Column
2021.11.21
シリーズ「Around The FabCafe World in 180 Days 」では、世界各地のFabCafeの特徴やプロジェクトを紹介したり、それぞれの都市や地域が抱える課題への取り組みなどをお伝えしています。Vol.3では、FabCafeクアラルンプール(以下、FabCafe KL)が登場。遊びをキーワードに活動を展開するデザインユニット、Playfoolのふたりとともに、デザインやクリエイティビティにおける遊びや遊び心の役割について話し合いました。
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Playfool
Daniel Coppen(左)とSaki Coppen(右)によるデザインスタジオ。共にRoyal College of Artを修了し、2018年から活動開始。創造性を開放する自由な遊びを生み出すことをミッションに、分野横断的に創作活動に取り組む。国内外で受賞多数。
Website: https://studioplayfool.com/
YouTube: https://www.youtube.com/c/Playfool/about -
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FabCafe Kuala Lumpur
2016年にISETAN The Japan Store Kuala Lumpurに、前身となるFabSpace KLがオープン。FabSpace KLは、デジタルファブリケーションマシンを使ってさまざまな種類のプロトタイピングを行う、マレーシア初の公開型メイカースペース。2020年、FabCafe Kuala Lumpurがオープン。ワークショップやカスタムファブリケーションの経験も豊富なで、クアラルンプールのクリエイティブコミュニティの活性化をリードしている。共同設立者はGwyneth Jong(左)と、Ignatius Andi Permadi(右)。
FabCafe KL代表のAndi PermadiとGwyneth Jongは、ISETAN The Japan Store Kuala Lumpurにおけるマレーシア初の公開型メイカースペース「FabSpace」を2016年から4年間にわたって運営。これがきっかけとなって、彼らは2020年初頭にFabCafe KLを立ち上げることになりますが、奇しくもマレーシアでCovid-19による初のロックダウンと重なってしまうことに…。けれども、AndiとGwynethは、「遊び」をテーマにしたプロジェクトやアクティビティを開催するという目標に向かって、難しい事態にもめげずに取り組んでいます。
たとえば、消耗品を創造の出発点としたプロジェクト。IKEAのスツールをオリジナル製品に改造する「IKEAスツールハック」というワークショップや、ナイキとのコラボレーションによる靴のレーザー彫刻など、クリエイターや参加者たちと既製品を自由な発想でハックしています。
アートディレクションと商業デザインの経験があるAndiとGwyneth。他にも、「Car Topper」は、3Dプリントアーティストとのコラボレーションで、商用車に取り付けるローストチキンのようなダイナミックな広告看板を制作しました。
彼らが関わった最新のアイデアは、2021年9月に実施されたGlobal Goals Jam 2021 Online – 5th Anniversary Asia Trans-local Challengで生まれた「Garbage Racer」。川に捨てられた産業廃棄物を回収するレーシングロボットをデザインするコンテストです。
このシリーズでは、毎回ゲストをお招きして、テーマに沿って議論を展開しています。今回のゲストはPlayfoolのおふたり。 ロンドンのRoyal College of Artで出会ったDaniel CoppenとSaki Coppenによるデザインスタジオで、現在は東京で活動しています。DanielとSakiは、「探検」「実験」「想像」「創造」をテーマにした製品やワークショップを開発しています。また、彼らのYouTubeチャンネルはわずか開設されてわずか1年ですでに1,000万回以上の再生回数を記録しています。
Playfoolは、「デザインバブル」の外にある創造性を促進し、子どもだけでなく大人にも遊びの恩恵を与えたいと考えているとのこと。この後の議論にも出てくるように、彼らは今こそ「遊び」を真剣に考える時ではないか?と語りました。
遊び自体が最終目的ではないことは誰もが認めるところ。しかし、遊びをベースにしたアプローチは、人々を自由に何かを探求させたり、意外な方法で感動させたりすることができます。
Daniel Coppen, Playfool(以下、Dan) 私たちのプロジェクトへの取り組み方は、どれもどこか遊び心があります。探索的で実験的、かつ反復的で、失敗を恐れません。また同時に、私たちは遊びをサポートするものを作ることも大切にしています。ひとつ言えるのは、私たちのプロセスは遊びをベースにしていますが、遊び心自体はアウトプットやプロセスよりむしろマインドセットだと思っているということ。製品や芸術作品を遊び心があると表現する方もいるかもしれませんが、私たちの定義では、そういったものは遊び心があるとは思っていません。
Saki Coppen, Playfool(以下、Saki) 私たちにとっては、Playability(遊ぶことができる能力)の方が重要です。一般的にPlayful(遊び心)という言葉が美学に基づいたものであることは理解しているのですが、私たちが「Playful」と言っているときに意味しているのは、実は「Playable(遊べるかどうか)」という意味なんです。
Gwyneth Jong, FabCafe KL(以下、Gwyneth) 遊びをベースとしたアプローチは人々の行動を促すのにとても効果的ですよね。たとえば、「Garbage Racer」の課題感は「みんなで集まって川をきれいにしよう」でした。でも、ストレートに「じゃあ土曜日に集まってみんなで川を掃除しよう」と言ってしまうと、「毎週土曜にやらなければいけないタスク」になってしまう。ところが、それを楽しい活動に変えると、突然「しなければならない」がなくなり、このゲームに参加したくなってしまう。
Ignatius Andi Permadi, FabCafe KL(以下、Andi) 頼んでもいないのに、人を動かしてしまう。これが「遊び心」の力ですね!
