Event report
2020.8.14
日本という島国ほど、海と密接な関係を築き上げてきた国は、世界の中でも多くありません。海の恵みを祝うために「海の日」という国の祝日を設けていることからも、その文化的な関係の深さがうかがえます。その2020年海の日。FabCafe Tokyoは、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」をテーマにした、デザインハッカソンSave Our Seas Mini Jamを実施しました。
そのハッカソン実施の前日、オンライントークイベントを併せて開催しました。「海洋汚染の削減」と「持続可能な漁業」という2つのテーマの元、国内外から8人のゲストスピーカーを迎え行われた本トークイベントには、100人以上が参加をし、白熱した議論が展開されました。
この記事は、イベント内で議論された重要なポイントをまとめたレポートです。
イントロセッション
イベントのテーマである「海の豊かさを守ろう」というSDGsのゴールについて、彼女自身のモルディブでの経験も交えながら、国連開発計画(UNDP)の大阿久裕子氏に説明いただくところから、トークイベントがスタート。
大阿久氏に続き登壇したのは、国連大学サステイナビリティ高等研究所の研究員であるイヴォーン・ユー博士。2050年には海洋中の魚とプラスチックの廃棄物の比率が1:1になる、といったような具体的なシナリオを紹介しながら、今直面している課題提起をしました。ユー博士はこれらの課題の解決の鍵として、私たち自身の消費行動見直すことが必要だと主張しましたが、この「消費行動の影響力」には、続くトークセッションで繰り返し議題にあがりました。
セッション①: 海洋汚染の削減
スピーカー:
・ジェリー・デ・ヴォス、プロダクトデザイナー、プレシャスプラスティック (オランダ)
・ティン・フェン・ホー, 主導者 サステイナブルデザイングループ 台湾プラスチック産業開発センター (台湾)
・ロビン・ルイス, 共同創設者, mymizu (日本)
初めのセッションでは、プラスチックの廃棄物を減らすことに挑む社会起業家の3名を招いたクロストークを行いました。ジェリー・デ・ヴォス氏は、プレシャスプラスティックという活動を通じて、プラスチックリサイクルを一般の人にも身近に感じてもらえるようなプロダクトデザインやその技術開発を行っています。ティン・フェン・ホー氏は、台湾の製造会社と協力をして、魚網や農業用発泡スチロール、海岸へ打ち上げられたプラスチックゴミから製造できるプロダクトの開発を行っています。そしてロビン・ルイス氏は、日本初給水アプリmymizuの共同設立者であり、使い捨てのペットボトルの消費量を減らすことをミッションに持続可能なライフスタイルを提唱するサービスに取り組んでいます。
立ち上げ当初の壁:
ロビン氏: mymizuをリリースした時、 「水をもらいにカフェに入るのを遠慮するから、日本でこのサービスはうまくいかない。」と言われました。また、プラスチックゴミが最終的にどうなるのか。日本のプラスチックのリサイクル率は85%ですが、リサイクル可能なプラスチックが焼却処理されていたり、輸出されたりというような事実もありますが、こういった事をほとんどの人はそもそも認知していません。
ジェリー氏:「趣味の延長だね。」と僕たちのプロジェクトを揶揄する人たち、その先入観の壁に、立ち上げ当初かなりぶつかりました。彼らの指摘は「無料で色々と提供し過ぎだけど、ビジネスモデルは?」というところに帰着すると思うのですが、そもそも私たちの目的というのは、「お金を稼ぐこと」ではありません。それよりも「より多くのプラスチックをリサイクルすること」であり、それを根本的に相手に理解してもらうことが大事なのだと思いました。なので、例えば他の誰かが私たちのアイデアを真似したり、盗んだりしたとしても、むしろそれは嬉しいことだと思っています。
「持続可能だから」という謳い文句だけでは、人は動かない:
ティン氏:「サステナブルです!」という理由だけで、顧客に商品を買ってもらうことはできません。美的センスの良いものにしたり、ストーリー性を持たせたりして、買ってくれた人が大切にしてくれるモノを作る、つまりは、製品に付加価値をつけることが鍵になるのだと思います。
ロビン氏: 大切なのはPush(押す)ではなく、Pull(引く)だと思っています。私たちが扱ってるプラスチックゴミ問題自体は危機的な状態にありますが、楽しそうな取り組みであるとか、魅力的な取り組みであるとか、ポジティブで楽しいメッセージを発信していくことが、前進のための原動力になると思うのです。日本では、行政レベルで多くの取り組みが動いています。レジ袋有料化などもその一つで、それは小さな一歩ではありますが、一つの確かな変化なのだと思います。
都市との連携は大きな力となる:
ロビン氏: 大変光栄なことに現在神戸市と協力しながら、今大きく二つの問題を解決に取り組んでいます。一つは「脱水対策」、もう一つは「プラスチック廃棄」です。神戸市は知識とネットワーク、そして何よりも地元の人々から信頼を抱えています。彼らのサポートのおかげで、プロジェクトが10倍スムーズにいくようになり、本当に良い経験になっています。
ジェリー氏: ローカルな視点から人々が自分で解決策を見つけるボトムアップのアプローチを理想としている一方、それを市全体で実現することで活動にドライブが効くという一面もあります。プラスチックのリサイクルプロセスをより良いものにするための多くの可能性を、自治体との協働を通じて、開くことができると思っています。
小さなことから始めていくことで大きな変化につながる:
ロビン氏: 私たちがまずは水の取り組みをしているのは、誰しも生きていくためには水が必要だからです。これは始まりに過ぎず、社会の中で持続可能なライフスタイルの実現を私たちはこれからの目標にしています。
ティン氏: 台湾のクライアントとは、ほとんど単発のプロジェクトとして動いています。人々からの賛同を得るという意味で、まず市場に受け入れられるということを第一のステップとして考えています。経済的な成功が、継続的な成長には必要だと思っています。
