Event report

2026.10.13

関ケ原の真ん中にある「ケ」を耕す。まちの日常を楽しくするプロジェクト、始動。

日常と観光 関ケ原編 イベントレポート

“天下分け目の戦い”の舞台として知られる、岐阜県関ケ原町。「関ケ原古戦場」や「伊吹山ドライブウェイ」というよく知られた観光資源がある一方、そこだけ訪れて去る人が多く、まちなかの回遊や継続的な関わりになかなかつながらないという課題があります。

観光で訪れる非日常の楽しみ(ハレ)に加え、日常の暮らし(ケ)にも楽しみや挑戦が生まれる場所を、遊休不動産の活用からどうつくるか―そんなプロジェクトを町とともに進めているのが、株式会社エイト日本技術開発です。そのキックオフとなるイベント「日常と観光 関ケ原編」が2026年9月25日、FabCafe Nagoyaで開催。東海地方でまちづくりに取り組むリーダーたちから、今後の活動のヒントを学びました。

会場には関ケ原の地域事業者のほか、建築やデザイン、不動産、金融、行政、教育・研究機関と、さまざまなフィールドで活動する約40名が参加。早くも、多くの人々が期待や関心を寄せていることを感じさせた一夜となりました。

日常と観光 関ケ原編 -遊休不動産から、まちの暮らしをたのしめる場所をつくるには?

共催: 株式会社エイト日本技術開発, 株式会社ロフトワーク
協力: 株式会社FabCafe Nagoya
後援: 関ケ原町

古戦場の“先”にある関ケ原に出会う

イベントはオープニングトークから始まり、3名のゲストによる講演、そしてゲスト同士のクロストークという3部構成で進みました。

まず、エイト日本技術開発の堀部 修一さんが登壇。関ケ原町には宿場町や創業100年以上の醤油蔵など魅力的なものがある一方で、町としてさまざまな課題も抱えていることに触れながら、プロジェクトが目指す姿を語りました。

大規模なイベントや大型の施設を作るのではなく、地域の日常の中で小さな楽しみや新たな挑戦が生まれる場をつくりたい。毎日がワクワクする、明日が楽しみになる。そんなまちづくりに、関ケ原町の皆さんと取り組んでいきたいです。(堀部さん)

借りてきた言葉よりも、自分たちの言葉で

次に、関ケ原ゼネラル・サービス株式会社 miraiグループ リーダーの山口 知加さんが登壇。「古戦場の“先”にある、まちの魅力を、どう見つけ・磨き・発信するか」という視点から、自らが携わる「せきがはら人間村」の事業について解説しました。

せきがはら人間村は1980年代後半から、機械メーカー・関ケ原製作所が整備しているスポットです。2018年には美術館・食堂・カフェが開業し、全国から年間1万5000人ほどが訪れる場所になりました。

特徴は建具から食材まで、多くが地元産であることです。食堂の建物にも、関ケ原町でとれる木材「今須杉」を使用。店頭で対応するスタッフも、自社の従業員です。

開業当初、「本当に人は来るのか」と不安だったと山口さん。実際、当時の来場者数は年間3000~4000人で、「雪の日はお客さん0人、雨の日はお客さん5人」ということもあったといいます。

当初カフェやレストランは外部の業者に運営を依頼する予定でしたが、「採算が合わない」と断られ続けた結果、自社で運営することに。それが、結果的に発信や行動の軸になり、集客につながったと話しました。

(店舗運営を)外部の人に依頼すると、説明するときの言葉が“借りてきた言葉”になっちゃうんですよね。「これは●●だと思う」「この料理は●●らしい」って。でも「これはこうです」って自信を持ってお客様に伝えられると、魅力がお客様にも伝わると思います。

私も、何かを知りたがっていそうな人に対してアンテナを張って、しっかり伝えることを意識しています。初めて来られたお客さんにも「木材は、関ケ原産の杉を使っているんです」と、ストーリーを作って積極的に話しかけに行くんです。後日再訪してくださったら、その人にはまた声をかけています。(山口さん)

