Event report
2020.11.16
吉澤 瑠美
「やさしさラボ」とは、パナソニック東京とFabCafe Tokyoが企画・運営を行うオンラインスタディプログラムです。フィールドリサーチやゲストトークなど、全4回のセッションを通じて「社会におけるやさしさとは何か、そして可能か」という命題に向き合います。
プログラム参加者は、一般公募から抽選により17名が決定し、2020年11月3日に第1回目のセッションが開催されました。本記事では、当日の盛り上がりの様子をライター吉澤さんの執筆によりお届けします。(FabCafe Tokyo 編集部)
執筆:吉澤 瑠美 / 編集:FabCafe Tokyo
参加者はZoom越しに初顔合わせとなりました。
すべてのプログラムを設計し進行する、メインナビゲーターは劇作家の石神夏希さん(ペピン結構設計)。初回ということで、プログラムに参加するにあたり、「相手の考えを否定しない」「互いの発言をよく聞く」「たくさん質問をする」の3つを心がけてほしいと参加者へメッセージを贈りました。
最初のワークは「身の回りにある“やさしさ”を探す」。自宅やカフェ、オフィスなど、今自分のいる場所で、直感的に“やさしさを感じるもの”を3分以内に探してくるというものです。やさしさを感じたポイントを言葉にして共有してみると、各々がどんなものに“やさしさ”を感じているのか気づかされます。
続いては逆に、“やさしくなさ”もしくは“ズレたやさしさ”を感じた体験をシェアしてみました。誰かの思うやさしさが、自分にとってやさしくない場合もあるかもしれません。グループの中で、1人は話し手、残りのメンバーは聞き手に回り、聞き手はそれを聞いて浮かんだイメージを紙に書きます。ここで大切なのは、「決して言葉にしない」こと。言葉の枠に当てはめず、感じ取ったものを線や図形、イラストで感覚的に表現しました。
参加者には、応募の際に「やさしさを感じる本」を1冊紹介していただきました。その本から特に印象的な一節をこの場で朗読していただき、感想や感じ取ったものを紙に書き出してフィードバックしました。今度は表現方法に制約を設けませんでしたが、ワークを繰り返すうちに、紙に書き出すこと、言葉に縛られず感じたものを表現することに少しずつ抵抗がなくなってきたように感じます。
ここでどんな書籍が紹介されたか、一部を公開します。フィードバックを共に紹介しますので、興味のある方は読んでみてください。
『ラブという薬』いとうせいこう、星野概念、トミヤマユキコ(リトル・モア、2018年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4898154735
“真木よう子のドラマとリンクする” ーーまめこさん
『まちがったっていいじゃないか』森毅(筑摩書房、1988年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480022074
“将来の安楽” ーーたいちさん
『有頂天家族』森見登美彦(幻冬舎、2007)
https://www.amazon.co.jp/dp/4344013840
“ほどほどの栄光と高望み” ーーのむさん
『手の倫理』伊藤亜紗(講談社、2020年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065213533
“体育のときに二人で腕くんで背中伸ばすやつ” ーーあやさん
今度は少し趣向を変えて、リレーインタビューに挑戦しました。3人1組になって、話し手と聞き手を入れ替わりながら参加動機を聞いていきます。初めは一問一答に陥り時間を余らせるグループも多いようでしたが、リレーインタビューを繰り返していくうちに質問が派生し始め、興味深いエピソードを引き出せるようになってきました。同時に、世界各地から離れて参加している初対面の人々が、互いの名前を呼び合い、人となりを知ることで、その距離をほんの少し縮めたように感じられました。
プログラム全体の距離感が縮まったところで、午後はフィールドワークへ出ることになりました。ミッションは外に出て「やさしくなさ」「ズレたやさしさ」を感じるもの、ことを5つ以上見つけて写真を撮ってくること。80分間のフィールドワークを行って再び集合します。
ポイントは、直感的に「やさしくない」「ズレている」と感じたものをピックアップすること。こういうものがやさしい/やさしくない、という枠を設けて探しに行く必要はありません。また、特別な場所にわざわざ赴く必要はありません。日常的な生活圏にこそ、普段見落としがちなやさしさ/やさしくなさが潜んでいる可能性があります。
再集合したら集めてきたものを参加者同士でシェアします。直感を信じてピックアップしたものを、「誰に」「どういうところが」やさしくないと感じたのか、分析しながら説明するのが大切です。
メインナビゲーターのなつきさんが見つけた「やさしくなさ」は、路地裏のフェンス。その向こうにいる猫を触りたくても触れません。でも深い用水路にはまらないようにという行政による市民への「やさしさ」でもあり、猫にとっては人間にちょっかいを出されずにすむ「やさしさ」でもあるのかも。
図書館へ出かけたちーちゃんは、感染症対策に距離を置いて座るよう指示された椅子に「やさしくなさ」を感じたといいます。やむを得ない状況とはいえ、周辺にも立ったまま本を読まざるを得なくなっている人が散見され、どうにかできないものかと思ってしまったそうです。
ホノルルから参加するしげちゃんが気になったのは、観光地ならではの石畳。勾配のあるスロープ部分は車椅子にも配慮し整列したタイルが敷き詰められていますが、平地は大小ランダムなブロックが埋め込まれています。腰を痛めて車椅子生活のお父さんを持つしげちゃんから見れば、このおしゃれな石畳はお父さんにとって「やさしくない」と感じたそうです。
日頃考えないことを考え、たくさんのものを見て、たくさんの人と話したプログラム初回はあっという間に8時間の全行程が終了。さまざまな刺激を受け、参加者の方々にも心境や視点の変化があったようです。
「アスファルトで歩きやすくなっている道も、均一化されたことで先代の人々が大切にしてきたものを失っている側面があるのではないか。普段とは違った視点で物事を見る機会になった」(こはるさん)
「『やさしくなさ』をわざわざ発見しに行く機会がこれまでなかった。やさしいの裏側には『分かち合えない』というやさしくなさが必ず存在する。やさしくなさも必要なのかもしれない」(あやさん)
「やさしさにはいろんな人の視点がある。やさしさって何だろう、というのが分からなくなった。だから次回以降がますます楽しみ」(ともきさん)
「いろいろなバックグラウンドを持つ人と接して、自分の中の凝り固まった考えをほぐしている最中。今までフィールドワークに怖いイメージがあったが楽しかった」(おぐ氏)
このやさしさラボでは、コミュニケーションツールとしてSlack( https://slack.com/ )を使います。事務局の伝達事項や参加者とのやり取りが一箇所にまとめられるだけでなく、日々の気づきやちょっとしたアイデアも気軽に拾い上げ、シェアすることができます。日常の何気ない出来事の中に、やさしさのヒントがあるかもしれません。
次回のやさしさラボは2020年11月15日。今回に引き続き、やさしさについて考えることがテーマです。ゲストを招き、トークセッションを通じてやさしさに対する考えをさらに深めていきます。次回も開催の模様をレポートしますので、どうぞお楽しみに。
第2回目のセッションレポートはこちら
生物学者と僧侶に聞く「やさしさ」、500円玉で実践する「やさしさ」ーー「やさしさラボ」#2 レポート
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吉澤 瑠美
1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。
1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。