Event report
2022.8.22
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
大量生産・大量消費・大量廃棄。
消費の後、“モノ”が棄てられる「リニアエコノミー」の一直線なフローは“いびつ”な形状だ。
本来、地球上の物質循環は、無機物を取り入れ、有機物を生産・消費・還元する、見事な“循環の輪”を辿るよう、プログラムされているからだ。
では、もし「廃材」を自然な循環の輪に還元する「デザイン」や「技術」があったら…。
茹るような暑さが続く2022年、夏。FabCafe Nagoyaでは、サーキュラー・エコノミー実現への一歩となる「デザインと技術」のデモンストレーションが行われた。
未来を切り開く案内人は、プロダクトデザインスタジオのRYOTA YOKOZEKI STUDIOと、慶應義塾大学大学院メディア研究科Future Craftsプロジェクトのメンバーだ。
RYOTA YOKOZEKI STUDIOデザイナー 横関亮太さん
自動車から家電や生活雑貨まで、幅広く工業製品のデザインを手がけるRYOTA YOKOZEKI STUDIOの横関亮太さん。日々、クライアントの工場で目にする「廃材」から、新たな価値創造の可能性を探るプロジェクト「CYCLE PJ」を手がけている。
デモンストレーションでは、ペットボトルのキャップや本体、リサイクル工場から集めたプラスチック素材を細かく砕き、ワッフルメーカーや湯煎にかけることで、手軽に、「デザイン性」のある素材に生まれ変わらせる実験が行われた。
CYCLE PJ/廃材そのものの色が活き、美しい表情に生まれ変わる
出来上がったのは、天然石の結晶や大理石のようなプレート。廃材の色や組み合わせのチョイス、成形後の風合いを想定した廃材の砕き方などを調整することで「デザイン性」が生まれるため、シンプルな作業の中にもデザイナーの腕が鳴る。
また、廃材を原料化するプロセスが省かれていることのメリットも大きい。成形方法次第では、食器やオーナメントとして展開することもできる。
原料が廃材であろうと、プロダクトデザイナーの手にかかれば、美しさと機能を持ち合わせた創造物が成立することが証明された。
工業廃材の新たな意義を模索する「CYCLE PJ」のアクション
サーキュラー・エコノミーでは、「廃棄物」という概念が存在しない。なぜなら、サーキュラー・エコノミーとは、生産段階から廃棄物を出さないよう「デザイン設計」される経済システムだからだ。
現在が、そこへ至る移行期間であるとすると、「廃材」がデザイン表現を持ち、実社会へ再び還元されるためには、企業の意識改革が必要だと、CYCLE PJの横関さんは話す。
大量生産している会社こそ、改めて、自社の製造ででる工業廃材と、その社会的インパクトや責任について再認識する必要があ流と思うんです。その工業廃材を再活用するには、効率だけではなく、会社もしくは個人の意義やストーリーが必要であり、それこそが付加価値となると考えています。
CYCLE PJ 横関亮太さん
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科専任講師で、Future Craftsプロジェクトを担う山岡潤一さん
では、「デザイン」を、廃材利用の“手法”として実装するために、「技術」はどうアプローチできるのか。
デモンストレーションには、マテリアル研究を通して「デジタル情報」を実社会で“実体化”する事を目指す、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科のFuture Craftsプロジェクトの山岡潤一さんが登壇。廃材のプロダクト化を簡易的に実現する「技術」を披露してくれた。
ビーズ状にされた様々な化学素材(写真右上)
六角形にデザインされた市販の発熱シート(写真左下)
材料は、電子レンジでグリルするための「発熱シート」と、PCLという生分解性プラスチックでできた「ビーズ状の樹脂」で、いずれも市販品だ。発熱シートを六角形の型にして、樹脂と、細かく砕いた廃材を入れ、電子レンジにかけるとプレートができるというもの。
革新的なのは、樹脂が接着剤の役割となるため、砕いた廃材なら何でも利用できる点。
そして、型は、ソフトウェアで自由にデザインできるため、プレートのみならず立体化することもできる点だ。
必要な時に、身近な素材で、思い通りのものを作ることができる。コンパクトな、デジタル・ファブリケーション(デジタルデータでのものづくり)の仕組みに仕上げたのは、山岡さんのこんな思いがある。
廃材からのデジタル・ファブリケーションが一般化したら、廃材を利用すること自体が楽しくなりますよね。環境への罪意識ではなく、楽しみたい、というモティベーションから、子供がおもちゃを手作りするなど、イノベーティブな環境が生まれるのではないかと考え、Future Craftsプロジェクトを実施しています。
