Project Case

2023.8.26

社会・環境・経済の3軸に基づくイノベーションプログラム

メコン川の環境問題からタイ東部の教育格差を埋める

2015年の設立以来、FabCafe Bangkokは、政府機関からグローバル企業まで、さまざまな組織と協力し、スキル開発の最前線に立ち続けてきました。培ってきた豊富な経験を生かし、FabCafe Bangkokは2023年2月、テクノロジー分野での活躍を目指す若い女性たちの大学進学を支援する取り組みで、米国大使館から支援を獲得。2023年の活動は、メコン川流域に居住する学生たちに焦点を当てました。

活動にあたり、まず最初に、FabCafeチームは地元コミュニティが直面する最も差し迫った課題を特定する広範な調査を行いました。そして、彼らはある重大な問題に焦点を絞りました。それは、気候変動と上流のダム建設によって引き起こされたメコン川の深刻な水質汚染です。これらの要因が自然な水の流れを変え、その繊細な生態系を乱しているのです。

このプログラムでは、メコン川危機という文脈の中で学習セッションを構成することで、テクノロジーとビジネス知識の変革の可能性に対する意識を向上させ、地域社会、経済、環境に有益なインパクトのあるプロジェクトの立ち上げるという、複数の野心的な目標達成を目指しました。

メコン川はアジアで3番目に長い川であり、世界でも有数の生物多様性に富んだ地域

FabCafe Bangkokチームは、メコン川沿いのノンカイ、サコンナコーン、ウボンラーチャターニーにある高校の生徒を対象に、2日間にわたるプログラムを実施しました。

綿密な調査の結果、メコン川の健全な生態系維持に重要な役割を果たす2種類の淡水海藻「カイ」と「タオ」という、未開発の潜在能力を持つ資源を特定しました。プログラムを通して、実践的な成果を促すため、各地域のカイとタオの藻の特定の条件に基づいて、各地域ごとに目標が策定されました。

そのうえで、3つの地域からそれぞれ2つの優れたプロジェクトが選ばれました。これらの6つのチームは、ノンカイで開催された2日目のワークショップに招待され、IoT農業のコアとなる原則と基本技術を学びました。この知識は、それぞれのプロジェクトに必要な技術的側面をより深く理解するのに役立ちました。

カイとタオは、メコン川流域の豊かな地域に生息する淡水海藻の一種で、水生生物に不可欠な栄養分と生息地を提供している

「カイ」や「タオ」という海藻は、実は伝統的なタイ料理には欠かせない食材ですが、プログラムに参加している学生を含め、多くの若者にとってはあまり馴染みのない食材です。海藻を魅力的に、そして革新的に紹介するために、地元で活躍するシェフとコラボレーションし、料理というアプローチで取り組みました。

海藻を使った料理のセッションでは、事前にレシピを準備せず、インタラクティブなワークショップを行いました。また、シェフから独創的なマーケティング戦略や成功の秘訣について学ぶことで、ビジネス面の知識を学びます。そのうえで、3Dプリントの基礎を学び、クッキーなどのさまざまなレシピの型をデザインし、実際にプリントしました。

淡水の海藻について楽しく学ぶ料理教室はプログラムに欠かせない要素

このプロジェクトでは、包括的なアプローチを採用し、学生の創造性とやる気を引き出しながら、ゼロから具体的なプロジェクトを完成させるよう指導しました。

フェーズ1:変革の担い手となる

このプログラムは、地球温暖化の問題を紹介し、学生たちにトリプルボトムライン(社会・環境・経済)を考慮した解決策を考案することで、それぞれの地域社会で変革の担い手となるよう促すことから始まりました。