まとめ
今回登壇いただいた3名のスピーカーは、プラスチックを海洋環境から排除するという目的に、消費者の行動を変えることで立ち向かっています。立ち上げの中で、それぞれの困難に直面しましたが、戦略をたて、それぞれのクライアントである人々と利害を一致させることで進歩を遂げていきました。このような彼らの活動のさらなる成功と発展が楽しみです。
セッション②:海洋資源の持続的な利用について
スピーカー:
・(ファシリテーター)菊池 紳氏 いきものCo./たべものCo.代表
・長谷川琢也氏,一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン事務局長
・鈴木智博氏, 株式会社鈴廣蒲鉾本店 常務取締役 企画チーム本部長
・リチャード・エケベス氏, 総料理長 ザ・ランドマークマンダリンオリエンタル香港
次のセッションのテーマは海洋資源の持続的な利用について。 いきものCo./たべものCo.代表 の菊池 紳氏をメインファシリテーターにお招きし、多様なバックグラウンドの実践者にお集まりいただきました。石巻を中心に漁業文化普及を試みるフィッシャーマン・ジャパン、長谷川琢也氏と、魚介類の加工品「かまぼこ」を製造している鈴廣蒲鉾から鈴木智博氏、そして、また持続可能な水産物の調達で賞を受賞しているザ・ランドマークマンダリンオリエンタル香港のリチャード・エケベス氏の3名に登壇いただきました。
日本で魚介類の消費は減っているが、香港では:
長谷川氏:日本での魚介類の消費量というのは、今減少傾向にあります。後片付けが大変だからという理由で、家庭で魚を調理する日本人は減ってきているし、そもそもの魚の調理方法の知識やリテラシーは低下しているというのが、今私たちが直面している現状です。
エケベス氏:香港での魚介類の消費量というのは増加しています。きちんと安全に養殖された魚や、持続可能な方法で魚を捕食することに焦点を当てる必要がありますが、それだけではなく、食文化として、タンパク質を含む野菜の消費を促進することが大切だと思います。香港は魚介類も肉類を始め、タンパク質を食べることを非常に好む食文化です。ただ、これは非常に非・サステナブルなモデルなんです。もし世界中の人が、香港の食文化のようにタンパク質を摂取するとしたら、地球は、あと2つは必要になってしまうでしょう。
食べ物を粗末にしない暮らし方:
鈴木氏:我々の会社はかまぼこを作っています。かまぼこ(すり身)は約900年の歴史を持っていますが、元々は乱獲された魚を消費するためにの技術でもあります。自社で研究室も構えているのですが、消費者に人気のない魚を使って新製品を作る方法を模索したりもしています。魚の骨から陶器を作るようなプロジェクトもしています。
長谷川氏: 例えば、丑の日に鰻を食べるといった食文化がありますが、あれは元々平賀源内が、夏に売れなくて余ってしまう鰻を売るために始めたと言われています。ある種のお祭りというか、マーケティングキャンペーンであったのだと思いますけど、こういう食文化も存在しています。
それぞれ必要な量だけを獲ること:
長谷川氏: 漁業が生活に直結している日本の漁師は様々な形で、資源管理の工夫であったり実践をしてきています。
エケベス氏:料理人というステークホルダーは、消費者の行動に影響を与えることができると思っています。お客さんは黒まぐろや鰻のような食材に期待をしているので簡単ではないのですが、それでも私たち提供者には倫理的な責任があると思います。資源は限られています。
日本では、持続可能性は継続性として認識されているが、他の地域では、持続可能性はビジネスの競争力の源泉となり得る:
鈴木氏:「蒲鉾は900年前から技術として存在しています。私は家業である鈴廣蒲鉾の11代目として、この文化をどうやって次の世代に伝えていくかが最大の課題だと感じています。
長谷川氏:日本の「もったいない文化。」それは日本の限られた資源の中でいかにそれを最大限生かすかということですが、しっかりと次の世代に伝えていく必要があると思っています。テクノロジーを活用しながらできることも増えていく中で、日本以外の国にも広めていきたいと思っています。
エケベス氏:「持続可能な水産業というのは、持続可能な産業を作るためのほんの一部に過ぎません。非常に動きが速いこの分野で、より優れた実践者になるためにどうすればいいのかを常に考える必要があります。私たちの日々の原動力となっているのは、第一人者であること。地球への影響を限りなく抑えるための決断をするために、常に最前線にいることを目指していきます。
まとめ
漁師コミュニティの主導者、歴史ある日本の企業、受賞歴のあるシェフ。それぞれのコミュニティで海洋汚染に取り組んできた、それぞれのステークホルダーが経験を共有するという類を見ない意見交換会となりました。水産物やその他の海洋製品の持続可能な生産のために、自由なサプライチェーンの必要性に一石を投げ、次の日のハッカソンへのバトンをつなぎました。
FabCafeはこれまで以上にオンラインプラットフォームを活用し、今日の私たちの社会における重要な課題を議論する機会を提供し、多様な声を結びつけようとしています。これは、FabCafeの哲学でもある、”What do you fab? “(あなたの作りたいものは、なんですか?)という問いに、より多様な視点を取り入れながら、答えるための取り組みです。今後のイベントにご期待ください。
企画:FabCafe
協力:UNDP, Digital Society School, the Global Goals Jam community, Bridge Terminal
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FabCafe編集部
FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。
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