Event report
2025.2.19
LOFTWORK
2024年9月にオープンした「グラングリーン大阪」をはじめ、大規模な都市開発が進む大阪・うめきたエリア。まちの景色や体験が大きく変わるこうした開発を、生活者やまちを利用する人々は、どう見ているのでしょうか。
自分たちはどんなまちで暮らしたいのか、まちにどうあってほしいのか。長く続くまちづくりに、そこで暮らす人や働く人が関わることで、まちの魅力づくりに繋げていけるか。その問いを探るために、2024年12月、トークイベント「つづくデザインの秘密2:にぎわいと商い、コミュニティのこれから」を開催しました。会場は、グラングリーン大阪の中核機能施設であり、ロフトワークがコンセプトづくりにも関わった「JAM BASE」(ジャムベース)。
今回、人々にまちづくりをひらくための視点やアプローチを知るために、3名の有識者と実践者をゲストに迎えました。大阪で長年、まちの文化を豊かにする活動をしてきた大阪ガスネットワークエネルギー株式会社/文化研究所・研究員の山納洋さん(以降、山納さん)。建築設計事務所 Open Aのメンバーとして、官民を縦と横で繋ぎながら、市民参加型のまちづくりを実践してきた和久正義さん(以降、和久さん)。空間芸術の実践と哲学的アプローチで人々の想像力に働きかける取り組みをしてきたハナムラチカヒロさん(以降、ハナムラさん)。
イベントの後半は、三者の話をきっかけにイベント参加者の皆さんとの対話を行い、まちと人との関わりかたをどう編み直すことができるのか、その可能性を探りました。
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左から、 FabCafe Osaka事業責任者 小島和人 大阪ガスネットワークエネルギー株式会社/文化研究所・研究員の山納洋さん Open A 和久正義さん 大阪公立大学 准教授 ハナムラチカヒロさん
ロフトワークはFabCafe Osakaを2025年春に開業予定。まだ形のない価値を生み出す「UN」(アンフォルム)をテーマに、大阪の南森町・天満エリアに多様な文化的実験を行う拠点としてスタートします。
イベントには、FabCafe Osaka事業責任者の小島和人と、ロフトワークの地域共創ユニット「ゆえん」ユニットリーダーの二本栁友彦も参加し、ゲストと参加者との対話から、その場所で暮らす人々が「長くつづくまちづくり」に参加するための方法を探りました。
イベントの前半は、3名のゲストによるプレゼンテーション。大阪で長らく地域共創や文化活動に取り組んできた大阪ガスネットワークエネルギー株式会社/文化研究所・研究員の山納洋さんからスタートしました。
山納さんは1993年に大阪ガス株式会社に入社し、以降、さまざまな劇場の運営を通して都市開発に携わってきました。
山納さんは「場と会話を通して、まちの混沌と向き合う仕事」と題し、2000年に始まった「Talkin’About(トーキンアバウト)」の事例などを紹介。Talkin’Aboutは形を変えながらいまも続く取り組みです。
「Talkin’Aboutというのは、一言で言うと“しゃべり場”です。あるテーマを決めて、そのテーマに関心のある人がしゃべるサロンを運営しています。2000~2006年までに実施した『扇町Talkin’About』では、文学や哲学、演劇、映画、お笑い、サブカルチャーなど多岐にわたるテーマで約700回実施しました」(山納さん)
扇町Talkin’Aboutは、山納さんの思いに共感する15名ほどの運営メンバーで、7年間、カフェやバーを使用して、約700回実施してきました。
山納さんは2006年から大阪のまちづくりに直接関わる業務を担っています。それに合わせて、Talkin’Aboutのありかたも変化しています。
「2007年から再開した『Talkin’About』は、サロンを運営する人がイベントを開催するハードルを下げることを意識しました。たとえば企画テーマが『〇〇の本について語る』と具体的だったものを、『お気に入りの本を紹介する』のように、より間口の広いテーマにするイメージです。2011年からは大阪市の依頼を受け、『御堂筋Talkin’About』と題して大阪のまちづくりをテーマに月1回実施しました。
