Interview

2016.10.3

浜松から発信する新しいFabのかたち〜 バイオテクノロジーへの挑戦 [TAKE SPACE / FabLab浜松]

バイオラボの作り方(6)

FabCafe編集部

前回の記事: バイオラボの作り方(5) 〜浜松から発信する新しいFabのかたち〜 市民参加型ファブリケーション[TAKE-SPACE / FabLab浜松] では、TAKE-SPACEが提案する浜松だからこそできるものづくりの魅力についてお届けしました。今回はTAKE-SPACEでの新たな挑戦であるバイオテクノロジーの取り組みと、TAKE-SPACEに開設されたバイオスペースについてご紹介します。

バイオの波に乗る

FabLabを活用し、これまでにさまざまな機材を制作してきた竹村さんは「これまでFabLabでつくれるものはみなさんとひと通りつくってきました。なのでこれからは市民とファブリケーションをつなぐ別の新しいテーマに取り組みたいと考え、市民の方からはまだ馴染みの薄い “バイオテクノロジー”に挑戦していこうと思いました。」とのこと。

現在では、世界でも少しずつメイカースペースにおける”バイオテクノロジー” の活動が注目されるようになってきていました。実際に世界各地のメイカースペースでは、顕微鏡やインキュベータといった実験機材が設置されつつあります。竹村さんはそのバイオテクノロジーの波に、半ば流行に流されるようにしてその可能性を探求していくようになったそうです。

竹村さんがバイオテクノロジーの素晴らしさに触れることになったキッカケは、バイオテクノロジーの技術を活用して「(ほぼ)なんでもつくる」プログラム How to grow almost anything (以下:HTGAA)を受講することからはじまりました。

「(ほぼ)なんでもつくる」が合言葉になっているFabLabですが、2015年から細胞やDNAといったものを対象につくり方を学ぶプログラムが世界のFabLabネットワークで始まりました。

これは、FabLabで以前から実施されているものづくりプログラムであるFab Academyを参考にして組み立てられているそうです。毎週水曜日に講座が行われ、そこで出された課題を一週間でこなしていきます。

昨年は初めての開講ということもあって、どの国のFabLabも道具を揃えることからはじめたそうです。FabLabの設備でつくれるものは自作しても大丈夫ということだったそうです。

講師陣はハーバード大学のGeorge Churchをはじめ、MITメディアラボ、ハーバード大学、タフツ大学などで最先端の研究を行なっている研究者達です。

講義内容としては、自分の国の安全基準をリサーチしたり、DNA鎖を折り曲げて、ナノスケールの構造体をつくる手法である「DNA折り紙」という手法に挑戦したり、バイオテクノロジーを用いてなにをつくることができるのかを考えるプログラムとなっています。

※講義内容はこちらに公開されています。Classes Bio Academy 2016

バイオラボをつくる

HTGAAの受講を経て、基本的なバイオテクノロジーへの理解を深めた竹村さんは、本格的にバイオラボをTAKE-SPACE内につくり初めました。実際使用する機械や器具は、HTGAAとTAKE-SPACEの運営の経験を活かして、自身で故障した機材を修理したり、インターネットで中古部品を購入するなどして機材を揃えていったそうです。ラボをつくる過程で、中古で購入した実験機材を使用してみたところ、翌朝高熱が出たり…など、様々なバクテリアを扱うバイオラボの運用の難しさなども体感しつつ、様々な失敗と成功を積み重ねてバイオスペースが出来上がりました。

こちらが、TAKE-SPACE内に完成したバイオラボです。TAKE-SPACEの一角を区切ってつくられたラボは、顕微鏡、インキュベーター、PCR、遠心分離機などが設置してあります。

本格的な実験プロジェクトを行う際には、しっかりとした実験環境を整える必要がありますが、実験機材も精度を問わなければ自作可能であるということ、そして、こういったオープンなメイカースペースだからこそできるバイオテクノロジーの取り組みがあるということに竹村さんは気づいたそうです。

例えば、TAKE-SPACEの活動の中心にもなっていた、農業プロジェクトもバイオテクノロジーを掛け合わせることで、また何か新しいことに挑戦できそうだと竹村さんは意欲を燃やしています。

このようにして、日本でもかなり早い段階から、DIYを中心(前提)としたバイオテクノロジーの可能性について独自に探求してきた竹村さんの一番の気づきは「世間ではまだまだバイオテクノロジーに関する正しい認識がなされていない」ということだったそうです。

竹村さん自身もバイオテクノロジーについては全くと言っていいほどバックグランドがありませんでした。しかし、HTGAAを受講しバイオラボを設立した経験を通して、ものづくりに対する意識がまたひとつ新しくなったそうです。これからは、デジタル工作機器が当たり前のように浸透して、DIY、オープンソースで実験機材までもが簡単につくられてしまう時代において、それらを利用して個人レベルで遺伝子を組み換え体をつくることも可能になる時代がくるかもしれません。

そんな時代が到来するかもしれない状況にあるのと同時に、世の中のバイオテクノロジーに対する認識や、私たちの生活の安全に対する不安も膨らんできています。

こういう状況だからこそ、ひらかれたスペースであるTAKE-SPACEのような場所で、みんなでバイオテクノロジーに対する正しい認識をつくっていくべきではないか、とのことでした。

最近では、香港、中国、ボストンなど世界各地のバイオラボとも随時情報共有を行っているそうで、まだまだ新しい取り組みだからこそ課題も多くあるけれど、共通の課題や解決方法などを共有しつつ、ゆくゆくは地域の教育機関などとも連携しあって、浜松ならではのバイオテクノロジーの取り組みが行われていけばよいとのことでした。

最近では、デジタルファブリケーションのテーマに引きつけて、バイオテクノロジーの活動を紹介することで、少しづつ地元市民の方々にも届くようになり、現地の会社や大学、薬局の方など情報を共用できる機会も増えてきているようです。

今後の挑戦

これから世界中のメイカースペースでは、バイオテクノロジー、またそれを扱うことが出来るはデジタルファブリケーションの更なる進化と共に普及していくはずです。

そのような中で、このようなひらかれたバイオテクノロジーが一体誰のためのものなのか、市民や社会との関わりの中で模索していかなければなりません。

TAKE-SPACEのバイオラボでは、バイオテクノロジーへの偏見などをうまく解消しつつ、人と人とのつながりの中で、ゆくゆくはバイオテクノロジー、ひいてはデジタルファブリケーションの持つ価値を一歩先に進めたいと考えているそうです。

市民参加型のものづくりのあり方に徹してきたTAKE-SPACEにしか出来ない取り組みを通して、バイオテクノロジーに対する一般的な理解、可能性を底上げしていくことに今後挑戦していきたいとのことです。

過去の記事
バイオラボの作り方(1) 〜研究室ってどういうところ?早稲田大学岩崎秀雄研究室訪問記〜
バイオラボの作り方(2) 〜 YCAMバイオラボ ってどういうところ?〜
バイオラボの作り方(3) 〜 YCAMバイオラボにはどういう設備があるの?〜
バイオラボの作り方(4) 〜四谷三丁目のバイオラボ?サイエンスバー体験記〜
バイオラボの作り方(5) 〜浜松から発信する新しいFabのかたち〜 市民参加型ファブリケーション[TAKE-SPACE / FabLab浜松]

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