Interview

YouFab2016 グラフィック製作秘話 - 機械がペンを持ち描く 「Plotter Drawing 」

デジタルとフィジカルの間に生まれる、人が操作できない領域を見出す ー 深地宏昌

本アワードのWebサイトやポスターに使われてるメインビジュアルは、昨年YouFab Global Creative Awards 2015でファイナリストに選ばれたうちの一人、深地宏昌さんが製作しました。

YouFabのロゴであるYとFのモチーフ。その間に描かれた繊細で、どこか有機的な温かみを感じる線は、深地さんのプロジェクト『Plotter Drawing』で製作されています。「デジタルとフィジカルなものづくりの高度な連携」という今年のYouFabのテーマと呼応する魅力的なビジュアルを製作してくれた深地さんに、製作の裏話やビジュアルに込めた思いをインタビューしました。

( 聞き手&まとめ= YouFab 2016実行委員会)
 

 

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深地宏昌    |   HIROMASA FUKAJI (日本)

1990年、大阪生まれ。京都工芸繊維大学大学院デザイン科学専攻修了。機械がアートを作り出す可能性を示した代表作「Plotter Drawing」をはじめとして「FABツールで出来ること」について、デザイナーの視点で研究・提案を行っている。
 

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Q: デジタルファブリケーションを利用したものづくりとの出会いを教えてください。

深地:FABとの出会いは大学院の修士二回生のときです。もともと絵を描くのが好きだったのでグラフィックデザインを学べる大学に入学しました。日本画、油絵、水彩画、木版画など、あらゆる分野の画法を体験し、それらの表現を使って作品を作っていたのですが、納得のいくものは出来ませんでした。なぜなら、それらの画法には既に確固たるスペシャリストが何人もいたからです。二番煎じでは魅力的な表現にならない、違うアプローチの必要性に気づいた私は、デジタルファブリケーションの知識をもっていたプロダクト領域の友人に相談をもちかけ、そこで「FAB」を勧められました。デジタル制御で稼働するプロッタを見せられたとき、これで絵を書いたらどうなるんだろうと思いました。それが、FABでの作品作りが始まった瞬間であり、「Plotter Drawing」が生まれた瞬間です。

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Q. Plotter Drawingについて教えてください

深地:「Plotter Drawing」とはプロッタ(ベクターイメージを印刷するコンピュータの出力機器)というデジタル制御機器を用いたドローイングによって描くことができる表現のことです。プロッタの装着アダプターを3Dプリンターで出力、鉛筆・筆ペン・ボールペンなど、様々な仕様の筆記具を装着できるようにし、デジタル制御・描写速度と筆圧のコントロール・筆記具と紙のコンディション、これらの要素を意図的に組み合わせることで「人の手では描けない表現領域」を生み出しています。

僕は「紙に直接筆記具で描くこと」でしか生まれない良さを信じています。均質で制御されたデジタル表現が広がりつつある現代社会ですが、視覚を駆使する体験は失われるべきではありません。人の視覚を刺激するような表現を生み出したい、PlotterDrawing にはそういったメッセージをこめています。
 

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Q. YouFab2016のメインビジュアルを作ることになった経緯は?

深地:きっかけは「YouFab Global Creative Awards 2015」の入賞です。YouFabのクリエイティブに関わっているTHINKA incの竹林一茂さんが2016のビジュアル検討中に去年の入賞作から私の作品を見つけてくださり、イメージに合ったということでビジュアル制作を依頼されました。

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Q. メインビジュアルはどのようにつくられたのですか?

