Event report

2021.2.18

FABRICATE Vol.0 レポート:大田区の「試作屋」が明かす、クリエイターと工場のコミュニケーションの型

瀧原 慧

“Counterpoint” 代表

FabCafe Tokyoの金岡です。2021年1月12日に、新シリーズ「FABRICATE」のキックオフイベントをオンラインにて行いました。

FabCafe TokyoとConterpointがスタートした「FABRICATE」は、世に存在するあらゆる加工技術に触れ、実用的な情報 (コスト・リードタイム・加工サイズや制約・事例) をシェアし、技術に精通した職人から、初心者のクリエイターまでが出会う、学びの場でありミートアップです。

また、町工場など、加工技術を持つプレイヤーとクリエイターのコミュニケーションやコラボレーションのあり方など、技術を知るだけでなく幅広く、つくるためのトピックを扱う予定です

FABRICATE Vol.0」では、「企画会議」と称し、町工場のネットワークを生かしながら、あらゆるプロトタイプの「試作屋」とて活躍する田中宙氏と、町工場とクリエイターのコラボレーションプロジェクトを多くプロデュースする松田和久氏をゲストとしてお呼びしました。

この記事では、FABRICATEの共宰パートナーであるConterpointの瀧原さんのレポートをお届けします。

 

イベント開催!

2021年2月24日(水)に「FABRICATE vol.1」をオンライン開催します。テーマは「精密板金」。ゲストには、半世紀続く精密板金工場である海内工業株式会社の海内美和さん、そしてデザイナーの齋藤秀幸さんをお招きします。
👉 詳細・申し込みはこちら


Counterpointの瀧原です。母親が大田区の鈑金加工会社を2代目として経営しており、事業承継を意識し始めた時に大学院でデザイン思考(コンセプトデザイン)を専攻し、将来は自社製品をつくれればと考えていました。デザインやアート寄りのことを美大への留学もしつつ学んでいたことから、現在も個人事業のCounterpointとしてコンセプト設計やアート系の調査事業に携っています。

私自身は、職人でもクリエイターでもありませんが、ものづくりに寄り添うことができると考えています。FABRICATEのように広く製造やデザインにまつわる活動を通じ、自分の足場である工場からものづくりのポテンシャルを広げなければならないと感じています。

私は主に2つのインキュベーション施設を活動拠点としています。

一つは今回のゲストの松田さんも運営する大田区梅屋敷のKOCAという工場関係の人が出入りし、デザイナーなど多種多様な人々が入居する「ものづくりプラットフォーム」です。KOCAを拠点に「工場とクリエイターのコラボレーション」である製品開発を行ったり、サポートしています。

(現代美術作家:田添かおり氏とのアクセサリー制作コラボレーション”Punch Hole Ring Project”)

もう一つがSHIBUYA QWSでの活動です。自分が様々な共同案件に携わる中で、やはり工場とクリエイターというのはお互いの仕事についての「理解」や「リスペクト」が大事であると気付いたことで、そのような機運醸成や相互理解を深めるための”march on”というWEBプラットフォームの開発をQWSにて進めています。

FABRICATEという場で目指すところは、「自分たちのリソースの再認識」と「異業種への出会いと理解」です。工場関係やクリエイターの方だけではなく、大企業や場づくりをされる方々もこの会へ参加頂いておりますが、各々の悩みや課題を抱えている中で、「自分たちはどのようなリソースを持ち、できないことはどのような人とコラボレーションをするべきか」ということへの理解が深まる場となれば幸いです。

製造知識やクリエイターの仕事の進め方など、知らない領域を知ることでまた自分たちの持つリソースや協働可能性を広げ、将来的には、このFABRICATEからも案件創出が出来ればと考えております。

