Event report

2023.3.1

サーキュラーエコノミー研究 第一人者、安居昭博さんに聞く 資源循環にとどまらない“サーキュラーデザイン”のポテンシャル

サーキュラーエコノミー時代の産業・ビジネスの在り方 -事例から紐解く、持続的なビジネスモデルとは-

「修理する権利」がリードする循環型ビジネスへのシフト

服に穴が開いたら?“繕う”。お茶碗が欠けたら?“金継ぎ”をする。サステナブルなライフスタイルを実践する人も多い時代ですが、スマホを直して使い続ける人は多くはないはず…。

大量生産・大量消費を前提とするグローバル資本主義においては、スマホ=“買い替える”モノですが、商品・サービスの設計段階から、資源の廃棄や環境汚染を最低限に抑えるようデザインされるサーキュラーエコノミー(以下、CE)では、スマホも消費者が“修理”して“使い続ける”ことができるんです。これは近年、CE化が進む欧州や米国の一部の州などで、消費者の「修理する権利」の法制化が進んでいるから。こうした世界的ムーブメントや、資源調達の見込みが不透明な昨今の経済情勢などから、日本、ひいては東海エリアでも、消費者や環境に優しいビジネスデザインが今後ますます求められていくことになりそうです。

本講演では、CE研究の第一人者・安居昭博さんが、循環型ビジネスの最前線を通して見えてきた“サーキュラーデザイン”のポテンシャルについて熱く語ってくれました!

  • UNCRD・遠藤和重所長

多様な産業が栄える中部エリアを拠点にCE推進に取り組んでいる国際連合地域開発センター(UNCRD)主催、国連センター協力会 共催のもと開かれた今回の講演会。地元企業や自治体、メディア関係者など多くの参加者が集まる中、UNCRD・遠藤和重所長の挨拶でスタートしました。

ニューヨークにある国連事務局本部のSDGs推進に関わる部署(経済社会局持続可能な開発目標部)に属しているUNCRD。1971年に名古屋に設立されてから途上国の地域開発に貢献してきました。SDGs採択以降は日本および中部エリアのSDGs推進にも取り組んでいます。

2023年2月8日から10日には、カンボジア・シェムリアップでCEおよび3R(リデュース・リユース・リサイクル)に関する国際会議を開催。遠藤所長は、この会議に蒲郡市の鈴木 寿明市長と株式会社メルカリの今枝 由梨英氏が登壇しており、日本のSDGsモデルが世界に発信されたことを紹介しました。

続いて、ゲストスピーカー・安居昭博さんが登壇しました。

安居昭博さん

ボルト剥き出しの柱…?!

世界をリードするCE実践国・オランダの企業や自治体などの取り組みを研究題材にする安居さん。2023年2月に3年ぶりに訪問した際にも、空港や高速道路、鉄道の駅などで、さらなるCE化を目の当たりにしたといいます。

高速道路の標識、鉄道の駅の柱や屋根はボルト剥き出しです。接着剤を使用しない金具で止められているのは、分解・回収・移築可能な設計だから。こうすることで建築物の移築だけでなく資材の再販も可能になります。オランダでは街中のかなりのものが分解できるシステムになっていて、既存の製品に合理性を見出してCEに対応するデザインが実践されていると感じました。(安居さん)

市場顕在化で推進されたCE、大きな仕組みが必要

2020年に世界に先駆けて消費者の「修理する権利」の規則を採択したEU。オランダでは、ユーザーがパーツ交換・修理できるスマホを販売する「フェアフォン(Fairphone)」や、リサイクルを念頭に不要なデザインを取り除いたサブスク制のデニムメーカー「マッドジーンズ(MUD Jeans)」などの企業がCEをリードしています。

安居さんは、オランダ企業が循環型ビジネスを早期から推進できた背景に、EUが統計を実施し「8割の消費者が修理する権利を支持する」ことを明確化=市場を顕在化させたことを一因に挙げます。日本でも、企業や自治体がさらにサスティナブルビジネスに本腰を入れるためには、統計結果やデータによりサーキュラーエコノミーの市場やビジネスの可能性を数値化することの大切さを指摘します。また、新型コロナウィルスやロシアによるウクライナ侵攻により海外からの資源調達が不安定化する中、全産業で連携し限られた資源を効率よく循環させることは必須で、そのためには「川上から川下まで全体の流れを構成する仕組みづくり」が重要だと安居さんは話します。

