Event report

2022.2.4

crQlr Summit Report 1:異分野連携によるアプローチ / A Multidisciplinary Approach

crQlr Awardsの背景にある考え方は「Action, not prestige(名誉ではなくアクション)」で、循環型経済の実現に向けて活動する、多様性に富んだ数多くの実践者を評価するだけでなく、アワード自体が変化を引き起こす触媒の役割を果たすことを目的としています。2021年12月に開催された第1回目のアワードでは、審査員と受賞者が2日間にわたって5都市で開催されたセッションに参加しました。crQlr Summitは、単なるアワードではなく、「サーキュラー・デザイン」の最前線で活躍する世界中の人々が集い、オープンなフィードバックや知識の交換をおこなう場です。

このレポートでは、「異分野連携によるアプローチ」をテーマにしたFabCafe Taipei主催セッションのハイライトをお届けします。従来の経済モデルを変革するためには、自分の専門分野から一歩踏み出し、他の分野の人々と関わることが必要です。このセッションでは、建築、素材、食品、自動車、観光など、さまざまな業界から審査員や受賞者が集まりました。

The judges of crQlr Awards.

2021年のcrQlr Awardsでは、19人のサステナビリティの専門家と実務家が審査を担当しました。うち数名の審査員がcrQlr Summitの各セッションに参加し、目に留まった応募作品について議論し、受賞者にフィードバックをおこないました。台湾のセッションに参加した審査員は以下のとおりです:

ティム・ウォン
ティムはcrQlrアワードの共同主催者で、FabCafe TaipeiとLoftwork Taiwanの共同創設者でもあります。ハーバード大学デザイン大学院で建築と都市デザインの修士号を取得し、アジア、北米、中東の都市デザインプロジェクトに携わっています。

デビッド・ベンジャミン
コロンビア大学大学院 建築・計画・保存学科の准教授。また、多数の受賞歴のあるデザインスタジオ「The Living」の創設者でもあり、建築におけるバイオマテリアルの新たな利用法を模索し、プロトタイプを作成しています。

リチャード・エッケバス
リチャードはザ・ランドマーク マンダリン オリエンタル 香港の料理ディレクターを務めています。サステイナブルな料理とエシカルな素材調達の先駆者であり、彼のレストラン「Amber」は、ミシュランの2つ星に加え、「Sustainable Restaurant Award」を受賞しています。

ケルシー・スチュワート
ケルシーはFabCafe Globalネットワークのチーフコミュニティオフィサーです。今回のセッションでは、crQlrアワードの審査員兼共同開催者としてモデレーターも務めました。

した。各セッションでは、受賞者数名が、プロジェクトの社会実装やスケールアップにおいて直面した(多くは現在も続く)課題について語りました。台湾のセッションに受賞者を代表して参加したのは以下の各氏です。

Dr. Noryawati Mulyono, Co-founder and CEO of Biopac

Biopacはインドネシアの中小企業で、独自の技術を用いて海藻ベースのバイオ包装材を製造しています。審査員からは、「海藻農家の生活を向上させ、より多くの海藻を養殖して炭素を吸収し、その炭素が包装材に使用されるバイオポリマーへと生まれ変わる」サイクルを生み出している点が評価されました。同社は、審査員のリチャード・エッケバス氏からAmber Prizeを受賞しました。以下は氏のコメントです。

「マングローブ、海草、カメムシなどの沿岸の生態系は、炭素を貯蔵することで知られています。その生態系は『ブルーカーボン』とも呼ばれ、1エーカー(約4,000平方メートル)あたり陸上の森林の20倍ものCO2を取り込むことができます。また、海は大気中のCO2の約30%を吸収するので、海藻は炭素の吸収に重要な役割を果たしているといえるでしょう。さらに、海藻はうまみがあっておいしい(私の好きな食材のひとつです)ですし、海藻の養殖は環境に悪い影響を与えません。このプロジェクトは、このような特長があり成長も早い海藻を活用して包装材を作ろうという新たな提案です」

Linda Ding, Co-founder of INOW

 

