Column

2026.2.12

不可視の世界を表すために、AIと対話する|武信 朱璃

FabCafe Tokyo Creative Residency「AI-ダダ」アーティストインタビュー

FabCafe編集部

FabCafe Tokyoを拠点に次世代のクリエイターが滞在制作を行うプログラム「Creative Residency」。2026年1月、アーティスト 武信朱璃さんと市川大翔さんを迎え、成果展「AI-ダダ|織り交ざるランドスケープ」を開催しました。

武信さんは、幼少期の体験をルーツに、目に見えない現象や人間の認知の仕組みを独自の視点で捉えています。今作《2025-12-23 Shibuya》では、赤外線カメラとAIを使い、人間には捉えきれない世界の断片を物質化する実験的なプロセスに挑みました。

人間もAIも、世界を観測するためのひとつの「装置」に過ぎない。そう語る武信さんの作品は、当たり前の日常の風景をどのように揺さぶるのでしょうか。哲学や科学を横断しながら「不可視の領域」を探求し未知の構造を暴き出す、武信さんの思考の跡を辿ります。

―― 「表現の道に進もう」と決めたきっかけは何だったのでしょうか?

実を言うと、はっきりとしたきっかけはありません。幼少期から絵を描いたり物を作ったりすることが当たり前の日常で、その延長線上に今がある感覚です。

子供の頃から、言葉では説明しきれない抽象的な感覚や、目に見えないものに関心がありました。それを自分なりに説明し、向き合う方法が「表現」だったのだと思います。もしアーティストの道を選んでいなければ、民俗学や宗教学、あるいは妖怪の研究といった、未知の領域を探求する研究者の道を目指していたかもしれません。

―― 普段はどのようなコンセプトで、制作されているのですか?

幼少期に、いわゆる「怪奇現象」を日常的に経験したことが大きなルーツになっています。それ以来、目に見えない現象や人間の認知の仕組みに強い関心を持つようになりました。

私の制作において大切なのは、それらを安易に信じたり、あるいは頭ごなしに否定したりすることではなく、「未知のものがどのような構造で立ち上がるのか」を見出すことです。直接触れられない領域に、いかに接近できるか。そのための「実験」として作品制作を捉えています。

 

―― 写真やコラージュを用いた作品が多いんですね。なぜその手法を選んだのですか?

以前はアクリル画なども描いていましたが、自分の描く「線」や「意図」をあまり信用できないという感覚があり、不自由さを感じていました。「ここに線を引いたらかっこいいだろう」という無自覚な作為や自意識から逃れたかったんです。

写真は、自分という存在を客観的に切り離せるメディアでした。コラージュ作品では自分の体さえも素材として割り切り、分解することでアウトプットに感情や情動を乗せずに済む。自我という不自由さから解放される今のやり方が、私には合っていると感じています。

―― 今回の作品に込めた想いを教えてください。

今回の制作は「幽霊のような超常的な存在が、もし不可視光線(赤外線)の上に存在していたら?」という仮説からスタートしました。人間とは異なる観測装置を通すことで、世界に別の表情を立ち上がらせることができるのではないかと考えたのです。

今回はFabCafe Tokyoという日常の空間を赤外線フィルターで撮影し、そこから得られた情報をAIに読み込ませて作品を配置しました。私は、私自身の存在も、人間という一つの「装置」だと捉えています。赤外線フィルターもAIも、それとは異なる機関を持つ装置なのです。

日常の空間には、実は不可視の世界が織り重なっている。作品を通してその「不確かな感覚」を感じながら、本来の世界の形について問い直してほしいと思っています。

―― FabCafeでの滞在は、制作にどのような変化を与えましたか?

FabCafeという場所は、作業をする人、食事をする人など、異なる目的を持つ人々が静かに同じ空間を共有していますよね。その日常風景の中に展示空間が地続きで存在していることが、とても印象的でした。

作品が特別なものとして切り離されるのではなく、生活の延長線上に置かれる意味。それを改めて考える貴重な時間になりました。また、市川さんに技術的な面で助けていただいたり、普段は得られないようなフィードバックをいただいたりと、この場所・このメンバーだからこそ生まれた刺激がたくさんありました。

  • 武信朱璃

    アーティスト/東京を拠点に活動中。
    東京藝術大学絵画科油画専攻卒業
    東京藝術大学大学院美術研究科修士課程在籍

    幼少期のいわゆる怪奇体験を契機に、不可視の領域や境界について思考を続けてきた。私の制作は、哲学・宗教・民俗・科学などを横断しながら、人間の知覚が捉えきれない領域へのアクセスを試みる実験である。自我や物質、作家性といった属性を解体し、自己を観測のための装置として扱う。ノイズやエラー、身体を媒介とした出力は、私たちが「世界」と呼ぶ構造と、不可視が立ち上がる閾を疑似的に可視化するための試行である。

    幼少期のいわゆる怪奇体験を契機に、不可視の領域や境界について思考を続けてきた。私の制作は、哲学・宗教・民俗・科学などを横断しながら、人間の知覚が捉えきれない領域へのアクセスを試みる実験である。自我や物質、作家性といった属性を解体し、自己を観測のための装置として扱う。ノイズやエラー、身体を媒介とした出力は、私たちが「世界」と呼ぶ構造と、不可視が立ち上がる閾を疑似的に可視化するための試行である。

FabCafe Tokyo Creative Residency vol.3 参加アーティスト募集

デジタルとアナログを横断しながら、既存のジャンルにとらわれない表現に挑戦するアーティストを支援する「FabCafe Tokyo Creative Residency」第3回目のプログラムに参加するアーティストを募集。「AI-ダダ」をテーマに、多彩なコミュニティとの交流やデジタルファブリケーションを通して、新たな表現を探究する場を提供します。
https://fabcafe.com/jp/events/tokyo/fabcafe-Creative-residency-3/

提出期限は2026年3月1日23時59分です。
エントリーはこちらから
https://awrd.com/award/fabcafe-ai-dada-03

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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