GwynethとAndiは、楽しく人々の行動を変えた事例として、フォルクスワーゲンのブランドキャンペーン「The Fun Theory」を紹介しました。「Piano Stairs」と呼ばれるこのプロジェクトは、階段を楽しいアクティビティに変えたことで、人々が自然とエスカレーターではなく階段を使うよう促すことに成功しています。
遊び心は果たしてイノベーションを刺激するのでしょうか。
人々のモチベーションを理解するのに役立ち、共感を生むことに寄与する、遊び心。これは、他者のためにデザインする際の効果的な出発点となります。
Gwyneth 遊んでいるときは、あらゆる幸せのホルモンが出ていて、気持ちよくてもっとやりたくなってしまいますよね。だから、私は相手に共感することに尽きると思っているんです。その人の立場に立って、何がその人を気持ちよくさせるかを考えるんです。
Saki 私も、遊び心を持つことは、好奇心や探究心を持つことだと思います。試行錯誤を重ねることで、最終的には新しい革新的なアイデアが生まれます。
Dan これまでワークショップを行う中で、さまざまな分野の方々を見てきました。デザインなどのクリエイティブな分野でないことのほうが多いのですが、ワークの中で現れる彼らの創造性にはいつも驚かされます。さらには、自分にはクリエイティブな能力があるということを理解してもらうだけで、自信やエネルギーが与えられるようです。遊びには、自分の中に眠っている創造性を呼び起こす力があるんだと思います。
FabCafe KLが遊びを新しいことに挑戦するためのモチベーションと捉えているのに対し、Playfoolは遊びがもたらす課題にも注目しています。
Dan 遊びと楽しさは似て非なるもの。創造性を発揮する遊びはハードワークです。それを失敗すると非常に疲れるし、エネルギーも必要。それが遊びの難しさであり、楽しいことばかりではありません。難しいですし、そのためのスキルを身につけなけていかなければいけません。
Saki それに、実験ではやることをあらかじめ決めすぎてしまうと間違った方向に進んでしまうことがあります。あまり計画を立てすぎてもいけない。これはいつも私たちがクライアントに一緒に向き合ってもらわなければいけない課題ですね。
Andi 実際、終始遊び心があるだけではリスクがあるかもしれませんね。ワークショップに参加する人の中には、何かを学びたいと思って参加する人もいますが、私たちのワークショップが楽しすぎて、実際には学びを実感できていないかもしれません(笑)
ディスカッションの中では、ゲームと遊びの比較も話題に。遊びとゲーム、一見似ているようですが、ディスカッションの中では、ゲームはコントロールを強いるものであり、遊びは自由をもたらすもので全く別物だという指摘がありました。遊びの概念を導入したいと考えているデザイナーは、この違いを認識する必要があるかもしれません。
Gwyneth 私たちが見てきたトレンドの一つに、サービスのゲーミフィケーションがあって、たとえば、アプリの滞在時間を増やすためにゲームを盛り込んでいるといったもの。これがゲーミフィケーションにおいての遊び心なんですかね。
Andi 個人的には、遊び心はゲームそれ自体ではなく、何かに参加したり、何かをしたりする人の行動を実際に変えることができるものじゃないかなと思っています。
Dan 私もそう思います。遊びはゲームではありません。プログレスバーやKickstarterのように、進捗状況を視覚的に表示するようなものもゲーミフィケーションと言えると思います。でも、これは時に人を中毒にしてしまう。たとえば、「いいね!」の数でポイントが貯まっていくように感じるみたいに。これは「遊び心」の暗黒面だと思うんです。だからこそ私たちの遊びの定義は、より創造性を重視したものに変わってきているんです。
Saki 私たちは、大人のための遊び場を作ることにとても興味があります。子供向けの遊び道具はたくさんありますが、大人の遊びはどちらかというとゲームが多いですよね。コントロールされていて、クリエイティブじゃない。子供は確かに創造的ですが、同時に大人も創造的です。ただ、そういった環境から、自分が創造的かどうかわからなくなっているんだと思います。
ディスカッションは教育や学びについても言及。Playfoolは、STEAM教育玩具への疑問を指摘した上で、ブロックを使ったシンプルなプログラミングツール「Knotty」を開発した経緯を説明しました。
Saki STEAMのおもちゃは、子どもたちに何か特定のことを学ぶことを強要しているように感じることが多かったんです。本来、学びは好奇心から生まれるものであり、自ら進んで行うもののはず。子供たちは自ら疑問を持ち、何か新しいことに挑戦し、その上でまた疑問を持つべきだし、この連続が学習プロセスなんじゃないかと思っています。
