Column
2021.3.30
浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
こんにちは。FabCafe Kyoto/ロフトワークの浦野です。FabCafe Kyotoで実施しているプロジェクト・イン・レジデンス「COUNTER POINT(以下CP)」。2020年12月にスタートした2期メンバーの活動がフィナーレを迎え、2021年3月19日、メンバー全員が集まり、それぞれの活動を振り返るCOUNTER Sessionが開催されました。
2期メンバーは全部で3組。勝手に共通点を挙げるとすれば、それはどのプロジェクトもルールや定型に「あらがう」チャレンジをしていたこと。たとえば、それまで自分が「気持ち良い」と思っていることを敢えて避けたり、「決めない」という選択をしたり、逆に、まだ自分の中に何もないものを作り出すと決めてしまったり。不確実性には不安や分かり難さ、そして時にはコミュニケーションの問題も常に付き纏います(その意味で、今タームは、事務局にとっても非常に難しい挑戦でもありました 笑)。あえて難しい課題を自分たちに課し、文字通り試行錯誤した3組のチームが3ヶ月後に見たものとは。ジャンルを問わず、生き方にも示唆を与えてくれる、彼らの気づきをご覧ください。
学生目線から描かれる「京都」をテーマに様々な価値を発信していくフリーマガジン制作団体、FASTNER.(ファスナー)。設立から10周年を迎え、新たな挑戦としてクラウドファンディングを実施し、目標金額を超える45万円の資金調達に成功しました。その資金を活用して、特別な返礼マガジンとして、「今までに見たことのない学生フリーペーパーを作る」という目標を掲げた彼ら。
しかしいきなり「今まで見たことのないフリーペーパーって一体なんだ?」という壁にぶつかります。そんな折、FabCafe Kyotoを運営するロフトワークのクリエイティブディレクターで、ANTENNAというウェブマガジンの元編集長の堤とディスカッションし、「学生には時間がある」ということが、社会人にできない特徴であり武器になるという気づきを得てコンセプトを一新。なんと、素材となる紙から手作りし、相手に合わせてコンテンツを変えるという、まるで手紙のような雑誌をクラウドファンディングの出資者に向けて作ることに。通常、雑誌は印刷所で一気に印刷されてしまうので、個人から個人への想いを反映させるという、新しいチャレンジでした。
チームメンバーとのディスカッションを、堤はこう振り返ります。
「最初、彼らはスゴロクのようなマガジンにするって話してたんですよ。なんで?って聞いたら、わからないです!って返ってきたので、大丈夫か!って思ったのを覚えています(笑)。でも、最終的にできたマガジン、すごくいいですね。内容も、学生が京都という地を見て感じたことを写真と言葉で綴られているのが、言葉が断片的だったりして、でも逆にそういうのが作ったメンバーの考えていることやリアルな生活の様子が見えてくる感じがします。」
日頃は、FASTNER.メンバーだけで活動している彼ら。オープンな場所で活動することで、自分たちを見直す機会になったそうです。たとえば、「なんですごろくなの?」とか「FASTNER.ってどういう団体なの?」という質問がされたり、それまで、大切なことだとは思いつつ、難しいから遠ざけていた質問が飛んできた、と笑うのは統括を務めていた池西さん。「第2期メンバーの交流会で、コンセプトが決まらず悩みを打ち明けた際、現代都市遍歴チームの鉄馬さんに『学生らしい学生らしいって、その言葉自体が大人に馬鹿にされた言葉じゃない?馬鹿に仕返してやりなよ!』って言われたのがすごく印象的だったんですよね」と付け加えました。
「大人は牛乳パックを集めて雑誌をつくるのか?って思ったときに、きっとやらない。それは、学生だからできたことでもあり、同時にそれは大人に劣っているということではない、と感じることができた。」と、真っ直ぐの目で言い切るリーダーの近藤さんの言葉に、胸が熱くなるのでした。
彼らの活動は、まるで修行のような思考実験でした。
