Event report
2020.5.3
浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
本記事は、2020年4月15日に開催されたオンライン・トークディスカッション「SXSW2020キャンセルから今。を語る」のレポートです。(text by Nami Urano [FabCafe Kyoto])
「非接触の時代」に求められるコミュニティの姿とは?
COVID-19によって、社会が大きく変わっています。リモートワークが進み、会食や飲み会ができなくなりました。物理的に会うことの価値が改めて見直される一方で、飲み会や立ち話のような、ランダムなコミュニケーションへの渇望も高まっているようです。もちろん、社会的動物としての生理的渇望もあるでしょうが、同時に、そうした “とりとめもない”会話や集まりから面白い仕事が生まれてきたという経験を皆さんが持っているからではないでしょうか?
FabCafe Kyotoがミートアップなどのイベントを通して取り組んできたことのひとつに、こうした「場のデザイン」があります。ピュアな情熱や価値観、課題意識に共鳴できる人との出会いの場所を作ることで、そこに集う人々に仲間ができたり、新しいアイデアが得られたり、自分の活動に自信を持つことができる場所。私たちはそれをコミュニティと呼んでいます。
これまで私たちが取り組んできたのは、主にリアルな場でのコミュニティデザインです。しかし、この数週間で「同じ空間に不特定多数の人が集まる」ことはすっかり難しくなってしまいました。この「非接触の時代」において、「コミュニティ」の役割と意義はいったいどんなものになるのでしょうか?
たとえ、直接会うことが前提でなくとも、課題意識を共有できる人と出会い、必要に応じて連携しあえる場のデザインは求められ続けるはず。そして、社会全体の課題に対するときこそ、コミュニティがその力を発揮するのかもしれません。
COVID-19への対応から中止となった2020年のSXSW(サウスバイサウスウエスト)。その直前に、京都ではイノベーター達によるコミュニティ『”Ten Thousand Eight Hundred Forty One(以下「10841」)”』のキックオフイベントが実施されました。はからずもこのタイミングで開催されたことで、多様性をもちながら課題意識を共有するコミュニティの意義と役割がより力強くクリアに見えてきました。
そこで、「10841」の立ち上げメンバーで、SXSW中止となったオースティンを実際に見てきたDOKI DOKIの井口 尊仁さんと、立命館大マネジメント学部 准教授の野中 朋美さんに、同じく立ち上げメンバーのFabCafeの木下が公開インタビューするという形で、イベントを踏まえてこれからのコミュニティの可能性を聞きました。
イベントレポート
『京都からオースティンへ。”Ten Thousand Eight Hundred Forty One” ローンチイベント powered by 10841 KYOTO コミッティ』
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京都発信のSXSWを裏テーマとして、SXSWの重要なエッセンスである「温故知新・異業種攪拌から産まれ出る化学反応」を実践すべく、企業/公的機関/スタートアップ/アカデミア/クリエイターなど業界の垣根を超えてさまざまな専門家やプレーヤーが集い、10時間に渡って熱いディスカッションを繰り広げました。
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井口 尊仁
DOKI DOKI, INC. ファウンダーCEO
1963年生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。2009年に現実世界をAR空間化する「セカイカメラ」をローンチし、世界80カ国で300万ダウンロード突破する。サンフランシスコと京都に住みながら起業家として活動し、2019年から声で直接 人と人が繋がる LIVE AUDIO MEETUP アプリ「ダベル」を展開。2011年からSXSWに出展し、日本にSXSWを啓蒙する活動を続けている。そして SXSW 精神を日本に届ける 10841 コミュニティのファウンダーでもある。
https://dabel.app/1963年生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。2009年に現実世界をAR空間化する「セカイカメラ」をローンチし、世界80カ国で300万ダウンロード突破する。サンフランシスコと京都に住みながら起業家として活動し、2019年から声で直接 人と人が繋がる LIVE AUDIO MEETUP アプリ「ダベル」を展開。2011年からSXSWに出展し、日本にSXSWを啓蒙する活動を続けている。そして SXSW 精神を日本に届ける 10841 コミュニティのファウンダーでもある。
https://dabel.app/ -
野中 朋美
立命館大学 食マネジメント学部 准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、企業勤務ののち慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)に入学。神戸大学大学院システム情報学研究科特命助教、青山学院大学理工学部助教などを経て、現職。博士(システムエンジニアリング学)
