Event report

2020.2.26

YouFab Global Creative Award審査会レポート

小檜山 諒

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

本記事では、第8回目を迎える「YouFab Global Creative Awards」の審査会レポートをお送りします。今年は世界43カ国、300点近いの作品が集まりました。応募された作品を通して「どのような未来が審査員の中で想起されたのか」その一部を紹介します。

時代を作るクリエイター300作品から見えてきたテクノロジーと未来の関係

VUCAの時代(VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉)とよばれる時代に未来を予測することは難しい。ただ変化する兆しは必ず落ちている。

生活者が望んでいるような未来はリサーチでも見えてくるだろう。しかし、PCの父アラン・ケイの言葉「未来を予測する最善の方法はそれを発明することだ。」にもあるように世界にはだれも予想し得なかった未来を発明する人達がいる。時代の先端に立ち、時には批判されながらも作品というメディアを通してクリエイターは社会に問いかけてくる。

これからどんな未来がありうるのか?を垣間見るために、毎年FabCafe Globalとロフトワークは、グローバルクリエティブアワード「YouFab Global Creative Awards」を開催している。第8回目を迎える今年は世界43カ国、300点近いの作品が集まった。

今回は、東京渋谷で行われた審査会の様子をお伝えしながら、応募された作品を通して「どのような未来が審査員の中で想起されたのか」その一部を紹介したいと思う。

YouFab 審査会風景

参加してすぐに予想はすぐに裏切られた。5G、自動運転、AIの進化なんて本質的な未来じゃなかったからだ。

テキスト:ロフトワーク 小檜山 諒
編集:YouFabディレクター   石塚 千晃、
 FabCafe編集部

YouFab Global Creative Awardsとは?

世界10拠点に展開するFabCafe Globalとロフトワークが主催するYouFab Global Creative Awardsは2012年、デジタルファブリケーションのクリエイターコミュニティを盛り上げる目的で、当時まだ普及したばかりのレーザーカッターを使用して制作された作品を募集するコンテストとして誕生した。8年の歳月を経て、デジタルファブリケーションの領域のみならず、アート、デザイン、建築、サービスデザイン等々、様々なクリエーションが応募されるまでに成長している。

YouFab2019の受賞作品は、対話のための場づくりや、メイカソンなど無形のものから、詩的なロボティクスの研究、沖縄の基地問題を扱った現代美術まで、まさにカテゴリーもジャンルも超えたラインナップとなった。

YouFab2019 受賞作品を見る(YouFabのWebサイトへ)

今回審査に参加した審査員:左から(敬称略)
チェアマン:福田敏也(株式会社トリプルセブン・クリエイティブストラテジーズ代表取締役)
審査員:松村圭一郎(岡山大学文学部准教授 / 文化人類学者)
審査員長:若林恵(編集者)
審査員:林千晶(株式会社ロフトワーク 代表取締役)
審査員:Leonhard Bartolomeus(Artist collective ruangrupa & Gudskul Ekosistem)

テクノロジーって結局なんだっけ?

最も議論が白熱したのはグランプリを受賞したインドネシアのスマランを拠点とするアートコレクティブ、Collective HysteriaによるPenta KLabs。地域で起きている問題を、問題の当事者、行政などのステークホルダー、学者、アーティストなど様々な立場の人々を巻き込んで行うコミュニティのためのアートプロジェクトだ。

審査の論点となったのは、一見すると他の作品に比べ、テクノロジーを全く使っていないように見えることだった。

『このアートプロジェクトはどこにテクノロジーがあるのかな?どう役立っているんだろう?』

その投げかけに対し、審査員の1人Leonhard Bartolomeus氏(以下バルト)はこう口火を切った。
『まず、テクノロジーの定義やイメージは国によって違います。日本や欧米のような国ではテクノロジーは進んでいますが、インドネシアのような発展途上の国ではそうではありません。彼らにとってテクノロジーは消費するもので、他の国からやって来るものなのです』。