さらに、2013年からはグランフロント大阪・ナレッジキャピタル内の都市魅力研究室で『うめきたTalkin’About』を開催。この目的は、まちづくりやソーシャルデザイン、地域課題に関する情報交換と、話題を提供してもらう各分野のキーマンと地域との接点を創出することです。ここで意識したのは、参加者にも主体的にトークしてもらう点。約30分間で話題を提供し、その後90分で参加者を交えた話し合いを実施するんです。20人参加した場合、ひとり約4分間の質疑応答ができる計算になります」(山納さん)
うめきたTalkin’Aboutについて、山納さんは「20人の全員の話に対して興味を持てる参加者は、あまりいないと思います。ただ、そのうち2人、3人の話でも、その人にとって意味のある内容だったとしたら、この場が創発につながる出会いの確率を上げる効果を期待できるのではないでしょうか」と手ごたえを語りました。
さらに、2014年から現在に渡り続く「Walkin’About(ウォーキン・アバウト)」では、参加者がある目的地に集合し、それぞれが思い思いのコースをめぐって見聞したりや体験したことを共有し合う、“まち観察”企画をスタート。現在までに近畿2府4県・105ヶ所で実施しています(2024年3月末時点)。
「たとえば、大阪の守口市で開催した場合、9人が参加したら、9人の異なる目で見てきた守口市の情報が集まります。さまざまな視点から、そこどういうまちなのかを知れるこの取り組みは、なかなか面白いんじゃないかと思っています」(山納さん)
山納さんは2001年に有志のメンバーと運営した、バーの空間維持活動「Common Bar SINGLES」の紹介も続けました。
「日替わりマスターのバーを、2001~2004年まで3年半やっていました。Talkin’Aboutの会場だったお店のひとつが閉店するという話になったんです。勿体無いので、その場所で月に1度バーのマスターをできる人を集めようと声をかけたら、40人集まったんです。2004年には、マスターの登録が160名も増えました。僕が関わったのは2004年までですが、この取り組みはコロナ禍に突入する2020年まで続き、長きにわたって空間維持に貢献できた取り組みとなりました」(山納さん)
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山納さんは2004年から日替わりマスターの仕組みを応用したCommon Cafeも実施
山納さんは最後に、2023年にできた病院の中にある劇場「扇町ミュージアムキューブ」内につくったカフェ「マチソワ」を紹介し、プレゼンを締めくくりました。
「ここの運営のやりかたは、Common Bar SINGLESでやっていた日替わりマスターの仕組みに近いです。しかし、マチソワはそれを売りにしてるというより、談話室としての空間を目指しています。カフェメニューを提供しつつも、日替わり店主25名が来店者に話しかけ、交流し合うことでコミュニティを形成するサロンスペースとして地域に愛される拠点をつくろうとしています。これからは、さらに医療従事者ともつながることができる、ケアのためのスペースという側面も育てていきたいと考えています」(山納さん)
続いて登壇したのは、「守口さんぽ」プロジェクトで、オープンなコミュニティづくりを通して守口市の地域課題にアプローチしてきた、Open Aの和久正義さん。和久さんは2020年に株式会社オープン・エーに入社し、2022年より大阪へ拠点を移して「守口市駅北側エリアリノベーション事業」「門真市駅エリアリノベーション事業」などに携わっています。
和久さんは「公民連携で挑む歩きたいまちづくり」と題し、大阪・守口市で行う社会実験「守口さんぽ」の事例を紹介しました。守口市は交通アクセスがよい立地や、かつて宿場町として栄え、歴史のある文化的なまちである一方、近年は子育て世代の流出や将来的な人口密度の低下の懸念などの課題を抱えています。
