Project Case

2022.10.25

脱バイアスへの挑戦② 前編 “天然”醸造に学び、「ステークホルダー」を俯瞰せよ!

名古屋樹脂工業・淺沼組名古屋支店・田澤電材/合同プログラム Report Vol.2

バイアスのない世界は、開かれた。

「未知」に立ち向かうことを決めた大人たちがいる。

樹脂メーカー、ゼネコン、電材商社と肩書きは様々。しかし、柔軟な思考や態度を“装備”し、新時代に挑もうとする意気込みはひとしい。FabCafe Nagoya主催 組織のバイアスを破壊する 人財開発プログラム 第1回目では、未知の課題に先入観なく柔軟に臨む“態度”を学んだ。 第2回目となる今回は、味噌・醤油の天然醸造を題材に、私たちの生活や経済活動に関係する「ステークホルダー=利害関係者」を新たな視点で捉え直す。見えてきたのは、バイアスのない世界にのみ存在する本質的な“ある問い”だった。

  1. アイスブレイク「惑星探し」
  2. フィールドワーク・リサーチ「小田商店」
  3. インスピレーション・トーク「糀屋三左衛門  村井裕一郎 当主」
  4. アクタント・マッピング「小田商店と新しい挑戦を考える」
  5. 共有
  6. ラップアップ

写真左上/ 河川敷に集合するメンバー、写真右下/ 穴の空いた「惑星発見バインダー」を色々なものに当て、自分にとっての「惑星」をつくり出す。新たな視野を手に入れるアイスブレイクだ。

「惑星探し」でウォーミングアップ

今回の集合場所は愛知・豊橋市。市内を流れる河川敷に集まったのは、成形加工メーカー「名古屋樹脂工業株式会社」、建設会社「株式会社 淺沼組名古屋支店」、電材商社「田澤電材株式会社」の3社のメンバーだ。

皆、穴の空いたバインダーを取り出し、写真撮影…?実はこのバインダーは、穴を草やアスファルトなど身の回りのものに当てて覗き込むと、オリジナルの「惑星」がデザインできる仕掛けになっている。このアクティビティで「少年の心」に切り替わったメンバー。バイアスを外す準備は万端だ。

 

愛知・豊橋市にある「小田商店」を訪れた参加者

ウォーミングアップを終えて向かったのは、豊橋市で伝統的な豆味噌やたまり醤油の天然醸造蔵を営む「小田商店」。ここでのフィールドワーク・リサーチが今回のメインアクティビティとなる。

醤油を醸造する蔵を順番に見学する参加者

築100年を越す、土蔵の“香り”や“温度”…

明治38年創業、約120年もの歴史をもつ「小田商店」の醸造蔵は、漆喰を塗り直しながら使い続けているという伝統的な土蔵造り。昼間でも薄暗くひんやりしていて、味噌・醤油が発する独特の深い香りが蔵全体に漂う。4代目代表・小田竜二さんについて歩いていくと、まず醤油蔵に案内された。

醤油を醸造する杉樽を梯子で登るのが小田商店代表・小田竜二さん

創業当初から100年近く使い続けているという伝統的な醸造用の杉樽は直径2メートル・高さ3メートルほどの大きさ。小田さんは木製の梯子を登って杉樽内の醤油の発酵状態を確かめた。これから、職人が行う日常的な作業を見せてくれるという。

醤油の醸造過程である「もろみ」の攪拌作業を行う職人・近田さん。樽内側の白い付着物が「蔵付き酵母」

1世紀かけて住み着いた「酵母」が、“ただ”働くだけ…

職人が杉樽の上部に渡した板の上に立ち、金属の棒で樽内をかき混ぜ始める。これは醤油づくり中盤で行う「もろみ」を攪拌する作業だ。「もろみ」とは、蒸した大豆と発酵を促す“素”となる「種麹」を表面に付け、麹菌を繁殖させて「豆麹」をつくった後、食塩水を加えて杉樽に仕込んだもの。液状の「もろみ」を攪拌し1年半から2年かけて発酵・熟成させ、圧搾機にかけるとようやく醤油ができ上がる。目を奪うのは樽の内側に見える“白い付着物”。これは1世紀近くかけて住み着いた「蔵付き酵母」だ。この微生物こそが、蔵独特の複雑な香りや昔ながらの深い味わいをつくり出す。

終始笑顔で作業し続ける職人の近田さん。材料が均一に混ざっているかを判断するのは、攪拌道具から伝わる「もろみ」の“手応え”だという。醤油樽は全部で100器。これらの「もろみ」を日々管理するのはさぞかし大変だろうと参加者が声をかけると、意外な答えが返ってきた。

 

人ができることはわずか。私たちは“麹”が発酵してくれるのを見守るだけ

(写真/左上)代表・小田竜二さん、(写真/右上)味噌樽上部に乗る重石は合わせて2t
(写真/左下)味噌蔵を見学する参加者、(写真/右下)材料の大豆を加工する工程は機械化されている

”しん”と静まり返る蔵…

その後、小田さんの案内のもと、大豆を加工する工場や味噌蔵を見学。豆味噌の材料である「豆麹」をつくる際、まず大量の大豆を蒸してミンチにし発酵を促す微生物「種麹」を仕込む。この作業は効率性がカギとなるため機械化されていたが、その後視察した味噌蔵は仕込んでから1、2年“寝かせるだけ”とのことで、醤油蔵よりも更に“しん”と静まり返っていた。

