Project Case
2023.2.8
東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
気付けば“未知”へ歩み出している…!
このリポート・シリーズは「新時代」という“未知”に対する不安を抱えたビジネスパーソンたちが「現状維持バイアス」を克服する過程を追ったドキュメンタリーである。
彼らが参加したのは、FabCafe Nagoya主催「組織のバイアスを破壊する人材開発プログラム」。2022年8月にスタートし、3ヶ月をかけて段階的に以下のテーマに挑んできた。
【第1回】未知の課題に柔軟に臨む「態度」
【第2回】天然醸造を題材に「ステークホルダー=利害関係者」を俯瞰 前編 / 後編
【第3回】「コモディティ化=一般化」しないデザインを再考
プログラムのクライマックスとなる第4回目の今回は、「循環」をテーマにFabCafe Nagoyaとのコラボ商品/サービスを考え、プロトタイプに落とし込む。
今後、参加者たちが実際に事業として自社商品/サービスをアップデートしていくためのビッグピクチャーを描き、“未知”なる新時代へのスモールステップを踏み出していく…!
Day4 Program
自社 × FabCafe Nagoya 「循環」するコラボ商品/サービスの開発を目指す
- チーム名を決定
- 商品/サービスを決定
- ニーズを調査
- プロトタイプ制作
- 共有・まとめ
(写真/左上)価値観を選ぶためのカード、(写真/左下)名古屋樹脂工業チーム
(写真/右上)田澤電材チーム、(写真/右下) 淺沼組チーム
メンバーの“価値観”がチームの“個性”となる
今回のワークでは、参加する成形加工メーカー「名古屋樹脂工業株式会社」、建設会社「株式会社 淺沼組名古屋支店」、電材商社「田澤電材株式会社」のメンバーが企業ごとにチーム名を決めるところからスタートした。
「ポジティブ」「忍耐力」「情熱」「感謝」「プロフェッショナル」etc…シンプルな単語が書かれたカードから、メンバーそれぞれが自分の価値観を表現するものを選び出す。厳選したカードをメンバー同士が共有しあうと、よく知る同僚の意外性が見えてきた。
「平凡な人生は送りたくない。」そう語る、プライベートはバンドマンの参加者。チョイスした「挑戦」「自由」「愛」のカードからは躍動的な人生が浮かび上がる。「自由」がメンバーの共感を呼び、チーム名は【Freedom3】に決まった。
自身も理解できない心の中にある“何か”を「混沌」のカードを差し出して打ち明けた参加者もいた。仲間のそんな思いにも“とことん”向き合おうではないか!と【tocoton】がチーム名になった。【H3P】と名付けたチームは、私生活の柱「健康」「幸せ」と、仕事上の柱「謙虚」「誇り」を英単語の頭文字にし、表現した。
三者三様の価値観が、チームにとって重要な“個性=強み”となる。
「循環」をテーマにFabCafe Nagoyaと共創する
今回の課題では、サーキュラーエコノミーへのシフトを前提とした「循環」するデザインをテーマにFabCafe Nagoyaとの共創の可能性を探るべく、コラボ商品やサービスを考える。例えば、FabCafe Nagoyaが既に起こしているアクションを例にあげると…
- “宙農”生姜カヌレ:炭素を長期間土壌に貯め二酸化炭素の排出量を減らす人工土壌で生産した生姜のカヌレ
- ヒダクマのインテリア:飛騨地方の広葉樹の端材をマテリアルとしたアップサイクル・インテリア
- In the Loop:循環型デザインとサステナビリティに関する新しい素材や手法、発想を試している人/企業が集まるポップアップイベント
成形加工メーカー・建設会社・電材商社ならではのサーキュラー・デザインとは?
