Interview

2018.12.9

アクリルレジンアーティスト KAEさん – WAVEクリエイターインタビュー Vol.1

吉澤 瑠美

アクリルは軽やかに私を高める「異世界」への入口

デジタル工作機械が身近になった昨今、ジャンルの垣根を飛び越えハイブリッドなものづくりを行う人が増えています。新しいムーブメントはユニークな活動や思いをもつクリエイターを続々と生み出し、そのうねりはまるで波のようにあらゆるものを吸収しながら大きさを増すばかりです。

FabCafe Tokyoでは、新プロジェクト「WAVE MONTHLY SHOWCASE」を始動。「WAVE」は、FabCafeが「今、注目したいクリエイター」をキュレーションするプロジェクトで、毎月一組のクリエイターを迎え展示やワークショップなどを展開します。

記念すべき第一回は、水曜日のカンパネラや夢眠ねむさんとのコラボレーションで若い世代に影響を与えるデザイナー/アクリルレジンアーティスト、KAEさんの展示「ISEKAI -異世界-」でした。11/4-11/18まで、FabCafe店頭で展示を行ったほか、期間中には、アクリルを使ってつくるジュエリーワークショップを行いました。

KAEさんに、今回のコラボレーションを振り返っていただきました。

インタビュー・文=吉澤瑠美
編集=鈴木真理子

「着けるだけで気分が上がる」アクリルブローチとの運命の出会い、そしてアクセサリーブランド立ち上げへ

約10年前、セレクトショップですごくかわいいアクリルブローチを見つけたんです。1万円はしましたが、毎日着けるだけで気分が上がるんですよね。アクセサリーのそういうところが好きで、自分でもいつか作れたら、と思っていました。それがブランド「High-Me TOKYO」の名前の由来にもなっています。

でも学生の頃はアクセサリーをまったく作ったことがありませんでした。文化服装学院にいたので服は作っていましたが、アクセサリーは卒業してから、独学で。オリジナルパーツの作り方も工場も知らなかったので、初めは問屋で買った有り物のパーツで作っていましたが、オリジナルも作りたくなって、工場を調べて問い合わせるようになりました。

アクリルは、加工もしやすいし、身につけたときの軽さもあるし、いろいろな可能性を持っている点が良いですね。プリントやカットの他に曲げたり捻ったりもできる。自分が表現したいことに対してすごく相性が良いと感じています。

何だここは!? 時代や世界を行き来する、夢のような「ISEKAI -異世界-」

今回展示した作品はほとんど今回のために作りました。2月に開催した個展からの作品は入口付近に飾ったものだけです。今までこんな風に飾ったことがなかったので、ずっと頭の中で悩んでいました。最初は画面上でアクリルの透け感や大きさを想像しながらレイアウトして、それからFabCafeのレーザーカッターで切ってもらいました。

制作は2週間ぐらいかけています。10枚ぐらいあれば足りるかな、と思って事前に用意していたアクリル板がすぐ足りなくなっちゃって。追加発注して、展示の1週間前に届いたのを速攻カットして、プリントして「ギリギリなんとかなったね!」という感じです(笑)。

アクセサリーを作り始めて10年以上経って、そろそろ次のステップというか、もっと大きいものを作りたいと考えていたところに、今回のお誘いを頂きました。最初の個展ではアクリルをインテリアの一部として絵のように飾るという挑戦をしました。それはそれで面白かったんですが、もっと全体に装飾する空間演出みたいなこともしてみたいな、と。

昔から「夢の世界」が好きなんですよね。レトロなものも好きだし、時代や世界を行き来する、という世界観が好きで。FabCafeで展示するなら、入って「何だここは」と思ってもらえる空間を作りたかったんです。じゃあこれはとことん飾らないと、いっぱい吊り下げたい、と思って今回の展示になりました。

*使用しているアクリルは、トロテック・レーザー・ジャパン株式会社様より提供していただいたカラフルなアクリルを使用し、アクリルの上にはローランド.ディー.ジー株式会社様にご協力いただきフルカラーでデザインをプリントアウトしています。

10年を経た今だからこそできる、次のステップへの挑戦

今回工場ではなくFabCafeで制作をしてみて、一枚の写真をUVプリントして切り出すのは面白いなと思いました。同じ柄のパーツがひとつもないし、自分が撮った写真をプロダクトに落とし込むというのが良かったです。「ストーリー性」もブランドコンセプトとして大切にしているので、良い具合にリンクしていると感じました。いろいろと昔の写真を見返して「これは柄にしたら面白いかも」と思ったものをプリントしたのですが、そういうのを見つける楽しさもあるし、それを実際にプリントして切り出すとこうなるんだ、というのは新鮮でしたね。工場だとこういうランダムなプリントは難しいので。

また、いつもは工場でアクリルを切るときは最後に研磨するんですが、FabCafeではその工程がなく角が当たると痛いから、ワークショップのパーツは全部丸くしたんですよ。アクリルは意外と鋭利なので、多角形のパーツもほんの少し角丸にしました。そうすればアクセサリーにしても着けやすいし、痛くないし、という優しさです(笑)。そういうのは長年作ってきて分かってきた部分ですね。

ワークショップも、これだけの人とものを一緒に作るという体験は初めてだったのでどんな感じになるのかなと思ったんですが、結構みんな楽しんで参加していましたね。2回、3回とリピート参加してくれる人がいたのもうれしかったです。「High-Me TOKYO」は1万円前後の商品が多くて、「欲しいけれど買えない」という人も時々います。でもワークショップなら、そこまで高くない値段で手軽に楽しめて、自分で選べる。ブランドにはブランドでしかできないことがありますが、それとはまた別で、ワークショップを通じて、アクリルの面白さや魅力を知ってもらうきっかけになったと感じています。

右も左も分からないところから始まり、「こういうことがしたい」と工場と試行錯誤しながらちょっとずつ見えてきて、今のタイミングでワークショップを開けたことは良かったのかも、と思ってます。FabCafeも、工場も、それぞれの得意領域やそれぞれの良さがありますよね。

異世界から、世界へ。経験とコラボレーションがKAEの可能性を広げていく

これまでもFabCafeでいろいろ作らせてもらっていますが、「これを捻ったらどうかな?」とか、実験ベースで自分でもぐにゃぐにゃできるようになりたいので、これからも引き続き活用できたらと思っています。

ブランドとしても、コラボレーションのお話や展示のお誘いを頂いています。今回の展示に来てくれて「うちのギャラリーでもどうですか」と言ってくれる方もありました。あと京都や海外のFabCafeともコラボレーションしていければと思います。今回のように海外のFabCafeでもアクリルを使って空間をコラージュして見せられたら、海外への良いプレゼンテーションになる気がします。

10年以上やってきて、さらに見えてきたというか。やりたいことはいっぱいありますね。

 

[2020.2.4 追記]大盛況だったKAEさんのジュェリーワークショップはFabCafe Tokyoで定期開催しています。イベントページにてチェックしてみてください。

 

FabCafeは今後も新たな波を余すことなく紹介します。そして、ユニークな波が出会いぶつかる場として、さらに大きなうねりを生み出していきます。次回の「WAVE MONTHLY SHOWCASE」もどうぞお楽しみに。

Author

  • 吉澤 瑠美

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

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