Event report

2021.9.6

Z世代の「逃避」と向き合う : 「Z escape – 情報の海から 五感で私を掬い取る –」イベントレポート

FabCafe Nagoya 編集部

デジタル・SNSネイティブであるZ世代にとっての「Escape(逃げる)」

「Escape (逃げる)」を”情報の海から自身を切り離し、五感を用いて身体の感覚をなぞること”と仮定し、企画立ち上げからZ世代が中心となり、2021年7月17日にイベント「Zescape – 情報の海から 五感で私を掬い取る – 」を開催しました。

五感を研ぎ澄まし、時間を溶かすような活動する多様なZ世代の価値観を結集させ、トークセッション・ゲストとのワークショップを通して参加者それぞれが逃避を模索したイベントとなりました。

 

── ”逃避”と聞くと、ネガティブに聞こえるけれど、自分と日常生活を切り離して、一呼吸置くためのポジティブな逃避を伝えたい。

メンバーのこの一言から、本イベントの企画は始まりました。

 

SNSネイティブのZ世代にとって、隙間時間や余白をすぐに埋められる一方、しばしば情報の海に自分の身体が埋もれていく感覚がありました。
そこで、その海から離れることで、自分自身の身体感覚を取り戻すことができると仮定しました。
逃避することで日常生活と自分なりに向き合えるように、五感を掬い取る場をFabCafe Nagoyaから作るべくスタートしたのが、Zescapeです。

 今回、「Zescape」を形作るには、運営に関わっている大学生だけでなく、多くの方々の支援があったからこそ成り立つものでした。Z世代の価値観を一緒に実現していただく協力者を集めるため、名古屋の企業様にZescapeで実現したい世界観を伝えることからスタートしました。

  • Z世代の価値観を逃避という切り口から探る
  • Z世代だけでなく世代間の異なる価値観を織り交ぜ、より多角的な意見を取り入れたい
  • Z世代が自分たちの価値観を、自分たちの言葉、感覚を使って探求する

この三つを提案をする中で、有難いことに複数の企業様より賛同をいただけることになりました。特に、イベントの体験を作る上で欠かせない空間への実装においては、協賛企業様によって実現しました。Z世代の逃避、また五感を研ぎ澄ます体験を、会場装飾という観点においてどのように落とし込むかディスカッションする過程で、「Z世代の私たちにとって、”Escape(逃げる)”とは一体どのような存在なのか」を改めて問い直すことができました。

Zescapeを形作っていく際、空間装飾も重要な一つの要素でした。
空間設計を行うチームは、名古屋芸術大学スペースデザインコース4年生の勝大地さんと清水沙良さん。
チームアップ、空間作りをゼロから考えていきました。
FabCafe Nagoyaの
天井架構に着目し、イベントコンセプトである「情報の海に溺れる」から着想。日々議論を積み重ね、最終的には暖簾のような、半透明なフィルムを天井に設置することになりました。

会場に足を運んでくれる人が普段SNSで擦り減らしている「視覚」を休ませ、その他の感覚を研ぎ澄ますことができるように、という思いを込めて設計。
ディスプレイや看板で空間演出をされている名古屋市天白区の株式会社ファースト様に協力していただき、制作いたしました。
当日会場となった北側小上がりスペースには、全面畳を敷き、チルアウトできる雰囲気を演出。岐阜県の大野製畳株式会社様に協力いただき、今回はイベントに合わせたカスタマイズで制作をお願いしました。
このように多くの方々にご尽力いただき、学生の力だけでは到達できない、「五感」の演出が実現できました。

参加者アンケートにおいても会場装飾の満足度が高く、「空間装飾が新鮮で、身体感覚を研ぎ澄ますことができた」「畳によって、リラックスしながら他の参加者と話すことができた」との声をいただきました。
「空間もイベント構成の一部としたワークショップ設計」は、今後の新たなワークショップのあり方を指ししめす、一つの実験の場にもなりました。

 

第一部は、「Z世代の考える”心を溶かす時間”と身体感覚」をテーマに、様々な分野で活動しているZ世代と、心を溶かす時間を提供する大人たちによるトークセッション。Z世代の価値観を深掘り、これからの時代の価値観を、五感をテーマに語りました。

 


トークセッション冒頭は、それぞれ違う領域で活躍されるゲストの「自分自身を逃す体験や時間」についてFabCafe Nagoyaディレクターの魚住から問いかけから始まりました。後半は、会場のモニターに「没頭する」「言葉を交わす」「推し活」など9つのキーワードが投影。

