Event report

2022.2.22

crQlr Summit Report 4: システムデザインと天然資源 System Design and Natural Resources

David Willoughby

ライター

循環型デザインの最前線では、ローカルな課題解決に単独で取り組む人たちがまだ多いのが現状です。私たちは、循環型社会の実践者がグローバルな視点から最新の情報やナレッジを学べる場としてcrQlr Summitを位置づけ、crQlr Awardsの審査員と受賞者を招いてオープンなフィードバックや知識の交換をおこないました。

このレポートでは、「システムデザインと天然資源」をテーマにしたFabCafe Barcelona主催セッションのハイライトをお届けします。多くの国では、大量生産・大量消費を前提にしたリニア(直線型)なモデルが長らくデフォルトのシステムとなっています。天然資源が枯渇するリスクを抱える私たちが、これからボトムアップで新しいシステムをデザインすることはできるのでしょうか?日本、ドイツ、メキシコ、台湾など世界各国で活躍する審査員や受賞者の考えを聞いてみましょう。

2021年のcrQlr Awardsでは、19人のサステナビリティの専門家と実務家によるパネルが審査をおこないました。うち数名の審査員がcrQlr Summitの各セッションに参加し、目に留まった応募作品について議論し、受賞者にフィードバックをおこないました。バルセロナのセッションに参加した審査員は以下のとおりです。

 

セシリア・タム

シリアルアントレプレナーであるセシリアは、FabCafe Barcelonaならびにバルセロナ最大のコワーキングコミュニティであるMOBの創設者です。また、Futurity Studioのフューチャー・シンセシスト兼 プリンシパルとして、企業の未来のアイデアやプロトタイプの作成を支援しています。

エンリケ・ロムニッツ

工業デザイナー。メキシコシティの有効な水源として雨水を活用するモデルを確立するプロジェクト「Isla Urbana」の創設を通じ、サステナビリティを促進しながら水不足のコミュニティの生活水準向上に取り組んでいます。

ギヨーム・シャルニー=ブルネ

人と地球のために、より良い日常生活を創造することを使命とするコペンハーゲンの研究・デザインラボ「SPACE10」の共同創設者兼戦略担当ディレクター。15年間にわたり、大企業が変化に適応して新しいソリューションを開発するのを支援してきました。

マリコ・マクティア

Social Innovation Japanの共同創設者兼ディレクターで、日本初の無料水補充アプリ「mymizu」の共同創設者でもあります。ジャーナリスト出身で、政府、企業、ソーシャルベンチャーのために、国際的なマルチステークホルダープロジェクトを企画・運営・実施してきました。

ケルシー・スチュワート

ケルシーはFabCafe Globalネットワークのチーフコミュニティオフィサーです。今回のセッションでは、crQlrアワードの審査員兼共同開催者としてモデレーターも務めました。

2021年のcrQlr Awardsでは、200件以上の応募の中から63件の受賞プロジェクトが選ばれました。各セッションでは、受賞者数名が、プロジェクトの社会実装やスケールアップにおいて直面した(多くは現在も続く)課題について語りました。バルセロナのセッションに受賞者を代表して参加したのは以下の各氏です。

Impossible Materials」は、英国ケンブリッジ大学の化学部門からスピンオフしたディープテック企業です。同社のミッションは、植物由来の製剤原料の提供によって企業の循環型経済への移行を手助けすることです。同社の最初の製品は、塗料、インク、化粧品、医薬品、食品などに使用され、市場で問題視されている二酸化チタン(TiO2)を代替する100%セルロースベースの白色顔料です。同社は、審査員のセシリア・タム氏からNEUMATERIALS Prizeを受賞しました。以下は氏のコメントです。

「私は、このプロジェクトの前提となる、加工度が高く分解されにくい有毒な化学成分の代わりに植物由来の材料を使用するという点が非常に気に入っています。自然が提供してくれる資源への理解が深まり、消費者ニーズをバイオマテリアルで満たした先例のデータが蓄積されれば、はるかにサステイナブルな消費モデルを生み出すことができます。さらに、生産と消費の根幹部分である素材に関するイノベーションは、多大なインパクトをもたらす可能性を秘めています。このプロジェクトがTiO2の代替だけでなく、他の化学物質にも広がることを期待しています」