INOWは、日本の 『ゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)』の村として有名な徳島県上勝町を拠点にした教育プログラムです。上勝には中央の廃棄物処理システムがないため、住民はゴミを45種類のカテゴリーに分けてリサイクルしなければなりません。このユニークな仕組みは世界的にも注目されており、観光客も上勝の仕組みを体験することができます。INOWは、審査員のデビッド・ベンジャミン氏からGood Life Prizeを受賞しました。以下は氏のコメントです。

「この驚くべき、そして密かに先鋭的なプロジェクトは、現在の浪費的な生活習慣や、継ぎ接ぎの改善アプローチを超越したところにある”Good Life”への楽観的な展望を与えてくれます。循環型社会においては、テクノロジーや素材と同じくらい生活様式が重要になります。INOWは、巨大な気候変動の緊急事態に対処するために必要な、根本的な変革を感じさせてくれます。また、生き方を変えることで得られる、素晴らしく魅力的な結果を知ることができます。そして、『失われた過去からの知恵』と、循環型経済への有意義な移行において、伝統的・土着的・地域的な慣習が果たすべき役割を、痛切に思い出させてくれます」

Taishi Suzuki, Manager of Business Development at Kaiho Industry

金沢の会宝産業は、自動車リサイクルを世界規模で展開するという意欲的な活動が評価されました。これは、使用済み自動車部品の国際的な品質基準の策定や、世界中から集まった200名の研修生への自動車リサイクル教育の実施などを含むものです。同社は、審査員のデビッド・ベンジャミン氏からRe-Work Prizeを受賞しました。以下は氏のコメントです。

「このプロジェクトは、循環型社会ならびに再利用が、有意義な労働や良い仕事と両立するという、本質的で美しい考えを体現しています。また、このプロジェクトは複数のスケールで運営されており、ローカルとグローバルが両立しているともいえます。地域のコミュニティや生活様式に働きかけながら、同時に世界的なインパクトもあるということです(世界には13億台の自動車が存在し、毎年100万台以上の中古車が発展途上国に輸出されているのです!)。そして、採取と消費ではなく、再利用とリサイクルに基づいた、魅力的な新しい地球のつながりを提供しています。このプロジェクトが、国際基準、企業間の協力、教育や再教育など、循環型アプローチを機能させるために必要な技術的詳細を実証していることに、非常に感銘を受けました」

このセッションの前半では、審査員と受賞者がそれぞれのプロジェクトについて、業界や地域におけるサステナビリティの課題にどのように対応しているかを語りました。各プレゼンテーションは、記事末尾の動画でご覧いただけます。ここでは、フィードバックとディスカッションがおこなわれたセッション後半のハイライトをご紹介します。

デビッド:今回受賞した3つのプロジェクトはどれも重要な取り組みです。領域は少しずつ違いますが、それぞれにこのような素晴らしい先行モデルがあることはとてもエキサイティングです。私たちは、新しい素材やバイオマテリアルに関する優れた研究を必要としています。また、材料の再利用に関する研究も必要です。それだけでなく、自動車のリサイクルや包装材用の新しいバイオマテリアルの製造など、新しい生活スタイルや仕事についても考えることができるのではないでしょうか。

リチャード:200点ほどの応募作品は、優れたアイデアが多く、受賞者を見つけるのはとても大変な作業でした。私は、全ての応募者の皆さんが素晴らしいプロジェクトに取り組まれていると思いますし、このようなプロジェクトがもっと増えて、実現することを願っています。現在の世界では、誰もが資源の採掘や、あらゆる種類のモノを製造することに集中しています。私たちはそうした経済活動を進める一方で、より良く再利用したり転用するためのシステムを見つけることは中々出来ていません。しかしすべての応募作品を審査しながら、未来には希望があるという心強い気持ちになりました。

ティム:今日は、登壇者の皆さんが幅広い分野で活躍されているのがとても印象的でした。皆さんは、それぞれの業界、それぞれのやり方で先駆者であることをすでに証明していると思います。そして、自分の利益のためだけではなく、社会の中でどう生きていくべきかという大局的な観点から、さらに一歩進んだ活動をされています。

