Project Case
2024.4.25
FabCafe編集部
今まさに、技術を活用した文化遺産保存の試みが行われています。特に東南アジアでは、パワーを持ったクリエイティブチームが新たなマーケットを開拓し、文化遺産を保存するための新たな表現形式として、革新的なXR(拡張現実)技術の発展に目を向けはじめています。その潮流を受け、ユネスコは、メコン地域が持つイニシアティブを積極的に支援し、文化およびクリエイティブ起業家らのデジタルスキルの強化を目指しています。
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ユーザーは自身のスマートフォンを使用してさまざまなXR体験を楽しむことができます。タイ・ゴースト・XR プロジェクトはこの技術を活用して、愛すべきタイの遺産の一部を紹介し、次世代に残す試みをしています。
2015年以来常にデジタル技術の進化の最前線に立ってきたFabCafe Bangkokと、 XR表現を探求するコミュニティ「NEWVIEW」は、ユネスコとコラボレーションし、タイの文化と地元のビジネス、そして地元のクリエイターを支援する先駆的なアプローチを導入しました。タイ・ゴースト・XR プロジェクトでは、タイのデジタルリテラシーを新たな形で活用することで、クリエイティビティと創造性と文化を組み合わせていきました。このプロジェクトでは漫画作品をXR体験として制作し、参加者が地元の企業を訪れ、XRでタイのゴースト漫画を読み、参加店舗から限定商品を購入することができるようにしました。
タイのゴーストコミックは数十年にわたりタイが持つ文化の一部であり、その人気は1970年代から1990年代にかけてピークに達しました。これらのコミックは当初、わずか1バーツで販売され、ピーク時には1日約100万部が売れるなど、低コストで手軽に楽しめるメディアとなっていました。スマートフォンなどのテクノロジーが普及するにつれて、これらのコミックは他のメディアと競合し、近年では多くの出版社がコミックの配信停止を決定しました。タイの文化や民話をコアとするホラー漫画は今や復活の時を迎えています。ファンはその文化を次世代の人々と共有し、今後何年にもわたって文化財として保護する新しい方法がないか待ち望んでいます。
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参加者は、スマートフォンを使用して「1バーツのタイゴーストコミック」をXRで体験。遺産と技術が融合し新しい文化的表現形式が生み出される中、FabCafe Bangkokチームは、さらに新しいビジネスモデルを組み込んで、遺産を保存するための持続可能かつ複製可能な方法にする取り組みも行いました。
FabCafe Bangkokによって実施されたユネスコの支援プロジェクトの1つであるタイ・ゴースト・XR プロジェクトは、クリエイティブおよび文化関係者のデジタル能力を強化し、文化的のバリューチェーンに起こっている変化に対して積極的に対応する能力を高めることを目指していました。
FabCafe Bangkokのプロジェクトチームはリサーチを経て、XR技術とクリエイティブコンテンツや製品を結びつける方法を見つけました。過去と現在を結びつけることで、地元のクリエイターや企業に利益を生むことができる一方で、参加者もタイのゴーストコミックの文化的意義やXR技術の仕組みを理解することができます。これにより、これらのコミックの文化的影響や重要性が、次世代によって体験され、人々が文化を享受することができるようになりました。
タイ・ゴースト・プロジェクトは、クリエイティブデジタルラボプロジェクトの一環として開催されたハッカソンの優勝プロジェクトの1つです。詳細についてはこちらをご覧ください。
本プロジェクトにおいて、FabCafe Bangkokは実験的なビジネスプロトタイプとして「1バーツのタイゴーストコミック」シリーズにユーザーを流入させる試みを行いました。コミックをデジタル化し、参加者はスマートフォンでそのXRを体験。そこに、アプリ内での購入を可能にするeコマースモデルを導入しました。ローカルビジネスに機会を提供し、技術を活用して観光を促進するこのユニークなモデルによって、タイのゴーストコミックを重要な文化財としてアピールしました。
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『1バーツのタイコミック』の物語には表紙を含む計8つの異なるシーンがあり、さまざまな場所でその各章を体験することができます。
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各シーンでは、異なるARアセットが利用され、コミックの各章を効果的に伝えることで参加者を物語の世界と雰囲気に没入させました。
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メインのストーリーはARを通じて伝えられましたが、さらにセットデザインを使用することで、参加者は画面を見続けなくてもコミックのストーリーに没頭することができました。
ゴーストコミックのデジタル空間を作成することで、地元クリエイターによる作品の、新たなデジタルマーケットへの進出をサポートしました。次世代にこれらのコンテンツを残していくためには、このメディアがひとつの文化財としての成功をおさめ、長期的に存続される必要があります。
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「『1バーツのタイ・ゴースト・コミック』シリーズに登場する中心的なゴーストであるプレットは、地元の漫画家によって描かれ、地元のクリエイターによってXR化されました。実際にXRで閲覧するとこのようなサイズで現れ、どの場所でもアプリを通じて見ることができます
さらに、これらのゴーストをデジタル上のクリエイティブアセットに加え、タイのアイデンティティを世界的に推進することで、コミックのマーケットを世界中に、かつ世代を超えて拡大することができます。タイのゴーストコミックがもつ特徴的な民話の視覚的表現とその物語は、ユニークなタイのアイデンティティを表しています。伝統とテクノロジーを融合してデジタル形式を付与することで、タイのゴーストコミックの遺産を長く残していくのみならず、より多くの人々がタイの文化遺産とストーリーにアクセスしやすい環境をつくります。
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コミックを異なる章に分け、それぞれタイアップ商品を製作することで、XR技術を使用したイノベーティブなビジネスモデルを提示。また、文化財のソフトパワーを活用しどのように地元の観光を活性化するかを示すこともできました。
コミックはいくつかの章に分割され、別々に購入するシステムになっており、各章はある特定の場所でのみXRで体験することができます。タイアップ商品は、参加者がストーリーを読み進めるにつれてアプリ内で販売され、各場所とストーリーのある特定のポイントで、特定のアイテムを購入することができます。これにより、地域に足を運ぶだけでなく、地元のビジネスに直接的な利益をもたらし、参加店舗の収益を倍増させることができました。
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トートバッグなどの、ローカルビジネスによる限定版タイアップ商品
このプロジェクトには、近隣の大学生から外国人観光客まで幅広い参加者が参加し、3日間で約400人の参加者が集まりました。これにより、インフルエンサーやメディアからの注目を集め、30以上のメディアがこのプロジェクトを取り上げました。参加者やローカルビジネスのみならず、参加したアーティストにとっても満足度が高い内容になりました。この成功を受け、FabCafe BangkokとNEWVIEWチームはこのスキームを利用した、さらなる拡大の機会を待ち望んでいます。
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FabCafe Bangkokのチームメンバーとコミックアーティストたち
What can we do for you?
