Project Case
2025.5.11
浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
粘菌染色とは、粘菌の餌に顔料や染料を混ぜ、粘菌の排泄物に消化されなかった色素が混ざることで、色の軌跡を作ろうというものです(粘菌とは、アメーバ状に広がる変形菌(真性粘菌)の俗称)。現代美術作家の齋藤帆奈さんは、この表現手法を独自に開発してきていました。今回、粘菌染色を繊維染色技法として発展させるべく、実験が行われました。繊維染色が可能になると、衣服や家具などへの応用が広がる一方で、洗濯や摩擦への耐性も求められます。そこで、京都老舗染料メーカーで染料の開発を担う田中直染料店の北川一寿さんと、北杜市で活動する染色家の潮津美左紀さんを交えて、集中実験・検証を行いました。本レポートでは、2024年12月2~5日北杜バイオアートラボラトリーにて開催された集中合宿の様子をお伝えします。
メンバー
齋藤 帆奈(現代美術作家、東京大学筧研究室 博士課程)|https://www.hannasaito.com/
北川 一寿(田中直染料店 研究開発室 室長)|https://www.tanaka-nao.co.jp/
潮津 美左紀(染色作家)|Instagram
浦野 奈美(SPCS)|https://fabcafe.com/jp/labs/kyoto/spcs/

八ヶ岳を臨む山梨県の北杜市に、斎藤帆奈さんが拠点とする北杜バイオアートラボラトリーはある

ラボのまわりには赤松の林が。今回の実験でも、齋藤さんがこの山で採集した粘菌を用いた
今回の実験では、11種類の天然/人工の染料、3種類の粘菌(変形菌)、3種類の繊維を組み合わせて実験し、色素定着を試みました。環境によりますが、モジホコリだと早い時で1時間に約20cm動くため、数日でも変化が現れます。明らかに相性の悪い組み合わせが検証できたほか、種類の異なる粘菌では相性の良い繊維や染料が異なるなどの現象から、新たな仮説も得られました。

京都老舗染料メーカー、田中直染料店で染料の開発を担う北川さん。色素定着を実験するため、さまざまな加工を施した繊維や定着材、染料などを用意して実験に臨んだ。(写真左)

齋藤さんがラボの裏山で採集した粘菌(左)

拡大して見ると、繊維に沿って粘菌が動いているのがわかる

染料の混じった餌(オートミール)に近づいている粘菌(左)と、逃げている粘菌(右)
工芸やプロダクトへの応用をするためには、洗濯と摩擦に耐えられる状態を作る必要があります。今回の実験では、水洗いをしたうえで、定着剤を用いた色素定着を行いました。

最後にアイロンをかけて定着させる(左)、繊維によって仕上がりの風合いが異なる(右)

シルクが、風合いと模様の繊細さともに最も美しく仕上がった

最後に摩擦堅牢度の簡易チェックを実施

2024年12月に開催されたFabCafe Tokyo/KyotoのYear End Partyでは、実験で色の定着に成功した作品を展示した(写真:村上大輔)
今回の粘菌染色実験により、繊維染色技術を応用することで、工芸レベルの品質を担保することはできそうだという結果を得ました。本プロジェクトは継続的に進めています。アパレルやプロダクトへの応用など、お気軽にご相談ください。
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齋藤 帆奈
現代美術作家、東京大学筧研究室 博士課程
現代美術作家。1988年生。多摩美術大学工芸学科ガラスコースを卒業後、metaPhorest (biological/biomedia art platform)に参加し、バイオアート領域での活動を開始。2019年より東京大学大学院学際情報学府修士課程に在籍(筧康明研究室)。理化学ガラスの制作技法によるガラス造形や、生物、有機物、画像解析等を用いて作品を制作しつつ、研究も行っている。近年では複数種の野生の粘菌を採取、培養し、研究と制作に用いている。主なテーマは、自然/社会、人間/非人間の区分を再考すること、表現者と表現対象の不可分性。
現代美術作家。1988年生。多摩美術大学工芸学科ガラスコースを卒業後、metaPhorest (biological/biomedia art platform)に参加し、バイオアート領域での活動を開始。2019年より東京大学大学院学際情報学府修士課程に在籍(筧康明研究室)。理化学ガラスの制作技法によるガラス造形や、生物、有機物、画像解析等を用いて作品を制作しつつ、研究も行っている。近年では複数種の野生の粘菌を採取、培養し、研究と制作に用いている。主なテーマは、自然/社会、人間/非人間の区分を再考すること、表現者と表現対象の不可分性。
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北川一寿
株式会社田中直染料店 研究開発室長
1974年 和歌山市生まれ。京都工芸繊維大学卒業株式会社田中直染料店入社。研究開発部に所属し、製品開発、品質管理、SDS 作成などに従事。現在株式会社田中直染料店研究開発室長。
1974年 和歌山市生まれ。京都工芸繊維大学卒業株式会社田中直染料店入社。研究開発部に所属し、製品開発、品質管理、SDS 作成などに従事。現在株式会社田中直染料店研究開発室長。
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潮津 美左紀
染色作家
文化学園大学国際ファッション学科・舞台衣装デザイナーコース卒業。 八百屋でのアルバイト中に捨てられる野菜クズなどを持ち帰り、染料を煮出す実験を始める。 2021年より北杜市へ移住。 標高1,000メートルの山村にて生活を送り、採取した草木や各国の植物染料・鉄錆などを使い実験的な染色を行う。
文化学園大学国際ファッション学科・舞台衣装デザイナーコース卒業。 八百屋でのアルバイト中に捨てられる野菜クズなどを持ち帰り、染料を煮出す実験を始める。 2021年より北杜市へ移住。 標高1,000メートルの山村にて生活を送り、採取した草木や各国の植物染料・鉄錆などを使い実験的な染色を行う。
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浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
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浦野 奈美
SPCS / FabCafe Kyoto
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。
大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。