Column

2025.2.21

石ころのような言葉から風景が立ち上がる

COUNTER POINT15期 小林楓太 活動報告レポート

山月 智浩

FabCafe Kyoto ディレクター

不思議な静けさとともに空間を取り囲む無数の白い布。縫いつけられているのは、まちを行き交う人々の話し声。

2024年12月、レジデンスプログラム『COUNTER POINT』15期として活動した小林楓太さんによる成果発表展「ホワイトノットノイズ」が開催されました。小林さんがライフワークとして続けていたのは、まちの中に佇みながら人々の会話を録音し、粛々と文字に書き起こす行為。レジデンス期間中、新たな挑戦として取り組んだのは、それらの声をまちや、他者へと還元していくことでした。

一夏をめぐる3ヶ月の活動のプロセスをレポートします。

COUNTER POINT|カウンターポイント

「COUNTER POINT」は、FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。
「組織を頼らず自分たちの手で面白いことがしたい」「本業とは別に実現したいことがある」そんな好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための、3ヶ月限定の公開実験の場です。
流浪する河原者たちが新しいスタイルの芸能”歌舞伎”を生み出した京都・鴨川の近く、築120年を超える古民家をリノベーションしたFabCafe Kyotoを舞台に、個人の衝動をベースにした新たなエコシステムの構築にチャレンジしています。

▶︎COUNTER POINTの活動と詳しい情報はこちら

 

隣り合う、雑多な言葉たち

長野県に生まれ、学部時代は東京の南大沢で過ごしていた小林さん。2023年に京都市立芸術大学大学院への進学とともに京都へと移住した際、関西特有のリズミカルな会話や大きな声、抑揚の激しい言葉遣いに戸惑いを覚えたと話します。

「すごい速さで自分の周りを流れる言葉たちに追いつけず、言葉や雰囲気に飲み込まれている気がして、息苦しかった。でもなんとかして、都市でも生きていけるようになりたい、もしかしたら都市の見えてないところがあるかもしれない、と思った。あと本当は人が好きだ、と思い出したかった。 そんな時、石ころになろうと思い立った。」(応募資料より一部抜粋)

都市のある場所で、石ころのようにじっと立ち続け音を録り、その中から「言葉」だけを抽出し、文字に起こす。
見知らぬ人同士の会話の断片が不意につながり、偶然隣り合うことで言葉同士のセッションが生まれる。そんな行為を通じて、都市における喧騒に対するイメージを払拭してきた小林さん。対外的な制作の場で、今度はその言葉たちを都市や他者と接続させることに挑戦します。

ノイズじゃなくなった、ホワイトなもの

ZINEや詩作など、主に書籍の媒体で表現を続けてきた小林さん。活動期間中は、全国津々浦々での録音・文字起こし作業に集中する傍ら、新たな表現方法にも挑戦しました。
展示企画「ホワイトノットノイズ」では、デジタル刺繍ミシンを活用した作品群を展開。
印刷ではなく、手触りのある糸というメディアで縫いとめられる会話には、どこか不思議な浮遊感が生まれます。文字が塗りつぶされ、ぼやけることによって生まれる匿名性や、「文字を縫いとめる」という行為に宿る詩情など、その手法と意味性が相互に作用し、作品としての強度を高めていたのも印象的です。

また、展示タイトルにある「ホワイトノイズ」とは、雑音の一種であり、様々な周波数の音が同じ強さで混ざり合ったノイズのこと。換気扇やテレビの砂嵐のようにしばしば私たちの意識の外側で鳴り続けるそれらは、昨今リラックスや集中の効果があると謳われる場面も見られます。街中での喧騒や話し声、石ころである透明な自身を通り過ぎていく言葉に、意識されない音としてのホワイトノイズという存在を重ね合わせます。無音のようでありながら、ただ音として存在し続ける言葉たちへの愛着を、「ノット」という語に込めました。

明確に作りたいものを見定めていたわけではなかったものの、道具と素材を使う過程で、また新たな意味や表現と出会うこと。そのサイクルが生まれていたことも、小林さんのプロジェクトの中で生まれた一つの価値だったかもしれません。

石ころのような言葉から風景が立ち上がる

建築学科に在籍し、その後プロダクトデザインの大学院へと進学した背景を持つ小林さん。都市的なスケールから、より物質的な手触りや質感へと関心が移り変わる道のりで生まれたこの活動。石ころのような言葉から一つの風景を立ち上げる小林さんの営みは、ある種の「都市を自分のものにする」ためのひとつの実践と言えるかもしれません。それは、ランドスケープ的な視点や手つきが通底しているからこそのようにも思えます。

言葉を録音し、文字に起こす。それらが実体を持つことで、誰かがその隙間を通ったり、重なったり、透けたりする。内省的な探求から生まれた実践が今後、より多くの他者へと広がり、派生的な表現へと続いていくことを期待しています。

Author

  • 山月 智浩

    FabCafe Kyoto ディレクター

    1998年大阪府生まれ、2021年京都芸術大学空間演出デザイン学科卒業。2022年2月よりFabCafe Kyotoに参画。 「Fab」の文脈を人文学的なアプローチで解釈し、誰もが持つ「つくる」力を引き出すためのプログラム設計に繋げることを得意とする。ワークショップや展示、トークイベント等の企画や店舗の情報発信を通して、生産や消費に性急な社会をやわらかくほぐすための実践に励む。人が感化し合い有機的なムードが醸成される場のあり方に関心を向け、個人でもフォトグラファーとして活動中。年に一度、野外鍋を敢行する。

    1998年大阪府生まれ、2021年京都芸術大学空間演出デザイン学科卒業。2022年2月よりFabCafe Kyotoに参画。 「Fab」の文脈を人文学的なアプローチで解釈し、誰もが持つ「つくる」力を引き出すためのプログラム設計に繋げることを得意とする。ワークショップや展示、トークイベント等の企画や店舗の情報発信を通して、生産や消費に性急な社会をやわらかくほぐすための実践に励む。人が感化し合い有機的なムードが醸成される場のあり方に関心を向け、個人でもフォトグラファーとして活動中。年に一度、野外鍋を敢行する。

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