今回の登壇者のお二人は、私が大田区で培った繋がりから御登壇頂きました。

有限会社 安久工機は大田区の下丸子に工場を構え、社員5人の少数精鋭、「あなたの作りたいを共に実現するコーディネーター」がコンセプトの老舗町工場です。

田中宙さんは30歳の時に実家の家業がこれからの大田区のものづくりには必要な会社になるのではと考え「人生をかけてやってみよう」と後継者になることを決意。現在、三代目候補として経営の中核を担いながら修行されています。

(安久工機の試作・開発事例)

大田区は日本有数の町工場の集積地で、小規模で特定分野に特化した工場が近くにたくさん密集しているのが特徴です。そこから「仲間回し文化」という大田区ならではの近隣工場との連携体制が昔から根付いているとのこと。

安久工機は「原理試作、機能試作における、機構設計機能を持ったものづくりのコーディネーター」、つまり、ものづくりの便利屋として工場への窓口になることでアイディアを形にする設計作業を専門的に行なう、「大田区に3000社以上ある製造業企業の中でも珍しい企業」なのだと田中さんは言います。ものづくりの構想段階から相談者に寄り添い、仲間回しのネットワークを活用して最適な加工企業と連携して完成までサポートしています。

 

(安久工機さんによる「試作」の定義。原理試作と量産試作が異なるものであることが分かります。)

そんな、ものづくりの便利屋を請け負う安久工機さんの肌感覚での、相談者との間ですれ違いが起きやすい事案をランキング形式で共有して頂きました。

ZOOMのコメント欄でも「なるほど」と大きく盛り上がった「うまくいかない案件の事情ランキング」の第1位は「試作目的がハッキリしない」ことだと言います。「図面が無くともこの目的さえしっかり持っておいてもらえれば、安久工機はお手伝いできる」と、ものを形にする前提ではとても大事なこととして強調されていました。

また、「よくある(けど困る)問い合わせランキング」という表現で、実際に工場と協働したいクリエイターにとっては事前に要件定義をしておいた方が良い事柄を挙げて頂きました。町工場の立場からすればすれ違いの原因として多い「あるある」であり、工場に案件相談しようにもどうすればよいのか、何から何まで手探りで考えなければならないクリエイターの方にとっては特に有用な情報を共有頂けたと思います。

(田中さんは相談者と工場との間でよくある「すれ違い」を無くすにはどうすればよいのかを常に考えています)

安久工機に寄せられる案件相談は多くが実現可能性の検討から始まり、要件定義のすり合わせを行います。そこから材質や調達すべき部品、もの全体の仕組みを決める「構想設計」の段階に入ることから、案件相談の段階で構想設計図ができていなければ、すぐに概算や納期を提示することは不可能であり、概算見積を出すことはそれだけ重みのある工程であるというお話でした。

様々な相談者と話す中で、「試作は家づくりに似ている」との考えに至ったそうです。

というのも、マイホームを建てるとき、相談者の要望を元に建築士が設計を図面にして、工務店が建造します。町工場の流れもほとんど同じで、クリエイターが構想を相談し、設計士が図面に起こし、加工工場が図面から形にします。プロダクトも家づくりのように予算も製作段階でも三者一体となってきちんと考えをすり合わせをして、できるだけ最初のコンセプトから離れないように必要なものは何かと相談し合って進めていけたらより良い形になるはずだと、田中さんは仰っていました。

 

2人目の登壇者、建築家の松田和久さんは、ご自身のここ3~4年間で行ってきた3つの活動から得た知見から、FABRICATEのテーマである「クリエイターと工場とのコラボレーション」についてトークをして頂きました。

(UKAWでの活動・制作例)

松田さんの活動は以下の3つに分けられます。

  1. UKAW:建築設計及びデジタルファブリケーションによる設計技術の提供。
  2. KOCA:インキュベーション施設の設計・運営。
  3. DOGBONE:デジタルファブリケーション(CNC切削機)を活用した木工家具製作と、ECプラットフォームの運営・管理。