専門分野:生産システム工学、サービス工学。従業員満足や生産性などの人の情報を起点とした生産システム設計の研究に従事。現在、食・食サービスを対象に持続可能なサービスシステムデザイン研究やmulti-purpose Jelly Foodの研究開発に取り組んでいる。
https://www.facebook.com/tomomi.nonaka慶應義塾大学環境情報学部卒業後、企業勤務ののち慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)に入学。神戸大学大学院システム情報学研究科特命助教、青山学院大学理工学部助教などを経て、現職。博士(システムエンジニアリング学)
専門分野:生産システム工学、サービス工学。従業員満足や生産性などの人の情報を起点とした生産システム設計の研究に従事。現在、食・食サービスを対象に持続可能なサービスシステムデザイン研究やmulti-purpose Jelly Foodの研究開発に取り組んでいる。
https://www.facebook.com/tomomi.nonaka
SXSWの精神はオースティンじゃなくても実践できる
── SXSWの中止が決まった直後、入国制限がかかる前にオースティンに向かった井口さん。現地の様子は想像とは違っていたようです。
井口 イベントは中止になったとしても、SXSWのオルタナティブ精神がアンオフィシャルに活動しているのかと期待して現地入りしてみたものの、正直なところ、現地では意外にも何も起こっていなくて拍子抜けしました(笑)でも正直、イベントなくなってもいいかなくらいの気持ちではいたんですよ。イベントがなくても、僕が面白いことやってやるぞくらいの感じでは臨んでいました。
── 井口さんは、限られた環境の中で個人的にチャリティイベントを開催し、寄付も集められ、新しく面白い人とのつながりも作り、成功を得たとのこと。野中さんも、SXSW出展に向けて準備していたことは当初の予想とは異なる方向に進んでいるようでした。
野中 これまでも海外とのオンライン会議はありましたが、COVID-19を機に、国内でも研究者どうしの遠隔での議論や連携が当たり前になったので、今まで以上に連携が強化されていきそうです。現場での出展は果たせませんでしたが、SXSWをきっかけに、ある意味でプロジェクトが発展していると思います。
── SXSWというイベントに出展すること以上に、「自分のプロジェクトや想いに共感してくれる人と繋がりたい」という熱意が2人を動かしているし、それは必ずしもオースティンでなくても実践できるという手応えを、奇しくもCOVOD-19の影響下で感じたのではないでしょうか。
アウトプットだけを期待しないことが大切
── 「SXSWに参加しても、日本人同士で固まってるのって、SXSWの一番良い部分を味わえてないですよね」というのは、公開インタビューに飛び入り参加した、エレファンテック株式会社の杉本 雅明さん。
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杉本さんは「Todai to TEXAS」を通したSXSWでの参加を皮切りに何度もSXSWに参加。エレファンテックの前身のAgICという会社はこのプログラムをきっかけに生まれています。※Todai to TEXAS:東京大学の学生が自分たちのプロジェクトをSXSWで発表できるプログラム。
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杉本 SXSWでは、大物も無名の人も皆フラット。大学生が世界的な経営者や起業家にピッチすることだってできます。アメリカの大学生と日本の大学生の決定的な違いは、こういう状況が日本ではほとんどないということで。日本でもこういうアメリカンドリーム的な機会を作りたいと思って、僕も日本で定期的なピッチイベントを開催したりしていました。
井口 SXSWにいくと、日本人はトレードショー(産業の展示見本市)をイコールだと思っている人が多い印象があるけれど、実はそれはイベント全体の一部でしかないと思うんですよ。さまざまな文化的イベントも開催されているし、多様性の中に身を置いて、視点や幅広いコネクションを得ることが大切だと思いますね。
── SXSWに参加したからといって、突然プロジェクトがドライブするわけではありません。あくまで、価値観や課題感などに共感できる、さまざまな領域のプレーヤーがいるコミュニティに接続できることがポイント。実際、FabCafeのコミュニティ活動で、企業や行政を巻き込んで大きな活動に発展したプロジェクトも、最初は「好き」で集まった多彩なクリエイターたちの活動でした。ピュアなつながりや視点の交換が、プロジェクトを面白く育てていくためには必要なようです。
関連プロジェクト:
FAB RACERS「本気の遊び」でビジネス機会をつくりだす企業とクリエイターの共創プロジェクト
カー・バイク・デザイン業界を牽引するメンバーが集まって始まった活動が、未就学児から小学生、ファミリー親子、50代まで300人以上もの大きなコミュニティに育ち、オートデスクや長野県諏訪市など、企業や行政を巻き込んだプロジェクトを生み出しています。
これからのコミュニティの形とは?