Dan Knottyは、形にとらわれないアプローチで、できるだけシンプルで直感的なものにしたいと考えて作ったものです。普通の積み木と遜色なく、でも同時にテクノロジーの要素を取り入れて、子どもたちがテクノロジーを使って探求し、創造することができるように設計しました。
これまでイノベーションについて述べてきましたが、遊びは働くチームにとって他にどのようなメリットがあるのでしょうか。また、組織はどのように遊びをベースにしたアプローチを導入できるのでしょうか?
Dan 過去のワークショップを行ってきた経験から、特に上下関係が厳しい日本では、全員がフラットに一緒に創り出すことが重要だと感じています。マネージャーやインターンも共にアイデアを共有することを恐れず、一緒に失敗したり、学んだりすることで、デザインチームだけでなく、全員が一緒に仕事をすることができると思います。
Saki 遊びは本当にカオスですよね(笑)。私たちがRCAで学んでいた頃は、とても多様でした。誰が何を発見するかわからない。そして、それが誰であっても構わない。これは、遊びの重要な側面だと思います。新しい発見を共有することで、チームが生まれるんだと思います。
Andi たしかに、私たちも常に遊びを取り入れようとしていますが、その前にまず考えます。プロトタイプを作る前に、チームでリサーチしたり探求する時間を大切にしているので、ただ遊んでいるのとは違いますね。
ここまでの話を踏まえると、役職や地位に関係なく、チームメンバーが新たな能力を発見するための手段として、遊びというシチュエーションを活用できるのかもしれません。また、失敗や批判を恐れずに実験できる場でもあります。仕事には、もっと遊びがあってもいいのではないでしょうか。
以上が「180日間FabCafe世界一周」のクアラルンプール編でした。トークの様子を見たい方はぜひこちらの動画をご覧ください。ちなみに、FabCafe KLはコロナ禍が落ち着いて、もっとワークショップが開催できるのを楽しみにしているとのこと。Playfoolはオープンマインドな市議会と協力して、大人のための遊び場を実現したいと思っているそうです。
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FabCafe Bangkokの共同設立者であるKalaya Kovidisith(以下、カラヤ)が登壇。FabCafeがタイ政府や地元の自治体と連携して進めている、ゴミやエネルギー問題など、サステナビリティに挑戦するプロジェクトを紹介しました。後半では、蚕をテーマにしたプロジェクトのパートナーであるDivana Wellness(タイでエステなどの美容サービスを展開している企業)の代表者の2人を招き、タイの名産品で大きな可能性を秘めたシルクの新しい用途への取り組みや、今後の展望を語りました。
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FabCafe BarcelonaのCEOであるDavid Tena Vicenteが、ヨーロッパで3番目に高齢化が進む町サモラで取り組みを始めた、高齢社会でテクノロジー活用の事例を紹介。さらに、ソニーコンピュータサイエンス研究所京都研究室所長の暦本純ー氏をお迎えして、ウェルビーイングという概念がどのように解釈されるのかについて言及。ゆたかな社会をデザインするためにテクノロジーをどう捉えるべきか、ディスカッションを展開しました。
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David Willoughby
ライター
サステナビリティ、テクノロジー、文化について考え、執筆しています。これまでに多くのハッカソン、講演、その他イベントをレポートしています。また、日本の企業と協力して、彼らのストーリーを世界に伝えるお手伝いをしています。
サステナビリティ、テクノロジー、文化について考え、執筆しています。これまでに多くのハッカソン、講演、その他イベントをレポートしています。また、日本の企業と協力して、彼らのストーリーを世界に伝えるお手伝いをしています。
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浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
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FabCafe編集部
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