Event report

2021.1.26

お互いを知ればやさしくなれる。誰もが「思いを表現できる」社会へーー「やさしさラボ」#3 レポート

全4回のセッションを通じて「社会におけるやさしさとは何か、そして可能か」という命題に向き合うオンラインスタディプログラム、「やさしさラボ」。やさしさとは何か、前回までのプログラムでその輪郭や目指すところがかすかに見えてきました。

今回はやさしさを実践するワークを組み立てるにあたり、社会の中でやさしさを実践する2人の先駆者がゲストです。そして1か月間のワークに取り組むためのグルーピングではちょっとした実験を行い、やさしさの根底にある「相手を知ること」そして「自分を伝えること」の大切さを学びました。

一人目のゲストは、女性のウェルネス課題解決を支援するfermata株式会社 CCO中村寛子さんです。

重い生理痛でも我慢せざるを得ない、「女性だからXXするべき」…..女性であるがゆえに受けるさまざまな社会の呪縛に心を病み、会社を辞めてしまった中村さんは、「女性も多様性や主張を堂々と発信できる場を作りたい」と、イベント連動型メディア「MASHING UP(マッシング・アップ)」を立ち上げました。MASHING UPでは「インクルーシブな未来を拓くメディア&コミュニティ」をタグラインに、上野千鶴子さんやフワちゃんなど「今、話を聞きたい」人々をイベントスピーカーにアサインしています。

夢は一つ実現したものの、中村さんは実体験からキャリアとウェルネスがリンクしていないもどかしさを感じていました。そこで情報とテクノロジーで女性特有の健康課題を改善したい、という思いから共同創業者である杉本亜美奈さんとfermata株式会社を設立。2年目にして今や日本のフェムテック市場を牽引する存在へと成長しています。

中村さんはより多くの女性にやさしさを提供する一方で、やさしさのもつ難しさにも直面しています。「MASHING UP」において、エンパワーメントと押しつけの違いや、同情と共感の違いは紙一重。また、女性活躍、LGBTQ、障害者、外国人を指して「当事者」と呼ぶことへの違和感は未だに解決できていません。フェムテックに取り組むfermataがターゲットとすべきは「生物学的女性」だけなのか、というのも大きな課題です。中村さんが“やさしさの難しさ”に対して考え、工夫している4つのことを紹介してプレゼンテーションを締めくくりました。

もう一人のゲストは、NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)で代表を務める詩人、上田假奈代さんです。

幼少の頃から詩人の母のもとで詩作をしていた上田さん。一時は会社員として生計を立ててようとしていましたが、出会いや別れを経験して表現することの大切さを実感します。2001年に「詩のボクシング」で大阪大会のチャンピオンになると、上田さんは詩人としての活動を本格化。2003年、大阪市西成区にアートNPOとしてココルームを立ち上げました。

ココルームは喫茶店の「フリ」をして、表現や芸術に触れるきっかけを生み出す場です。2008年に区内の釜ヶ崎という地域に移転しましたが、そこは日雇い労働者の街。劣悪な労働環境で暴動が起こることもしばしばありました。上田さんらはココルームを起点にさまざまな事業を展開。2014年には「釜ヶ崎芸術大学」の名で芸術祭に参加したほか、空き店舗をブックカフェにし、ゲストハウスを立ち上げるなど今なお変化を続けています。

上田さんは「表現の可能性を探りたくてこの活動をしている」と語ります。「表現することが大事なのではなく、自分の存在を大事にされて初めて表現ができる。表現できる場を作るための一人ひとりのありようを考えていきたい」

それぞれユニークな視点から社会へのやさしさを実践するお二人ですが、「誰もが表現できる、意思表明できる場を作る」という点では共通するものがあると感じました。やさしさを持つためには互いを知ること、考えを伝え、また聞くことが第一歩になることを学びました。

午後はオンラインホワイトボード「miro」を使って、これから1か月をかけて実践したいワークを発表し合うとともに、ワーク期間を伴走するグループ分けを行いました。ワーク自体は個々で行いますが、近い考えを持つ人同士でグループを組むことで1か月間走り切るモチベーションを生み出そうという考えです。