Future Craftsプロジェクト 山岡潤一さん
Floating Pixels, Junichi Yamaoka (2020)
Future Craftsプロジェクトのビジョンは、近未来のその先をも描いている。サーキュラー・エコノミーの中で、デジタル情報が物質循環に組み込まれる、という、SFのような世界だ。
動植物では、遺伝情報をもとに細胞が分化し、形・機能が生まれていくように、デジタル情報を持つ物資にも、同様の能力を与える技術を開発したいとしている。
例えば、「Floating Pixels」という研究(動画)。本来、画像の色情報を持つ最小“単位”でしかない「ピクセル」を“実体化”する試みだ。
磁性を与えたピクセルが、集合・拡散する性質を活かし、例えば、ディスプレイ画面に手をかざすと手の形を再現するような、「触れ合えるコミュニケーションツール」となることを想定している。
こうした、次元を超えたデジタル情報に”遺伝子”情報を与えることができれば、性質に個性が生まれるなど、未知の世界が開ける。
そんな未来では、廃材だけでなく、全てのものが美しい円を描くよう、循環しているに違いない。
ただ、一直線に、棄てられる「廃材」。このデモの体験後、「廃材」と「デザイン」「技術」との接点は案外身近にあり、それらによって、廃材の新たな可能性が確かにあることを垣間見た気がした。
そもそも、「棄てる」という行為は、「豊かさ」の代償でもある。
では、「豊かさ」とは。
私たち自身が、その定義を見直した先に、地球本来の循環を守る、新たな生活スタイルがあるのではないだろうか。
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RYOTA YOKOZEKI STUDIO
プロダクトデザインスタジオ。
プロダクトデザインとクリエイティブディレクションを軸に、 家電製品、家具、生活用品、 アートに至るまで、国内外の様々なプロジェクトを手掛ける。
世の中に溢れるモノたちはその体験を表現した商品または形になっているだろうか。
体験に沿うあるべき形とはなんだろうか。
そうした問いをもとに、より新鮮で美しい体験、より身近で面白い体験、そして今までにない新しい体験を示す形を模索し提示する。
プロダクトデザインを通じて小さな価値シフトを起こす一端を担うべく、生活に寄り添う心地よさをデザインし、モノの価値を体験価値に基づく造形によって丁寧に届け、共感を生むことにより、変わりゆく現代の新たな定番として緩やかに生活に取り入れられ馴染むことを目標とする。
プロダクトデザインスタジオ。
プロダクトデザインとクリエイティブディレクションを軸に、 家電製品、家具、生活用品、 アートに至るまで、国内外の様々なプロジェクトを手掛ける。
世の中に溢れるモノたちはその体験を表現した商品または形になっているだろうか。
体験に沿うあるべき形とはなんだろうか。
そうした問いをもとに、より新鮮で美しい体験、より身近で面白い体験、そして今までにない新しい体験を示す形を模索し提示する。
プロダクトデザインを通じて小さな価値シフトを起こす一端を担うべく、生活に寄り添う心地よさをデザインし、モノの価値を体験価値に基づく造形によって丁寧に届け、共感を生むことにより、変わりゆく現代の新たな定番として緩やかに生活に取り入れられ馴染むことを目標とする。
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横関亮太
1985年生まれ、岐阜県出身。
2008年、金沢美術工芸大学製品デザイン学科卒業後、2008年から9年間、ソニー株式会社クリエイティブセンターに勤務。
2016年「AIZOME chair」がVitra Design Museumのパーマネントコレクションに選ばれ、翌年、RYOTA YOKOZEKI STUDIO株式会社を設立。
2018年からは名古屋工業大学で非常勤講師を務める。
1985年生まれ、岐阜県出身。
2008年、金沢美術工芸大学製品デザイン学科卒業後、2008年から9年間、ソニー株式会社クリエイティブセンターに勤務。
2016年「AIZOME chair」がVitra Design Museumのパーマネントコレクションに選ばれ、翌年、RYOTA YOKOZEKI STUDIO株式会社を設立。
2018年からは名古屋工業大学で非常勤講師を務める。
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Future Crafts
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科のプロジェクト。
マテリアルインタラクションについて考え、インターフェイスやファブリケーションなどのテクノロジー開発、メディアアートの表現、キットなどの社会実装の実践を目指す。
