Column

2021.7.1

茶の葉と茶のタネ – 未来を生み出すアイデアの種 -岐阜県揖斐川町春日地区たねのしずく研究所を訪ねて

岐阜県揖斐郡・揖斐川町春日地区

日本屈指の薬草の宝庫である揖斐郡の中でも標高の高いこの地区には、山道を登った先に美しい茶畑が広がり、「岐阜のマチュピチュ」「天空の茶畑」として近年SNS等で人気を博しています。しかし、その裏側にある茶畑の現状や取り組みに目を向ける人はそう多くないでしょう。今回は、そんな揖斐川町春日地区で「茶の実」を中心としたお茶の新たな価値創造に取り組む、山田泰珠(やまだ たいじゅ)さんにお話を伺いました。

お茶の実ってどんなもの?

改めて、皆さんお茶の実を目にしたことはありますか?

茶摘み体験をされた方や身近に茶畑が多くある場所で育った人でもなかなかその姿を目にした人は少ないと思います。それもそのはず、多くの茶畑でチャノキ(植物としてのお茶の木の呼び名、和名)はほとんど結実することはありません。ここには、大きく2つの理由があります。

一つは、茶畑の多くが主に挿し木によって単一品種の畑として作られてきたことがあります。挿し木とは、株の一部を切り取り発根させて増やす方法のことです。このようにして茶畑を作ると、成長する個体全てが同じ遺伝子を持つために、畑全体として品質を画一化でき、木の高さもほとんど同じになるため茶摘みしやすいというメリットがあります。ところがチャノキには自家不和合性といって自家受精しにくい性質があります。そのため挿し木=品種=によってできた茶畑は全体が同じ遺伝子の木で構成され、ほとんど結実することはありません。

もう一つの大きな理由は、栽培方法そのものにあります通常、管理の行き届いた茶畑では葉の収穫に適した耕作が行われます。中でもとりわけ適切な施肥が重要です。ところが放棄園では施肥は行われません。これは放棄園に限らないのですが、チャノキは肥料を与えないと花を付けやすくなります。花が付きやすいので結実のチャンスも多いわけです(ちなみに、現役の茶畑に花が咲くのは栽培が適切に行われていないかも知れない、というサインになります。著名産地では「チャノキに花なんか咲かせて」という表現が聞かれます)。

このような理由から多くの現役の茶畑で私達がお茶の実を目にすることはまずありません。しかし春日地区では高齢化などの理由により茶栽培・販売を生業にしている専業農家はほとんどおらず使われなくなって花が付きやすい畑が増えている上に、「ざいらい」と呼ばれる品種ではないチャノキが多く残っているため、結実する環境が整っています。

茶の産地としての春日地区では茶農家の高齢化によって、耕作放棄地が増加、また専業農家の減少により、特産物としてお茶を外に売り出すことが難しい状況が続いています。お茶の売れ行きが順調でなければ、茶栽培環境の維持も難しくなってしまう。私達が訪問した際、茶畑上部には稼働していない防霜ファン(扇風機のようなもので空気を回すことによって茶葉に霜が降りることを防ぐもの)が並んでいました。このような茶畑の現状は春日地区に限ったことではなく、直近5年で全国では東京ドーム950個分の茶畑が使われなくなっているそうです。そんな中で山田さんは、この耕作放棄茶園にふえる「茶の実」に着目しました。

耕作放棄茶園から広がるお茶の実の可能性

「お茶の実を絞って取れる油にはオレイン酸とビタミンEが豊富に含まれていてとても肌に優しいんですよ」実際に木になっている実をみせながら実の説明をしてくださる山田さん。お茶の木の葉を裏返して見てみると、一箇所に固まるようにして小さなお茶の実が固まってなっているのが見えました。この地域では茶農家の高齢化が進み耕作放棄茶園が多く見られるため、お茶の実をそこかしこで見ることができます。山田さんは2017年に揖斐川町へ移住し、この地にたねのしずく研究所を設立してお茶の実の研究を進めてきました。

お茶の実から油を抽出するには、上記の写真のような緑色の実を乾燥させて殻をはぎ、ミキサーで粉々にしてから専用の絞り機で搾ります。この油は人肌に優しく、抗炎症・抗酸化作用を持ち極めて保湿性に優れているそう。今ではこの茶実油の持つ高い化粧品としての性能に企業も注目しているそうです。耕作放棄茶園が多い地域というとネガティブな印象がありますが、山田さんは逆にこれを茶実油を広めるために活用し茶栽培の衰退しつつある春日地区に新たな魅力を生み出しています。

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茶畑の未来

増え続ける緑茶の需要に反比例するように減り続ける茶畑の光景。このような茶業界の現状に山田さんは強い危機感を抱いています。「お茶の世界では茶器を作る人やお茶を淹れる人と茶農家の間でほとんど交流がないから、茶農家はなぜ今自分たちのリーフ(茶葉)が売れないのかわからない。もっと茶畑をうまく活用できるような仕組みづくりが必要なのに自家生産・製茶・販売ではどうしても利益が上がらない。」こういった事情から、近年では自前の栽培方法をあきらめ大手飲料メーカーへの供給に切り替える人も多いそう。一見のどかに見える春日地区の茶畑の光景も山田さんによれば「あと5年、10年すれば無くなっている」かもしれない光景だと言います。このような茶農家の直面する課題に対して山田さんの茶実油を用いた耕作放棄茶園の新たな活用法はお茶業界の光になるのでないかと感じます。茶実油には茶業界を変革する可能性があります。

「よく『お茶は嗜好品』なんて言われるけれど、僕はお茶は日本人にとって必需品だと思う。お茶は、古くから日本人の健康を支えてきた大切なもの。お茶を必修科目にして、まずは教育から、次の世代に繋いでいくべきなんじゃないかな。」

山田さんの言葉が、お茶に対する人々の見方を変えるきっかけとなることを願っています。

(執筆:市川慧、魚住晴香、加藤あん)

たねのしずく研究所

岐阜県揖斐郡揖斐川町春日地区を拠点に、日本各地の休耕茶園で収穫する「茶の実」から採る茶実油(ティーシードオイル)と関連商品を製造販売しています。

代表の山田泰珠さんは東京の外資系エレクトロニクスメーカーを退職後Uターン移住し、両親の故郷である岐阜県揖斐川町春日地区の茶園に着目。40年以上にわたり地区全体で農薬不使用の茶作りを続けてきた地域で、高齢化が進み使われなくなった茶園を再利用し、茶実油による地域活性化と農薬不使用茶の普及を通じたサスティナブルなものづくりを行っています。

事業内容:日本産茶実油100%のスキンケアオイル、茶実油とニホンミツバチのミツロウだけで作る保湿クリーム、茶実油ミール(搾油粕を微粉末化した多用途洗浄剤)、食用茶実油、たね殻染め(チャ種子の種皮を煮出した染料を用いた抗菌効果のある草木染製品)の生産販売

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