Project Case
2022.11.28
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
バイアスのない世界は、開かれた。
「未知」に立ち向かうことを決めた大人たちがいる。
樹脂メーカー、ゼネコン、電材商社と肩書きは様々。しかし、柔軟な思考や態度を“装備”し、新時代に挑もうとする意気込みはひとしい。FabCafe Nagoya主催 組織のバイアスを破壊する 人材開発プログラム 第1回目では、未知の課題に先入観なく柔軟に臨む“態度”を学んだ。 第2回目となる今回は、前編で味噌・醤油の天然醸造蔵を視察し五感が呼び覚まされるような体験をレポートした。後編では、私たちの生活や経済活動に関係する「ステークホルダー=利害関係者」を新たな視点で捉え直す。見えてきたのは、バイアスのない世界にのみ存在する本質的な“ある問い”だった。
- アイスブレイク「惑星探し」
- フィールドワーク・リサーチ「小田商店」
- インスピレーション・トーク「糀屋三左衛門 村井裕一郎 当主」
- アクタント・マッピング「小田商店と新しい挑戦を考える」
- 共有
- ラップアップ
“天然”と”人工”を決めるのは…?
前編で“天然”醸造を視察して得た経験は、この後、あるアクションへと繋がっていく。
その前のブリッジとしてFabCafe Nagoyaが用意したのはインスピレーション・トークだ。参加者のメンターとなるべく登壇したのは、なんと創業600年!室町時代から現代に「種麹」づくりを伝承する糀屋三左衛門の29代当主・村井裕一郎さん。「種麹」という微生物を長年研究し発酵のプロセスを熟知する村井さんが展開したのは、参加者へのシンプルな問いかけだった。
「野イチゴとビニールハウスで育ったイチゴ、どちらを食べたいですか?」
「野山に“自然と”生えるキノコと、“人が育てた”キノコでは?」
「“天然”鯛と“養殖”鯛では?」
「里山の暮らしで、人間が管理する樹木は“天然”ですか?“人工”ですか?」
それぞれの嗜好こそあれ、往々にして選択の基準になるのは「人間の目的に適うか否か」ではないか。村井さんの問いかけは示唆に富むものだった。
(写真/左上)糀屋三左衛門29代当主・村井裕一郎さん
“麹”は「ステークホルダー(利害関係者)」という視点
これは、“天然”醸造にも問うことができる。
食品が“発酵”しているか“腐敗”しているかの線引きは、人間の目的に沿うか否かでしかない。微生物にしてみたら、いずれの状態でも生き残るための活動をしているに過ぎないからだ。そう考えると、醤油や味噌づくりの際に人間が関わることができるのは自分たちが決めた目的(好みの仕上がり)に適した環境を再現することのみ。村井さんの言葉は、小田商店・職人のそれとオーバーラップした。“微生物=麹”という「ステークホルダー(利害関係者)」がその“目的=ビジョン”に沿って活動する結果、”天然”醸造が成立するのではないか。村井さんは達観していた。“麹”をもステークホルダーに取り込むという大きな視点こそ、脱バイアスの態度ではないか、と。
バイアスを払拭する「アクタント(行為者/物)・マッピング」
実は、私たちの様々な活動は多くの「ステークホルダー」に支えられている。バイアスのかかった線引きなしに広く「ステークホルダー」を認識し直せば、未知なる状況に置いても柔軟に新たな価値を見出すことができるのではないか。「脱バイアス=俯瞰する態度」を具体的アクションに落とし込むトレーニングとしてFabCafe Nagoyaは「ヒューマン=人間」と「ノン・ヒューマン=非人間」に分けて、それぞれの存在や繋がりを考える「アクタント(行為者/物)・マッピング」を提案した。
アクタント・マッピング
仮プロジェクト:「小田商店と新しい挑戦を考える」
- 目的に関わる一次的・直接的アクタントを書き出す
- 目的に関わる二次的・間接的アクタントを書き出す
- 上記の関係性を見つけ「ソリューション=新たな行動の導線」を考える
(写真/左上)アクタント・マッピングではホワイトボード一面に関係図を“見える化”する。思考の推移に準じて付箋を動かすことができる。
味噌・醤油の天然醸造蔵を営む「小田商店」が新しい挑戦をすると仮定して、参加者はまず、黄色い付箋にアクタント(行為者/物)を書き出した。直接的なアクタントは「大豆」や「種麹」など「ノン・ヒューマン=非人間」も対象だ。また「重石」や「天候」、敷地内に住みついた「猫」などの二次的要素にまでも視点を広げる。
“アクタント”は黄色い付箋に、その“関係性”を青い付箋に書き出し導線を「見える化」する
「付加価値」を俯瞰せよ!