午前中のゲストトークで、私たちはやさしさの前提となるコミュニケーションは話し合ってこそ始まるものだということを学びました。互いを尊重したコミュニケーションとはどのようなものなのでしょうか。これまでのワークはファシリテーターが主導して進めてきましたが、今回はファシリテーターによる誘導を行わず、すべて参加者自身でグルーピングを行っていただきました。

ホワイトボードには、参加者がやさしさラボ参加当初に抱えていたテーマとこれまでのやさしさラボを通じて学んだこと、自身の考えをそれぞれ書き出しています。一人の書き出したトピック群を島に例え、方向性や考え方をもとに4つのアーキペラゴ=諸島を作るのが今回のワークです。何を大事にしているのか、他の誰と考え方が似ているかをディスカッションしながら、より相性の良い諸島を作っていきます。

人との心地よい関わり方について地域という軸を立てて考えているるんちゃんは、地域に関心を寄せるこーだいさんと近い位置に島を配置。他者を考え思いを馳せることがやさしさの第一歩になるという観点でもリンクしたといいます。一方、さくらさんの「やさしい人/やさしくない人」の考えに対しては「本当にそうか?」と疑問を持ったというるんちゃん。まったく反対の考えだから逆に話してみたい、という関心も覗かせました。

そのさくらさんはまめこさんの「正しさは必ずしもやさしいとは限らない」という言葉に共感を覚えたとコメント。加えて、えりさんの「問題提起にもユーモアを」という発想や視点にも関心を寄せていました。自身の考えやワークとは必ずしもリンクしなくても、興味やリスペクトを持って他者の考えに触れている様子が垣間見えました。

互いのプレゼンテーションをもとに、ある程度近い考え同士が集まる形で配置されたものの、4分割にはまだ至っていません。「誰かリーダーシップを執って……」とモデレーションを促したところ、10秒ほどの沈黙を破ったのは、毎回積極的なコメントで議論を活性化させてきたともきさんでした。参加者の反応を探りつつ、名前で呼び掛けることでリアクションを求めます。

島々が全体的にギュッと集まっているため、近い考えはより近く、違った考えはより離すなど、距離感の表現を強めることでグループの分かれ目を作っていきます。初めは沈黙を守っていた他の参加者も、ともきさんの明るい声に背中を押されるようにアイデアを声に出し始めました。

順当に進めば4人ずつの4グループが生まれる予定ですが、5人のグループができてしまいました。他のメンバーを気遣って「私が移動します」と遠慮することもできますが、それはやさしさを追求するこの場において適切なコミュニケーションとは言えなさそうです。ともきさんが進行に頭を悩ませていたところ、当事者の5人を中心に「誰と組みたくてこの位置にいるのか、他に興味のある島はあるか」という建設的なコメントが出始め、最適な分け方を全員で検討することができました。

ここまでの所要時間は約20分。初めは戸惑いや緊張感もありましたが、徐々に各々の声が聞こえるようになってからの流れはスムーズ。互いの考えに耳を傾け尊重するコミュニケーションが生まれていたように感じられました。4つのアーキペラゴが完成したとき、オンラインながらもどこか清々しさのある空気が漂ったのが印象的でした。

アーキペラゴが分かれたところでブレイクアウトルームに分かれ、メリエンダ(コーヒーブレイク)を挟んで互いの島の理解を深めました。最後にアーキペラゴにそれぞれ名前とスローガン、1か月間の活動計画を立てて#3のプログラムは終了。参加者のキャラクターやアーキペラゴ内でのエピソードが盛り込まれたユニークな諸島名とスローガンが揃ったので、ご紹介してレポートの結びとしたいと思います。次回の活動報告会が楽しみです。

 

いいカタコト諸島:よせあつめそれでもがんばるブロッコリー

カナリア諸島:やさしい縁結び

スタートゥインクル諸島:世界に広がるビッグな愛!

グレースケール諸島:自己と他者、やさしさあまさのグラデーション

Author

  • 吉澤 瑠美

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

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