沖縄の「Bagasse UPCYCLE」は、同地で栽培されるサトウキビの絞りかすのバガスを利用して、沖縄の名物である「かりゆし」シャツを製造する循環型プロジェクトです。観光客に人気のこのタイプのシャツはシェアリングモデルで提供され、それぞれに付けられたICタグでライフサイクルを追跡しながら繰り返し使用された後、最後はサトウキビ畑の土壌改良剤に生まれ変わります。このプロジェクトは、審査員のマリコ・マクティア氏からDesign a Product’s Lifecycle Prizeを受賞しました。以下は氏のコメントです

「このプロジェクトは、製品のライフサイクルのすべての段階で廃棄物を出さないよう徹底した配慮がなされている点が素晴らしいと思います。一度に解決しようとする課題の数が増えすぎると過剰に複雑化する危険性はありますが、周辺のシステムまでも含めた製品設計によって環境への影響を最小限に抑えられることを示した素晴らしい事例です」

ZenZhou Water-Storing Seedling Pot」は、台湾の海岸線の浸食を防ぐために開発された植樹技術です。低コストでリサイクル可能なこの植木鉢は、雨水を貯めて苗木を1年間保護し、生存率を最大70%高め、成長率を2〜3倍にします。最終的に微生物によって分解され、土壌を肥やし、成長した苗木を育てます。このプロジェクトは、審査員のギヨーム・シャルニー=ブルネ氏からRegeneration Awardを受賞しました。以下は氏のコメントです。

「循環型の先の『再生』にまで踏み込んだ、低コストな海岸保護のアイデアです。このようなローテク・ローコストの製品の用途は幅広く、再現性も高いでしょう。段ボールや紙は最もリサイクルしやすい素材なので、世界中の砂漠化対策のツールを開発することも想像できます。既存のサプライチェーンや商流との垂直統合ができているということから、事業性があることもうかがえます」

「Diaper Cycle」は、ベルリンを拠点とする社会的企業で、100%バイオベースで自然分解可能なおむつの中敷きを提供しています。また、循環型システムの一環として、使用済みのおむつを回収して堆肥に変える活動も行っています。中敷きには化学処理されていない原料繊維のみが使われ、洗濯可能なアウターパンツと組み合わせて使用します。同社の長期的なビジョンは、世界中の女性起業家への支援を通じ、中敷きの現地生産体制を分散型で確立することです。このプロジェクトは、審査員のギヨーム・シャルニー=ブルネ氏からFull Loop Potential Awardを受賞しました。以下は氏のコメントです。

「このプロジェクトは、非常に興味深く、刺激的な循環型ビジネスの例であり、これまで過小評価されてきたビジネス領域におけるユニークな選択肢です。カーボンオフセット制度を導入している国ではそれを利用して無料のサービスとして提供するというアイデアも素晴らしいと思います」

​​セッションの前半では、審査員と受賞者がそれぞれのプロジェクトについて、業界や地域におけるサステナビリティの課題にどのように対応しているかを語りました。各プレゼンテーションは、記事末尾の動画でご覧いただけます。ここでは、フィードバックとディスカッションがおこなわれたセッション後半のハイライトをご紹介します。

ギヨーム:まず最初に、情熱的で素晴らしいプレゼンを私たちとコミュニティに示してくれた皆さんに感謝したいと思います。まずDiaper Cycleの松坂さんに質問です。おむつを発送したり、回収したりする流通モデルがいまのところありませんが、ユーザーの皆さんはそれで十分に便利だと思っていますか?利便性を高めるための別のサービスレイヤーは検討していないのですか?

松坂:実は、子供たちの親はお互いに顔を合わせるのが好きなので、ファミリーセンターや幼稚園には自分で使用済みのおむつを持っていきたいんです。そうやってベビーシッターを探したり、服やおもちゃ、本を交換したりすることもできますからね。これには私たちもとても驚きました。もちろん配送サービスがあれば便利ですが、コストが高くなってしまいます。もし親同士がお互いに会いたいと思っているのならそれでいいと思い、地域のコミュニティの人々が互いに顔を合わせて支え合うのに任せることにしました。

エンリケ:受賞者の皆さん、おめでとうございます。とても刺激的で美しいプロジェクトの数々でした。Impossible Materialsのルーカスさんに質問があります。顔料を鉱物由来から植物由来のものへと転換したのはとても素晴らしいと思いますが、その耐久性はどうでしょうか?これは構造顔料(注:微粒子による光の散乱で白く見える)だと理解していますが、どのくらい持つのでしょうか?