MIKKEで様々な場づくりに取り組まれている井上さんは、「逃げる」というキーワードを聞いた時に、「そもそも何から逃げるのか、なぜ逃げたいと思うのか」から考えてみたと言います。

井上さん:
人によって逃げたくなる瞬間というのがそれぞれあると思います。僕の場合は「しんどいな、これ無理かも」と思った瞬間に逃げたくなります。自分が納得しきれていない状態のままで、やらなきゃならないという責任がどんどん積み重なってしまう時に、逃げたいと思うんですよね。例えば、フリーランスになると、仕事がなくなるなどの恐れがあるとどうしても逃げにくくなるのではないかと。でも、恐れは究極的にはなくならないから、その恐れとどうやって向き合うのかが大切だと思うんです。僕がやってる、恐れとの向き合い方がいくつかあります。

僕は、目の前にあるものに振り回されないということを大切にしています。例えば、Twitterを見ていて、嫌だなという感情を持った時は少し立ち止まって、「その言葉に踊らされないようにするにはどうすれば良いのか」、「相手の言葉の裏側には何があるのか」などを考えるようにしてるんですよね。実際、誰だってしんどい時にはしんどいって言いたい。でも、Twitterというメディアの特性か、誰かにとってはその言葉がトゲになったりします。だからこそ、ツイートした人を嫌いにならないようにする為にも、ゆっくり向き合いたいなと。

ファシリテーターの望月さんから、桂さんへ質問が投げかけられました。

望月さん:
落語家として、批評される対象として演じられていることについて、逃げ方や気持ちの切り替えは普段どうしていますか?

桂さん:
舞台に関していうと、逃げないという選択肢をとっていますね。むしろ逃げられないというか。その分、ほかの部分でいかに逃げられるのか、メリハリをつけているんです。

でも、自分自身は緊張するのがすごく苦手で、舞台に関しても、逃げたくはないけど、緊張してしまう。以前、緊張するのは自分の欲がある状態だと聞いたことがあって、その欲をどうやって捨てるのかを考えていますね。僕の場合は、散歩が自分の奥底と向き合える瞬間だと思っています。

普段、稽古は歩きながらやるんです。人間は歩く時は無意識の状態というか、歩幅や歩くリズムって、自分が本来持っているリズムや間合いだったりするんですよね。その状態で、稽古をすることで落語の台詞を自分自身に馴染ませていく。この時間は、自分に落とし込む作業であり、緊張をほぐしリラックスすることに繋がっています。セリフをブツブツ言っているので周りから見たら変な人なんですけどね(笑)

トークセッションの最後には、「あなたにとってエスケープとは何か」をゲストの方々にお話いただきました。Miquさんは、没頭は一人ではなくて、他の誰かと共有するものだと話します。

Miquさん:

私はDJを通して、人の逃げ道を作っていく活動をしていますが、自分にとってのエスケープは「没頭」ですね。DJを始める前から、音楽はBGMとして聞くよりも一つひとつの音を集中して、聴いて理解するのが好きです。一つひとつじっくり分析して聴くので、時間がとってもかかるし、他の人にとっては意味のない時間かもしれません。でも、自分にとってはそれが大切な時間であり、逃避する時間なんですよね。

その時間があるからこそ、今はDJとして他の人が没頭したり、逃げる時間を作ることができるんです。その没頭できた/できなかったの感想を他の人とシェアする瞬間が幸せに感じます。

 

桂さん:

僕は、「向き合うこと」だと思っています。日常的に、逃げているたびに逃げている自分と向き合っている気がします。例えば、仕事から逃げているときは最終的には落語家という軸に帰ってきているんですよね。その逃げている時間はある種、逃げている自分と向き合うことなのかなと。対照的に見えて表裏一体だと思います。

コロナ前後でも、考え方が変わったんです。コロナ前は、ずっと当時の日常が続くものだと思って、自分が知っている世の中の中で成長していくんだろうと思っていました。でも今は、自分の中と向き合う大切さ、細かい感情の動きを捉えることを実感しました。そういう意味で、内省や瞑想は自分にとって重要なテーマですし、今の方が生きやすいんですよね。ここがもしかしたら自分の活動に繋がっていくのかもとも思います。