では、それぞれの得意分野を持つ参加者ならではのアイデアは…?実際に事業化できるレベルでのプロトタイピングを目指す今回は、自社製品を循環の観点から改めて分析したり、そもそものニーズを探るためFabCafe Nagoyaの利用客にインタビューするなど、およそ2時間をかけて徹底的なリサーチが行われた。
無から有を生む今回の挑戦では、当然、開発対象を何に絞るかが全チームにとって難題となる中、プログラムを通して自らの殻を破ってきた参加者たちの“態度”の変化を目の当たりにする。それは、目標への一歩を踏み“出せない”チームは“なかった”ということだ。
ブレイクスルーを引き寄せるため「洋風」「照明」「色」「センサー」など、カフェ店内で目に付くものを書き出し、無条件にマッチングさせながら方向性を探るチーム。また、インタビューでは相手からエピソードを引き出すオープン・クエスチョンを心がけ、思いがけない回答からもヒントを取りこぼさないような工夫を凝らすチーム。
言わば、白地のキャンバスに自由に何かを描いていくような挑戦において、自分たちらしく、その価値観・興味の赴くままに、より良きものを描く。
“知的戯れ”のようなワークを通して、素晴らしいプロトタイプが生まれた。
田澤電材株式会社
「フリーダムライト」〜あなた専用の照明になる〜
- 商品内容:ドローン型移動式照明
- 循環機能:パーツは分解可能かつ3Dプリンタで製造可能。稼働の際、本体から出る風は空調設備として利用でき省エネも実現
自由を愛するこのチームは「男は飛ぶものが好き」という遊び心に「老眼が辛い人は個々のテーブルの自分の手元だけを明るくしてもらいたい時がある」というニーズを結びつけた。照明器具や太陽光システム、防犯機器通信機器など幅広い商品を扱い、その知識を持つ電材商社ならではの広がりのあるアイデアだ。
- 「FabCafe Nagoyaの利用客は、仕事、研修、DIY、デートなど様々な利用目的で来店する。現在の照明器具は落ちついた色だが、商談ならパリッとした白などニーズに合わせた色を提案したい。操作用のスマートウォッチでモードを選択でき、将来的には生体反応をセンシングして、緊張していたら自動的に色が変わるなど気の利いた機能を追加したい」(チーム)
- 「ペットのように照明がついてきてくれたら面白い。」(居石・評)
- 「カフェという公共の空間にパーソナルな空間を作ることができる点が良い。」(加藤・評)
名古屋樹脂工業株式会社
「tocoton 炭酸水メーカー」
- 商品内容:炭酸水メーカー
- 循環機能:空気中の二酸化炭素を利用でき、専用ボンベ購入・交換の必要がない
自社の看板商品・アクリルの廃材から付加価値を生み出そうとスタートしたこのチーム。ベスト・アイデアには至らなかったものの、リサーチ・インタビューで「甘酒を微炭酸にしたい」というニーズを聞き逃さなかった。ボンベを購入・交換しなければならない既存商品の不便さを解決したいという、開発へのモチベーションも生まれた。
- 「二酸化炭素を石油代替燃料に変換する開発が近年行われている。空気中の二酸化炭素を利用して炭酸水をつくる方法も開発されるかもしれないし、着目している開発仲間が見つかるかもしれない。」(チーム)
- 「その土地、季節などによって味が変わったら面白い。飲料のみならず、お風呂にも使用できる容量を備えても面白い。」(大石・評)
- 「素材に焦点を当てて苦戦していたが、問いを投げかけ続け、炭酸水の価値、循環要素など課題解決の条件を足していき、プロトタイプにたどり着いた過程が素晴らしい」(加藤・評)
株式会社 淺沼組
「オルゴール・ミル付き高速ドリッパー」
「コーヒーアロマのコンクリート」
- 商品内容:オルゴール・ミル付き高速ドリッパー、コーヒーアロマのコンクリート
- 循環機能:使用済みコーヒー豆をアップサイクル
「コーヒーを淹れる待ち時間」と「淹れ終わった後のコーヒー豆」について再定義したこのプロトタイプ。コーヒー豆を挽くミルをオルゴールにすることで、コーヒーができるまでの待ち時間=楽しむ時間に。急いでいる人用には高速ドリップができる柔軟性も。また、通常捨ててしまうコーヒー豆はコンクリートと融合させ、コーヒーの香りが楽しめる建材に活かすという、建設会社チームならではの斬新なアイデアだ。
- 「コーヒーを飲む一連の動作では飲むことがメインだが、コーヒーを淹れる過程を楽しめることは新しい付加価値。“面倒な時間・もの”であればあるほど、価値転換の効果が大きいと考えた」(チーム)
- 「雨が降ったら香りが漂いそう。まるでJpopの歌詞みたい。コーヒー自体の価値は飲み物としてのクオリティだが、淹れている間の待ち時間や廃棄物を価値に転換するというアイデアが良い」(斎藤・評)
- 「ある電化製品メーカーのトースターは楽器をなぞらえているように、“香り”を建築物に忍ばせるというアイディアはブランドとしての展開も考えられ、伸びしろがある」(加藤・評)
“未知”の傍観者となるなかれ
この日偶然にも、FabCafe Nagoya上空にブルーインパルスが幾重もの円を描き上げた。ふと、“未知”とは“既知”と共にただそこにある「無制限のキャンバス」のようなものではないかと考えさせられた。傍観者とならない限り、私たちは皆、キャンバスに自由に描くことができる。
