Event report

2025.5.20

クアラルンプールの人々と、海藻料理を実験したら? 海外サービス展開の相談なら、FabCafeへ!

FabCafe編集部

Kuala Lumpur

多民族国家であり、経済成長を続ける東南アジアの要所・マレーシア。日本企業の進出も活発で、特に飲食やライフスタイル領域では、現地の多様な食文化や感性とどう接続するかが鍵となります。

そんなマレーシアの首都、クアラルンプールに、FabCafe Kuala Lumpur (以下、FabCafe KL)は2016年にオープンし、2024年10月に移転と再オープンしました。今回、そのリニューアルの節目にあわせて行ったのが、海藻の食文化を残すため、研究から生産までの技術確立を目指すほか、新しい海藻食文化をつくるため料理開発や提案を続けているスタートアップ「SEA VEGETABLE(シーベジタブル)」との共創ワークショップです。

ローカルの料理人や生活者と共に“食べるサステナビリティ”を考えるプロセスとして設計された今回の取り組み(Seaweed Salon)は、FabCafeネットワークの海外拠点がどのように活用できるのかを探る実験でもありました。現在、FabCafeは世界13の拠点に広がっており、それぞれの土地に根ざしたローカルパートナーや文化、課題があります。今回の取り組みは、FabCafeのネットワークが持つ「問いを育てる装置」としての価値をさらに広げるものと考えています。そのプロセスと成果を、皆さんにお届けします。

FabCafe KLについて

FabCafe KLの拠点が位置するエリアには5つの大学やメーカー、デザイナー、起業家などが集まり、活気と創造性が交錯する場となっています。FabCafe KLは、こうした環境を活かし、クリエイター、イノベーター、そして地域コミュニティが集う拠点として設計されています。最先端のテクノロジー、芸術的なインスピレーション、カスタマイズ可能なリテールゾーンが融合し、ダイナミックで実験的な空間を提供しています。

東南アジア市場の中でも、マレーシアは日本ブランドにとって注目の的です。多民族国家でありながらも英語対応が進んでいることから、テストマーケットや小規模展開の足場として有望視されています。実際、飲食チェーンをはじめとする日本ブランドの進出事例も多く、文化的背景の異なる顧客にどう受け入れられるかを測るには適した環境です。

とはいえ、ただ製品を“出す”だけでは、現地の生活文脈に入り込むことはなかなか難しいのも事実です。むしろ今、求められているのは、現地の人々との接点を持ち、共創しながら展開を考えていく姿勢——つまり「一緒に作る」ことによる市場理解の深まりではないでしょうか。

今回のワークショップは、そんな共創の可能性を具体的に試す場として企画しました。きっかけは、ロフトワークとFabCafeが主催するサーキュラー・デザインのアワード、crQlr Awards 2023での出会いです。シーベジタブルはこのアワードに応募し、特別賞を受賞。その受賞を通じて関係性が深まり、移転を控えていたFabCafe KLのイベント出展を打診するに至りました。

展示という形式もあり得ましたが、今回は「一緒に何かを作る」ことを軸に据え、海藻を使ったローカルレシピを考えるというテーマのワークショップを設計しました。ここで重要だったのは、現地の人気飲食ブランドであるmyBurgerLabや、地域のインフルエンサーコミュニティを巻き込むことができた点です。それは、FabCafe KLがこれまで培ってきたネットワークと信頼関係によって実現したものであり、ロフトワークが展開する国際的なクリエイティブアセットの一端とも言えます。

当日は、まずシーベジタブルから海藻の環境的背景や食材としての特徴、myBurgerLabからはうま味やMSGとの関係といった観点で、講義形式のインプットが行われました。その後、7種類の日本の伝統的な海藻のテイスティングを実施し、参加者はそれぞれの風味や食感を体験しました。

その体験をもとに、グループに分かれてレシピを考えるワークショップを実施。考案したアイデアを全体で発表・共有し、最後には投票によって注目レシピを選出しました。締めくくりには、シーベジタブルとmyBurgerLabによるデモレシピの試食と感想の共有が行われ、素材と文化が交差する体験として場が一体化していきました。完成品の味だけでなく、調理の途中に交わされる会話や、手触り、香り、そして「この素材ならこんな料理にできそう」といった感覚的な気づきが自然に生まれる場となりました。

このような共創のプロセスを通じて、現地の生活者・クリエイターと一緒に“食べながら考える”という方法が、素材の魅力を伝える以上に、文脈や共感を育む場になる可能性が見えてきました。

 

FabCafe KLで実施した今回のワークショップは、プロダクトやブランドを“紹介”することに主眼を置いたものではありません。むしろ、生活者や料理人との対話の中で得られる「現地での受け取られ方」や「文化的な違和感」——つまり、インサイトの種を見つけることにこそ、大きな意味があると考えています。

現地のフードクリエイターやインフルエンサーとつながることは、販路や流通の機会としての可能性を秘めています。しかし、それ以上に重要なのは、彼らが日々接しているローカルの価値観やトレンド、調理や味覚の文脈を通じて、新しい視点や問いが生まれることです。

今回のようなつくって・食べて・話すというシンプルな構造の中で、それぞれが持ち寄る経験や感性が交差し、思いがけない発見や再定義が起こる。そのプロセスこそが、私たちがFabCafeを海外で展開する際の核となるアプローチだと感じました。

この取り組みに参加したシーベジタブルのシェフ・塚本みなみさんの声

海藻という素材が単なる食材にとどまらず、サステナビリティや環境意識と結びついた文脈で現地に受け止められていることを実感したと語っています。「マレーシアで海藻といえば、ワカメと、海苔が主流でした。アガーアガーという、ゼリーを作る粉も普段から皆さん使っている様子でした。青のりが特に人気でしたが、他の海藻への関心も強かったです。」「美味しいという視点ももちろんありましたが、海の環境への関心もとても強く、良いものを食べて海への貢献!といった文脈で興味を持ってくださる方も多かったです。」

FabCafeは、イベントスペースでもカフェでもなく、共創のためのプラットフォームです。そこで得られるのは、すぐに売上に結びつく成果ではないかもしれません。しかし、現地の文化や人とのあいだに関係性の種が蒔かれ、それがやがて市場を開く基盤になる——そんな可能性を、この場で強く実感しました。

今回は、FabCafe KLの事例をご紹介しましたが、私たちが改めて実感したのは、FabCafeというネットワークの応用力です。

現在、FabCafeは世界13拠点に広がっており、それぞれの場所に根ざしたローカルパートナー、文化、課題があります。共通しているのは、「何を売るか」よりも「何を一緒に考えるか」という視点でつながっていることです。

もし皆さんが新たな土地でのサービスや商品の展開を考えるとき、FabCafeを思い出してください。FabCafeは、単なるイベント会場でも展示スペースでもなく、“現地と一緒に作るための足場”として機能します。ユーザーの声を拾い、文化的な翻訳を経て、ローカルなクリエイティブと交差する。このプロセスを通じて、ただの海外展開ではない、より深く根を張る共創型のアプローチが見えてくるはずです。

今後も、さまざまな地域・テーマでの実践を重ねながら、FabCafeネットワークが持つ「問いを育てる装置」としての価値をさらに広げていきたいと考えています。

  • 執筆: 永島啓太(ロフトワーク)
  • 企画・編集:  宮崎真衣(ロフトワーク)
  • 主催: FabCafe KL、FabCafe Global、crQlr Awards
  • コラボレーター::塚本みなみ (シーベジタブル)、Chin Ren Yi (myBurgerLab共同設立者)、Creators’ Club

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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