ルーカス:私たちは数年にわたる耐久試験を行い、放射線や屋外条件に対する安定性もテストしましたが、特に問題はないようです。また、最終製品には顔料以外の配合物も含まれるので、その安定性も影響します。私たちは現在、人体への影響に敏感なヘルス領域の歯磨き粉や食品など、塗料などと違い消費の早いコンシューマー製品に注力しています。

マリコ:小渡さん、私はBagasse UPCYCLEのシステム全体と、製品のライフサイクルのさまざまな部分に目を向けた思慮深さがとても気に入りました。ただ、最大の課題のひとつは、サブスクリプションやサービスとして製品を販売するという、まったく異なる方法をユーザーに受け入れてもらうことではないかと感じています。これまでにどのような反応がありましたか?また、新しい消費方法を採用してもらうために何かしていることはありますか?

小渡:ご質問ありがとうございます。とても良いご指摘です。私たちは今年の3月に会社を設立したばかりです。沖縄は観光の島ですが、観光客の数はCovid-19以前の10~20%で、マーケティングを始めるにはかなり難しい状況です。今回の受賞は、私たちのサービス、哲学やコンセプトを認知してもらうための大きなチャンスです。実際には、衣服のシェアリングは非常にシンプルで簡単に実現できます。一方で、オーセンティックに製造されたバガス生地を使っているという点が私たちの競争力になると考えています。

セシリア:システム全体が抱える課題に取り組む際に私たちが直面する問題のひとつが「複雑さ」です。消費者の行動から、サプライチェーン、生産、規制に至るまで、すべてがつながり複雑に絡んでいます。それは多層的で、ソリューション単体ですべてを解決することはできません。皆さんは、このような複雑さにどう対処すればよいとお考えですか?

マリコ:単純化しすぎてしまうかもしれませんが、おっしゃるとおり、恐ろしく複雑なので、何を目指しているのかというビジョンを持つことがとても重要だと思います。よくあることですが結局、ソリューションや製品の話になり、達成しようとしていることや創造したい世界について合意を得られないステークホルダーが出てしまいます。関わる人たちが全員で共有し取り組める強いビジョンを持つことは、前進のために欠かせない基盤となります。

松坂:また、それぞれの起業家が「今あるもので何ができるか」を考えることも重要です。システムや生産ライン全体を変えるのは大変ですが、各自が与えられた機会を捉え、たとえ1ミリでも前進させられれば、その成果が互いに影響を与えることは言うまでもありません。それぞれのネットワークやコミュニティを使い、今できることに集中することがとても大切だと思います。

小渡:個人的には、コミュニティの力が重要だと思っています。循環型経済は、日本ではまだ始まったばかりの新しい潮流です。そこで私たちは、「プロダクトパスポート」という考え方を広めようとしています。これは、製品のバリューチェーンをデータとして可視化することで、ユーザー同士がつながることを可能にします。つまり、サステナブルなファッションをやっている人が、私たちのサービスを利用している他のユーザーとつながることができるのです。このようにして、循環型社会やサステナビリティに向けて少しでも行動するように人々の背中を押すのは非常に重要だと思いますし、そのような力が集まれば大きな変化をもたらすことができるでしょう。

ギヨーム:既存のビジネスインフラが伝統型企業に都合がいいように構築されていることも、複雑化の原因のひとつだと思います。ここにおられる皆さんのビジネスは既存インフラに頼れないので、調達から物流までのバリューチェーンをゼロから考えなければなりません。しかし、だからこそ自分のビジネスをはるかに超えた価値を生む可能性もあるわけです。これが、私が循環型ビジネスや再生型ビジネスで最も気に入っている点です。

セシリア:システム思考では、ものごとの結果について考えることが求められます。すぐに起こる結果だけでなく、長期的な結果も含めてです。そこで、受賞者の皆さんに質問ですが、あなたのデザインがもたらす意図しない結果について考えたことがありますか?