「さまざまな課題の解決のために、定住促進とまちのイメージアップというビジョン実現を目指し、『守口市駅北側エリアリノベーション事業』を進めています。低未利用の公共空間や空き家、空き地などを活用し、まちの魅力を積み上げて、エリアの価値向上をしていこうという取り組みです。イノベーション事業を推進するにあたり、行政やデベロッパー、金融機関などの大きな組織から、まちの商店、市民などさまざまな人・組織を巻き込んだエリアプラットフォームをつくりました」(和久さん)
駅前広場をつくったり、歩きやすい道を整えたり、コミュニティの核となる場所をつくったり……まちに関係するさまざまなステークホルダーに向けてビジョンを共有していくプロセスで課題となったのが、そのビジョンがどんな風景に繋がっていくのか、全員が実感できる状態で提示することでした。そこで、Open Aのプロジェクトチームが発案したのが、社会実験「守口さんぽ」です。
「エリアイノベーション事業として抽象度の高い未来ビジョンを掲げながら、同時にそれを具体的な風景として人々が体験できる形にしてみようと考え、『守口さんぽ』というイベントを企画しました。守口市が主催し、エリアプラットフォームが実際の運営を担っています。
2021年からこれまで3回実施してきましたが、その年によって規模や内容、期間は異なります。5日間で5,000人ほどの規模で実施した年もありますし、13日間で10,000人ほどの規模で開催したこともありました。
イベントでは、実際に空間をどのように使用するかがイメージできるように、道路拡幅⼯事予定地を活⽤した歩道空間に食材市のお店を出したり、歩道空間に樹木を置いたりしました。商店街では、今利用されなくなってきたスペースに出店したり、一部の道路を使用したりしながら、歩きやすい商店街像を実験的につくっています。
さらに、駅前に広場ができた場合にどんな活用ができるかというイメージを住民の方々に共有するために、駅前の駐車場を広場に見立て、子どもの遊び場をつくって見せました」(和久さん)
5,000人から10,000人規模の来場者を呼び、まちの公共スペースを使った社会実験として実施された守口さんぽ。この取り組みには、まちの新しい風景を試行するだけでなく、人々がまちのこれからを“考える場所”として活用していけるような工夫もしています。
「駅前広場は、日中は子どもたちの遊び場として解放し、夜には大人向けにシンポジウムを開催しました。各地でまちづくりに取り組むプレイヤーや守口市長などを呼び、まちをつくる人たちみんなでこれからの守口について考えるプログラムを用意し、よりクリエイティブな発想をしてもらう機会も演出しています」(和久さん)
3回目の守口さんぽを実施した2023年は、既にエリアの工事が進み始めていたことから、新しい開催場所として守口市駅の駅中や駅前などを活用。主に若い世代をターゲットに、「夜」をテーマに今ある空き店舗スペースを活用したマーケットの可能性とその魅力を模索しました。
「京阪電鉄さんに空き店舗を貸していただいて、簡易な内装をつくって古着屋さんやコーヒーショップを開いたり、DJブースをつくったりしたら、それまで20時以降は静かだった場所に賑わいが生まれました。実験を通して、普段使用されていない場所にもこうした風景をつくれることを、ビルのオーナーや市民の方々に実感してもらえました。
ほかにも、地元住民の方でまだお店を持っていないけれど、何かの形でまちに関わってみたい人たちに向けて、みんなで屋台をつくるワークショップを実施。自分たちの趣味や好きなことをきっかけに小商いを体験してもらうなど、誰もが挑戦できるような仕組みもつくっています。」(和久さん)
和久さんは最後に、官民一体となったまちづくりの可能性に対する期待を述べて、プレゼンを締めました。
「守口さんぽは限られた期間の中で行う社会実験です。しかし最終的には、ここで実証したアイデアを社会に実装することを想定しています。守口さんぽで得たことを開発計画へフィードバックし、デザインに落とし込んでいく。さらにまちをつくるだけに留まらず、エリアプラットフォームの皆さんとともに、人が歩きやすくて滞在したくなる場所を育てていくような流れをつくっていきたいです。
