Interview

2020.9.12

森と畑と暮らしの共生を願う。ソヤ畦畑・森本恵美さんが考える今とこれから

伊藤 優子

FabCafe Hida/Hidakuma 森のコミュニケーター

こんにちは。FabCafe Hidacafeと宿泊を担当している優子です。本サイトでは、いつもカフェに立つスタッフが訪ねた、飛騨や飛騨にゆかりのある地で活躍されている人々を紹介しています。その人の魅力や暮らし方、自然との関わり方を発信し、読者のみなさまに新たな出会いや交流のきっかけをつくりたいーー。そんな想いからはじまったシリーズ企画です。
今回フォーカスするのは、飛騨古川の畦畑(うねはた)という地域で、肥料や農薬を一切使わずに野菜を育てる「自然栽培」を実践しているソヤ畦畑さん。FabCafe Hidaでもカフェのメニューに美味しいお野菜を使わせていただいたり、マルシェをしたりとこれまで交流を持たせてもらっています。そんなソヤさんにインタビューをお願いしたところ、クロモジを使った蒸留水の製造など、より畑と森と暮らしの関わりを伝えていく為の活動を奥様の恵美さんが今年から始めたということで、お話をお伺いしました。

  • FabCafe Hidaで開催したソヤ畦畑さんの「小さなマルシェ」野菜やエディブルフラワーなどを販売

  • 7月のご褒美ランチにはソヤさんのズッキーニが主役のスパイスカレーを提供

ソヤ畦畑

古川町畦畑にて、農薬や肥料を一切使わず、飛騨の豊かな風土を活かした自然の営みに沿った農法で、ズッキーニをはじめとする季節の野菜や飛騨在来の豆類など、合わせて約50品目ほど栽培。いのちの巡りに想いを馳せ、みのりの頃に種を採り、また翌年へと繋いでいます。
https://soyaunehata.stores.jp/


森本恵美|Emi Morimoto

静岡県浜松市生まれ。2013年から2年半、飛騨古川出身の旦那さんとともに、岐阜県郡上市の石徹白で自然栽培の研修を受ける。2016年の冬、飛騨に移住。2017年の春から農園を始める。畑に立ちながら、出荷作業全般、事務、経理、商品の開発、デザイン製作、SNSの発信、ネットshopの運営も担当。小学3年生と年中のお子さんの子育てにも奮闘中。

その土地の力だけで作り、食べていくということ

ーーーソヤさんが自然栽培を実践されることとなったきっかけは何ですか?

恵美さん:東日本大震災の時、家族で浜松にいたんですけど、結婚したばかりでお腹に長男がいました。多少揺れただけで被害は幸い大きくなかったのですが、近くに浜岡原発があるので、これからは何が起こってもおかしくない時代に突入したのだと感じました。生活を見直すきっかけとなり、「自分たちで食べるものを作ることができれば、万が一何か起きた時どうにか生きのびることができる」「まずは自分たちが食べるものを、自分たちの手で作れるようになりたい」と思いました。

自然栽培は、肥料も農薬も一切入れずその土地の力だけで野菜を栽培するのですが、外から持ち込む何か(肥料など)に頼る栽培法だと流通がストップした場合、持続できなくなってしまう。その土地を観察しながら環境を見る目を養っていけば、どの土地にいても何かしらは作れるようになる。そういう原始時代に戻るような自分たちの能動的な感覚が、これからより大事になるんじゃないかと思い、それが自然栽培を始めたきっかけでした。

人為的なもので自分たちが味を作るというより、その土地を活かし、野菜たちがのびのびと生きやすい環境になるよう整え、必要な手をかける。生を全うして一番生き生きしている、生命エネルギーが高まった状態=ストレスがなく健康的で美味しい野菜なのではないかと思っています。


ーーー土地の持つパワーにすごく左右されるんですね。


恵美さん
:そうですね。数メートル離れるだけでも全然、土質とか水はけが違います。戦後、国民が食べるものに困らないようにするための「食糧管理法」という法律ができ、飛騨のような山間地も積極的に稲作をするようになりました。人々の暮らしがある程度豊かになったことから法律は廃止になりました。近代社会で年々農家も減っていき、今では田んぼばかりが空いている状態になっています。かつて田んぼだった所を畑として使うには難しいことも多く、作土も浅いので、果菜類にとっては根が張りずらく、うまく育たないこともあります。圃場(ほじょう)の状態(土質、水はけなど)を見ながら、その場所に適していそうな作物を植えるようにしています。

