Column
2023.5.25
コントロールできない生態系のメカニズムを探究し、自然との創造的な共創関係を探究するコミュニティ『SPCS(スピーシーズ)』。共同体としてはクラブ活動的なゆるさを保ちながら、各回異なるフィールドの講師を招き、色濃いワークショップを開催してきました。
season3となる今回のテーマは「不安定をデザインする」。山形を拠点に採集、デザイン、超特殊印刷を行なっている吉田勝信さんとともに、採集物からインクをDIYするワークショップを開催します。印刷技法や吉勝さんのバックグラウンドをリモートでインプットする初回を経て、各自で色を抽出したいものを持参した参加者がインク作りに励んだDAY2の様子をレポートします。
SPCS|スピーシーズ
デザイナーや版画作家、クリエイティブに関わる人もいれば、教育現場や市の役員という方も。それぞれ思い思いの参加理由を抱えながら、配られた乳鉢と向き合います。にんじんをすりつぶしたり、バナナの皮を煮出したり、犬の毛を細かな粒子にする午後を過ごしました。
単に採集したものを粉末にするワークショップではなく、印刷の技法にも目を向けます。凸版や孔版などの印刷技法の違いの解説や、各印刷手法に適したインクの粘度、素材ごとに異なるすりつぶし方のコツまで、産業化された印刷技法を日々手元に手繰り寄せながら制作されている吉勝さんならではの知見がいくつも飛び出します。講師の吉勝さんとコミュニケーションを交わしながら、ひたすらにインクを自作する参加者たち。今回は支持体に定着させるためのメディウムも自作するため、お粥を濾したデンプン糊や、長芋、はちみつ、川辺で採取した植物たちを煮出すメンバーも。店内はいつしか不思議な香りに包まれます。
また、参加者ごとに問いが生まれてくるのもこのシリーズの醍醐味。
レーザーカッターを制作プロセスに取り入れた新しい活字の可能性を育むプロジェクト「紙活字」を推進するPaper Paradeの和田さんは、紙からインクを自作。乳鉢ですりつぶすと繊維質が残るため、灰にした油性のインク開発を試みます。不要な紙からインクを作り、それをまた紙に刷る、そんなサイクルをつくることができれば印刷産業の構造全体が変わるきっかけになるかもしれないと話します。
「山フーズ」の屋号で活動中の小桧山聡子さんは、現地での参加が叶わなかったものの、その後のプロセスをSNSで発信。ケータリングやイベント出展を中心に、食を多角的な視点から捉えた実践を重ねる小桧山さんならではの視点で、いりこの銀色インクを開発中です。
https://twitter.com/yama_foods/status/1654852599420719106?s=20
風景に潜む自然ごと煮出してインクを抽出したり、愛犬の犬の毛からインクをつくることでずっと身近に残るものとして定着しておきたいという愛に溢れたテーマを持つメンバーも。滲みを応用したテキスタイルや、鹿の糞を素材としたインクで市営の公園にある風景を描くメンバーまで、十人十色のDIYインクが生まれました。
今回サンプル印刷のために用意していたのは、レーザーカッターで制作したスタンプとステンシル型の2種類。一般的に、ハンコなどの凸版印刷はインクの粘度やなめらかさにコツが要り、ステンシルなどの穴をインクが通り抜ける孔版印刷の方が刷りやすいのだとか。メンバーたちは、それぞれ自作したインクがその組成やプロセスだけでなく印刷技法によっても仕上がりに差異が生まれることを実感しました。しかし、「自作したインクで支持体に定着させるところまで運べるとは思っていなかった」と吉勝さん。産業化された印刷技法を紐解くプロセスの道のりを知っているからこそ、この日参加したメンバーたちの熱量には目を見張るものがあったよう。何かの色を抽出し定着させる行為に含まれる意味の多さに、改めて驚く1日となりました。
今回の現地ワークショップを踏まえ、メンバーは1ヶ月間、自身でプロジェクトを深めます。5月下旬にリモートで進捗発表を行い、6月には最終成果物をFabCafe Kyotoに展示予定です。インクのDIYに留まらない、各メンバーの試行錯誤の様子をお楽しみに!
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FabCafe編集部
FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。
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