講演の最後に、山口さんは「地方にも人は来る」と断言。自分たちの言葉で語ることを積み重ねてきた人だからこそのメッセージに、こちらの背中まで押されるようでした。

「やってみたい」から始まったことが、自分さえも変えていく

続いて登壇したのは、関ケ原町在住の彫刻家・土井 木蓮さん。「まちに変化を生み出す次世代は、いま何に挑み、何を面白がっているのか」という視点で、自らの活動を振り返りました。

土井さんは大学院生時代、修了制作のために関ケ原町を訪れました。そして2018年に、東京から関ケ原町に移住。平日はアトリエで制作し、休日はコーヒースタンド「関ケ原CoffeeStand」を営む日々を送っています。

コーヒースタンドはまもなく開業10年目。人気のゲームソフト『桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~』にも登場するなど、今や関ケ原町を代表するスポットの1つです。しかしその開業のきっかけは、土井さん自身の純粋な気持ちだったといいます。

コーヒーを選んだのは、自分が「おいしいコーヒーを飲みたい」と思ったからですね。私、大学院生のときに家電量販店でコーヒーマシンの販売をしていて。「関ケ原で『家紋ラテ』を出したら面白いのでは」と町の方に提案したら、ぜひやってみようということになったんです。(土井さん)

さらに土井さんは「関ケ原もりあげ隊」という町のボランティア団体にも参加し、イベントの企画・運営や町の景観整備にも携わっています。そして町とのかかわりが深まったことで、自らの作風にも影響があったと話しました。

(今まで作ったことがなかった)甲冑+薔薇とか武将のモチーフの作品は、自分が関ケ原にいて、観光にも携わって、お客さんや町民と関わったから生まれたものです。私は戦国時代に全然興味がなかったんですよ。住み始めてからどんどん自分が変わっていくことに、驚いています。(土井さん)

大きな使命感ではなく、まずは自らの「やってみたい」から始める。そうしてかかわりを深めるうちに、自らにも変化が現れる―土井さんの話は、次世代の挑戦の一つの形を示しました。

 

まちに“共通の時間軸”を作ったら、少しずつ芽が出始めた

続いて、株式会社ミユキデザイン 代表取締役で、一級建築士の末永 三樹さんが登壇。岐阜市・柳ヶ瀬商店街での約10年にわたる活動を振り返りながら、「次世代が力を発揮するための土壌と支える仕組みをどうつくるか」という問いにヒントを投げかけました。

柳ヶ瀬商店街は、JR・名鉄岐阜駅から徒歩で約15分の場所に広がる商店街。戦後に“娯楽と買い物の町”として栄えましたが、1990年代中頃から空き店舗が目立ち始めました。末永さんは2011年、柳ヶ瀬商店街の活性化に携わる仕事をきっかけにまちに関わるようになり、商店街内の遊休不動産の活用に関する活動を開始しました。

とはいえ、物件を借りていきなり店を始めるのは、誰にでもできることではありません。そこで、物件を持たなくても挑戦ができる場所として2014年に始めたのが、マルシェ型のイベント「サンデービルヂングマーケット」(以下、サンビル)です。

そもそも商店街は屋根があって、こだわりの品を売るクセのある店主たちが集まる平面デパートです。だからサンビルのテーマは「ここでしか出会えない人、物、空間」にしています。いいお客さんがいて、一定の集客が見込めて、小さく始められる仲間がいれば、小商いがたくさん生まれる。柳ヶ瀬が小商いの創業の街になる。そう考えました。(末永さん)

そして毎月の開催を続けるうちに、柳ヶ瀬商店街内に若い世代の来訪者や出店者も少しずつ増えてきました。

「毎月第3日曜日にサンビルがあるから、土曜日はこれをしよう」と、イベントに合わせて人々が予定を組むようになった。結果的に、サンビルが“まちのスケジュール”になったんです。共有物って意外になかったんですよね。だから時間をデザインの要素にするのは、面白いと思います。(末永さん)