ーーーご自身の思いを具現化して生きてるってすごいです。


恵美さん
:何でこんなことやってるんだろうって毎日思ったりしますよ。笑
自然栽培では野菜の収穫量がおのずと減り経済的にも生活が苦しいし、まだまだすごくマイノリティ。海外はもっと進んでいますが、日本ではオーガニック、有機栽培と言われる農家さんでも、日本の農業人口の1%未満。自然栽培となると、さらに少ない。社会の中で少しずつ需要が増えたり、「無肥料・無農薬の自然栽培」を知ってもらう機会が増えたりしていけば、もうちょっと認知されていくのかもしれないけど、そこまではいってません・・・。

 

郷に従い自分たちのカタチをみつける

ーーーソヤさんのお野菜といえば種類も豊富なズッキーニだと思いますが、他にこだわっている作物はありますか?

 

恵美さん:農薬や肥料がなかった時代、飛騨ではどのようなものが栽培されていたのか調べてみると、豆やミョウガ、カブ類などの作物でした。何もなかった時代の人たちが、なぜそれらの作物を作っていたかっていうと、その土地に合っていたからだと思うんです。海なし県って、どうしてもたんぱく源が取れない。だからそのころは一生懸命、豆を作っていたんじゃないかって思いますね。豆を作って保存して一年を通してたんぱく源にしてた。飛騨って豆腐屋さんが今でも多いんです。ソヤの名称も「SOYA=豆」という意味から取っているます。だから私たちも昔から飛騨で栽培されてきた在来の豆をはじめ、飛騨の風土に合っているであろう豆類を積極的に栽培していきたいなと思っています。

飛騨の在来豆「あきしまささげ」

畑だけで完結しない。周りの環境と、すべて繋がっていることを伝える術

ーーークロモジの蒸留を始めたきっかけを教えてください。

恵美さん:畑を潤すのは、雨と近くの山から流れてくるミネラル豊富な地下水です。飛騨畦畑の自然環境は全て密接に繋がっていて、切り離すことができない。畑だけで完結しないんだということが分かるので、山も森も全部、自分たちの畑の一部だと思ってやっています。
飛騨は多様な薬草がたくさん自生しているので、そんな豊かな森の一部をご紹介できたらいいなと思い、飛騨の人には昔から活用されてきた親しみのある植物のクロモジの蒸留を始めました。

自然の循環の仕組み、変化を感じる

飛騨の森にある香木・クロモジ

恵美さん:季節によって香りも成分も違うんですよ。葉っぱに含まれている成分と、枝や幹もそれぞれ違いますし、蒸留水と精油に含まれる成分も違います。葉っぱがある時期とない時期、花が咲いている時期いない時期でも香りが異なるので、いつも同じ状態のものをお届けするというよりは、季節とともに移ろうクロモジの変化、一年を通した畦畑の豊かな自然環境を感じてもらえたらと思っています。


ーーー最初から「畑に行く」とか「森に行く」っていうとハードルが高い人がいるかもしれませんが、蒸留水のような入り口があると、入りやすいですね。


恵美さん
:そうですね。それはすごく意識していて、間口をできるだけ広くしたいと思っています。特定の人ばかりというより、いろんな人に知ってもらう為にも、飛騨の特色や魅力、畦畑のように自然豊かな土地だからこそ、自然栽培で野菜が育つということをお届けできれば、野菜だけでなく、森や薬草に興味がある人が、繋がりを発見して広がっていくのではないかと思います。

持続可能な暮らしをして行く為

ーーー人と自然との関係について、未来がこうあったらいいなと思うことを教えてください。


恵美さん
:畑をしていて、一番大事にしていることは、自然と一緒に人も共生していくこと。地球規模で見たら人間も植物も小さなひとつの細胞です。気候変動をはじめ、環境にまつわるいろいろなことが問題になっていますけど、私たちは地球を助けるとか自然環境を守るという想いでやっていなくて、私たちも地球の一部だから、これ以上負荷をかけたくないですよね。