深地:ビジュアル制作はデザイナーの竹林さんと意見を交換することから始まりました。まず Plotter Drawing の特徴やコンセプトを説明し、竹林さんからデザイナー目線での表現提案をしていただいて、僕がそれを作ってみるというプロセスで進めていきました。人の提案で Plotter Drawing 作品を作ることは今までなかったので、新鮮な感覚で制作ができ、また自分の経験の外側にある提案をしていただけたので、表現の幅を広げることができました。ビジュアル検討と話し合いを重ね、「YouとFabの間をつなぐ」というコンセプトで制作を進めることになり、YouFabのロゴであるYとFの境界の軌跡を埋めていく表現でビジュアルを作ることになりました。YとFの軌跡の調整を繰り返し、試行錯誤を重ねた結果、今回のポスターデザインのようなビジュアルに仕上がりました。

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Q. 今年のYouFabのテーマである、「デジタルとフィジカルをまたいだ創造性」について、ご自身ではどのように考えていますか?

深地:僕が Plotter Drawing で生み出そうとしているものは、単に「機械が描いた絵」ということではありません。デジタルとフィジカルの間に生まれる、人が操作できない領域を見出そうとしています。

Plotter Drawing はデジタルデータを筆記具でドローイングし、フィジカルの世界に出力するというプロセスによって生成されるのですが、そのフィジカル出力の際に様々な物理的影響を受けることになります。それは例えば、ペンのインクのコンディションや紙の質感や描写速度・筆圧などの要素です。そういった影響を受け、デジタルデータだったビジュアルはフィジカル化することでその表現に変化が生まれます。その変化の部分を「Attractive Accident “ 魅せるトラブル ”」と呼んでいます。これこそが Plotter Drawing が表現したい領域であり、これはデジタルとフィジカルの横断によって生まれる「創造性」だと言えます。この創造性は人が操作しきれない部分を表現化したもので、デジタル隆盛の現代においてその確実さや均一性に対し、ある種のアンチテーゼみたいな側面を持っています。デジタルの世界は広がり続けていく中で、私たちが物理の中で生きている事実は変わりません。デジタルとフィジカル、両方の視点で創造を行うという姿勢は今後不可欠になるのではないでしょうか。\

Q. 今後はどのようなプロジェクトを行っていきたいですか?

深地:PlotterDrawing は現状まだ表現技法の提案に過ぎません。どう使うか、が次のフェイズになります。

まず、YouFabのメインビジュアルの例では、PlotterDrawing がグラフィックデザインと融合できる可能性を示すことが出来ました。グラフィックデザインとしてのアプローチは今後も積極的に続けて行きたいと思っています。
他には、写真と PlotterDrawing との掛け合わせ表現にも挑戦しています。8月末には京都で作品展示も行ったのですが、表現としての可能生を感じることが出来ました。
加えて、プロッタ以外を使用して「魅せるトラブル」を作れないかと考えています。その一つが刺繍ミシンです。Plotter Drawing を紙に筆記具で描くフィジカル化ととらえるならば刺繍ミシンはそれを布と糸に置き換えたものと考えることができます。デジタル制御によって一点一点針を打ち刺繍することが可能になることで、デジタルとフィジカルを横断する新たな刺繍表現を見出すことが出来ました。
あとは、様々なクリエイターとのコラボレーションです。FABの醍醐味はコラボレーションだと感じています。ぜひ皆さんと共に新たな領域を生み出したいと思っています。
 

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Q. 他のクリエイターのみなさんへのメッセージがあれば、教えてください。

深地:僕がFABによって得られたものは「自分の殻をやぶること」です。皆さんがもし自分の表現領域を広げたいと感じているならば、FABと出会うことで飛躍的な差別化が可能になるかもしれません。その可能性は、今までFABと関わりがなかったクリエイターのほうがはるかに大きいと思います。

FABはまだまだ発展途上です。FAB スペースやFABツールの普及は徐々に進んでいますが、そのポテンシャルを適切に引き出すような使われ方はまだなされていない。必要なのは「デザイン」です。FABに何ができるかを解剖し、編集し、他分野との組み合わせを考えること、そこに未開拓の領域が無限に広がっているのです。
FABが未来を変革しうる重要なワードであることは既に自明のことです。FABとの距離感に関わらず、全てのクリエイターがその可能性から目を背けることはできないでしょう。
FAB発展の過渡期である今、より多くのクリエイターの皆さんと共に新たな領域を作れることを楽しみにしています。