Event Report

消費者をやめて愛用者になるという考え方『杉のDIYデザイン展 in 飛騨』

Outline

2019年6月28日(金)から6月30日(日)に、書籍『杉でつくる家具』の発刊を記念したミニ巡回展『杉のDIYデザイン展 in 飛騨』を開催しました。期間中は木工経験者を対象にした『杉家具インストラクター養成講座』や、トーク、サロンなど、モノ・モノの考える木育活動を体験や交流を通して知ることができる充実した内容となりました。

この企画は、書籍の編者であるグループモノ・モノと、FabCafe Hidaを運営するヒダクマの共同企画。木工職人、デザイナーなど、県内外から様々な活動をする方が集まり、このイベントに参加しました。「杉家具インストラクター養成講座」で参加者は、DIYをしながら生活する楽しみを人に伝えるためのコツをモノ・モノメンバーから教わりました。また、書籍『杉でつくる家具』、展示そして交流を通して「愛用とは何か」を考える貴重な機会となりました。

 

書籍 『杉でつくる家具』とは

1953年に発行された『アイディアを生かした家庭の工作』から木製家具24作品をピックアップし、現代の視点でリメイクしたDIY書籍。図面作成は、KAKデザイングループのメンバー3人(秋岡芳夫・河潤之介・金子至)が担当。ホームセンターも電動工具もなかった時代に、ノコギリと建築用木材を駆使し、ミニマルで機能的なDIY家具を提案。原著出版当時は、KAKによる日曜大工の講座がテレビや婦人雑誌で企画されるなど、主婦を中心に好評を博しました。
公式サイト:http://www.sugi-diy.com/


グループ モノ・モノとは

KAKデザイングループの中心人物である秋岡芳夫が1970年に結成したプロジェクトチーム。拠点は東京・中野にあるモノ・モノ。この指止まれ式の自由な組織で、手仕事の復興や地域活性に関わる活動を行ってきました。
今回は『家庭の工作』のリニューアル版を制作するにあたり、菅村大全(企画)、大沼勇樹(家具製作)、笠原嘉人(テキスト監修)の3名を中心とするチームが結成されました。

 

『消費者から愛用者へ』 秋岡さんが語った その本当の意味とは

まず、菅村さんからは、
書籍『杉で作る家具』の原作である『家庭の工作』の生まれた時代背景と、
著者であるKAKデザイングループの一員で、多くの書籍を残した秋岡芳夫さんの言葉が語られました。


菅村さんからは、「KAKデザイングループの中心人物である秋岡さんがおっしゃった『消費者から愛用者へ』という印象的な言葉があります。これは質の高いものや高価なものを長く、大切に使うことだと思われがちですが、『自分で作ったものを自分で工夫して、改善して、生活の中でよりよく使っていく…まさに現在のDIYのようなもの』なのだろう」との話がありました。

その他、秋岡氏がよく書籍でおっしゃられた言葉、
『誂え(あつらえ)』 自分の工夫を身の回りのものに活かす、現在の生産者から消費者への一方通行の関係性を見直すこと。
それは作り手も使い手とコミュニケーションを取ることができる環境や場所であったり、
使い手も作り手との積極的な関わりをなくして受け身でいることは、物事の判断基準が自分から離れてしまい、すべてをつまらなくしてしまいます。
自分で作ることは、つまり自分で考えること、秋岡氏はものづくりに関わるおもしろさを伝えています。
そのことを『杉でつくる家具』やワークショップで使えていきたいと菅村さんは語ります。


笠原さんからは、
日本の国土の森林所有率、そして現在の日本のものづくりにおける木材の流入経路の割合を説明。
日本は国土の3分の2が森林で覆われており木材資源が豊富な世界有数の森林大国でありながら、使用する木材の7割を海外からの輸入に頼る世界有数の木材輸入国であることを知ります。

手入れされなくなった森と、良く手入れされた森を説明する笠原さん

 

NO ノコギリ NO ライフ

杉の家具DIYワークショップには、4つの要素があることを紹介されました。

  • 愛用と工作/親から子に伝えられる生活技術の回復。工作のおもしろさに気づくこと
  • 大工道具/ノコギリをはじめ、伝統的な手工具を使えるようになること
  • 杉の文化/日本人に最も身近な木材について知ること
  • プロダクトデザイン/杉板を使ったDIYに適した構造を学ぶこと

 

インストラクター養成講座でのレクチャーの様子

新宿・名古屋開催でも「筋交いの効いた2WAYスツール」ワークショップの講師をされ、書籍中にも登場するインストラクターでもある大沼勇樹さんにノコギリの扱い方を教わりました。

基本的なノコギリの構え方から、書籍「杉でつくる家具」にある家具を作るにあたって、欠かせない“斜めカット”のコツを学びます。

木工経験者でも普段は電動工具を使って加工する方も多く、
ノコギリの使い方を知っていても、使用する場面が少ないため、感覚を取り戻すのに少し時間がかかります。

講師の大沼勇樹さん(右)

 

スペシャルゲストとして名古屋の巡回展で「杉で作るミニスツール」 ワークショップの講師をされた賀来寿史さんも登壇されました。

 

「杉のDIY」関連イベント

『杉のDIY展 in 飛騨』展示コーナー

秋岡さんの書籍コーナー

現在はプレミアとなっている書籍もお持ちいただきました

 

令和の『モノ・モノ サロン』

当時「生活用品の画一化、使い捨てが暮らしの根底を揺るがす時代にわれわれは何をなすべきか、とことん話し合おう」と、秋岡芳夫が提唱し、毎週木曜日の晩になると、どこからともなく作り手たちが集まり、「モノ・モノサロン」と称して深夜まで活発な議論がくり広げられたそう。