畑にいると、クマとかカモシカが近くで歩いてたり、山に入れば、見たこともない植物もたくさん自生していて、枯れたものが土を作り、自然のサイクルで回り、人間だけが特別じゃないことを教えてくれます。自然界は本当に完璧なバランスで全てが存在しているので、畑を耕すことによって、そこに存在している生き物や微生物たちが作り出した世界を壊してしまう。人間が生きていくためには畑を耕して作物を作らなくてはいけないので、自然に対しての敬意を持ちながら、自分たちも共生していきたいと思います。

元々は全部山から始まってるから、山をいかに綺麗に保てているかが大切です。手入れして荒れてしまわないようにすれば、きっとそこの集落も潤っていると思います。水が集落から海に流れて、それがまた雨になって山に戻ってくるというサイクルは変わりません。山と畑は繋がっているから、私たちも自分たちがやってる所だけは、山をちゃんと見て森の中に入り、生態系がどうなっているかを観察しています。クロモジの採集をするのは、そのためでもあるんです。

 

いろんな選択の中でバランスを取っていく

恵美さん:農業資材や技術が進化して、こうして何不自由なく食べられるようになったのは、これまでの先人たちの知恵や頑張りの証だと思うので、農薬を使っているから全然ダメとかそういうことではなくて、それもひとつだと思います。プラスティックの容器や袋もなるべく使わないよう心掛けていますが、遠方のお客様へ発送する場合、収穫してから野菜の鮮度を落とさずにお届けする為には、今のところ必要です。良いバランスを保って、地球が存続していくように、私たちの子どもが大人になるころには「石油を使わないもの」など、代替の技術もどんどん進化していくような未来になったらいいなと思います。

ーーー今日はありがとうございました。

        クロモジの蒸留水

写真提供:ソヤ畦畑   

あとがき「ソヤ畦畑さんの生きた言葉の種まき」

野菜を食べた私たちが知っている「おいしい」の向こう側には、一生懸命その野菜を作る農家さんがいるだけではなく、その土地だけにある力があることを知りました。なぜ、自然を大事にしないといけないのか?なぜオーガニックが良いのか?簡単なことですが、考えるまでに至りません。“何かおしゃれで良い気がする” そんな軽い好奇心。見た目や味だけで判断することも悪いことではありません。それもひとつです。私もそのひとりでした。
でもこれから、その奥に隠れている事実や理由に対して疑問を持ち、知っていくという行為をひとつ加えて、日常の買い物や食べるものの選択することをしていけたらと恵美さんの話を聞いて思いました。自分自身と向き合った時に、本当に欲しているものは何だろうーー。このコロナ禍で向き合った人も少なくないのではないでしょうか?畑を耕すことで自分たちの伝えていくカタチをみつけた恵美さんの言葉。それは構えなくても、きっとすんなりカラダに入っていくんだろうと感じました。暮らしのヒントに、きっと大事なことが見えてくる。今居る場所をもっと好きになる、より生きることが豊かになると信じて、私はこのソヤさん、恵美さんの言葉たちがより多くの方の心に種まくように届けばいいなと思うのです。

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  • 伊藤 優子

    FabCafe Hida/Hidakuma 森のコミュニケーター

    1986年生まれ。東濃ヒノキの産地・加子母出身。インテリア科の高校・専門学校卒業後、下呂温泉の仲居として9年間働く。2017年にFabCafe Hidaにジョインし、飛騨のまちで永く愛されるお店づくりをモットーに、cafeでのメニュー開発やイベント企画運営・宿泊を担当。定番メニューのカヌレなどを考案。地元の針葉樹の森と飛騨の広葉樹の森を繋げる架け橋になるのが夢。朝が好き。

    1986年生まれ。東濃ヒノキの産地・加子母出身。インテリア科の高校・専門学校卒業後、下呂温泉の仲居として9年間働く。2017年にFabCafe Hidaにジョインし、飛騨のまちで永く愛されるお店づくりをモットーに、cafeでのメニュー開発やイベント企画運営・宿泊を担当。定番メニューのカヌレなどを考案。地元の針葉樹の森と飛騨の広葉樹の森を繋げる架け橋になるのが夢。朝が好き。

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