Project Case
2022.12.22
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
秋の澄み切った青空が広がる久屋大通公園。FabCafe Nagoya前のシバフヒロバで体操しているかのような大人たち。
先月、合同プログラム3回目のワークを始めるにあたり、成形加工メーカー「名古屋樹脂工業株式会社」、建設会社「株式会社 淺沼組名古屋支店」、電材商社「田澤電材株式会社」の3社のメンバーが、あるウォーミングアップを行っていた。
(写真/左上、左下、右上)ミラーリングでポーズをとる参加者からは常に笑い声が。(写真/右下)空想のバスケットボールを“パス”する。
「インプロビゼーション」で“心理的安全”を確立
相手のポーズや表情をミラーリング(真似)する。空想のボールを相手に渡す。相手の動作に応じてリアクションし、次の動作を創造するフィジカルな“即興”連想ゲームだ。「即興=インプロビゼーション」とは「前もって(pro)見(vison)ない(im)」という意味がある。予測できないことにバイアスを持たずどうリアクションするか。それがウォーミングアップの狙いだ。
ミラーリングで相手を深く注視すると、自分のリアクションと相手の意識的動作が同時に進行しているかのような錯覚が起きる。空想のボールを“パス”するには相手のアイコンタクト(リアクション)が必須と気づく。互いに即興でリアクションしあう中で、無意識に「受け入れる/受け入れられる」ことを体感する。
面白くなくて良い。次につながる可能性を提供すれば相手が解釈してくれる。そこには、チームが未知に臨む時に必要となる「心理的安全(非難や拒絶の不安なく自己表現できる状態)」が自然と確立していた。
専修大学ネットワーク情報学部 教授 上平崇仁さん
“面白い”デザインは廃れ/捨てられない
今回のファシリテーターは、専修大学ネットワーク情報学部でデザイン学の教鞭を執る上平崇仁さん。サーキュラーエコノミーの実現には“ゴミ”を出さないライフ/ビジネス・スタイルが鍵となるが、デザインが解決の糸口となり得る興味深いエピソードを紹介してくれた。
例えば「輪ゴム」。私のお気に入りの輪ゴムは、カラフルで動物の形をしています。安価な輪ゴムは日用品でついつい使い捨ててしまうけれど、動物形の輪ゴムは高価でも大切に使おうと思ったり、ギフトにもなり得る。(上平さん)
デザインが生む付加価値は、いわば“魔法”のようにプロダクトを魅力あるものにトランスフォームさせ、廃れさせない。ひいては、プロダクトが“ゴミ”として捨てられないことへ貢献する、というのである。
“電流が走る”デザインとは?
では、“捨てない”アクションへと人の心を動かす「面白い」デザインとは?
すでに知っているモノはコモディティ化(一般化)してしまうが、全く新しいモノをつくり出すのは至難の業。しかし、既知のモノを違う角度から見てみたらどうだろう、と上平さんは語り出した。
例えば、色の名前がない12色のカラフルなクレヨン。衛生写真に写る世界の海や川の色を再現した12色は、“色の多様さを知る体験”という価値がデザインされています。まさに、海=青という先入観をなくして感受性を高めるプロダクト。こうした「二律背反」の中に、既知のモノと出会い直すチャンスが生まれるのではないでしょうか。(上平さん)
「色の定義はないが、特定の色であるクレヨン 」
「決して自分のモノにならない、サブスク制のシューズ」
「二律背反」であるモノには、不思議にも心惹かれる魅力が生まれる。
知っているモノに、知らない側面を見出す。「二律背反」は当たり前を中心に据えた時のフレームの境界に見ることができるのではないか。もしくは、二つの既知が偶然重なるところにあるのかもしれない。いずれにしても、既知を違う角度から“再度知る”ことで、人の好奇心を掻き立てる電流が走ることに間違いはない。
既知を「リ(再)・デザイン」する
既知と出会い直し、より価値あるモノへ「リ(再)・デザイン」するため「ありそうでない、なさそうである」をテーマに商品のプロトタイピングへ移行した。
すると、2人組4チームのアプローチには、第1回目と比べてそれぞれの個性が見られた。素材に着想を求め、ひたすら材料を吟味するチーム。材料をつなぎ合わせるなど、とにかく手を動かしながらひらめきを待つチーム。「暑いのに寒い」「塩なのに甘い」など「矛盾」のリスト化から始めたチームもあった。だが、総じて言えるのは、プロトタイピングへの導入が早くなったこと。アイディアが豊富に出るようになったこと。何より、相手に臆さず自己表現できるようになったこと、だ。
2時間の試行錯誤の結果、4チームがそれぞれ2作品ずつアイディアを形にした。
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ドリンクホルダー「こぼしーそー」
2人でバランスを取りながらドリンクを飲むためのホルダー。どちらかが飲み過ぎたらバランスが崩れ、傾くともう一杯注文するシステムにもつながる。
ネーミングが神。不安定になることでコミュニケーションが生まれ、それが価値となる(上平さん評)
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マウス「ネウス」
PCのポインティング・デバイス、マウスが猫の形をしていて、猫のような動作をする。
ネウスは仕事の邪魔をしそうだが、動かして“戯れて”いるうちに、PC上でアイディアがまとまるかも(FabCafe Nagoya 居石評)
プロトタイプからブランディングに拡大
ワークの初めに矛盾をリスト化したチームからは、プロトタイプのみならず「いいモノは無限に、都合の悪いモノは食べて消費する」という、モノの性質を二分化するというブランディングのアイディアが生まれた。良い水、美味しい空気といった自然も巻き込み、多くの人が好む豆腐の食感までも、環境に良く、好まれるものは「無限化」する。一方、その時だけ必要なペンなどは小型化し使い終わったら「食べられる」ようにする。マスクや弁当箱など使い捨てのモノを食べてしまえば“ゴミ”は出ない。矛盾のリストに関連性を見つけたことから生まれたアイディアだが、「場当たり的でなく、サーキュラーエコノミーまで踏まえた素晴らしい展開(上平さん評)」…となった。
