Event report

2020.5.28

『How to Make it Safe -誰かのためのものづくり- #2: 自作マスク編』レポート

FabCafe編集部

医療の現場でも新型コロナウイルスへの感染リスクと不安の声が高まっています。個人でものづくりに取り組むメイカーたちがさまざまな防護具の製造に動き始める一方、実際に医療の現場に届けるためのノウハウはいまだ十分とは言えません。善意による「誰かのためのものづくり」が人を傷つけないために、私たちは何を考えるべきなのでしょうか。

本記事は、FabCafeと「Fab Safe Hub」が共同開催したオンラインイベント『How to Make it Safe -誰かのためのものづくり- #2: 自作マスク編』のイベントレポートです。メディカルデザインエンジニアとして活躍する吉岡純希さんを中心に、医療とFabをつなぐための情報共有やディスカッションを通じて互いの理解を深める試みとなりました。

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How to Make it Safe バナー画像

イベント発起人

  • 吉岡 純希

    株式会社NODE MEDICAL CEO / 看護師 / Medical Design Engineer

    看護師の臨床経験をもとにテクノロジーの医療現場への応用に取り組む。​​病院でのデジタルアート「Digital Hospital Art」の実施。慶應義塾大学にて看護と3Dプリンタに関する研究「FabNurseプロジェクト」へ参画。 現在、株式会社NODE MEDICALを設立し、アート、デザイン、エンジニアリングと領域を越境し、医療の現場でのコラボレーションの社会実装を目指している。

    看護師の臨床経験をもとにテクノロジーの医療現場への応用に取り組む。​​病院でのデジタルアート「Digital Hospital Art」の実施。慶應義塾大学にて看護と3Dプリンタに関する研究「FabNurseプロジェクト」へ参画。 現在、株式会社NODE MEDICALを設立し、アート、デザイン、エンジニアリングと領域を越境し、医療の現場でのコラボレーションの社会実装を目指している。

ゲストスピーカー

  • 小林 茂

    情報科学芸術大学院大学[IAMAS]教授

    オープンソースハードウェアやデジタルファブリケーションを活用し、多様なスキル、視点、経験を持つ人々が協働でイノベーションに挑戦するための手法や、その過程で生まれる知的財産を扱うのに適切なルールを探求。著書に『Prototyping Lab第2版』『アイデアスケッチ』など。岐阜県大垣市において2010年より隔年で開催しているメイカームーブメントの祭典「Ogaki Mini Maker Faire」では総合ディレクターを担当。

    オープンソースハードウェアやデジタルファブリケーションを活用し、多様なスキル、視点、経験を持つ人々が協働でイノベーションに挑戦するための手法や、その過程で生まれる知的財産を扱うのに適切なルールを探求。著書に『Prototyping Lab第2版』『アイデアスケッチ』など。岐阜県大垣市において2010年より隔年で開催しているメイカームーブメントの祭典「Ogaki Mini Maker Faire」では総合ディレクターを担当。

医療現場に物資を届ける際の課題

医療の現場でも新型コロナウイルスへの感染リスクと不安の声が高まっています。個人でものづくりに取り組むメイカーたちがさまざまな防護具の製造に動き始める一方、実際に医療の現場に届けるためのノウハウはいまだ十分とは言えません。善意による「誰かのためのものづくり」が人を傷つけないために、私たちは何を考えるべきなのでしょうか。

メディカルデザインエンジニアの吉岡純希さんを発起人としてスタートした、医療とFabをつなぐ試み「How to Make it Safe」。第2回となる今回は「自作マスク」をテーマに、情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 教授の小林茂さんをゲストに迎え開催されました。

小林さんは4月12日に「自作マスクに関する事例調査」を実施。Googleフォームで情報を募ったところ、4月23日時点で62件の投稿が集まりました。インターネットで公開されている情報のうち、特徴的なものをご紹介いただきました。

 

身近な素材で手作りマスク

自作マスクの約8割を占める手作り派の主流はマスクカバー。一時は入手困難となったサージカルマスクの消費を抑えるため、そしてメイクや表情が隠れてしまうマスク生活をより楽しむためという2つの側面から多く作られているようです。

 

手作り派の間では、サージカルマスクの代替としてフィルターのないマスクを身近な素材から作ろうという動きも活発でした。

衛生面への懸念から、フィルターを取り替えるタイプのマスクも多くみられました。代表例とも言える「HKマスク(香港マスク)」は、布マスク+キッチンペーパーでN70マスクに相当するフィルター能力の高いマスクが作れるという発想です。考案者のサイトでは詳細な作り方やレポートも公開されています。正しい使い方や効果、性能についての情報はまだまだ少ないのが実状です。レポートは日本語にも対応しているので、目を通してみてはいかがでしょうか。

画像出典元:HK Mask

 

デジタルファブリケーションとマスク

デジタルファブリケーションの技術とマスクがコラボレーションすると、どのような可能性が生まれるのでしょうか?