その後、青い付箋を使ってアクタントどうしの関係性を考えソリューションを導く。ここで、フィールドワーク・リサーチ、そしてインスピレーション・トークで得た視点が活きる。
例えば、参加者のひとりが導いたのは「消費者が生産者になる」というアクション。小田商店では、味噌や醤油の材料である豆麹・米麹自体のニーズが近年拡大していると聞いた参加者は、消費者が“自分でつくる”ということに「付加価値」を見出していることに着目した発想だ。
(写真/左上)米麹を仕込む麹室、(写真/右上)小田商店ではかつて隣接する豊川で材料や商品を運搬していた、(写真/左下)出来上がった味噌、(写真/右下)出来上がった醤油はタンクで管理する
「ステークホルダー」は“ただ”そこに…
また、ある参加者は、小田商店の「歴史」や“五感”で感じられる「土蔵の魅力」こそ「付加価値」であると指摘した。ソリューションとして、容器を持参すれば醤油や味噌を蔵で詰めてもらえるという購入方法を考えた。昭和初期までは当たり前だった慣習だが、価値が螺旋状に変遷した現代の消費者には新鮮に響くだろう。参加者が見つけ出した「消費者の思考の変化」「自社の歴史」「五感での体験」etc…こうした「ステークホルダー」は、“ただそこにある”だけであり、私たちが意識的にフォーカスしないと気づくことができない。
(写真/右上)糀屋三左衛門・村井裕一郎さん「五感は人間だけの独自性。今後も意識し続けてほしい」(写真/右下)右・ロフトワーク加藤修平
バイアスのない世界の「答えのない問い」
バイアスを外しステークホルダーを「俯瞰」するという“態度”を手に入れた参加者。ラップアップでは、プログラムを監修するロフトワーク、クリエイティブ・ディレクターの加藤修平からアクタント・マッピングについて興味深い説明があった。
現代のサービスやデザインは産業化の中で“人間にとって良いもの”という前提に成り立っています。アクタント・マッピングは、どんな生活や経済活動にも自然や動物、地球環境など「非人間」が関わっていることを再認識させてくれます。サービスやデザインが誰にとって“自然”で、何が“不自然”か。「答えのない問い」に向き合い続けてほしいです。(加藤)
天然醸造蔵で五感を目覚めさせ、メンターから「答えなき問い」に向き合う“柔軟な態度と思考”を教わった参加者たち。ワーク終了後の表情からは、すでに自信さえ伺えた。
“装備”は完璧だ。さあ、次なる挑戦は…?!
〜第3回へ続く〜
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村井 裕一郎
糀屋三左衛門 種麹屋29代当主
1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後渡米し、国際経営学修士(MBA in Global Management) を取得。帰国後すぐに家業に入り、現場での経験を積んだのち2016年糀屋三左衛門第二十九代当主となる。新しい発酵文化の創造をめざし、世界的に有名なレストランを始め海外取引など、種麹の市場を拡大する新規事業に取り組んでいる。種麹メーカーの経営者として国内外に麹を伝える講演活動をおこなう傍ら、2020年4月より京都芸術大学大学院に入学、伝統とデザイン思考について研究を開始している。
1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後渡米し、国際経営学修士(MBA in Global Management) を取得。帰国後すぐに家業に入り、現場での経験を積んだのち2016年糀屋三左衛門第二十九代当主となる。新しい発酵文化の創造をめざし、世界的に有名なレストランを始め海外取引など、種麹の市場を拡大する新規事業に取り組んでいる。種麹メーカーの経営者として国内外に麹を伝える講演活動をおこなう傍ら、2020年4月より京都芸術大学大学院に入学、伝統とデザイン思考について研究を開始している。
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株式会社 糀屋三左衛門
室町時代創業の種麹メーカー
糀屋三左衛門は、麹とともに600年、日本の「おいしい」に寄り添い続けてきました。わたしたちは麹のさらなる可能性を見出し、麹で世界の食文化に貢献していきます。糀屋三左衛門は、麹とともに600年、日本の「おいしい」に寄り添い続けてきました。わたしたちは麹のさらなる可能性を見出し、麹で世界の食文化に貢献していきます。
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株式会社 淺沼組
建設会社
淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。
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加藤 修平
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
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斎藤 健太郎
FabCafe Nagoya コミュニティマネージャー
名古屋における人ベースの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。インドカレーと猫が好き。
名古屋における人ベースの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。インドカレーと猫が好き。
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居石 有未 / Yumi Sueishi
FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング
名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。
バイアスを外す
「合同プログラム」
二期生募集中!
クリエイティビティあふれる、手触り感を大切にした実践的なワークを通し、未来の価値基準である「サーキュラー・エコノミー」や「ダイバーシティ」などについての理解を深め、組織の視座を高める複数社合同プログラムを開催しております。
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東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。