどう変わっていくのか?」について話題提起がありました。

矢島さんは、0歳から触れる伝統産業品について語ります。「0歳は野性に溢れている時期です。そのときに日本の伝統産業品に触れてもらうことで、感性が磨かれます」。

「以前、なぜ和えるさんの商品は、子どもたちが使うのに割れる素材を使うの?と聞かれたことがありました。その時、逆に『いつ、割れることを知りましたか?』と尋ねました。割れると危ない、ではなく、割れることを知らない方が危ない、ということに改めて気づいてもらいたい。壊れたら、捨てるのではなく、金継ぎで直してまた大切に使おう。野性を失った大人によって、知性よりの子どもが育まれてしまいます」。

「ものに対して、魂を感じてもらえるようにしたい」と矢島さんは続けます。「商品は、手作業だからこそ全て違う。なので、気がつくと自然に一つひとつを“この子”と呼んでいます。工業製品が溢れてしまうと、そこに命や魂が感じられなくなり、単なるモノになってしまうのではないでしょうか」。

小原は、「ものと人との理想的な関係性は、今後どのようなものなのか」と問いかけます。

矢島さんは、「ものとの関係性は、自分をご機嫌にしてくれるパートナーや相棒という印象です」と答えます。「家に迎え入れるものは、一生一緒に暮らしたいものを、妥協せずに見つけていきたい。お金を出せばものを買える時代ですが、パートナーを吟味するように、ものも吟味する、という思想が大切なのではないでしょうか?」。

もちろん、そのように心を豊かにしてくれるものを見つけること自体、簡単ではありません。どのように見つけることができるのでしょうか?

矢島さんは、必ずしも伝統産業品である必要はないにせよ、自然界とつながっていることを大切にしたいと話します。「自然界の恵で生み出されたものや、作り手の思想に思いを馳せやすいものを選んでみると良いのではないでしょうか」。

中間さんもこの意見に賛同します。「使えば使うほど味わいが出るから、大事にするし、味わおうという気持ちになる。ものを使う時間を長くみることがこれからの成熟の時代には良いのではないでしょうか」。昔はそれが贅沢なことでしたが、現在ではその価値観が変化しているんではないかと、中間さんは話します。「今まで、作り手、もの、使い手の間に壁があったけれども、これからは、それぞれの想いをものを通して和えるのが良いのでは、と思いました。ここが心の豊かさに繋がるのでしょうか」。

理想的な未来に向けて、私たちは何を和えていけば良いのか

最後に、理想的な社会がどうあるべきか、そして、SINIC理論における自律社会とのつながりも意識しながら、私たちは未来に向けて、何を和えていけば良いか、小林さんから質問がありました。

矢島さんは、「ご機嫌な人を和える」ことが大切だと話します。「ご機嫌な人とは、自分よがりでなく心にゆとりがあるので、あらゆることを柔軟に受け入れられます。ご機嫌な人同士、さまざまな専門分野を和えていくと美しい社会が到来するのかなと思います」。

中間さんは、料理の和え物を例えに、矢島さんの活動についてこう続けます。「和え物は、素材の他に、素材の良さを引き立たせる和え衣が肝心ですよね。矢島さんの活動は、和え衣なのではないかと思っています」。

最後に中間さんは、「時間を和えること」の重要性を話します。「過去と未来を和えるには、みんなで未来へのビジョンを持つ必要があります。これがすべてではありませんが、そのような場面にSINIC理論を活用できるといいなと思います」とトークを締め括りました。

 

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