Event report

2019.4.12

AIはデザイナーの役割をどう変えるのか:A.D.A.M 第二回レポート 〜現代ヨットを知る〜

金岡 大輝

FabCafe Tokyo CTO

こんにちは、FabCafe Tokyoの金岡です。FabCafe Tokyoでは、Everblue Technology社との協業プロジェクトとして、「A.D.A.M」というプロジェクトをスタートしました。

「A.D.A.M」は、オートデスク社による3D CAD/CAM ソフトウェア 「Fusion 360」のジェネラティブデザインを使って、自動操船ヨットのデザインをしようというプロジェクトです。近年、AIを使って解析、環境や目的に最適化した形状を生成する流れは、様々な産業で進んでいますが、このプロジェクトでは解析による最適化だけでなく、AIを使って「誰も見たことのない形をデザインする」ことにチャレンジします。

第二回では、金井亮浩さんをゲストに招き、現代ヨットの基礎知識のインプットとデザインの検討を行いました。

「A.D.A.M」プロジェクトの詳細

前回(第一回目)レポート記事

現代ヨットの世界

第二回目となる3月28日のワークショップは、ACT代表取締役である金井亮浩さんのレクチャーからスタート。金井さんは世界最高峰のヨットレースであるアメリカズカップにもテクニカルスタッフとして参戦、イギリスチームのGBR Challengeでは開発と設計に携わった、ヨット設計のスペシャリスト。現在も様々な船舶に関するプロジェクトを実施されています。

△金井亮浩さん


△ACTのプロジェクトの数々
https://www.actechnology.co.jp/racing-yachts

ワークショップは金井さんによる現代ヨットの最新事例の紹介からスタート。

フォイリング 空を飛ぶ現代ヨット

まずはこの動画をご覧ください。

これはアメリカズカップに参戦するUKチームの最新ヨットのテストの様子です。
船体が完全に空中に浮いてしまった状態で進んでいます。これは「フォイリング」という状態、でよりスピードが求められるヨットレースの世界で研究が著しい技術。

船体から水中に突き出た水中翼の作用により水面から浮いています。水中翼の断面は飛行機のそれと同じ断面をしており、水中から揚力を得ているという仕組みです。
これにより極端に抵抗が少なくなり、そのスピードは時速60kmを超えることもあるとか。ほとんど飛行機のような世界ですね。

ヨットはなぜ進むのか

そもそもヨットはなぜ進むのでしょうか。その秘密も揚力にあります。風に向かって進むとき、帆(セール)が風を掴みます。そこには揚力が発生します。その際に、水中に突き出たキールは押し返す力=抵抗力を生みます。この、帆による揚力とキールによる抵抗力の合力として推進力が発生するというわけです。

風に向かって45度で進むと揚力と抵抗力が打ち消されてしまいますから、風に向かって45度以下でジグザグに進めば、風に向かって進むことができるというわけです。


△水中に突き出たキールの例。帆による揚力に対する抵抗力を作り出す。


△金井さんによるレクチャーの様子。意外と知らなかったヨットの原理について、みんな興味津々で質問が飛び交いました。

様々なヨットの形

船体の形そのものにも様々な形があります。
船体が双胴型になっているカタマラン、3つになっているトリマランなどのデザインです。


△カタマラン(左)とトリマラン(右) 船体それぞれ2つ、3つに分かれているのが分かる。

今回A.D.A.Mで目指すヨットは自動操船を前提としてますから、より安定した形であるトリマランが注目されています。

誰も見たことのないヨットデザインを

ワークショップの後半はデザインのディスカッション。
さっそく現役のカーデザイナーである呂さんがスケッチや参考画像を広げます。


スケッチのクオリティに感嘆の声。
生き物のような形で船体同士を繋げられないかというアイデアを持ってきてくれた呂さん。軽さと頑丈さをキープできるような形態をジェネラティブデザインでデザインしようというものです。

「トリマランの場合、船体の前と後で船体同士をブリッジしている部分だけで構造設計をしているので、そこにジェネラティブデザインを使うと、ブリッジすべき最適点がどこか違うところに発見できるかもしれない。もっと軽く作れるかもしれないし、ぜひそんなヨットを見てみたい。」と金井さん。

船体同士をつなぐブリッジ部分は、基本的には大昔の人たちが作っていたトリマランの船から何も変わっていないそうです。新しいテクノロジーを使うことで、軽量かつ堅牢な新しいデザインの可能性が広がりそうですね。


Yang Lo, All rights reserved.

△フロントビューとトップビューの違いを意識したという呂さんのデザイン。真正面から見た印象と俯瞰で見た印象に意図的に違いを出している。


Yang Lo, All rights reserved.

Yang Lo, All rights reserved.

△アメンボを意識したデザイン。流体力学的には、3つのハルの長さは同一の方が抵抗が少ないそうです。

その後は構造の話へ。今回開発するヨットは自動操船のため、スタビリティ(安定性)も重要な要素です。船体が一つの単胴型のヨット(=モノハル)の場合は、船体下に鉛の重りが付いていて、できるだけ重心を下げようとしているそうです。そうすることで復元力を担保しています。

「カタマランやトリマランのように船体が複数ある場合、レバーを左右に出すことで左右のハル(船体)が全体を支えて転覆しずらくなっている。モノハルと比べて重心を下げる優先度は下がる。」と金井さん。

スタビリティを重視するために、アメンボや蜘蛛のように限りなくレバーを伸ばす可能性も検討されました。その際にも張り出す距離と重さ、そしてその堅牢性を考慮するのに、ジェネラティブデザインが適用できます。

ヨットは、基本の形は大昔から変わっていないそうです。Aiを使用したデザインでどのようなヨットのデザインがうまれるのか。今後の活動にご期待ください!

Everblue Technologies
http://everblue.tech/

 

Author

  • 金岡 大輝

    FabCafe Tokyo CTO

    英国で建築を学んだ後、持ち前の幅広いデジタルファブリケーションの知識を活かしFabエンジニアとしてFabCafe Tokyoの立ち上げに参加。Fab部門のリーダーを務め、テクニカルワークショップなどを主宰。その後、Noiz Architectsにてコンピューテーショナルデザインを駆使した建築設計に携わる。

    2015年ロフトワーク入社。デジタルファブリケーションの知識と海外とのネットワークを活かし、世界各地のFabCafeの立ち上げ・海外クリエイターとのコラボレーションや作品制作・自治体や海外大学との教育プログラム設計・アート展示ディレクション・コミュニティ運営・コンピューショナルデザインを駆使したプロジェクト企画などを幅広く手がける。

    2019年よりFabCafe Tokyo CTOとしてFabCafe Tokyoのリーダーを務める。

    英国で建築を学んだ後、持ち前の幅広いデジタルファブリケーションの知識を活かしFabエンジニアとしてFabCafe Tokyoの立ち上げに参加。Fab部門のリーダーを務め、テクニカルワークショップなどを主宰。その後、Noiz Architectsにてコンピューテーショナルデザインを駆使した建築設計に携わる。

    2015年ロフトワーク入社。デジタルファブリケーションの知識と海外とのネットワークを活かし、世界各地のFabCafeの立ち上げ・海外クリエイターとのコラボレーションや作品制作・自治体や海外大学との教育プログラム設計・アート展示ディレクション・コミュニティ運営・コンピューショナルデザインを駆使したプロジェクト企画などを幅広く手がける。

    2019年よりFabCafe Tokyo CTOとしてFabCafe Tokyoのリーダーを務める。

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