炊いた米に種麹を仕込んだ米麹は合わせ味噌などの材料となる

“天然”醸造とは

小田商店の天然醸造は、“薄暗く”“ひんやり”し、あちこちから「蔵付き酵母」が生み出す深い“発酵の香り”のする、“しん”とした空間で行われていた。麹が材料の発酵を促すために「最低限の環境を整えるだけ」という”天然”醸造の視察は、“五感”が呼び覚まされるような体験だった。

 

〜後編へ続く〜

  • 小田竜二

    日乃出豆みそ・たまり醸造元 小田商店4代目

    明治36年創業の小田商店4代目。勤続30年。

    昔ながらの伝統醸造法で味噌造りを営む。100年近く使い続ける杉樽に住みつく発酵菌(麹菌)の生きた味噌や醤油を販売する。

    明治36年創業の小田商店4代目。勤続30年。

    昔ながらの伝統醸造法で味噌造りを営む。100年近く使い続ける杉樽に住みつく発酵菌(麹菌)の生きた味噌や醤油を販売する。


クリエイター

「惑星発見バインダー」制作協力

  • 小瀬古 智之

    KOSEKO DESIGN&PRESS / 小瀬古文庫 / 擬態デザイナー

    擬態デザイナー。1985年埼玉県生まれ。京都・大阪・東京を拠点に活動。武蔵野美術大学大学院修士課程デザイン専攻修了。専門はヴィジュアルコミュニケーションデザインで、視知覚と認識に関するデザインリサーチを行う。認識の関係性を再構築する表現をデザインの観点から明らかにし、その成果を展示・発表している。また、アートブック出版レーベル「小瀬古文庫」としても活動中。
    https://gitaipress.com/
    Tomoyuki Koseko was born in 1985 in Saitama, Japan. He graduated from Musashino Art University with a master’s degree in design. He specializes in visual communication design and is conducting research on visual perception and recognition. He is currently active in Kyoto, Osaka, and Tokyo. Through his designs, he clarifies the cognitive relationship between different reconstructed perceptions. He presents the results of his research through exhibitions and art books. Tomoyuki is actively publishing through his art book label Koseko Bunko (小瀬古文庫). Some of his most recent exhibitions include Astronomy for Breakfast (2022, Shenzhen) and Fictional Landscape (2019, Taipei). He has also received the EricZhu award at UNKOWN ASIA 2020 and was featured in the television program Tamori Club.
    擬態デザイナー。1985年埼玉県生まれ。京都・大阪・東京を拠点に活動。武蔵野美術大学大学院修士課程デザイン専攻修了。専門はヴィジュアルコミュニケーションデザインで、視知覚と認識に関するデザインリサーチを行う。認識の関係性を再構築する表現をデザインの観点から明らかにし、その成果を展示・発表している。また、アートブック出版レーベル「小瀬古文庫」としても活動中。
    https://gitaipress.com/
    Tomoyuki Koseko was born in 1985 in Saitama, Japan. He graduated from Musashino Art University with a master’s degree in design. He specializes in visual communication design and is conducting research on visual perception and recognition. He is currently active in Kyoto, Osaka, and Tokyo. Through his designs, he clarifies the cognitive relationship between different reconstructed perceptions. He presents the results of his research through exhibitions and art books. Tomoyuki is actively publishing through his art book label Koseko Bunko (小瀬古文庫). Some of his most recent exhibitions include Astronomy for Breakfast (2022, Shenzhen) and Fictional Landscape (2019, Taipei). He has also received the EricZhu award at UNKOWN ASIA 2020 and was featured in the television program Tamori Club.

  • 名古屋樹脂工業株式会社

    成形加工メーカー

    1958年(昭和33年)創業。

    樹脂シートを用いた成形加工を行う。コンビニの看板や、カーディーラーのメッキ看板、アニメキャラクターの実物大立像、有名ミュージシャンの透明ピアノ、その他、半導体関係、医療機器関係のカバーなどを製造。

    webサイト

    1958年(昭和33年)創業。

    樹脂シートを用いた成形加工を行う。コンビニの看板や、カーディーラーのメッキ看板、アニメキャラクターの実物大立像、有名ミュージシャンの透明ピアノ、その他、半導体関係、医療機器関係のカバーなどを製造。

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  • 株式会社 淺沼組

    建設会社

    淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
    以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。

    「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
    ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。

     

    Webサイト

    淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
    以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。

    「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
    ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。

     

    Webサイト

  • 田澤電材株式会社

    電材商社

    1934年(昭和 9年)創業。

    販売する商品、サービスを通じ、お客様の快適と幸せづくりに貢献することを理念とする。

    照明器具やエアコンはじめ太陽光や蓄電池、EV機器などの電気設備資材、100万点以上を取り扱う。

    webサイト

    1934年(昭和 9年)創業。

    販売する商品、サービスを通じ、お客様の快適と幸せづくりに貢献することを理念とする。

    照明器具やエアコンはじめ太陽光や蓄電池、EV機器などの電気設備資材、100万点以上を取り扱う。

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  • 加藤 修平

    株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

    ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。

    ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。

  • 斎藤 健太郎

    FabCafe Nagoya コミュニティマネージャー

    名古屋における人ベースの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。インドカレーと猫が好き。

    名古屋における人ベースの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。インドカレーと猫が好き。

  • 居石 有未 / Yumi Sueishi

    FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング

    名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
    美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
    FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
    好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。

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    FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
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Author

  • 東 芽以子 / Meiko Higashi

    FabCafe Nagoya PR

    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

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