コーヒーフィルターを使ったマスクはポピュラーですが、ゴム付けなどマスクの形状にするのが難所です。ゴムを取り付ける部分のアタッチメントを3Dプリンタで出力すれば、いつでも簡単にマスク作りが可能に。マスク全体ではなくパーツを作るという発想でデジタルファブリケーションの強みが活きています。

出典元:3D Printed Coffee Filter Mask Holder 

 

ワンタッチでフィルター交換できる3Dプリントマスク「PITATT」は、3Dスキャンした人の顔から造形しているので顔にしっかりフィット。中にフィルターを挟んで使います。中性洗剤で洗えば繰り返し清潔に使えるのも特徴です。

データ頒布により、状況や好みに応じてアレンジが広がることもデジタルファブリケーションの醍醐味。お笑い芸人の劇団ひとりさんもアレンジに挑戦しています。出力したPITATTにステッカーを貼って、バイクギアのようにオリジナルマスクを楽しんでいるそうです。

 

この大流行が落ち着いた後、いわゆる「アフターコロナ」を見越したアイデアも現れ始めています。コロナ収束後もマスク姿が日常化するのではないかという予想から、フィルターの代わりにセンサーを入れ、ウェアラブル端末としても機能する「SensingMask (センシングマスク)」を発案する方も。このマスクは温湿度情報をリアルタイムで取得し、iPhoneにデータを蓄積することができるのが特徴となっていて、その複合解析データから呼気温度や咳回数を検出し、自身の健康状態を把握できるスマートマスクとなっています。既にプロトタイプ化されていて、FabCafeの関連サービス「AWRD」が開催した、未来のマスクのアイデアを募る「Mask Design Challenge 2020」にて「株式会社白鳩賞」と「審査員賞」を受賞されています。


画像出典元:SensingMask by Ryota Kobayashi -AWRD

その他、接客業の方のためにコミュニケーションの上で唾の飛散を抑えるフェイスシールドのような形状のマスク事例もありました。マスクといっても、目的や制作環境によっていろいろな素材、形状のものが作られていることが分かりました。

事例調査では、マスクの制作事例だけでなく性能に関するレポートやメンテナンス方法などの情報も共有されました。自治体や行政機関から発信されているものなどもあり、有益な情報が集約されていますので、小林先生のドキュメントをぜひチェックしてみてください。

私たちが身につけるべきスタンダードプリコーション(標準予防策)

前回のイベントでは「感染の成立条件には感染源、感染経路、感受性宿主が関係する」という話題が出ました。感染を予防するためにはこのトライアングルを崩す必要があります。

感染の条件を崩すために大切なことのひとつとして「スタンダードプリコーション(標準予防策)」が挙げられます。周りの人やものすべてに対して「感染源かもしれない」という前提で接することがポイントです。

環境整備の一例として、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムを使って定期的に拭き掃除を行うことが挙げられます。どれだけこまめに手を洗ったり高性能なマスクを使っていても、外から持ち込んだものにウイルスが付着していては感染リスクから免れられません。

テーブルやドアノブなど、有機物でないものを拭く場合は0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液が有効です。

医療の現場での使用を考えると、メイカーはターゲットとするウイルスに効果的な消毒、滅菌ができる素材を選ぶこと、またどの消毒・滅菌方法に対応しているかをユーザーへ明確に伝えることも意識しておく必要がありそうです。

■ 0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液の作り方

 500mlの水にキッチンハイターをペットボトルのキャップ2杯分(10ml)注ぐ
 ・キッチンハイターの代わりにピューラックス、ミルトンでも可
 ※手指消毒など有機物には使えないので注意
 ※光に当てると劣化するので、一度に使い切るか遮光して保管すること
 ※時間による劣化もある(7日間でかなり減退する)ので早めに使い切ること

このイベントシリーズ「How to Make it Safe」や吉岡さんのプロジェクト「FabSafeHub」ではものづくりを通して身を守る取り組みと向き合っていますが、私たちは大前提として基本の所作を身につけなくてはなりません。ものの議論だけではなく、行為、行動による感染リスクについても考えていく必要があります。

サージカルマスクに備わっている機能とは?

また、予防に求められる防護具や行動は想定される感染経路によって異なります。

マスクといってもさまざまな種類があることは先のリサーチでもよく分かりました。市場には、さらに特殊な領域で使われるマスクや機能の特化したマスクも存在します。サージカルマスクのフィルターが対象とするのは0.1〜5μmで、飛沫に包まれたウイルスがちょうどそのぐらいの大きさです。

マスクのフィルタリングには基準値があり、一般的なマスクは製品化の段階で「BEE(バクテリア濾過率試験)」「VFE(生体ウイルス遮断効率試験)」といった世界規格の試験が行われています。ドラッグストアなどで販売されているマスクの箱やパッケージの裏側を見るとこれらの記載があるかもしれません。宣伝文句としてよく聞かれる「PM2.5対応」などには根拠があったのですね。

機能を理解せずものを作ることへの危機感と私たちができること

イベントの後半は、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使い、オンライン参加者をランダムにグルーピングしてディスカッションを実施。興味深いレポートが続いたので短い時間になってしまいましたが、レポートの感想や日頃気になっているマスクへの疑問、悩みが共有できました。期せずして衛生用品の製造に携わる方からの専門的な意見を聞くこともでき、リモートながらも得るものの多いディスカッションになったのではないでしょうか。

吉岡さんは今回のイベントを開催するにあたり、自作マスクに対して「不安を感じている」と本音を吐露。機能を理解しないまま制作、提供することにより、感染を防いでいる「つもり」の人を増やしてしまうのではないか、ということでした。

ユーザーからは効果の有無を求める声が多く聞かれますが、作り手として大切なのは目的、機能を的確に伝えることなのかもしれません。マスクそのものを自作することも大切ですが、ユーザーの所作をサポートするという視点で、マスクをフィットさせるパーツやフィルターを工夫して作っていくことが予防のためのアクションとして効率が良いのではないか。そんなアイデアが吉岡さんから提示され、今回のイベントは締めくくられました。

次回の「How to Make it Safe」は現在準備中ですが、引き続き情報の提供とディスカッションを継続していきたいと思っています。詳細が決まり次第、FabCafe公式サイトやSNSでお知らせしますので、ご興味ある方は今後もぜひご注目ください。

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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