フェーズ2:地元の名シェフによるインスピレーション

地元の有名シェフが、新鮮な海藻の可能性を紹介し、ユニークで魅力的なアイデアを生み出すための創造的なプロセスについて解説しました。

フェーズ3: ビジネス知識

FabCafeは、基本的なビジネス概念を紹介するとともに、学生たちが自身で成功事例を分析し、価値創造と利益率を理解できるようリードしました。

フェーズ4:アイデア創出

学生たちは、さまざまなアイデア創出手法やプロセスを学び、自由に意見を出し合うブレインストーミングセッションを行いました。

フェーズ5:プロトタイプ発表

各グループがプロトタイプを発表し、改良や改善のための貴重なフィードバックを集めました。また、厳選されたいくつかのプロジェクトは、小規模な市場テストのためにイサーン・クリエイティブ・フェスティバルで発表されました。 

フェーズ6:IoT農業実践ワークショップ

ホンカイで開催されるワークショップでさらに開発をして、実際のプロトタイプを作成するために、優れたアイデアが選出されました。FabCafeチームは、Micro:bitを使ったコーディングレッスンや、センサー、3Dモデリング、3Dプリントをテーマにしたワークショップを実施しました。

このプログラムでは、学生に必要な知識とツールを習得させるための包括的なアプローチを提供した。

プログラムの料理概論では、ミシュラン星付きレストラン「Samuay & Sons」のシェフ、Weerawat “Num” Triyasenawat氏が、海藻の現代的な料理への応用について詳しく説明しました。

学生たちは、3Dプリントされた調理用型やカッターを使って調理を行い、ラビオリ、餃子、パスタ、団子など、さまざまな現代的な料理を作りました。

3Dソフトウェアを使用してモデリングおよび印刷された型とカッター

    課題

    • ノンカイ地域では有害な藻類の異常発生が問題となっており、水生生物の生存を脅かし、漁網やその他の重要な資源に被害を与えている

    プロジェクトの概要

    • Tao+は、カスタマイズされたバイオ肥料ブレンドという画期的なソリューションを紹介。 余分な藻類を再利用し、IoT技術を使用して土壌状態を分析し、効果的かつ持続可能な農業の実践を促進しようというもの。

    Tao+プロジェクトのプレゼンテーションスライド

    レストラン「House Number 1712」のシェフ、Sirisak “Num” Waphakphet氏による詳しいプレゼンテーションを通して、学生たちは、料理コンセプトのプラットフォームとして、入念にデザインされたカフェや屋台が持つ可能性について学びました。

    学生たちは、独創的なデザインのクッキーなどの、お土産やカフェメニューとして海藻を取り入れる方法を模索しました。この探究では、学生たちは3Dモデリングソフトウェアを使用して、地元の人気スポットからインスピレーションを得た斬新な型を作成しました。

    3Dプリンターで作られたクッキー型.

      課題

      • 既存の農場を活性化し、地域の生態系を守るため、学生たちはタオから派生した製品に新たな付加価値を見出す取り組みを始めようとした

      プロジェクトの概要

      • HonKakKaiは、タイの食文化をエンパワーし、促進することを目指す。その一環として、ロングペッパー(Piper longum)などの地元の香辛料とタオ海藻麺を組み合わせた料理を開発。出来上がった料理は、一般的な赤いスパイスを使った料理とは一線を画す鮮やかな緑色の料理で、タイの郷土料理や食文化の可能性を提案した。さらに、有名人がバーチャルな視聴者と一緒に食事を楽しむ「モッパン」チャレンジのような世界的なトレンドを取り入れ、タイ文化の国際的なアピールを強調した。
      • Tao Tri Thaiは、タンパク質が豊富なタオ海藻と桑の実やカオマオ(未熟な米をすりつぶしたもの)などの地元農産物を混ぜ合わせ、栄養価の高いおいしい栄養バーを開発した。

      HonKakKai (左) と Tao Tri Thai (右) のコンセプト画像。

      ミシュラン星付きレストランMokのシェフである“Fai” Sirorat Thowtho氏の指導のもと、学生たちは革新的な発想を働かせ、タオ海藻のさまざまな活用方法を模索しました。その中には、タオヨーグルトパンやタオオムレツも含まれていました。