井上さん:
僕は、「対話」ですね。もし明日、ご飯を食べられるお金がない状態になり、「どうやって生きよう」かと考えたら、やっぱり助けてくれるのは友達や信頼し合っている人だと思います。じゃあ「仲良い」ってどういうことだろうと考えた時に、仕事で力になった以前に、お互いにきつい時にきついって言いあったり、楽しさを共有しあったり、全く目的のない時間を共有した人が、何人いるのかじゃないかなと。

その人たちといることで自分がどれだけ安心できて、どれだけ逃げられる状態になれるのか、結構シンプルなことだと思うんです。明確に目的もゴールも答えもない、他愛もない話でお互いのことを知り合うというか。僕は相手のことを知ろうとするのが好きなので、なぜ嫌だと思ったのか、嬉しいと思ったのかを知ることで、相手の欲求を垣間見ることができるんです。お互いに言葉なくして欲しいものが少しずつわかる状態になっていくんですよね。

対話と聞くと、人との対話とも捉えられますが、自分自身との対話も含みます。相手のことを知るという行為を通して自分のことも知っていけるんですよね。自分が何を考え、何を恐れているのか。これも自分にとって逃避だと思っています。


望月さん:
私は「実験」ですね、試すということ。何がいいのか悪いのかなんて誰もわからないし、当然答えは一生見つからない。だから失敗も含めて許容する状況に自分の身をおいて、新しいことを見つけたら形にしてみて、馴染みがいい状態まで繰り返すことをよくします。実験すると、もの、仲間、そして舞台が生まれる。作ったら誰かに見せたくなるし、ものを作るためには誰かと繋がって一緒に作っていくし、それが世の中に浸透するかもしれない。

今日紹介した「DIG THE TEA」のメディア自体もサンドボックス、みんなが遊べる砂場と表現しています。誰も答えは持っていないけれど、答えという概念自体を捨てて好奇心がブーストされる環境を作ることで、物事をポジティブに捉えられるし、それがやっぱり僕にとっての実験なんです。それを共有していくのが逃げですね。

第二部のワークショップでは、ゲストにお越しいただいたMiquさんのDJと瞑想を組み合わせたエスケープを体験。
各グループごとにアイスブレイクをし、早速『瞑想×DJ』の時間へ。各自が畳の上でリラックスできる体勢を作り、MiquさんのテクノMIXが会場を包み込みました。

その後、『瞑想×DJ』で感じたことを、一人一人A4の紙にビジュアライズする個人ワークへ。
自分が逃避していると感じる瞬間の気持ち、エスケープを構成する要素となるキーワードを言語化し、A4の紙の上に付箋を貼っていきました。
グループ内では、お互いの付箋に書かれた文字とビジュアライズした絵に対して、質問が飛び交いました。

付箋に書かれたキーワードがのちに、自分の「エスケープ」に繋がっていきます。

最後は、これまでの流れを通して、参加者にエスケープする上でのキーワード・ポイントをフリップに記入。
一人一人が自分の「エスケープ」と向き合い、「エスケープ」とはなんなのか、自分はどのようにして「エスケープ」を生み出せるのかを考えることができた貴重な時間でした。
本イベントの企画当初は、情報に埋もれることから自分自身を切り離すことで、逃避できると仮定していました。トークセッションとワークショップを通して、自分を再確認することが逃避というアイデアが生まれる中、むしろ自分の輪郭を溶かして社会、自然と一体化することが逃避に繋がるという意見も生まれていました。

本イベントは、”Z世代の価値観を「逃避」から覗く”というコンセプト設計のイベントでした。「Z世代にとって”逃げる”とは何か」この一つの問いかけから始まり、ゲストと参加者が共に体験し、シェアする一つの実験の場となりました。

FabCafe Nagoyaで様々なイベントを開催する中で、これまでにない空間と体験、またそれぞれの価値観が混ざり合うことで、ポジティブな逃避と、それを実現する一つの仮定としての「五感」をどう扱うか、さまざまな意見が飛び交う場に。「Z世代の新しい価値観を探る」という前衛的なコンセプトに相応しい、遊び心とチャレンジに溢れるイベントになったのではと感じています。

今後もFabCafe Nagoyaは新しいカルチャーの担い手たちの実験の場として、多様なバックボーン・専門性・世代を巻き込み多角的な視点からの「問いに向き合う姿勢」こそが新しいムーブメントを起こしていくきっかけになると確信しています。こういった実験の場が多発的に生まれていくことが、世の中を変えるZ世代のパワーと、他世代との共創を生み出していくと考えています。


トークセッションのアーカイブ動画はYouTubeにてご視聴いただけます

 

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