サンビルは、今年で12年目に突入。ボランティアスタッフの累計は100名以上となり、古着市やZINEフェスなど新しい企画に取り組む若手や出店者も登場しています。長らく商店街の中心で手つかずになっていた大型スーパーの跡地も、岐阜市による整備が始まりました。

「私たちの知らないところで、新しい動きが展開している」と、末永さん。場を作り続けてきた柳ヶ瀬商店街には、次の芽が確かに出始めているようです。

人は一気に来ない。まちの未来を作るための「継続」の重要性

後半は、堀部さんと登壇者3名に、関ケ原町役場の山口 眞京さん、そしてFabCafe Nagoya 代表取締役の矢橋を交えてのクロストークを実施しました。

特に活発に意見交換がされたのは「イベントの日はにぎわっても、翌日には人がいない状況をどう乗り越えるか」という問い。各ゲストの回答には「続けることの重要性」という共通点が見られました。

事業をしているとくじけそうになります。人は一気に来ないんです。打ち上げ花火でダンッと来ても、その後続かない。でも、続けていくことで人が集まることは必ずある。だから継続することが大事だと思います。(山口 知加さん)

土井さんも、コーヒースタンド開業時から今までの道のりを、こう振り返りました。

「客寄せパンダになれるかな」と期待したんですが、実際は難しかったですね。今も大もうけをしているわけではないですし。地道に続けてるだけですが、今があるのはそのおかげだと思います。(土井さん)

末永さんも「まちの変化は10年ぐらいで感じるもの」としたうえで、その原動力について次のようにコメントしました。

「まちづくりをやろう」というより「やっていくことがまちづくりになる」っていうのが体感としてあります。自分が生きていくための暮らしづくりが原点にある。だから、諦めずしつこくやってるのかなと思います。(末永さん)

その後、議論は関ケ原町の空き家問題へ。「町内の空き家は5年間で150軒ほど増えているが、町内に不動産会社が1つもない」と関ケ原町役場の山口 眞京さんが話すと、会場はどよめきに包まれました。

物件所有者と借りたい人とをつなぐ人がいない現状に対し、登壇者からはさまざまなアドバイスが。中でも多くの人が頷いていたのは、末永さんの「買うか借りるか以外の選択肢を用意する」という提案でした。

「毎日は使わないけど、週末だけ貸してください」みたいな“お試し使い”も、一つの手。そこからオーナーさんの心が動いたり、「私もこの建物を使いたい」という人が現れたりするかもしれないですよね。(末永さん)

次の展開を予見させる交流もあちこちで

イベント終了後は交流タイム。関ケ原町にゆかりのあるお酒やお菓子、フード類がふるまわれました。そして会場では、初対面の参加者同士で話し合ったり、ゲストに事業のヒントを相談したりする参加者の姿があちこちで見られ、遅くまで熱気に包まれていました。

最後に、堀部さんは今回のイベントをこう締めくくりました。

柳田國男が言う「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」の「ケ」は、関ケ原という町名の真ん中に入っていますよね。関ケ原には、ヤマトタケルの伝説や壬申の乱、そして関ケ原の戦いという大きな出来事がありましたが、その間をずっと繋いできたのは日常の暮らしです。だから「日常を大事にする」ことは、関ケ原という地名に込められていると思います。(堀部さん)

関ケ原の真ん中にある「ケ」を、仲間とともに耕していく。その物語は、この夜から始まります。

 

執筆:シモカワヒロコ(Nyima.) 撮影:染矢凌佑 (OH SNAPS!)

Author

  • シモカワヒロコ

    ライター・編集者

    岐阜県出身。大学で地域振興・まちづくりや消費行動について研究したのち、新卒で地域情報誌の編集者に。
    現在は名古屋市を拠点に、フリーランスライター・編集者として活動中。
    雑誌・新聞・書籍・Web・SNSなど、幅広い媒体でコンテンツ制作を行っている。

    岐阜県出身。大学で地域振興・まちづくりや消費行動について研究したのち、新卒で地域情報誌の編集者に。
    現在は名古屋市を拠点に、フリーランスライター・編集者として活動中。
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