Event report

2019.3.19

AIはデザイナーの役割をどう変えるのか:A.D.A.M 第一回レポート 〜デザインコミュニティ始動〜

藤田 健介

FabCafe テクニカルディレクター

こんにちは、FabCafe Tokyoの藤田です。FabCafeではEverblue Technology社との協業プロジェクトとして、「A.D.A.M」というプロジェクトをスタートしました。

「A.D.A.M」は、オートデスク社による3D CAD/CAM ソフトウェア 「Fusion 360」のジェネラティブデザインを使って、自動操船ヨットのデザインをしようというプロジェクトです。近年、AIを使って解析、環境や目的に最適化した形状を生成する流れは、様々な産業で進んでいますが、このプロジェクトでは解析による最適化だけでなく、AIを使って「誰も見たことのない形をデザインする」ことにチャレンジします。

A.D.A.M プロジェクト詳細

多様なメンバーが集まり、ジェネラティブデザインの基礎を学んだ、第一回目のワークショップの様子をレポートします。

さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まりました

第一回目となる3月8日のワークショップでは、大手メーカーでカーデザインをしているデザイナーやプログラミングを駆使して複雑な形状を設計するアーティスト、3Dプリンターメーカーのエバンジェリスト、競技ヨット設計者など、プロジェクトのビジョンに賛同した様々なバックグラウンドを持つ、デザイナーとエンジニアが集まりました。

まずはそれぞれの自己紹介からワークショップはスタート。

これまでのデザインのプロセスでは、スケッチを起こしたり、構造計算をするなど、多くの作業を人が行いますが、将来のデザイナーは形を生成するAIに対して、「どのような形を作るべきか」「どの条件を最も重視するか」といったディレクションする役割になるのではないか、と私たちは考えています。未来のデザインを考える、チャレンジングなテーマにぴったりなメンバーが集まったのではないでしょうか。

Everblueの目指すビジョン

最初はプロジェクトオーナーのEverblue Technology社の野間さんより、「A.D.A.M」プロジェクトの概要やEverblueのビジョンをご紹介。

Everblueは、水素として備蓄された余剰エネルギーを、クリーンエネルギーを使って離島から無人輸送しようという目的でスタートしましたが、現在は漁業をテクノロジーでアップデートするというビジョンの元、漁場調査のための自動操船技術の確立を目指しています。

このプロジェクトでデザインされたヨットは、最終的に4mのプリントが可能な3Dプリンターで生産される予定で、6月に沖縄で1mサイズのプロトタイプでテスト航海を予定しています。自分たちでデザインしたヨットが実際に海の上を走ると思うと、今からわくわくしますね。

Fusion 360のジェネラティブデザイン

続いて、Autodeskの藤村さんより、ジェネラティブデザインの概要や事例の紹介、ジェネラティブデザインを使った、Fusion 360の操作についてレクチャー。

ジェネラティブデザインとは、自然が環境に適応する手法をAIで模倣し、人間とコンピューターが共同で、より素早く形状の最適解を探るための技術です。

似たような形状を生成する手法として、ラティスやトポロジー最適化がありますが、Fusion360のジェネラティブデザインは、部品として最低限必要な部分やそこに加わる力を指示すると、強度などを計算して自動的に複数の形状のバリエーションを提示してくれます。

ここからは参加者が実際にFusion 360を操作しながらの、ジェネラティブデザインのレクチャー。藤村さんの軽快な話術で会場も盛り上がりつつ、わかりやすい説明に参加者のみなさんも難なく着いていけた様子。

実際のFusion 360の操作では、(1)他のパーツと接続するために必ず必要になる形状、(2)他のパーツとの関係で干渉してはいけないエリア、(3)他のパーツと接続するために拘束される部分、(4)接続した箇所にどのような荷重が加わるか、(5)そして最後に生成する際の素材、をFusion 360に指示すると形状の生成がはじまります。元になる形状が同じでも、条件が変わると生成される形が全く変わるのが面白いところです。

出来上がった複数のシミュレーション結果を比較する機能を使うと、強度や重量など、いくつかのパラメータでグラフ上にマッピングして表示することもでき、シミュレーションが捗りそうです。

私も実際に操作を体験してみましたが、いくつかの条件を設定するだけで、複数の形状が生成され、あっという間にシミュレーションできてしまいました。最適化から生まれた形状が、ビジュアルとしてもとても美しいのが不思議です。一人で考えていては時間がかかってしまいそうなシミュレーションが、すぐにできることに、コンピューターと人間の共同作業という点でとても可能性を感じました。

終了後も参加者のみなさんは、Everblueプロジェクトやジェネラティブデザインの可能性に刺激され、Fusion 360の機能についての質問や自分のアイデア、ヨットの設計のことなど、様々な議論が続きました。次回はどんな話題が出てくるのか、今からとても楽しみです。

次回、3月28日(木)は、エンジニアとしてアメリカズカップへの参戦経験もある金井亮浩さんよりヨットの設計についてお話しいただき、各チームに別れてブレストも行う予定です。6月末には各チームのプロトタイプが出揃い、別で動いている機構設計にマージされます。次回以降もレポートをお楽しみに!

FabCafeでは、今後も様々なワークグループの立ち上げを予定していますので、ご期待ください。引き続き、A.D.A.Mをよろしくお願いします。

Everblue Technologies
http://everblue.tech/

Autodesk
https://www.autodesk.co.jp/

Fusion 360
https://www.autodesk.co.jp/products/fusion-360/overview

Author

  • 藤田 健介

    FabCafe テクニカルディレクター

    武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒。
    プロバイダーのシステムエンジニアとして約6年間にわたり、CMSの開発や運用、カスタマイズに関わる。
    市民の手による街づくりや、デジタルファブリケーションによる、制約にとらわれない物づくりに関心を持ち、ロフトワークに入社。

    現在は、機械学習やAI、テクノロジーを利用した表現などに関心を持ち、FabCafeディレクターとしてプロジェクトの進行やイベント運営を行っている。

    武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒。
    プロバイダーのシステムエンジニアとして約6年間にわたり、CMSの開発や運用、カスタマイズに関わる。
    市民の手による街づくりや、デジタルファブリケーションによる、制約にとらわれない物づくりに関心を持ち、ロフトワークに入社。

    現在は、機械学習やAI、テクノロジーを利用した表現などに関心を持ち、FabCafeディレクターとしてプロジェクトの進行やイベント運営を行っている。

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