守口さんぽは、まちのにぎわいイベントとしてだけではなく、これを起爆剤とした官民一体となったまちづくりに貢献していきます」(和久さん)
3人目の登壇者は、芸術実践を通じてモノや社会の見かたを変える「まなざしのデザイン」を実践する、大阪公立大学准教授のハナムラチカヒロさん。大阪公立大学で理系と文系を跨いだ総合知を目指す部局で、生命環境科学領域のランドスケープデザインと芸術領域のコミュニケーションデザインをベースにした「トランスケープ論」を研究しています。
「まちへの想像力を育てる、まなざしのひらきかた」をテーマに、ハナムラさんがこれまで一貫して考えてきた「風景」についてプレゼンからスタートしました。
「風景をめぐって、僕は3つのことに取り組んできました。『風景をつくる』『風景になる』『風景をみる』です。『風景をつくる』は、いわゆるランドスケープや環境デザインの仕事です。働いていたオフィスで担当したシンガポール大使館の庭、堺市の埋立地16ヘクタールの計画設計などハード整備が中心です。大阪大学のプロジェクトとして、京阪電鉄のなにわ橋駅の工事現場を開放したアートイベントや、工事中の駅の改札口で実施したファッションショーの企画などもしましたが、会場デザインなどのハードだけでなく、ソフトプログラムをつくる仕事も風景をつくる仕事の一環です。こうした『風景をつくる仕事』に元々は携わっていました。
また、アーティストとして空間芸術をつくることもあります。中でも、一番反響が大きかったのは、病院でのアートインスタレーションです。入院病棟の50メートル吹き抜けに、霧とシャボン玉で現象を起こしました。それを見に大勢の入院患者がやってきて、そこに医者や看護師などいろいろな人も加わります。社会的な立場や役割、違いを超えて集まって視線を交わし合う空間芸術を通して、その場所にいる人々の『見かた』を変える事例です」(ハナムラさん)
ハナムラさんは、これまでの取り組みを通して『風景をつくる』という場所のつくり方を紹介したうえで、『風景になる』という場所の使い方を考えることにも取り組んできたと続けました。
「芝居をしていたので、自分が『風景になる』ということもしてきました。まちをフィールドにした作品の一つに、20人ぐらいで街中のいろんな場所に出て行って普段は取らないような行動をしてみるという集団パフォーマンスがあります。一列になって歩いてみたり、白紙のチラシを配ってみたり。地下鉄でみんなでアイマスクをつけて寝てみたり。まちのルールや自分達の行動規範を少しずらしてみる。そのことで、街のルールって何だ?というそもそもの常識に問いを投げます。
そういう当たり前に問いを投げるという試みを、大阪東成区のスペース運営を通じて継続的におこなってきました。元々は活版印刷工場だった場所をいろんな人とリノベーションしながら、アトリエにつくり変えていくプロセスで人々の関係性をデザインしてきました。
これは世界で一番長い演劇作品と僕自身は捉えていて、3850日の上演期間中にいろんな人々がここで出会い、そしてドラマが生まれました。僕はここに住んで主(あるじ)を演じますが、やってきた人もそれを観る観客でもあり、この劇の登場人物にもなります。
こうして自分が『風景になる』のは場所の使い方の実践で、まちづくりや商業、ソフトプログラムなどが得意とすることでしょう。ただ僕は、場所のつくりかた・使いかたに先立ってより大切なのが、「場所の見方」、つまり『風景をみる』ことだと考えています。
英語で風景を指すランドスケープという言葉は、『ランド(=土地・空間)』と『スケープ(=眺め・見かた)』のふたつに分けられますね。これは言い換えれば『環境』と『自分』の二つです。つまり、この環境と自分とのどちらか一方だけではなく、その両者の関係性によって、風景が生まれるといえます。しかし一般的に風景のデザインと言うと、環境づくりを指すことがほとんどで、それに対して僕は自分つまり主体の眺め方をどうデザインするかを考えてきました。それを『まなざしのデザイン』と呼んでいます。