エンティン:オーストラリアのゼロ・ウェイストのシェフが言った言葉を紹介したいと思います。“We don’t need a handful of people doing zero-waste perfectly, we need millions of people doing zero-waste imperfectly.” (私たちに必要なのは、一握りの人々の完璧なゼロ・ウェイストではなく、何百万人もの人の不完全なゼロ・ウェイストの実践です)。例えば、使い捨てプラスチックを全面的に置き換えたいけれど、耐久性のために製品の一部だけでもそれを使わざるを得ないこともあります。ただ、そのプラチックの量を10g、あるいは100g減らすことができれば、最終的に削減できるプラスチックは100万kgになるかもしれません。何事にも副作用はついて回りますが、これは行動の方向性に意義があるケースです。

ルーカス:私たちにとって、これはとても重要なテーマです。植物由来の素材を使うことは素晴らしいことですが、その素材であるセルロースの原料は木や植物であり、大規模な使用による影響について考える必要があります。私たちは、生木よりもバイオ廃棄物を多く使うことでその点を改善しています。このように製品のサイクル全体を考えることは非常に重要で、そうでなければ新たな産業を作り出せたとしても、乱獲で生態系を脅かすような、別の問題を引き起こす結果となってしまいます。

小渡:私たちが注目しているのはサトウキビ産業とその産業廃棄物であるバガスです。廃棄物であることは、竹や他の植物を伐採して使うよりも優れた点ですが、現在は別の問題に直面しています。農地に農薬を使っているのです。そこで私たちは、より有機的で害のない農業に変えていく方法を検討しています。これは、生態系の保護やプロジェクトの改善といった私たちの今の取り組みの延長線上にあるものです。

松坂:今のところ、ネガティブな要素はありません。私たちは、「自然から学ぶ」というブルーエコノミーの原則に忠実です。自然界には、悪い微生物も良い微生物もありません。すべてはつながっていて、他のすべての植物や菌類ともうまくやっていくべきなのです。これらすべてが私たちを囲むように存在していて、私たちが彼らと協力すれば、彼らに利益をもたらすことができます。だから私たちは、ひとつの問題だけを解決するのではなく、むしろ逆に、複数の問題を解決するのです。

セシリア:皆さんのソリューションを、他の地域だけでなく、さまざまな他の業界にも拡大するにはどうしたらいいでしょうか?

松坂:そうですね。私たちにとっては、分散型のビジネスモデルが非常に重要です。例えば、タイで同じビジネスを始めたいと考えている人がいたら、私たちはこのビジネスモデルについて教え、彼らが自分たちの天然資源を使っておむつを生産できるようにしたいと考えています。その時、彼らに合った製造方法は私たちのものと違うかもしれないので、学びのネットワークづくりも欠かせません。お互いに学び合い助け合い、高めていくことが必要なのです。

ギヨーム:プロジェクトの多くは地域に密着したもので、そのままの形で他の地域に拡大することはできません。しかしいまのお話で、成長への道はひとつではないことが示されました。つまり、ビジネスの雛形の作成と共有や、フランチャイズモデルの構築など、インフラが未整備な世界の反対側にいる人々でも、知識の共有によってあなたのビジネスに参加できるようにする方法です。皆さんの取り組みすべてが、今よりもはるかに大きな価値を持つものに発展する可能性が見えてきました。

エンリケ:マリコさんの、循環型社会の概念を根付かせるためにはビジョンの共有が必要だというコメントがとても好きです。始まりは、私はこうしたいという「意図」にすぎませんが、やがて他の人々も意識的にその方法で物事に取り組むようになり、ある種の標準化や同調圧力が生まれ、さらに多くの人々がその選択をするようになります。意図には、私たち個人の行動の範囲をはるかに超えて文化や規範を生み出し、システム総体に大きな変化を起こす力が秘められています。

マリコ:このアワードと今日のセッションが、そのような意図を持ち、「自分はどんな問題に関心があってどう貢献できるか」について考える人が増えるきっかけになればと思います。自分なりの役割を探してみてください。そして最後に、ビジョンの実現に向けて実際に行動し実践しているアワードの応募者全員に感謝をお伝えしたいと思います。

以下の動画でバルセロナのセッションすべてをご覧いただけます。

​​crQlrは、サーキュラーエコノミーに基づく新しい社会の実践者と未来の創造者を支援するグローバルなコンソーシアムです。アワードについてのお問い合わせや、ご自身の循環型プロジェクトへのサポートをご希望の方は、こちらまでご連絡ください。

Author

  • David Willoughby

    ライター

    サステナビリティ、テクノロジー、文化について考え、執筆しています。これまでに多くのハッカソン、講演、その他イベントをレポートしています。また、日本の企業と協力して、彼らのストーリーを世界に伝えるお手伝いをしています。

    サステナビリティ、テクノロジー、文化について考え、執筆しています。これまでに多くのハッカソン、講演、その他イベントをレポートしています。また、日本の企業と協力して、彼らのストーリーを世界に伝えるお手伝いをしています。

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