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2021.6.8

観光都市・京都を支えるデータ活用術 ーーコロナ禍における地方創生とデータ活用 #3 イベントレポート

2021年2月〜3月に開催されたイベントシリーズ「コロナ禍における地方創生とデータ活用~V-RESASで見るデータとケーススタディ~」では、コロナ禍における地域経済の状況を見える化するオープンデータベース「V-RESAS」を知るとともに、先進事例を学びながらこれからのデータ活用について考えてきました。第1回では台湾のデジタル大臣オードリー・タン氏を、第2回では岐阜県飛騨市長の都竹淳也市長をゲストに迎え、行政におけるデータ活用のあり方について議論を展開しました。

本記事でご紹介するのは、シリーズ最終回となる第3回。京都市観光協会 DMO企画・マーケティング専門官 堀江卓矢氏をゲストに迎え、屈指の観光都市である京都市の現状と、データ活用の取り組みを伺いました。ナビゲーターは引き続き、デザインエンジニアの田川欣哉氏、統計家の西内啓氏が務めます。

V-RESASから見える、京都の観光産業に対するコロナ禍の影響

初めに田川氏より、本イベントのタイトルにも掲げられているオープンデータベース「V-RESAS」の紹介が行われました。V-RESASとは、新型コロナウイルス感染症にまつわるデータを集約し、地域経済への影響を可視化することを目的として公開されたウェブサイトで、内閣府地方創生推進室、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部によって運営されています。

V-RESAS Webサイト

田川欣哉氏

V-RESASの大きな特徴の一つは、データの更新速度にあります。日々刻々と状況が変わるコロナ禍においては、行政や民間の事業者も迅速な意思決定や判断が求められます。そのため、V-RESASは週次更新にこだわり運用されています。

また、V-RESASのVは血圧計、心拍、酸素濃度を計測表示する「バイタルサイン」に通じています。V-RESASでは民間企業から提供されたデータをもとに、人流、消費、飲食、宿泊、イベント、興味・関心、雇用の7つの分野にフォーカスしデータを可視化していますが、情報を公開し続けることで人々が変化を察知できる、さらに調査を行い仮説や対策を立てることができる、という期待がタイトルに込められています。

続いて、京都の経済動向はV-RESASでどのように見えるのか、統計家の西内氏が解説しました。

2021年2月第2週における京都府の移動人口は、2019年の同時期に比べ約マイナス20%となっています。市区町村内、府内での移動というより、都道府県をまたいだ移動が減っているようです。宿泊データでは、特に女性グループの宿泊者減少が顕著です。居住地別のグラフを参照すると、府外からの宿泊者、特に2019年にボリュームゾーンを占めていた東京からの宿泊者が大幅に減っていることが見て取れます。

飲食のデータでは居酒屋に次いで和食、鍋料理店の売上が落ち込んでいることがわかります。この状況を巻き返すために、V-RESASのデータから他の収益モデルを検討してみました。京都への流入の大半を占めていた東京の人々の消費行動をPOSデータからひもとくと、惣菜類の消費量が伸長。自宅で普段と違った食事体験を楽しめる「お取り寄せグルメ」に検討の余地があるのではないかと西内氏は提案しました。このように、V-RESASでは自地域のデータだけでなく、リーチできていない対象者のデータを参照し、対策につなげることもできます。

継続的なデータ分析が支える、京都市の観光施策

今回お迎えするゲストは、京都市観光協会の堀江卓矢氏です。観光都市・京都で行われているデータ活用とコロナ対策を、DMO(観光地域づくり法人)の視点から解説していただきました。

京都市は年間のべ8,000万人が訪れ、滞在人口の15%を観光客が占める国内屈指の観光都市です。数年前まで、オーバーツーリズムの象徴として語られることが多かった京都の観光ですが、実は今よりもはるかに観光客が少なかった1970年の大阪万博、1990年頃のバブル期の頃から似たような問題を経験してきており、必ずしも観光客数の多さがオーバーツーリズムを引き起こしているわけでは無いことが、データから確認することができます。

2021年3月現在の京都来訪者の内訳は、大阪府、滋賀県といった近距離でのマイクロツーリズムが多数を占めています。一方で東京都からの来訪者はコロナ禍によって大きく減少。彼らもまた、神奈川、埼玉、千葉など首都圏内での移動にとどまっています。西内氏の解説とも重なりますが、「京都を訪れていた人々の、発地側の分析ができるのはV-RESASの画期的な点」と堀江氏もV-RESASを評価しました。

堀江卓矢氏

堀江卓矢氏

京都市観光協会では、2014年頃より市内の宿泊施設から月次データを収集し、翌月末までに客室稼働率などを集計して発表しています。また、コロナ禍の影響で先行きが不透明な状況に不安を感じる事業者も多いことから、2021年1月からは宿泊予約データを元に、3か月先までを見据えた将来予測の発表を開始。