プロジェクトとしてデジタル情報を実世界に実体化する方法を研究する。
カスタマイズされた形に変形する未来の3Dインターフェースなど、Digital Materializationの技術で最適な食べ物、衣服、空間を作り出し、情報と実世界を繋ぐメディア・アートなど、幅広い分野への応用を模索する。
職人的な視点から、様々な身近な素材・新素材などを丁寧に観察し、マテリアルをハックを目指し、斬新な切り口で、様々な社会課題の解決法を提案している。
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科のプロジェクト。
マテリアルインタラクションについて考え、インターフェイスやファブリケーションなどのテクノロジー開発、メディアアートの表現、キットなどの社会実装の実践を目指す。
プロジェクトとしてデジタル情報を実世界に実体化する方法を研究する。
カスタマイズされた形に変形する未来の3Dインターフェースなど、Digital Materializationの技術で最適な食べ物、衣服、空間を作り出し、情報と実世界を繋ぐメディア・アートなど、幅広い分野への応用を模索する。
職人的な視点から、様々な身近な素材・新素材などを丁寧に観察し、マテリアルをハックを目指し、斬新な切り口で、様々な社会課題の解決法を提案している。
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山岡 潤一
マテリアルハッカー、研究者、メディアアーティスト
慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科 専任講師、デジタルハリウッド大学大学院 非常勤講師、東京大学 客員研究員(JST ERATO 川原万有情報網)
1988年生まれ。2013年 慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了、2015年同大学政策・メディア研究科博士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部 非常勤講師、日本学術振興会特別研究員(PD)、 マサチューセッツ工科大学 訪問研究員、東京大学大学院情報学環 特任助教を経て現職。
慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科 専任講師、デジタルハリウッド大学大学院 非常勤講師、東京大学 客員研究員(JST ERATO 川原万有情報網)
1988年生まれ。2013年 慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了、2015年同大学政策・メディア研究科博士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部 非常勤講師、日本学術振興会特別研究員(PD)、 マサチューセッツ工科大学 訪問研究員、東京大学大学院情報学環 特任助教を経て現職。
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FabCafe Nagoya
ものづくりカフェ&クリエイティブコミュニティ
デジタルファブリケーションマシンと制作スペースを常設した、グローバルに展開するカフェ&クリエイティブコミュニティ。
カフェという”共創の場”でのオープンコラボレーションを通じて、東海エリアで活動するクリエイター、エンジニア、研究者、企業、自治体、教育機関のみなさまとともに、社会課題の解決を目指すプロジェクトや、手を動かし楽しみながら実践するクリエイティブ・プログラムなどを実施。
店頭では、農場、生産者、品種や精製方法などの単位で一銘柄とした『シングルオリジン』などスペシャリティコーヒーをご提供。こだわり抜いたメニューをお楽しみいただけます。デジタルファブリケーションマシンと制作スペースを常設した、グローバルに展開するカフェ&クリエイティブコミュニティ。
カフェという”共創の場”でのオープンコラボレーションを通じて、東海エリアで活動するクリエイター、エンジニア、研究者、企業、自治体、教育機関のみなさまとともに、社会課題の解決を目指すプロジェクトや、手を動かし楽しみながら実践するクリエイティブ・プログラムなどを実施。
店頭では、農場、生産者、品種や精製方法などの単位で一銘柄とした『シングルオリジン』などスペシャリティコーヒーをご提供。こだわり抜いたメニューをお楽しみいただけます。
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東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。