劇団トム論の演出を担当する葛川さんは、「面白いもの=観客にウケるものを作らなければいけない」ということに縛られているう課題感があったのだそう。同時に、「何が演劇で何が演劇でないのか」というのも実験してみたかったのだそうです。劇場ではないFabCafeというオープンな場だからこそできる実験です。
今回公演した作品は、プロジェクト名にもなっている「“The Students”」という作品。すでに2020年に無観客の京都劇場で上演・撮影した映像を配信、第2回目は、2021年2月、横浜にて無観客無配信公演した作品ですが、3回目の公演として、FabCafe Kyotoで2021年3月16日、17日の2日間にわたって初めて「観客」の目の前で公演を行いました。設定としては、3人の学生たちがゼミのような議論をアドリブを入れながら展開していくというもので、通常のカフェ営業中に自然と会話劇が始まり、いつの間にか終わっているといった感じで、公演を知らなければ、まさか隣で会話している人たちが演劇をしているとは気づかないほど。
この作品を通して彼らがチャレンジしたのは、「面白い=ウケる」ことからの解放と、演劇とそうでないものの中間を探るという実験でした。だから、筋書き通りに進めて作品としてわかりやすく面白く収めるということをあえてせず、俳優自身が話を脱線させて脚本を変えていっても良い、というルールにしたのだそう。実際に公演を見ると、俳優たちは声を張るわけでもなく、目立つような話題を意識的に入れて周囲のお客さんの意識を集めるわけでもありません。そこで気になるのは、そもそも演出家や俳優たちはそれで楽しいのか?ということ。
「空間を支配したいという欲求があることに気付きました。俳優たちの演技はもちろん、空間のライトやレイアウト、お客さんの態度まで」と話す葛川さん。俳優の岡田さんも「サービスしたい、大声出したい、と思っていました」と。それまでの定型や呪縛から離れるために、自分たちが喜びや快感を感じることからも1回離れるとは、まるで修行です!(笑)
公演を見たある人がこんな感想を話していました。「普段私は現代美術が好きなんです。なぜなら、そこには絶対的な答えはなくて、作品と鑑賞者が互いに呼応し合う余白があるから。でもトム論さんの公演を見て、演劇でもそういう関係性を作ることができるんだ、という発見がありました」
実際、私も公演を見ながら、雑談をしたり、ビールを飲んだり、役者や演出家の意図など素朴に疑問に感じたことを周囲の人と話したり、自由に作品を観賞していました。劇場では静かにしなければいけないので、「ついていけない」と思ったら心を閉ざすか眠るしかなかった過去の経験とは違い、自由に議論しながら観賞できたことは新しい経験でしたし、演者と鑑賞者がフラットな立場にいることを許されているような、居心地の良い感覚がありました。
「内容が面白いと見入ってしまうから、ほどほどに飽きさせないといけないんですよね。飽きないとお客さんは自由にならないと思っているんです。今回も、いい具合に飽きてもらう試行だったんですよ」と葛川さん。なるほど。
演劇の境界を探るトム論の活動。今後もどんな実験が行われていくのか、楽しみです。
「台湾に借りている物件があるんですが、コロナで行けなくなり、日本の大卒初任給くらいの家賃だけ払いつづけて、京都では家賃3万円で暮らしているんです。そんな状況にある自分を見て、所有って一体なんなんだと思ったのが元々のモチベーションでした」と話すのは、リーダーの鈴木さん。
そこで鈴木さんは、引っ越して間もない京都で人づてにコンセプトに共感する仲間を集め、現代都市遍歴2020のチームを結成。場所や時間を決めず、京都の街の中を無計画に集まりながら、新しいつながりやプロジェクト、あるいは仕事を作っていくことができないかチャレンジしたそうです。通常、仕事やプロジェクトを作っていくためには、計画や決めることは大事なはず。一体どういうことなのか。
「鈴木さんはなんでもかんでも飲み会に繋げるんですよ(笑)。でもそういうスタイルで彼はこれまでもたくさんのプロジェクトや面白いことを生み出してきている。飲み会って中心がなくて点在しているんですよね。脱中心性が大事なのでは?と思ったんです」と話すのはデザイン担当の鉄馬さん。