環境と自分の関係性は、時間が経つにつれて慣れ親しんでいきます。つまり、そこにずっとあるものは当たり前のものとして無意識に固定化していちいち見なくなってしまいます。そうした固定化した関係を一度壊し、別の形に組み替えると、新たな風景が生まれる。たとえば、道で見かけるマンホール。これも見方を変えるとこんな風景になるんです。
普段、僕たちはまちを決まった見方でしか見れていないのですが、それを全く違う方法で見るように導くのがまなざしのデザインだと考えています」(ハナムラさん)
ハナムラさんは、「風景は環境と自分との関係性によって生まれるので、自分の想像力を別のものに取り換えれば同じ対象でも違った風景が現れる」と述べたうえで、まちを見る人の想像力を豊かにする重要性を語り、プレゼンを締めくくりました。
「風景の半分は環境への私たちの想像力によって創造されるとも言えます。ここで、環境を『対象』という言葉に、風景を『現実』という言葉に置き換えてみます。そうすると、身の回りのあらゆる物事に当てはめることができるのではないでしょうか。
人やものごと、世界のあらゆる事柄は、自分の見方で決まるということです。たとえば、水が半分入ったコップが目の前にあるときに、『水が半分しかない』と見るのか、『半分も入っている』と見るのか。同じ対象物でも現実をどう受け止めて、どんな意味を込めるのかで可能性が大きく変わっていきます。
現実に何か問題が起きたとき、僕たちはどうしても対象物の側に原因があると考えてしまう。でも、自分たちのものの見方に問題がある場合もあります。だから、今の現実を変えたいと思ったら、対象物を変えようとする前に、まず自分のまなざしを自らデザインして、自分の固定観念を壊す必要があるわけです」(ハナムラさん)
イベントの後半に行われたオープンディスカッションでは、ゲストから参加者の皆さんに向けた3つの問いをきっかけに、自由な議論が繰り広げられました。
和久さんからの問い「にぎわいがある状態とはどんな状態か」に対して、会場の参加者からは「お祭り」「非日常」など、どちらかというとポジティブなイメージのコメントがで的ました。
一方、山納さんはこの問いに対し、「実は、賑やかなのが苦手なんです。どちらかというと静かな場の方が好きで。たとえば、人が少ない場所でも、そこでとあるご老人との会話が始まったということがあれば、それは豊かな時間が生まれる場所なのかもしれない」といったコメントもありました。
山納さんからの問い「他人事(ひとごと)ではいられないことはなにか」に対して、学校教員の方からは仕事における役割と自身の感情の間で葛藤したエピソードが。
「たとえば、生徒に関わることで何か問題があったとして、本来それを解決するのが自分の役割ではなかったとしても、その生徒や自分自身のためだと思って行動することがあります」
一方、ハナムラさんはこの問いに対して「そもそも自分事とは何かを考えるのもなかなか難しそうですね。意外と人は自分のことを理解していないかもしれない。そもそも、自分の考えや関心ごとは移り変わっていくものですし」とコメント。新たな問いが重なり、一人ひとりがさらに考えを深める時間になりました。
ハナムラさんからは、「自分が死ぬ瞬間から振り返って、これまで自分がしてきたことで誰を自由にしたのか」という重厚な問いが。
この問いに対して、赤ちゃんと一緒にイベントに参加したお母さんは「答えになっているかわかりませんが」と前置きした上で、以下のように語ってくれました。
「子どもが生まれるまで、自分が住むまちのことをあまり考えたことはありませんでした。でも、実際に家を建てて、出産をしてから『子どもの将来を考えると、今のままではよくないんじゃないか』という意見を持つようになって。自分の子どもがこのまちで自由になれるように、まちづくりに何か関わりたいと思いました。これが、今日のイベントに参加した理由でもあります」
ハナムラさんがお母さんに「ご自身は、大阪のまちにどうあってほしいですか?」とさらに問いを投げかけたところ、以下のような答えが。
「今の大阪は、経済のためにインバウンドを増やしていこう、ビジネスの誘致を増やそうという動きが急速に進んでいるように見えます。けれど、ここに住んでいる人たちとの話し合いが、どこまでできているのかが気になります。