加えて、京都観光協会では「訪問意向指数(行こう指数)」を独自に開発。京都に関するウェブサイトのアクセス数やSNSでの京都に関する投稿数を集計し、2019年を基準に指数化しています。データを参照すると、実際の宿泊客数と「行こう指数」の間に乖離がみられ、「行きたい」という気持ちがあっても実際に訪れる人数は伸び悩んでいることがわかります。この結果を受けて観光協会は、継続的な情報発信や感染症対策などによって、観光することへの心理的な壁を取り除くことができるような取り組みを市内事業者に求めているそうです。

DMOとしても、観光者の三密を回避したいニーズに応える施策も積極的に進めています。たとえば、行動変容を促す取り組みとして、混雑予測の情報を公開。スマートフォンの位置情報ビッグデータをもとに観光地の混雑度を5段階で評価し、2ヶ月先までの予報を発信することで、観光者が来訪日程を検討する材料を提供しています。

また、市内の多くのスポットで来訪者数が減少する中、五山の送り火で有名な大文字山はアウトドア需要の高まりから来場者数が前年比を超えていることから、観光協会ではウェブサイトの改修を含めハイキングに関する情報発信を強化。2020年における関連ページのページビュー数は劇的に増加し、同年11月には5万ページビューを超える注目を集めました。

文化財の特別公開は2020年から事前予約制を導入し、時間帯ごとに定員を設定することで密集を防ぐことに。以前は昼頃のピーク時には一度に100人を超える拝観者が訪れていましたが、事前予約制を導入したことで昼間の拝観者が減り、朝夕の時間帯への分散化を促すことができました。しかし定員を設けたことで拝観者の総数は減少してしまったため、「予約者へのダイレクトメッセージ送付などリピートを促す施策や、単価の高いサービスの提供が必要」と堀江氏は今後の課題を語りました。

「京都にしかない特徴で差別化」ポストコロナ時代のおもてなしを考える

データの利用だけでなく独自の集計やデータに基づいた施策の検討など、学びの多い京都市観光協会の事例を受け、後半はナビゲーターの田川氏、西内氏も加わって三者でパネルディスカッションが行われました。

堀江氏に現在の京都の経済状況を尋ねると、「平日の需要が落ち込んでいる」と回答。GOTOキャンペーンの一定の効果を認めた一方で、曜日を問わないキャンペーンでは利用者が休日に集中してしまうという課題を指摘しました。これは売上だけでなく雇用にも影響を及ぼしており、平日の需要が戻らないと安心して雇用を増やせないという経営判断から求人数の停滞も招いています。

しかし緊急事態宣言やロックダウンが解除され観光客が急激に戻ってきた場合、事前に雇用を確保しておかないと対応できなくなってしまう懸念もあります。「少ない人員で対応しサービスが低下すると満足度も低がり、取り返しのつかない事態を招く」と堀江氏は警鐘を鳴らし、対策の必要性を訴えました。

田川氏は京都市観光協会独自の指数「行こう指数」に注目。「過去の実績データを参照する場合もあるが、先行指標としては人の気分や関心がより重要」と指摘しました。V-RESASでも「興味・関心」としてYahoo!からの検索データを可視化しています。「行きたいな」と「行った」の数値が同じレベルで推移すれば施策が成功している、という読み取り方に加え、堀江氏は「その二つが一致したら、今度は旅行中のフォロー施策に切り換えなくてはならない」と段階によって必要な施策が異なることを補足しました。

議論はアフターコロナ、ポストコロナの世界についても展開。京都市における今後のビジョンとして、堀江氏は「オーバーツーリズムの再発防止」を至上命題に掲げました。京都市観光協会では、2020年夏に発表したロードマップでターゲティングの見直しを打ち出しています。これまでは首都圏や欧米からの来訪者をメインターゲットに据えていましたが、エリアに関わらず文化への理解や地域との関わりを大切にする人との関係性を深める方向への転換を目指しているとのこと。「インバウンドに注力していた頃は他の地域との差別化を意識せずとも観光客を集めやすい市場環境であったが、国内マーケットではそうはいかない。京都にしかない特徴を統計から見つけ出し強化していきたい」(堀江氏)と語りました。

最後に、データを活用しながら京都市の観光や経済活動を考えていくにあたり、V-RESASに期待するデータとして堀江氏は「宿泊や観光に対する満足度、サービス品質を測る指標が欲しい」とコメント。たしかに近年は口コミやSNSでの評価が消費者の行動を左右する傾向にあり、Googleマップやトリップアドバイザーでの評価や口コミの数、内容の重要度が高まっています。これに対し西内氏は「これまで議論できていなかったトピック」と前向きに受け止めつつ、「宿泊に対する満足度はどのようにデータ収集できるか、要素の細分化を考えたい」とコメントしました。

西内啓氏

西内啓氏

目の前にある情報を正しく集め分析する動きが生まれれば、データ活用によってより良い意思決定を導くことができるでしょう。V-RESASをはじめとしたデータのオープンソース化と行政や事業者単位での有効な活用が広がることに期待しつつ、本イベントは幕を閉じました。

 

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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