      最も人気が高かったのは、ラープタオアイスクリームというコンセプトで、甘いアイスクリームではなく、ラープというタイの辛いサラダ(一部の地域ではタオ海藻が使われている)を練りこんだ風味豊かなアイスクリームです。さらに、このアイスクリームの味を楽しむことができる消費者層については、ペットも含めて幅広く考慮しました。

      3Dモデリングから出来上がりまでのlaab taoアイスクリーム製造工程。かわいい猫の形は、地元の猫種に敬意を表し、ペットを飼っている人にアピールするためにデザインされた。

        課題

        • ウボンラーチャターニーは、気候変動によるメコン川流域の断続的な干ばつ状態に直面しており、これは、降雨量の減少と気温の上昇が原因。上流のダムの増設は状況をさらに悪化させ、川の生物多様性に影響を与えている。健全なタオ海藻を栽培することは、荒廃した河床を保全する上で重要。

        プロジェクトの概要:

        • Tao Yongは、乾燥させたタオ海藻をポークフロスの形にして販売するという提案で、ベジタリアン向けの魅力的な肉代替品を提供するというもの。学生たちは、「ムテル」(伝統的な幸運の信念)にインスピレーションを得た現代のタイのマーケティングのトレンドを基に、購入者の誕生日に合わせたラベルをパッケージにデザインし、消費者の関心を引き付ける工夫をした。
        • Khong Chiam Burgerは、ウボンラーチャターニー地方で広く愛されているベトナム発祥の人気料理に斬新なアプローチを加えたもの。学生たちはバンズにタオ海苔を加えることで、ブラウンとブルーの鮮やかな組み合わせで、ムーン川とメコン川が合流する地点であるメーナムソーンシーという地元のランドマークを視覚的に表現した。

        Tao Yong (上)と Khong Chiam Burger (下) のプレゼンテーションスライド

        FabCafeは、淡水の海藻の可能性を引き出すというひとつの目的を設定することで、イノベーションの促進、学生に不可欠なビジネス知識の習得、技術スキルの開発を目的とした包括的なプログラムを作成しました。2日間の凝縮した時間の中で、各グループは実用性と詳細な実行計画を備えた3〜5の具体的なプロジェクトを完成させました。

        プログラムで発表されたすべてのプロジェクトは、環境再生をその中心的な目的としており、参加者は地域社会の社会的・経済的発展に積極的に貢献できるようにエンパワーされました。プログラムの成果は、既存の経済モデルに多大な価値を加える実行可能なビジネスプランであり、人々を豊かにし、地球を保護し、収益性を確保する包括的なアプローチの重要性を強調しました。

        さらに、このプログラムは、地元企業や投資家がカイとタオの養殖分野に参入し投資を行うための認知度向上と環境整備において、重要な役割を果たしました。 特筆すべきは、ミシュラン星付きレストラン「Mok」のシェフ“Fai” Sirorat Thowtho氏のようなステークホルダーが海藻製品に強い関心を示し、海藻養殖事業への投資に関する問い合わせが増加しました。


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        以下にご興味をお持ちの方は、ご連絡ください。

        • サステナビリティなど、特定のニーズに合わせた実践的なスキル開発プログラムの設計と実施。
        • タイ国内で、企業、政府機関、国際機関とのインパクトのあるプロジェクトの実施。
        • 革新的な製品アイデアやビジネスチャンスの考案と迅速なプロトタイプ作成。
        • デジタルファブリケーションと先進技術の応用。

        プログラム:BizTech Women:若い女性をエンパワーし、自然環境を再生する 
        助成金提供者:在タイ米国大使館
        プロジェクト期間:2023年1月~4月
        メンバー:FabCafe Bangkok。プロジェクトディレクター:Kalaya Kovidvisith(FabCafe Bangkok創設者)。アシスタント:Chonthicha Arunrungkaokai。
        KhonKaen。
        プロジェクトパートナー:Creative Economy Agencyコーンケーン支部。シェフ:Samuay & SonsレストランのWeerawat “Num” Triyasenawat氏、House Number 1712のSirisak Waphakphet氏、MokのAuntieChef “Fai” Sirorat Thowtho氏

        Author

        • FabCafe編集部

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