リチャード:会宝産業の鈴木さんにお聞きしたいのですが、車のパーツのうちリサイクルできないものは何ですか?パーツによっては非常に難しいのではないかと想像できますので、ぜひお聞きしたいと思います。

鈴木:日本では、プラスチック、ゴム、ガラス、チャイルドシートなどをリサイクルするのは非常に難しいですね。分別することはできても、マテリアルリサイクルの技術はありません。また、リサイクルにはコストがかかりすぎるので、市場ではペイしないのです。

リチャード:アフリカでタイヤがリサイクルされ、アスファルトの道路に使われているという非常に興味深い記事を読みましたが、これは本当に理にかなっていると思います。道路を走っている車輪は、寿命を終えて道路そのものに再利用されます。日本では、そこにチャンスがあるのでは?

鈴木:アスファルトに混入させるようなリサイクル技術は存在すると思いますが、市場規模の小ささに比べて使用済みタイヤの数がかなり多いので、リサイクルのための市場を見つける必要がありますね。

デビッド:COP26でBMWのサステナビリティ担当副社長が、「複合材料の使用を見直すべき」という趣旨のことを話しています。複合材料は高性能で軽量であるため注目を集め、未来の素材だと一般的に信じられてきました(注:リサイクルは困難)。しかし、複合材料の推進者の一人であるBMWのような自動車会社が、その複合材料をより循環的なアプローチを可能にするために見直す必要があると言っているのは興味深いことでした。願わくば、鈴木さんがメーカーに、自身の意識を高め、循環型エコシステムの中で役割を果たす必要性を伝えてくれればと思います。

デビッド:循環性は、エネルギーや素材に対する技術的なアプローチと同様に、生き方にも関わるものです。問題の巨大さに対処するためには、私たちの生活様式が変わる必要があります。そしてそれは、単純に何かを我慢することではない、素晴らしく魅力的な生活になり得るのです。INOWのプロジェクトが寛大に人々を招き入れているのを見て、とても刺激的だと思いました。世界中のさまざまな家庭に人々がその体験を持ち帰ることで効果が倍増することを願っています。

リンダ:ありがとうございます。メディアは上勝町をサステナビリティの完璧な例として取り上げますが、これを私たちだけができて他の人にはできないことだと思われたくありません。私たちは「ゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)」という言葉を使っていますが、本来ならば「ゴミゼロ」、つまりゴミが埋立地に行かないようにするという考え方であり、実際には廃棄物が出ないわけではありません。というのも、この村の住民が購入するものはすべて外のより大きな社会に存在する生産ラインで作られたものだからです。そこで私たちが学んだことのひとつが、リサイクルの仕組みです。現在、上勝のリサイクル率は80%ですが、残りの20%を減らすことはできていません。なぜなら、使い捨ての素材があまりにも多いからです。メーカーには、捨てられることを前提とした製品づくりを再考する責任があります。

リチャード:ホテルのオペレーションでは、常に便利さを追求します。私たちが使い捨てプラスチックを排除しようとしたとき、日常的に使うものの中にプラスチックがたくさん含まれていることがわかりました。例えば、ワイプ、スポンジ、粘着フィルム、真空パックなどです。そのような使い捨てプラスチックを排除するにあたり、私たちは時間をさかのぼってヒントを探りました。私たちの祖父母は、この問題にどう対処していたのでしょうか?例えば、100%植物由来でできた旧式のスポンジを探してきて使ってみたら?そうした旧式なものを作れる会社はずいぶん前に廃業している場合が多いのですが、これにより苦境にあった小さな企業が突然再び繁栄するという循環型経済を作り出すことができました。結局、50年前にやっていたことが正しかったのです。

ノリー:Biopacは、消費者から利便性や時間を奪うことはしません。再利用可能な容器の場合、人々は買い物に行くときに空の容器を忘れず持参しなければなりませんが、私たちの製品ならその必要はありません。実際の課題はコストです。将来的には、各国に最低でも1社の代理店を設け、輸送コストを抑えたバルク販売をしたいと考えています。