すると突然、鈴木さんが「実はみなさんにお願いがありまして。ちょっとみなさん外に出ていただけませんか?できるだけ話したことのない人と3人くらいで雑談して、数分したら戻ってきてください」と、COUNTER Sessionで集まったメンバーに号令をかけました。言われるがまま外に出て雑談をして戻ってくると、布が広げられていて、その中の小さな枠の中に、雑談の中で面白いと思ったことを自由に書く、というワークでした。目的を決めず、まだ決まった関係性がない間柄だからこそ話せることや、ただの雑談だからこそ生まれるものがあるということでしょうか。
3ヶ月を通して、そもそもこのプロジェクトのために集まった4人のメンバーの中からもさまざまな仕事やプロジェクトが生まれたのだそう。観光案内所だったり、場づくりのお仕事だったり。それらも、飲み会を中心にした緩いつながりだからこそ生まれたのでしょうか。
「仕事って仲良くなるツールなんですよね」と話す鈴木さん。そうか、仕事をしようと思って仲間を作るのではなくて、仲良くなるために、店舗や仕事、プロジェクトといったものを利用しているのですね。そうすると鈴木さんのように、プロジェクトや仕事は自然と生まれていくのかもしれません。そもそも仕事やプロジェクトってなんのためにあるのでしょう。「何かを成し遂げる」みたいなことだって、幸せに生きるための手段でしかないですよね。意気込まない、世の中に何かしら評価されやすそうなアウトプットやルールに流されてはいけないな、と思わされる一言でした。
正直なところ、非計画をテーマにした方々に対して、プロジェクトを進めていくための計画を一緒に作ってサポートしていくことがどういうことなのか、事務局としても心底悩んだ、現代都市遍歴2020の活動でしたが(笑)、COUNTER POINTのあり方にも、生き方にもたくさんの気づきをくれた活動でした。
始めにも話しましたが、分かり難いものや、実態のないもの、自分の欲求に逆らうものに向き合うのは、辛いです。しかし、ルーティーンや定型に流されていてはいけない、という漠然とした危機感や好奇心も、多くの人が持っているものではないでしょうか。普段の仕事や活動の中では、そうした結果の見えないものは後回しになりやすいもの。そんなテーマこそ、COUNTER POINTで取り組んでほしいなと思います。
まだ(そしてきっと)答えのない疑問や好奇心に、ポジティブに向き合い、さまざまな方法で試行錯誤し、気づきや学び、仲間を作る場所として、引き続きFabCafe KyotoのCOUNTER POINTを活用してもらえたら嬉しいです。
FabCafe Kyotoを使って活動したいプロジェクトのための3ヶ月限定レジデンスプログラム、COUNTER POINT。第4期メンバー応募の締め切りは4月5日(月)。ずっと取り組んでみたかった活動や、仕事外の時間を使ってチャレンジしてみたいネタがある方は、ぜひご応募ください。
入居日の最終日は、成果発表会(COUNTER Session)を開催します。
COUNTER POINTについて:https://fabcafe.com/jp/labs/kyoto/counterpoint
応募フォーム:https://bit.ly/3kHnbww
お問合せ先:counterpoint@loftwork.com (服部、浦野)
※ 応募に向けての相談・壁打ちも気軽にご連絡ください。
第4期 入居期間:2021年5月7日(金)-8月6日(金)(応募締め切り:4月5日)
第5期 入居期間:2021年7月21日(水)-10月22日(金)(応募締め切り:6月21日)
第6期 入居期間:2021年10月8日(金)-1月14日(金)(応募締め切り:9月6日)
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浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。