Event report
2019.8.25
田根 佐和子
株式会社ロフトワーク / マテリアルプロデューサー、コミュニケーター
2019/06/25(火)、Fab Meetup Kyotoの第37回が無事終了しました!
スタッフのタネがレポートをお送りします。
今回の登壇者は下記の通り。
LT:やんツー & 京都精華大学デジタル学科学生2名(京都精華大学の授業と学生の作品について)
LT:中谷 雄俊(ユニチカ/抹茶を練り込んだフィラメントの製造について)
PT:濵﨑 トキ(Boolean Inc. CEO/層庵 – 茶室の全てを3DPで積み成す)
PT:志藤 大地(NPO法人 LES WORLD 代表/問題解決を目的としないNPO)
PT:高木 哲(株式会社 アート・ラボ 代表取締役/“心”に届く商品開発)
PT:加藤 貴章(縁樹の⽷ 代表/樹のご縁でつながる、クリエーションの輪。)
(登壇者順/敬称略)
登壇者含めた来場者は30人弱。
期せずして香りを発する展示物が多い会となったため、会場全体が場所によってジャンルの違うよい香りで満ちており、笑顔が絶えない会となりました。
夏至直後ともあって、開始からかなりの時間明るく、その点でも来場者、登壇者ともに笑顔が際立っていました。
当日の様子を写真とともに登壇者を振り返ってみたいと思います。
トーク内容ダイジェスト
やんツー & 京都精華大学デジタル学科学生2名「京都精華大学の授業と学生の作品について」
京都精華大学のビジュアルデザイン学科3年のプロジェクト授業「メディアアート」では、今期「ハッキング/公共圏に介入する」というテーマを掲げている。
授業の会場としてFabCafe Kyoto/ MTRL KYOTOにて毎週オープン講義を行い、デジタル工作機器を用いた作品制作を行っていたが、様々な既存設備や「場」そのものに、テクノロジーを用いた作品を以て介入する展示の試みを当店にて展開。
授業を開催中の現在、授業と試みについての解説を講師と作者自らが行った。
講師であるやんツーさんからは授業の解説と授業風景の説明。
学生からはおのおの自身の作品の説明が。
「神社」を見立てて作った作品群は、
・フリードリンクを注ぐと御神水かのように水がきらめく仕掛け
・ゴミを捨てるたびにでるおみくじ
・手を洗うときの合掌の姿勢を絵馬にする試みなど。
何気ない動作に思いもかけない反応が返ってくると人は思わず足を止めてみてしまうもの。作品設置後、ゴミを捨てた後じっとゴミ箱を見つめるお客様の姿などもみかけるように。
しばらく作品は展示中ですので、是非見に来てください。
中谷 雄俊(ユニチカ)
「抹茶を練り込んだフィラメントの製造について」
宇治に本社をおく繊維メーカー株式会社ユニチカ。釣り糸や衣料用の高機能繊維などの製造の傍ら、常に新たな素材の研究開発を行っています。近年は3Dプリンター向けのフィラメントの開発も多数実施。体温程度の温度で柔らかく変形する「感温性フィラメント」はFabCafe Kyoto / FabCafe Kyotoにもサンプルがあり試用いただけます。
中谷さんは新規素材の開発部門に所属。日々様々な素材を開発する中で、今回試作したのは抹茶を練り込んだフィラメント。
見せていただいたのはお茶入りのキャンディのような不思議な色味の造形物。暖めると少しいい香りがします。PLA(トウモロコシ由来)に練り込んだためよい香りがするとのこと。
フィラメントを溶かす際に200℃を超えるため、お茶のキレイな緑色は少し濃いほうじ茶の色合いに変色しています。抗菌などの機能に関してのテストは今後行われるとの事ですが、何故かブラックライトで赤く発光するなど不思議な性質があるようです。
粒度のばらつきがある自然素材を練り込んで一定の強度や生成のための均質な精度を出す技術はさすが。抹茶フィラメントの用途についてのアイディアのほか、素材混入フィラメントの相談がある場合は是非中谷さんまでご連絡ください。
濵﨑 トキ(Boolean Inc. CEO)
『層庵 – 茶室の全てを3DPで積み成す』
「不器用な人でも3Dプリンターさえあれば思った通りの造形が出来る」。
数年前、3Dプリンターが期待をもって世間に紹介されたときに興味を持った人は多く、濵﨑さんもその一人でした。