以下の内容に興味をお持ちの方は、ぜひコンタクトよりお問合せください
- クリエイティブ産業セクターにおけるXRテクノロジーの実用化
- 最新のビジネスやテクノロジートレンドを取り入れた教育・スキル向上プログラム
- 芸術、技術、科学の交差点を見つけ、地域産業の向上と遺産の保護
- Project client: UNESCO Multisectoral Regional Office in Bangkok
- Project time: 3月2023年〜10月2023年
- Project funding: UNESCO / Korea Funds-in-Trust (KFIT)
- Project members: FabCafe Bangkok. Project director: Kalaya Kovidvisith (FabCafe Bangkok founder). Assistants: Chonticha Aroonroongkaokai, Chanidapa Savangvarorose.
Hackathon winners: Arttakrit Jeenmahant, Songsak Supromphunt, Sanit Sudsakorn, Somruthai Ruangtrakul, Warut Boonyakajorn. - Project partners: the Creative Economy Agency of Thailand (CEA) and the Thailand Creative & Design Center (TCDC).
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Kalaya Kovidvisith
FabCafe Bangkok Co-founder
FabCafe Bangkokの共同創設者であり、FABLAB Thailandのマネージング・ディレクター。マサチューセッツ工科大学(MIT)でデザインと計算の修士号を取得。デジタルファブリケーションとバイオテクノロジーがどのように産業界の関係の変化と強化を促し、次世代の新しいビジネスモデルを生み出すか、を研究テーマとしている。2015年のGlobal Entrepreneur Summit Delegate、2016年のAsia Pacific Weeks Berlinに参加。
FabCafe Bangkokの共同創設者であり、FABLAB Thailandのマネージング・ディレクター。マサチューセッツ工科大学(MIT)でデザインと計算の修士号を取得。デジタルファブリケーションとバイオテクノロジーがどのように産業界の関係の変化と強化を促し、次世代の新しいビジネスモデルを生み出すか、を研究テーマとしている。2015年のGlobal Entrepreneur Summit Delegate、2016年のAsia Pacific Weeks Berlinに参加。
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Chonticha Aroonroongkaokai
FabCafe Bangkok クリエイティブテクノロジスト
タンマサート大学で建築学を専攻し、デザインやテクノロジー、特にロボット工学に関心を持つ。これまで手がけたプロジェクトとして、ユネスコの「NEWVIEW XR FieldLAB」や「Boost Play Measure」において拡張現実体験のクリエイションに大きな役割を果たした。
タンマサート大学で建築学を専攻し、デザインやテクノロジー、特にロボット工学に関心を持つ。これまで手がけたプロジェクトとして、ユネスコの「NEWVIEW XR FieldLAB」や「Boost Play Measure」において拡張現実体験のクリエイションに大きな役割を果たした。
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Chanidapa Savangvarorose
FabCafe Bangkok デザインリサーチャー、プロジェクトマネージャー
チュラーロンコーン大学で工業デザインを専攻。チュラロンコン病院とのパートナーシップによるリハビリテーションに特化した優れた研究およびデザインプロジェクトが評価され、Korea Invention Academy(KIA)の第7回World Invention Innovation Contestで金賞と特別賞を受賞。現在、ユネスコ・プロジェクトでメコン地域に特化した拡張現実市場の主任研究員を務め、持続可能な技術ソリューションの探求を専門とする研究チームを率いている。
チュラーロンコーン大学で工業デザインを専攻。チュラロンコン病院とのパートナーシップによるリハビリテーションに特化した優れた研究およびデザインプロジェクトが評価され、Korea Invention Academy(KIA)の第7回World Invention Innovation Contestで金賞と特別賞を受賞。現在、ユネスコ・プロジェクトでメコン地域に特化した拡張現実市場の主任研究員を務め、持続可能な技術ソリューションの探求を専門とする研究チームを率いている。
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