4時間以上に渡る合同ワークだが、粘り強く未知に向き合ったメンバーからは、終始笑顔が溢れていた。そして最後に、こんなコメントを寄せてくれた。
問題解決が目的だったら落とし所を決めるという“終わり”があるが、今回のプロトタイピングは、講評後の発想が広がって面白かった
ウォーミングアップがどうつながるか?と疑問に思ったが、発想の転換や、まずは相手を受け入れるという態度が自然と身に付き、その後のワークで良いアクションができた
全5回の合同プログラム。4回目の次回は、サーキュラーエコノミーにおいて、より実践的なトレーニングを行う予定だ。
参加者にバイアスは、もうない。“身体性”の赴くまま未知に向き合い、リアクションする。そうした態度や手法を体得した今、まもなくプログラムのクライマックスを迎える…!
〜第4回へ続く〜
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上平崇仁
研究者 / 実践者 / 教育者
1972年鹿児島県阿久根市生まれ。筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。 グラフィックデザイナー、 東京工芸大学芸術学部助手を経て、2004年より 専修大学ネットワーク情報学部勤務。現在はデザイン系プログラムを統括し、 教授/教務委員長/学部長補佐を務める。2015-16年にはコペンハーゲンIT大学インタ ラクションデザインリサーチグループ客員研究員として、北欧のCoDesignを研究。
1972年鹿児島県阿久根市生まれ。筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。 グラフィックデザイナー、 東京工芸大学芸術学部助手を経て、2004年より 専修大学ネットワーク情報学部勤務。現在はデザイン系プログラムを統括し、 教授/教務委員長/学部長補佐を務める。2015-16年にはコペンハーゲンIT大学インタ ラクションデザインリサーチグループ客員研究員として、北欧のCoDesignを研究。
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株式会社 淺沼組
建設会社
淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。
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加藤 修平
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
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大石果林
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
多摩美術大学で版画を学び、紙の専門商社で企画デザイナーとして勤務。働いていく中で、デザインの装飾的な「かたち」の役割だけではなく、散らばった情報を整理しわかりやすく可視化するという役割に興味を持つ。
2021年ロフトワーク入社。デザインの力を使って物事の血の巡りをよくしたい!と日々奮闘中。多摩美術大学で版画を学び、紙の専門商社で企画デザイナーとして勤務。働いていく中で、デザインの装飾的な「かたち」の役割だけではなく、散らばった情報を整理しわかりやすく可視化するという役割に興味を持つ。
2021年ロフトワーク入社。デザインの力を使って物事の血の巡りをよくしたい!と日々奮闘中。
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斎藤 健太郎 / Kentaro Saito
FabCafe Nagoyaプログラム・マネジャー、サービス開発 / 東山動物園くらぶ 理事 / Prime numbers syndicate Fiction implementor
名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」にて第1回 Tech Direction Awards R&D / Prototype Bronze受賞
https://award.tech-director.org/winner01名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」にて第1回 Tech Direction Awards R&D / Prototype Bronze受賞
https://award.tech-director.org/winner01
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居石 有未 / Yumi Sueishi
FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング
名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。
バイアスを外す
「合同プログラム」
二期生募集中!
クリエイティビティあふれる、手触り感を大切にした実践的なワークを通し、未来の価値基準である「サーキュラー・エコノミー」や「ダイバーシティ」などについての理解を深め、組織の視座を高める複数社合同プログラムを開催しております。
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東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。