CNC切削機や3Dプリンターといったデジタルファブリケーションを用いて、企画・設計・試作・量産・販売・顧客対応までを一気通貫に行ってきたクリエイターとしてのご自身の経験と、KOCAという「ものづくりプラットフォーム」に集まるクリエイターと近隣の大田区の町工場との連携を運営者としてどのように捉えているか、その2つの視点からFABRICATE(クリエイターと工場のコラボレーションについての展望)について語って頂きました。

(KOCAでの活動についての紹介)

デジタルファブリケーションに代表されるデジタル化の進展により、これまでメーカーが担ってきた企画・設計・プロトタイピングまでが個人でも一気通貫に行うことが可能になった一方で、主に2つの課題が浮かび上がったことも松田さんは指摘しました。

1つは設計・デザインのプロセスにおいても、デジタルファブリケーションでの試作の先のプロセスである、きちんとした実物を得るための製造(工場による試作・量産それぞれの加工法や条件)にまつわる知識を持っていなければならず、また一層高い水準が求められるであろうという課題。

2つ目は、これまでメーカーが担っていた品質管理・在庫管理・カスタマー対応といったプロダクトを顧客へ届けるための仕組みづくりやサービスをも個人が担わなければならないという課題です。

(クリエイター個人がD2Cにおいて担うようになったプロセスの分析)

そのため、これからは前者のような役割をクリエイターの代わりに担ってくれる安久工機さんのような存在=「より一層領域横断的な技術や知識を持ったデザイナー」や「クリエイターと工場間の通訳」といった存在、あるいは後者のこれまでメーカーのフローが担っていた役割を担う「新しいプレイヤー」がコラボレーションにおいては必要だと松田さんは言います。先の田中さんと同じく、「建築で言えば工務店の役割が近い」との言及もありました。KOCAやFabCafeのような場の存在はまさに工務店のような中間人材や機能に出会う機会を提供しているとも言えるでしょう。

松田さんの話を踏まえ、以前FabCafeで行われたイベント” How to Make it Safe -誰かのためのものづくり”で触れられた「デジタルファブリケーションでつくられたフェイスシールドや人工呼吸器のパーツで事故が起こった場合には、その責任の所在は、病院にあるのか、設計者にあるのか、プリントした人の責任になるのか」という”つくる責任”の議論にも繋がってくる話だろうとの言及がありました。

FABRICATEでは、今後も様々な加工技術を取り上げながら、「つくる」について考えていきます。次回以降もご期待ください!


オンラインイベント:工場の技術×クリエイターで何ができる?ミートアップ「FABRICATE」Vol.1 「精密板金編」

FABRICATE

「FABRICATE」は、つくるためのあらゆる「技術」を学び、シェアするオンラインのミートアップです。日本の製造業を支える町工場の技術から、デジタルファブリケーションなどの最新技術まで、加工技術を共有し、ものづくりのプロセスに革新を起こすコラボレーションを目指します。今回は「精密板金」をテーマにゲストをお迎えします。

Author

  • 瀧原 慧

    “Counterpoint” 代表

    1992年生まれ。母方の祖父の代より大田区京浜島にて鈑金加工会社を家業として営んでいることから、KOCAにて”Counterpoint”として活動。町工場を中心とした「新しいものづくり」の在り方を考える。他方、「鉄工島FES 2019」や、文化庁「文化経済戦略推進事業」など、主にアートイベントにおける定性調査を行う。

    https://note.com/counterpoint
    https://shibuya-qws.com/project/mock-bank

    1992年生まれ。母方の祖父の代より大田区京浜島にて鈑金加工会社を家業として営んでいることから、KOCAにて”Counterpoint”として活動。町工場を中心とした「新しいものづくり」の在り方を考える。他方、「鉄工島FES 2019」や、文化庁「文化経済戦略推進事業」など、主にアートイベントにおける定性調査を行う。

    https://note.com/counterpoint
    https://shibuya-qws.com/project/mock-bank

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