この先、このまちはどうなっていくんだろうと。子どもがどんどん減っている中で、今のままで本当にいいのかな。向こう10年は家族とここで暮らすと思うので、自分自身がどうしたいのかをリアルに考えています」
和久さんは、ハナムラさんからの問いに対し、守口さんぽでの体験を述懐しました。
「僕が守口さんぽをやったモチベーションのひとつは、自分があの場所でDJをやってみたかったから。そういう意味で、あの活動によって僕が一番自由になったのかもしれない。でも今振り返ると、自分が体重をかけて取り組み続けたことで、支援してくれる方たちが増えてきたのだと思います」
ロフトワークの小島も、和久さんのコメントに重ねて自身の仕事を振り返ります。
「僕たちも大阪・なんばで、和久さんたちのように地域の人々を巻き込みながら、まちのビジョンを体現する取り組みをしています。僕自身はそこに住んでいるわけではないけれど、自身のライフワークとして熱量を込めてやってきました。そういう気持ちでやっているうちに、だんだんと一緒に主体的に活動してくれる仲間が増えてきましたね」
ロフトワークのプロデューサーでFabCafe Osaka事業責任者小島和人からは、2025年春に開業予定のFabCafe Osakaを紹介した上で、今回のイベントを振り返りました。
「今回のイベントでは、『まちづくり』におけるボトムアップとトップダウンという切り口を起点に、『つづくまちの活動』について対話を深めました。一般的に語られる理想論に終始しない挑戦的な対話の場となり、参加者の中には予想外の視点に驚かれた方もいらっしゃったかもしれません。
生きている人々の思想が完全に一致することはなく、対立や変化を伴うものですが、話し続けることでしか『素敵で楽しくて豊かなまちの姿』は見えてこないと改めて感じました。また、『こうであるべき』という固定観念に縛られないためには、『アーティスト』や『実践者』といった多様な視点が欠かせないことも、イベントを通じて明らかになりました。
ロフトワークは、FabCafe Osakaを2025年春に開業予定です。まだ形のない価値を生み出す『UN』(アンフォルム)をテーマに、その土地に関わる大勢の思想と個人の思想が交わる特異点をつくろうと現在準備中です。『UN』のコンセプトは、文化や歴史の中で形成された『形式(フォルム)』を紐解き、まだ曖昧で未完成の新たな可能性を見出すプロセスそのもの。FabCafe Osakaでは、『形式』を対話により紐解き『UN』の探索と、クリエイティブによる共感のデザインを進めていこうと考えています」(ロフトワーク・小島)
執筆:野村 英之
企画・編集:岩崎 諒子/ロフトワーク ゆえん マーケティング・編集
写真:小椋 雄太
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LOFTWORK
すべての人のうちにある創造性を信じ、オープンコラボレーションを通じてWeb、コンテンツ、コミュニケーション、空間などをデザインするクリエイティブ・カンパニー。グローバルに展開するデジタルものづくりコミュニティ「FabCafe」、素材の新たな可能性を探求する「MTRL(マテリアル)」、オンライン公募・審査でクリエイターとの共創を促進する「AWRD(アワード)」などのコミュニティやプラットフォームを運営。様々な才能と共創することで、幅広いクリエイティブサービスを提供します。
Official Site:https://loftwork.com/
すべての人のうちにある創造性を信じ、オープンコラボレーションを通じてWeb、コンテンツ、コミュニケーション、空間などをデザインするクリエイティブ・カンパニー。グローバルに展開するデジタルものづくりコミュニティ「FabCafe」、素材の新たな可能性を探求する「MTRL(マテリアル)」、オンライン公募・審査でクリエイターとの共創を促進する「AWRD(アワード)」などのコミュニティやプラットフォームを運営。様々な才能と共創することで、幅広いクリエイティブサービスを提供します。
Official Site:https://loftwork.com/