「海外では一軒家を3Dプリントする等社会実装が実施されつつある。しかし国内では目立った動きがまだない」と濵﨑さん。
「日本はそこまでしなくても職人さんがそのあたりにかなりの数存在しますからね。必要は発明の母といいますが、代替手段を今すぐ模索しなければならない、という切迫感がない」。
濵﨑さんはこの時期に、あえて「茶室の外から内から、全てのしつらえを3Dプリントする」というプロジェクトを発足しました。
積層して作る『層庵』。金属を成形して作る茶釜「珠くじら」など。従来の製造方法では難しい造形を、3Dプリンターだからこそ出来る構造で設計し、茶室を作るプロジェクト。
茶室なのは、茶の湯の文化には「見立て」が重要な役割を果たすため。
実用ではなく「実験を、京都でこそ行いたい」と仰います。
仲間なども募集中とのこと。3Dプリンターでの実験に興味のある方は是非。
志藤 大地(NPO法人 LES WORLD 代表)
『問題解決を目的としないNPO』
最貧国や紛争国のスラムや孤児院に出向いては現地の子供たちとオリジナルのミュージカル映画を撮る「LES WORLD」。
「ミュージカルはYOUTUBE等で見ていただければいいんですが、今日は僕が活動を通じて感じたことを」と志藤さん。
「普段から『あなたの募金で○○の人たちが○○日助かります』というような募金の文句を聞くこともあるかと思います」と志藤さん。
現地で子供たちと接するときに、なるべく支援者と被支援者という関係にならないように注意しているというLes worldの皆さん。しかしながら、おやつなどの小さなお裾分けは日常的にしている、という日々の中、ある日言われたのが「あいつはテントくれるっていった。大地は何もくれない。だからお前は友達じゃない」という言葉。
「つまり、支援という名の下に施しを受け続けると、いつかそれが既得権だと人間は思い込む。子供たちはピュアな分、それがとても顕著。もらえて当然となると、もらえないと不服に思う。支援はヘタをすると人をハッピーから遠ざける事にもつながるのかなと」
「支援という行動は尊い気持ちの元に行われるものだし、とても必要なこと。だけど、今差し伸べている手が最適解か、出した募金がどういう形で現地に渡っているのか、僕らにはわからない。募金をして気持ちよくなっているけどもしかしたらそれは幸せとは真逆に作用しているかも知れない。それくらいとてもとても距離があるんだなあというのが僕の感想です」
確かに「既得権益」に慣れると、人は幸せの感覚が狂います。それは我々の身の回りでも非常によくあること。支援という言葉に宿る思考停止、また普段から自分も、なにかを得ることに対して当然だと思う奢りがないか、気になる話でした。
「僕らの夢は、いろんな国で出会った子供たちを一同に会して、ミュージカルを作る目標を持ってます」とのこと。興味のある方は是非志藤さんまで。
LES WORLD
高木 哲(株式会社 アート・ラボ 代表取締役)
『“心”に届く商品開発』
「40年前、大量生産大量消費の時代、私はメーカーで毎シーズンごとに新作となるスキー板の開発をしていました。展示会の前は半月くらい寝袋を持ち込んで必死に準備をする毎日。作れば作っただけ売れる時代でした」と高木さん。
「ある日、研修で赴いた夢の島(廃棄物埋め立て地)で、トラック一台にぎっしり挿された自分のデザインした板を見てしまった。つい先日売りに出したばかりのもの。今でも心臓がキュッとする光景でした」
「倉庫代より廃棄代の方が安いんだ。大人だったら飲み込め、と言われて、自分は何をやっているのかと……」
大量消費の時代は終わる。本当にいいもの、感情を動かすモノをこそ、今後の人は欲するようになる、と訴えてメーカーを退職。
五感の内、最も商品開発が遅れている割に、感覚野を経由することなく即時情動回路に結びつくのが嗅覚。これを商品化しようと高木さんは考えます。
「うさんくさいヤツ、とかいうでしょ。嗅覚は本能に近いんです。すぐに感情に結びつく」
「香りは見て取れる」という概念を形にして、固形の香る雑貨などを展開。
香りを変質させずに固形化するため、試行錯誤を重ねます。
「熱を加えると香りが変わったり、すぐ飛んでしまったり。いろいろ試しました」