バルト『例えばハックするという言葉のイメージは日本では何かを改造して新しいモノを作り出すイメージだと思います。しかし、インドネシアではハックする=壊れたものを修復するという意味に近い』。

松村『確かに先進国はテクノロジーを使ってなんとかしようとするけれど、そうでない地域では問題をみんなで話し合って、自分たちで必要なことを自分たちの手で作る。そういうことが重要とされていますよね

審査員長の若林氏はテクノロジーの再定義が必要かもしれないと説く。

若林『2020年以降テクノロジードリブンなものってつまらないと思うんですよ。テクノロジーがあったから実現できた、できなかったとかもはやそういうフェーズではない。たとえばテクノロジーを一般市民が使用する代表例としてデジタルファブリケーションムーブメントがあったけれど、それはもう特権性を失いつつある。つまり、テクノロジーはアプリやサービスを通じて確実に一般市民の手に落ちている今、単にツール(3Dプリンターなど)を使える、テクノロジーにタッチできることは最終的なゴールにではなく、「そのテクノロジーを使って何をするか」が求められる時代になったと言えるのかもしれない』

『なるほど、バルトが以前テクノロジーがない分、インドネシアでは*コレクティブ文化がものすごく重要だという話をしていたよね。その時はあまり実感できなかったんだけど、この作品の映像を見て、やっぱりテクノロジーはインドネシアにすると他国から貰い、消費するものにすぎないんだな、と思った。YouFabにはテクノロジーで生活が豊かになるということが根底にあって、人間の集団化 / 組織化もテクノロジーだと考えると、人間でやるか、ただ単にツールでやるかの違いでしかないんだね』。

*コレクティブ=直訳すると集団、組織。参照リンク(Asian Arts Air FUKUOKAより引用):http://asian-arts-air-fukuoka.net/gate08_bartolomeus/

ルールは従うものから作るものへ

Jungle of Nusaと名付けられた作品にも審査員松村の目が止まった。この作品はパイプとスピーカーを使ったサウンドインスタレーションで、木のように広がったパイプの一部に向けて声を出すとエコーがかけられ誰かの耳に届く仕組みだ。パイプは参加者が自由に組み替えることもでき、毎回違った音が聞こえてくる。

制作したアーティストのSuzy Salaiman氏は「誰もがスマホを持つ今、デジタルなテキストでのコミュニケーションではなく、声というアナログな存在を媒体として他人同士がつながる体験をしてもらいたかった」という。

加えて、いわゆる取扱説明書はない。つまり遊び方自体を見つける楽しさもあるのだ。

松村『この作品は他の作品と違ってセンサーやAIは使われていない、とてもアナログなものです。今回音をテーマにした作品が多かった印象があります。

ただそれらの作品は1人で鑑賞するものが多い。しかしこの作品は年齢問わずいろいろな人が自由に遊ぶことができて、そしてなによりルールがないのです。逆にルールを作れるということが他の作品と違う点だと思います』。

バルト『僕もそう思います。とてもシンプルでアナログな作品でかつプレイフル(遊び心がある)ですよね。材料を現地調達する応用性も今年のテーマのConviviality(コンヴィヴィアリティ)的だと思います』。

松村『そうですね、ルールを作れることがポイントだと言いましたが自分たちに必要なものを自分たちの手で作るという考え方が、都市部ではなくむしろ不便さを克服しなければならない地域にこそ根付いていて、実はそれこそがポストテクノロジーの姿のように思いました』。

マクロトレンドよりミクロトレンド

5Gや自動運転、AIの進化などテクノロジーの大きな流れも、始めは小さな流れだったに違いない。では大きな流れを生み出しそうな「小さな流れ」はどこにあるのか?