── 非接触のコミュニケーションが前提となった社会において、組織とはどんな形になっていくのでしょうか?
井口 With/After COVID-19の時代において、組織や学校はルールとか社会的信用で構築されているから、こういうときに柔軟に動くことが難しいですよね。大学が今後どのように活動すべきだと思いますか?場所の制限なく色々な先生の授業を聞けるようになると、大学の取捨選択自体に影響してきそうですよね。
野中 オンラインや演習・講義形式の工夫など対応を進めているところです。ただ、実は、大学のオンライン講義化については、今回のコロナ禍以前から様々な取り組みがされていました。従来の書物や文献からの学び、グローバル化、現場主義、COVID-19を機に改めて次世代教育の課題に向き合わなければならないと感じています。一方で、リモートワークによって「鬱々とする、寂しい」と話している同僚や上司に人間臭さを感じることもあり、今後社会やコミュニケーションは大きく変わっていくと思います。これまでの制約や常識を超えた様々な可能性が生まれるチャンスであるとポジティブに捉えると、これからの変化が楽しみです。
“共感” から活動を生むコミュニティとしての10841の今後のカタチ
── 多様性のある人々が、価値観や課題感で繋がり会う場所として発足した10841コミュニティですが、「非接触」を前提としたとき、その形はどうなっていくのでしょうか?
杉本 SXSWが開催されるかどうかが問題なのではなくて、今回のイベントのように、SXSWとつながっているコミュニティが日本にも存在していて、そこに新しい人がどんどん入ってくるという状況が日常として生まれているということこそが、すごく意味があると思います。そして、これは編集された文字情報ではどうしても伝わらない。オンラインであってもオフラインであっても、そこに身を置くということが大切だと思うんです。
── 10841は、当面はオンラインコミュニティとして開催していく予定。月ごとにテーマを設定し、毎週異なるゲストを招きつつ、参加者同士が繋がることができるカジュアルな場所を目指していく予定です。野中さんは、このコミュニティを「サザエさん」のようにしたいといいます。
野中 毎週決まった時間に聞く、という時間制約は、人々の生活に馴染むんじゃないかなと思うし、COVID-19によって人と人が分断されている社会生活の中で、人との繋がりを作る場所として、続けてみたいですね。
── 「あそこにいくと、特別な目的なくても何か面白いことあるだろうと思わせる場所」というのが、コミュニティとして大切なポイントだと私たちも思っています。それは必ずしもオフラインでなくても実現できるはず。「○○さんと○○さんの会話なら聞いてみたいし、会話に入ってみたい」と思わせる場所にしていくことで、新たな面白い繋がりを生み出す場所を作っていきたいと思っています。ぜひみなさんもご参加ください。
2020.5月から、オンライントーク企画が始動します
「いま話したいイノベーター」をゲストとして国内外からお招きして繰り広げる、30分のトーク番組 “10841 Wednesday’s Talk” がスタート。
番組は、毎週水曜の午前 9時から、 音声コミュニケーションアプリ「Dabel」にてライブストリーミングします。通勤・通学中に聞くのはもちろん、チャットでの質問や、トークへの参加など、インタラクティブなコミュニケーションも可能です。ぜひお気軽にご参加ください。
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浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。