ご自身でシリコン型にレジンを流し込んで実験したり、学術的な分析をしたり。高木さんの資料は(時間の都合でかなり割愛されましたが)10分で話をするのは到底無理な量でした。
「固形だと輸送の時に関税通りやすいですし、途中でこぼれたりしないでしょ。液体の時はレシピだけ教えてくれ、後はこっちで合成するから、とかいわれてね。そんな悔しいことはない」。
自分の好きな香り(好みの色)の小さな香りのかたまりを自分好みに重ねて、よきタイミングで身にまとう。
高木さんの想像する未来は、涼やかな香りの小物が小さなハッピーとして人々の生活を彩っている世界です。
「人を幸せにするためのものを作りたい」香りの話、感情と香りの緊密な関係についての相談は是非高木さんまで。
アートラボ
加藤 貴章(縁樹の⽷ 代表)
『樹のご縁でつながる、クリエーションの輪。』
「この布は杉で出来てます。杉の繊維をチップにし、それでシートを作って細く糸にし、それで布を織る、そういうことをやっています」と加藤さん。
元々、アパレル系、編み物の会社の仕事の傍ら、山にある木という自然素材とどうにか向き合う方法がないか考えていたと言います。
「木には、植えた人や育ててきた人たちの思いや長い歴史がある。これを今、上手くくみ取れていないのではないかと思うんです」と加藤さん。
「例えば朽ちた鳥居の欠片。ご神木の一片。素材の特性以上に、そこに大切な物語を見いだすことができるんじゃないでしょうか」
天然素材を布にすることによって木の持つ特質も受け継ぎ、縁樹の糸で織った布は涼感もあり、速乾性なども併せ持つとのこと。
縦糸と横糸を違う材で織ってみる、また編んでみる。織り方や目の細かさを変えてみる。……材を変えるだけで、それ以外は千差万別なアウトプットが考えられます。
「日本のアパレル業界において、国産の布が使われている割合は0.2%。ほぼすべてを外国に頼っているのが現状です。もちろん、全部国産にすべきだ、というようなことを言うつもりはありません。ただ、こういう選択肢もある、日本の材を活かしたものづくりの手法もあると一つの道になれればと思います」
木の縁から森のある土地と縁がつながった加藤さん。世界遺産でもある高野山の人たちとつながったといいます。
「宗教の山だと思われがちですが、実は一歩踏み込むと限界集落があったり、そこに長く住んできた人たちと山との緊密なつながりがあります。そこで圧倒的な静寂に囲まれた生活をすると、不思議と心が落ち着いたり面白いことを思いつけたりすることに気づきました」
今、加藤さんは高野山にデジタルデトックスもできるアイディエーションスペースを作れないかと検討中とのこと。「是非,一緒にやりたい仲間、募集です」
興味のある方は是非加藤さんまでご連絡ください。
縁樹の糸
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田根 佐和子
株式会社ロフトワーク / マテリアルプロデューサー、コミュニケーター
大手PC周辺機器メーカーで営業部門、広告部門を担当した後、2006年、ロフトワークに入社。クリエイターとのチームメイキングに定評があり、ソーシャルゲームなどのコンテンツ・ディレクション分野で活躍。2011年に京都オフィスの立ち上げメンバーとして京都移籍。現在は素材の新たな可能性を探る事業「MTRL」のプロデューサーとして、企業や職人、研究者を繋ぐ活動をしている。特技は”興味の湧かないものはない”こと。職人/技術者/研究者への人一倍のリスペクトと個人的な好奇心から、プライベートでも日本中を駆け巡って会いに行ってしまう。趣味はスキーとダイビングという、ロフトワークでは数少ないアウトドア派。
大手PC周辺機器メーカーで営業部門、広告部門を担当した後、2006年、ロフトワークに入社。クリエイターとのチームメイキングに定評があり、ソーシャルゲームなどのコンテンツ・ディレクション分野で活躍。2011年に京都オフィスの立ち上げメンバーとして京都移籍。現在は素材の新たな可能性を探る事業「MTRL」のプロデューサーとして、企業や職人、研究者を繋ぐ活動をしている。特技は”興味の湧かないものはない”こと。職人/技術者/研究者への人一倍のリスペクトと個人的な好奇心から、プライベートでも日本中を駆け巡って会いに行ってしまう。趣味はスキーとダイビングという、ロフトワークでは数少ないアウトドア派。