Column
2024.11.1
FabCafe編集部
2024年5月から8月まで、レジデンスプログラム『COUNTER POINT』13期のメンバーとして活動した落語家・桂枝之進さん。「Z落語」を掲げながら各地で実験的な落語に取り組む枝之進さんが、FabCafe Kyotoで展開したのは地域に根ざした小さな落語会「こんばんは寄席」でした。活動初期からレジデンス期間の3ヶ月間、そして活動後に至るまでの道のりを総括します。
COUNTER POINT|カウンターポイント
「COUNTER POINT」は、FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。
「組織を頼らず自分たちの手で面白いことがしたい」「本業とは別に実現したいことがある」そんな好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための、3ヶ月限定の公開実験の場です。
流浪する河原者たちが新しいスタイルの芸能”歌舞伎”を生み出した京都・鴨川の近く、築120年を超える古民家をリノベーションしたFabCafe Kyotoを舞台に、個人の衝動をベースにした新たなエコシステムの構築にチャレンジしています。
▶︎COUNTER POINTの活動と詳しい情報はこちら
地に足のついた落語を、今だからこそ。
時にDJを交えて高座に上がり、かたやコーヒーショップで一席を披露する……いわゆる「落語らしさ」に自由な風を吹かせる落語家・桂枝之進さん。23歳にして既に8年の芸歴を持ち、東京を拠点にDJやデザイナーなど他領域のクリエイターを巻き込みながら日々さまざまな企画を打ち出しています。その背景には、客層の高齢化や若年層へアプローチする機会の少なさに対する課題意識がありました。国内外の多様なクリエイターや文脈が往来するFabCafe Kyotoでの活動を通じて落語のミクスチャーを実現し、落語の間口を広げたい……レジデンスへの応募資料から伝わるそんな思いに共感し、COUNTER POINTでの活動がスタート。
FabCafe Kyotoメンバーとの打ち合わせ風景
焼き芋屋見つけて走る、ちょっと喋って帰る
ディスカッションを重ねることで見えてきたのは、京都の地で落語に取り組む意義について。 古くから落語文化を守り育んできた要素の一つに、「寄席」があります。 幕末から明治期にかけては全国に数百軒ものの寄席小屋が存在しており、演芸の劇場という形式ながら地域コミュニティの重要な拠点として機能していました。
関西では戦後、寄席小屋の数が激減しましたが、それに代わる形で数多くの「地域寄席」が生まれました。これは常設の寄席とは違い、お寺や公民館などを利用して定期的な落語会を行うもの。 現在も京都では歴史ある地域寄席が数多く存在しています。
そこでZ落語として幅広い世代へ落語の魅力を発信する活動と、実直に市井へ落語の場を開く活動を並行して行うことで、より多角的に落語の間口を開いていくことができるのではないか…そうして、レジデンス期間の活動骨子が見えてきました。
目指したのは、円卓のような関係性のもと、ふらっと立ち寄ることができる落語の場。まるで焼き芋屋さんで居合わせた人同士が少し会話を交わしたのち解散するような、カジュアルな地域の人との関わり方。そんな生活圏内で感じるローカルをヒントに生まれたのが「こんばんは寄席」でした。
ビジュアルデザインは、京都を拠点に活動するグラフィックデザイナー武居泰平さんによるもの
ローカルとコモンズ
地域に染み出す実践としての寄席
「こんばんは寄席」は、体験の核となる1,2席の高座、そしてその上演前にゆったりと流れる歓談の時間によって構成されます。ある時はおにぎりと味噌汁を、ある時は「中華のサカイ」の冷やし中華を、ある時はドリンクを振る舞いながら、居合わせた誰かと「こんばんは」と声をかけ合う状況を作ります。
ご近所の方や常連さん、社内メンバーなどを対象とした初演を皮切りに、「毎月やってる催し」として定期開催化。いつしか同じ京都の地で商いを行う方々や過去のレジデンスメンバーがざっくばらんに集まるなど、3か月の連続開催を通してその客層や流入経路も多岐に渡るように。気づけば寄席がゆるく地域に染み出し、私たちすらも知らない結び目を各所に作り出しているような状態が生まれていました。
寄席という一時的な非日常を共有することで生まれる、重すぎず軽すぎない関わりの場。カフェとしての機能とはまた違う、地域拠点としてのFabCafe Kyotoの側面までもが、この企画によって引き出されたように思います。
開催のたび、近隣の飲食店や本屋、ギャラリーなどを中心にフライヤーの配架依頼に伺ったのも、本プロジェクトを象徴する試みのひとつ。普段気になっていたあんな場所やこんな場所へ、「私たち毎月寄席をやっていまして…」と勇気を出して訪ねてみることで、同じ京都の地でカルチャーを生み出すプレイヤーたちの息遣いを直に感じることができたのも本プロジェクトなくしては得られなかった気づきと言えます。
実験、これからも
3ヶ月を通して見えたもの
夜の帷も降りた頃、ぱらぱらとひと所に集まっては挨拶を交わし、ほぐれた場に枝之進さんの声がぱっと花開く……3ヶ月を経て、思い描いていた地域寄席の風景が実現した本プロジェクト。カフェという開かれた場だからこそ、お店や落語との距離もさまざまなお客さまたちに楽しんでいただけたのではないでしょうか。落語ビギナーの方はもちろん、これまで落語に触れる機会がなかったという若年層の方が多く見られたのも印象的。図らずも若者向けのネタを磨く実験の場になったと枝之進さんは振り返ります。
こんばんは寄席は、今後も定期イベントとして毎月第2水曜日に開催予定。次回は2024年11月13日(水)19:00より開場です。落語が全く初めてという方はもちろん、地域におけるコミュニティ拠点のあり方に関心のある方は、ぜひ足をお運びください。
詳細、ご予約はこちらから
▶︎ https://fabcafe.com/jp/events/kyoto/2024_goodeveningyose/
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