リンダ:私たちは上勝でゼロ・ウェイストカフェを経営しているので、実際に御社に問い合わせてみましたが、少量の注文ではコストが合いませんでした。これは、消費者の問題でもあると思います。安いものに慣れすぎて、本当の価値がわからなくなっているのです。システムの変革が起こらないのは、企業に使い捨て製品の製造をやめろと言う人が現れないからです。より良い人間になる責任は個人にあるとされ、「もしあなたがサステイナブルでなければ、問題はシステムにあるのではなく、あなたが問題なのだ」という考えが生まれるのです。

デビッド:政府の基準や規制、インセンティブによって、物事に適切な価格がつけられるようにしたいですね。例えば、廃棄物や二酸化炭素の排出に対して税金や罰則があれば、すぐにノーリーさんの製品が最も安価になるでしょう。そうなっていないということは、私たちのシステムがすでに特定の指針で設計されており、中立的ではないということです。むしろ、循環性に反するようになっています。しかしCOP26では、さまざまな企業が政府に基準や規制の策定を求めていると聞きました。長期的な生存のために、彼らはより循環的でサステイナブルな企業として生まれ変わる必要があると理解しているのです。

リチャード:香港では、すべてのテイクアウトフードの包装材を家庭で堆肥化できるようにするための新しい法律の制定を推進しています。テイクアウトフードの世界的な中心地である香港では、ノーリーさんの会社にとって間違いなく市場があります。人々は家であまり料理をしませんし、特にパンデミックの影響でテイクアウトの量が大幅に増えています。この法案が推進されることは、香港にとって非常にポジティブな出来事です。

ティム:リンダさん、そういえばパンデミック前、FabCafeは岐阜県の飛騨で学生を農村に連れて行くプロジェクトを実施しましたね。アーバンデザインを考えるとき、建物の視点だけではなく、そうした地域との連携も重要です。こうした伝統的なシステムを、新しい技術やデザイン思考でつなぎ直すことで、イノベーションが生まれるのです。

リンダ:私たちは上勝に、サステナビリティを考える人たちのためのコミュニティスペースを作りたいと思っています。人々が集い、学び、そしてお互いにつながることができるスペースです。私たちはパンデミックの最中にビジネスを開始したので、日本の国境が閉ざされていたこともあり、インバウンドのお客様は一度もいらっしゃいませんでした。旅行ができるようになったら、もっと多くの人とつながり、実際に体験してもらいたいと思っています。これは、出版物を通して学ぶよりもはるかにインパクトのあることです。

ティム:ひとつ、デビッドさんにお聞きしたいのは、あなたが構築した分析モデルのことです。このモデルは建設段階だけでなく、運用段階、つまり建物の占有率や使用率にまで及びます。これを利用すれば、建物の観点からだけでなく、実際にユーザーの観点からも性能を確認することができます。

デビッド:最良のアプローチを選択し、それをスケールアップしていくためには、データを適切な解像度で理解することが非常に重要なのではないでしょうか。建材の輸送で排出される二酸化炭素のデータは?あるいは、建物を利用中に着目すべきデータとは?「マテリアルパスポート」という素晴らしいコンセプトがあります。現在では梁やレンガなどの建築要素に固有のアイデンティティを与えることができるのですが、それだけでなく、長期間走行してひびが入った車のタイヤにも固有のアイデンティティを与えることができます。素材にアイデンティティを与えれば、それを再利用しようとする方向に意識を変えやすくなります。そのためにはデータを使ったアプローチが必要になります。このように、一方では昔の人や文化の知恵に立ち返り、他方ではテクノロジーを使ってスケールアップの課題を考え、最善の決断を下すというハイブリッドなアプローチには可能性があると思います。

循環型経済における素材の役割は、FabCafe Kyotoが主催したcrQlr Summitセッションのテーマにもなっています。以下の動画で台湾のセッション全体をご覧いただけます。

​​crQlrは、循環型経済に基づく新しい社会の実践者と未来の創造者を支援するグローバルなコンソーシアムです。アワードについてのお問い合わせや、ご自身の循環型プロジェクトへのサポートをご希望の方は、こちらまでご連絡ください。

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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