それは時代の先を行くクリエイターやアーティスト達が口にすること、表現していることの中にあるのではないか。

今回の審査会で言えば、コミュニティがテクノロジーになったり、ルールに従うのではなく、ルールを作ることが当たり前の状況であったり、作品の奥に隠れている今の常識にはないコンセプトが「小さな流れ」の兆しだと思う。

トレンドレポートに載っているような数字やデータからは感じ取れない未来の小さな流れを捉え、的確に翻訳していく作業。そしてその翻訳された「小さな流れ」を社会に渡していく。それがYouFab Global Creative Awardsの価値と言えるのかもしれない。

YouFab Global Creative Awardsでは毎年、企業が独自のテーマを設定する特別賞も設けており今年はパナソニックとYouFab2019特別賞「Next STEAM賞」を設定した。今回参加した本審査とは別で特別賞の審査会を設けている。FabCafeネットワークが持つクリエイターへの波及力を活用して、各企業が持つ固有の課題を世界のクリエイターに届け、クリエイターからは作品という形で返答をもらう仕組みだ。特別賞に審査会は、そのテーマにふさわしい専門家を審査員に迎え、企業の人も一緒になって議論をする。

クリエイターから届く作品は、今すぐ現場で実装できることではないかもしれない。しかし、彼らだからこそ気づける視点や発想を広く集め、審査会を経て、新たな製品やサービスのアイディアが生まれた実績もある。
視覚的な意味や形が音になる「emoglass」プロトタイプ誕生(YouFab2017)

上記の濃密な審査会を経て選ばれた作品は、2020年2月28日(金)〜3月8日(日)までの期間、渋谷スクランブルスクエア15階のSHIBUYA QWS内で開催されるMedia Ambition Tokyo2020で展示される。
ぜひ実際にYouFabから発見された「小さな流れ」を見に足を運んでほしい。

YouFab2019受賞作品展

Media Ambition Tokyo 2020

会期:2020年2月28日(金)〜3月8日 (日)
会場:SHIBUYA QWS(東京都渋谷区渋谷2-24-12スクランブルスクエア(東棟15階)

YouFab2019の上位受賞作品を中心とした展示を開催します。今回は、SHIBUYA QWSにて行われるMedia Ambition Tokyo2020 内にて展示します。

【YouFab2019 参加作家】

Collective Hysteria(インドネシア)
Amir Zobel and Itay Blumenthal(イスラエル)
Suzy Salaiman(マレーシア)
Camila De Ezkauriatza(メキシコ)
Witaya Junma(タイ)
高嶺格 (日本)
林 園子 (一般社団法人ICTリハビリテーション研究会)
濱中 直樹 (ファブラボ品川) (日本) *WSでの参加

Author

  • 小檜山 諒

    株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

    非営利団体にてソフトウェア販売事業を担当し販売データの分析を通して事業実績に貢献する。地方の現実を知るため、沖縄に移住するタイミングでライフスタイルホテルの立ち上げからPR、一貫したブランディングを行う。その後、国際感覚を身につけるべく、フリーライターとして欧州で活動。多くの起業家、デザイナー、アーティストに単独取材を行ううち、「正しい答えよりも、正しい問いが必要」と感じ、常に問いを設計し実証を重ねることでサービスの質を高めるUXリサーチの分野へ。自動運転から音声UIまで幅広く手がける。2018年ロフトワーク入社。冬でも毎週末海に出かけるサーファー。

    非営利団体にてソフトウェア販売事業を担当し販売データの分析を通して事業実績に貢献する。地方の現実を知るため、沖縄に移住するタイミングでライフスタイルホテルの立ち上げからPR、一貫したブランディングを行う。その後、国際感覚を身につけるべく、フリーライターとして欧州で活動。多くの起業家、デザイナー、アーティストに単独取材を行ううち、「正しい答えよりも、正しい問いが必要」と感じ、常に問いを設計し実証を重ねることでサービスの質を高めるUXリサーチの分野へ。自動運転から音声UIまで幅広く手がける。2018年ロフトワーク入社。冬でも毎週末海に出かけるサーファー。

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