Event report

2015.6.27

IKEBANA Meets Digital Technology 開催レポート

FabCafe編集部

こんにちは。FabCafe Tokyoの金岡です。

FabCafe Tokyoでは、「IKEBANA Meets Digital Technology」として、生け花と最新のデジタルテクノロジーを組み合わせた新しい表現を考えるプロジェクトを開催。イスラエルのアーティストのMayaと、日本の花道家の上野雄次さんが、3Dスキャニングや3Dプリンティングなどのデジタルテクノロジーと、日本の伝統の融合を考えました。

ことの始まりはMayaがFabCafe Tokyoを訪ねてきたところから始まります。 イスラエルのアーティストであるMayaは、デジタルテクノロジーを使った作品や、デジタルテクノロジーとその国々の文化との融合をテーマにした作品を発表しています。

http://www.mayabendavid.com/

△Mayaの作品のひとつ「My Digital Garden」。様々な国の食器には花をモチーフにしたデザインがされていることに着目し、3Dスキャンしデータ化された花を食器に印刷した作品。人間が本能的に美しいと感じるモノの本質を問う。3Dスキャンされたデータには欠損や不完全さがあるが、3Dスキャニングというテクノロジーをメディアとして捉え、あえて欠損や”ゆれ”を許容している。

アーティスト イン レジデンスの制度を利用してアジアを歴訪していたMayaは、日本の伝統的な文化とデジタルテクノロジーを組み合わせた新しい表現を考えたいと、FabCafe Tokyoを訪れてくれました。

そのMayaの誘いに対して答え、コラボレーションしてくれたのが、華道家の上野雄次さんです。△(左から)上野雄次さん、Maya、FabCafeカナオカ

上野雄次さんは「花いけ」のライブ・パフォーマンスなど、独自の世界を追求する華道家。

△上野雄次さんの作品「暴走花いけ・限界号」。地脈を読み取りモノと花材を選び抜き、いけることの独自な世界を立ち上げ続けている。

今回のプロジェクトでは、日本の伝統的な文化であるいけばなと、デジタルテクノロジーのコラボレーションを行うことに。ひとは何をもってして、そのものを「美しい」と感じるのか。モノの実在性や、デジタルと伝統、コピーとリアルを行き来しながら考えます。

まずは上野さんにお花を活けていただき、いけばなという行為についてお話を聞きました。

上野さん曰く、『いけばなは旅に似ている。』とのこと。

旅では、「マイレージが溜まってるから飛行機に乗ってしまおうか」「新しいスニーカーを買ったから少し歩いてみようか」「どこに行くのか」「時間はどのくらいあるのか」いい結果になればいいなと旅の終着点に期待しつつ、目の前の状況に対して、どう対処していくのかの連続。そして、状況にうまく対応できたら、気持ちのいいイメージに向かって素直に向かっていく。

花を生けるというのは、相手の個性や特徴とどう向き合うのか、コミュニケーション能力を試される連続。

旅の工程を楽しむように、成形を考えてではなく、お花や樹木を手に取りながら、対話をするように数十の選択の重なりの結果生み出されるものだそうです。

△上野さんにいけていただいたお花。天に伸びるような躍動感ある流れに椿が添えられている。

早速3Dスキャンし、3Dデータ化します。今回は(株)データ・デザインさんに協力いただき、3Dスキャナー「Spider」を使用してスキャンします。

http://www.datadesign.co.jp/artec3d/function/spider.html

「Spider」は、特殊な光を当てながら3台のCCDカメラで形状を認識し、3Dスキャンします。

背景に新聞紙を置いて背景画像の差別化をはかったり、ろくろをつかって全体をくるくる回したりと、データ・デザインさんの巧みなテクニックで形状を取得してゆきます。

だだし、3Dスキャニングはそんなに甘くありません。全体を一気にスキャンすることはできないので、部分部分で少しずつスキャンしてます。欠損があったりスキャンしきれない部分が出てきます。通常だとここからは、現物の写真とスキャンデータを照合しながら、忠実な3Dモデルを仕上げてゆきます。