当時、モノ・モノサロンの開設に当たって、真っ先に用意されたのは、机ではなく5組の布団だった…そんなエピソードをお伺いし、FabCafe Hidaではドミトリールームでの特別宿泊プランと令和の『モノ・モノ サロン』Barを開店しました。

当時の詳しいモノ・モノサロンの様子はこちら
モノ・モノwebサイト「モノ・モノの歴史」より


東京・中野で長年開催されているモノ・モノサロンをイメージしたBarタイム。


おつまみは漆器や竹カゴに盛りつけて見た目においしく食べていたという当時のモノ・モノサロンの流儀に習って、
器は飛騨の木工作家で、秋岡さんの大ファンである北奥美帆さん(とらまめ)よりご提供いただきました。
ドリンクには当時秋岡さんが竹とんぼを立てるスタンドとして利用していたサントリー・オールドをご用意しました。

モノ・モノサロン恒例の自己紹介タイム。延々と続く自己紹介が酒の肴だそう

飛騨の木工職人も次々に加わり、なんと夜中の3時まで熱いサロンが開催されました

 


本イベントでは主に戦後、植林で育った針葉樹から『杉』を材として扱った背景をお伝えしましたが、ヒダクマの松本からは飛騨の森の70パーセントを占める『広葉樹』とそれを扱ったヒダクマのプロダクト事例や、FabCafe Hidaの木工房を巡るミニツアーも実施しました。

『杉のDIYデザイン展 in飛騨』を終えて

笠原嘉人
インテリア・プロダクトデザイナー/東京テクニカルカレッジインテリア科非常勤講師

KAKによる「杉でつくる家具」には、まず戦後の復興期に少しでも快適かつ美的な暮らしを提供したいという職業的な動機がありました。そしてそのために選択した杉という材料の美点を引出し短所を工夫で補うという事が徹底して考えられました。その夾雑物の無い極めて真直なデザインの道筋が、今なおエバーグリーンな印象を醸して現代の私たちにも新しく響くのだと思います。
66年後の今、デザインやものづくりを取り巻く環境は大きな転換期を迎えているように思います。今回講座に参加頂いた林業を担う方々、デザインやものづくり携わる方々の熱意からはその問題意識の高さが感じられました。かつてKAKが示した本質的な考えを共有することは、それを乗り超えるひとつの糸口になるかも知れません。
デザインやものづくりは誰のため、何のためにあるのか今一度立ち止まって再考し、そしてそれを支える資源、かつて日本の生活文化を支えてきた杉という木材に敬意を持って相対するにはどうすれば良いか、また皆さんと一緒に考える機会があればと思います。

菅村大全
有限会社モノ・モノ代表

初挑戦となった「杉家具インストラクター養成講座」は、講師にとっても学びの多い会となりました。
KAKのDIYデザインはラディカルなので、家具の作り手には、なかなか受け入れられないだろうと思っていましたが、ふたを開けてみると参加者の半数が家具関係の人でした。針葉樹活用の高まりが住宅業界だけでなく、木工界まで広がっていることを今回実感しました。同時に木工のプロといえども、手ノコをほとんど使わない現代においては、ノコギリの講習を十分に行わないと、インストラクターは養成できないと痛感しました。この点は今後の講座に生かしたいと思います。

 

大沼勇樹
木工デザイナー/埼玉県産業技術総合センター非常勤職員

木工経験者対象の講座ということで、緊張しながらお話させていただきました。僕は参加者の皆さんよりもノコギリの技術は劣ると思ってまして、その僕が、講座で何をお伝えできるかといえば、「技術を言葉で伝える技術」でした。ワークショップ(WS)参加者は、ノコギリ初心者の方もいます。そんな方もその場を楽しむためには、WSの組み立て方や、技術を持ち帰ってもらうための言葉はとても大切です。
講義を終えてから参加者の皆さんとお話していると、ノコギリの使い方を学びに来られた方も多かったようで、そこは反省点ですね。今度やるときにはノコギリレクチャーの時間もしっかり設けて臨みたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします!


全国からFabCafe Hidaにお集まりいただいた皆さんありがとうございました!
今回、グループ モノモノの皆さんに飛騨の森が美しかったと言っていただけたことがとても嬉しく、
私自身も暮らしの中で愛用者として使用すること、新たな気持ちで飛騨の広葉樹を使ったFabCafe Hidaのメニュー開発と作り手たちとのコラボレーションを続けていきたいと思いました。
また、近くに相談できる職人さんがいることのありがたさを改めて感じました。これからも使い手を代表して、皆さまと交流させていただけたら幸いです。

「杉でつくる家具」公式サイトでは木工デザイナー、大沼勇樹さんのレポートが公開されております。木工デザイナーの目線でのレポートと、
夜のモノ・モノサロン in FabCafe Hidaの様子をご覧いただけます。
◯「杉でつくる家具」公式サイトのレポートはこちら

 

サクラや、クルミ、ナラなどの飛騨の広葉樹でものづくり体験!

FabCafe Hidaではサクラや、クルミ、ナラなどの広葉樹を素材に、
カンナなどのハンドツールや、デジタルマシンをつかったものづくり体験をお楽しみいただけます。みなさまのお越しをお待ちしております。

1泊2日宿泊「初めての木工体験プラン」はこちら

 

執筆者:堀之内 里奈
FabCafe Hida ものづくりディレクター

飛騨古川出身。「FabCafe Hida」がFabや木工を知るきっかけになりました。
地元出身の目線で飛騨の魅力をおいしく、楽しく、分かりやすく知っていただくきっかけを作ることが毎日の楽しみです。