今回のワークでは、参加者たちが本来持っていた自身の個性を引き出し合い、互いに敬意を持ち直したことをきっかけにチームにも個性が生まれた。“自分らしさ”は生まれながらに色や形を持っている。ただそれを自由に表現した結果、皆、傍観者になる“暇”などなく、気づけばただそこにある“未知”の中で、その瞬間を楽しんでいたように思う。現状維持バイアスなど、とうの昔にどこかへ置いてきたかのように…。
次回はプロトタイプを一般公開し、プロジェクトは最終回を迎える。どのような結末が待っているか、乞うご期待!
〜最終回へ続く〜
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株式会社 淺沼組
建設会社
淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。
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加藤 修平
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。
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大石果林
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
多摩美術大学で版画を学び、紙の専門商社で企画デザイナーとして勤務。働いていく中で、デザインの装飾的な「かたち」の役割だけではなく、散らばった情報を整理しわかりやすく可視化するという役割に興味を持つ。
2021年ロフトワーク入社。デザインの力を使って物事の血の巡りをよくしたい!と日々奮闘中。多摩美術大学で版画を学び、紙の専門商社で企画デザイナーとして勤務。働いていく中で、デザインの装飾的な「かたち」の役割だけではなく、散らばった情報を整理しわかりやすく可視化するという役割に興味を持つ。
2021年ロフトワーク入社。デザインの力を使って物事の血の巡りをよくしたい!と日々奮闘中。
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斎藤 健太郎 / Kentaro Saito
FabCafe Nagoyaプログラム・マネジャー、サービス開発 / 東山動物園くらぶ 理事 / Prime numbers syndicate Fiction implementor
名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」にて第1回 Tech Direction Awards R&D / Prototype Bronze受賞
https://award.tech-director.org/winner01名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。
電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。
インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。
「コンピュテーショナル食感デザインプロジェクト」にて第1回 Tech Direction Awards R&D / Prototype Bronze受賞
https://award.tech-director.org/winner01
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居石 有未 / Yumi Sueishi
FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング
名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。
バイアスを外す
「合同プログラム」
受講企業 募集中!
クリエイティビティあふれる、手触り感を大切にした実践的なワークを通し、未来の価値基準である「サーキュラー・エコノミー」や「ダイバーシティ」などについての理解を深め、組織の視座を高める複数社合同プログラムを開催しております。
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東 芽以子 / Meiko Higashi
FabCafe Nagoya PR
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。
新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。
「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。
趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。