今回のプロジェクトでは、テクノロジーを使う際の「ゆれ」や「不完全性」も表現として取り入れます。完全なものではなく、テクノロジーを通じて、対象物がみせたひとつのレイヤーとして捉え、ひとは何をもってそのモノをモノとして認識するのか。それは果たして花として成立するのか。ということを考察します。

いよいよ3Dスキャンしたデータを3Dプリント。3Dプリントは、APISTECの佐々木さんが引き受けてくれました。

http://apistec.jp/?page_id=68

APISTECの佐々木さんは誰もが認める3Dプリンター出力のマエストロ。3Dプリンターではどんな形もそのまま3Dプリントできると思われがちですが、それは間違い。プリントするものデータ形状や材料の材質、材料の送り出し速度など多くのTipsがあります。特に今回プリントするお花のように、繊細な表現をプリントするのは難しいもの。プリント時の温度管理や、徹底したソフトウェアの設定の積み重ねで美しい3Dプリントをすることができます。

△プリント中の様子。熱溶解積層方式(FDM)という造形方法で、材料を「とぐろを巻かせるように」積層させてプリントしている。

△3Dプリントされた椿。熱溶解積層方式の3Dプリンターはあまり細かい表現を得意としないが、APISTECの佐々木さんの技術でかなりきれいに造形することができた。(画像はサポート材除去前)

そしてイベント当日。3Dプリントされた椿を使って、上野さんに活けていただきました。

天井からぶら下がった枯木に3Dプリントされた椿が添えられています。

3Dプリントされたお花はお水が必要ない。それを際立たせるような、枯れ木と組み合わせて宙に浮いている造形。

3Dプリントされた花を使ったいけばなを受けて、Mayaと上野さんのディスカッションが続きます。

「子供のころに絵を習っているときに考えました」とMaya。「コピーすることでも、自然を学ぶことはできる。書き写すだけでもそれぞれの人の個性がそこには反映されるとすると、リアルとコピーという対立項は成立しうるものなのか。そこにテクノロジーという個性が介在すると、3Dプリントとコピーという見方は無意味なのではないか」。

「3Dプリントの不完全さがもたらす”ノイズ”とどうかかわるか。ネガティブな意味ではなくその個性とどう向き合うか、を考えました」という上野さん。今後、もっと精度の高い、もしくは材質を限りなく再現できる3Dプリンターが登場すると、現実には存在し得ないお花を活けることができるかもしれません。上野さんは、「生花を活けることに主眼を置きつつも、自分のやっている、花を活ける行為を再確認する問題提起としていい距離感が保てそう。」と言います。

「3Dプリントが1次的行為であれば、僕がやっていることは3次的、4次的行為になるかもしれない。前段階で何が起きているというのは関係ない」という上野さん。3Dスキャンや3Dプリントというテクノロジーを、リアルとコピーという単純な対立項ではなく、テクノロジーという人間の介在がある限り、3Dプリントは単純なコピーではないのかもしれません。

「いけばなは、生花を使用しなければその表現やコンセプトを伝えられないわけではありません。花の向きや光との関係によって表現の幅が広がります。3Dプリントの花を使ってもそのコンセプトを伝えることはできます。3Dプリントされた花を使ったときに、そのコンセプトを100%伝えられないのであれば、伝えられない数パーセントは何なのか、それを考える意味で、今回のプロジェクトは、いけばなという行為に対する問題提起のひとつとして大事だと思います」と上野さん。

3Dスキャンと3Dプリントという最新のデジタルテクノロジーによって、いけばなという行為の本質を見つめなおした夜でした。

Mayaはこの後台湾に出向き、デジタルテクノロジーと文化についての旅を続けました。

FabCafeでは、今後もアーティストとのコラボレーションを続けてゆきます。

 

 

“IKEBANA Meets Digital Technology”開催概要

・主催:FabCafe Tokyo

・協力:(株)データ・デザイン, APISTEC

・後援:在日イスラエル大使館

・企画・運営:FabCafe Tokyo

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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