川上での商品開発だけでは十分でなく川下の回収・再資源化や川上に送る逆流通をどう築くかといった設計も欠かせません。川下の再資源化を踏まえた上でサーキュラーデザインの視点から商品開発を考えると、『部品点数を減らす』 『規格の統一化』 『単一素材の採用』などが、企業と修理する権利を持つ利用者の双方にとって合理的なことが見えてきます。これらが電化製品・アパレル・建築といった一見異分野の領域でも共通のポイントになっている点も興味深いです。(安居さん)

写真/左から、FabCafe Nagoya 矢橋友宏、安居昭博さん、株式会社淺沼組 ReQuality広報担当 さとう未知子さん、豊島株式会社 谷村佳宏さん

経済合理性で測れない付加価値で地域活性化

続くパネルディスカッションでは、東海エリアから循環型事業を進める株式会社淺沼組、豊島株式会社、そしてFabCafe Nagoyaからパネリストが加わり、CE化を目指して地域から起こすことができるアクションについて議論を深めました。すると…

廃棄物とそうでないものの境目は“愛着”(安居さん)

と、安居さんが名言を生みます!例えば建築物が取り壊される理由は、耐久性など機能面の劣化というより、所有者の愛着が薄れたことというケースも多いと言います。建築物をつくる際は、世代を超えて愛着を持ち続けてもらうために設計段階からサーキュラーデザインを採用することも大量廃棄解決のポイントとなるそうです。また、安居さんが手がけた、熊本・黒川温泉のコンポスト設置事業では、コンポストを使って堆肥に生まれ変わった温泉宿の食品残渣=廃棄物が特産品の生産に寄与するという“物質的循環”だけでなく、新たな“付加価値”も生まれ、地域全体が活性化していると言います。

廃棄物と向き合うほど人間同士の繋がりが生まれる、という面白い現象が生まれています。例えば、定期的に生じるコンポストの攪拌作業には自発的に色々な人が集まってくる。人と人の繋がりは経済合理性では測れない付加価値。CEのメガネをかけると、課題が可能性に、廃材が資源に見えてくる。(安居さん)

“資源”だけでないサーキュラーデザインのポテンシャル

資源の循環、人間同士の繋がり…CEを目指して起こしたアクションは、想像を超えた多様な価値を生んでいるようです。

最先端を行く欧州では、現在、ホームレスを人材として起用する事業デザインが設計されていたり、カフェで耳が不自由なバリスタに注文する際、注文者がメニューに表示された手話を覚えてからオーダーするという、人と人の交流のベクトルを変えるようなコミュニケーションデザインも採用されているとのこと。

オランダのCE最新情報を余すことなく参加者にシェアしてくださった安居さん。最後に、日本人らしさや地域性もまた、逆に他の国々に大きな価値を与えることができると実感した経験を語ってくれました。

CEの先進地域と思われているアムステルダムでも実はタバコやガムのポイ捨てが多いんです。街の細部を見ると全然綺麗じゃない(笑)。一方で日本はゴミ箱がないのに街がキレイで『携帯灰皿を持ってもらうにはどうしたらいい?』とオランダ人に相談を受けたことがあるくらいです。また、CEという言葉が使われる前から自然と“仕組み”になっている日本企業の例もあり、例えばビール瓶はリユースの仕組みが整っていて平均8年間使われているそうです。こうした日本のリユース・システムについて話すとオランダ人は驚きます。他にも、牛乳パックは洗って切って乾かすことでリサイクルされる仕組みは「主婦の会」が作り上げたそう。海外からアイディアは学びつつも日本の課題を直視し、それぞれにあった仕組みづくりがこれからも大切だと思います。(安居さん)

日本からCE化を進めるにあたっては日本人らしさが特徴となるサーキュラーデザインも、今後、大きなポテンシャルの鍵となりそうです!


  • 安居 昭博

    Circular Initiatives&Partners 代表

    1988年生まれ。Circular Initiatives&Partners代表。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバー。ドイツ・キール大学「Sustainability, Society and the Environment」修士課程卒業。2021年、日本各地でのサーキュラーエコノミー実践と理論の普及が高く評価され、「青年版国民栄誉賞(TOYP2021)」にて「内閣総理大臣奨励賞(グランプリ)」受賞。「サステナアワード2020」にて「環境省環境経済課長賞」受賞。著書に「サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル(学芸出版社)」。

    2021年より京都市在住。京都市委嘱 成長戦略推進アドバイザー。2022年、梅酒の梅の実、生八ッ橋、酒かす、おから、レモンの皮など、京都の副産物・規格外品を活用し、福祉作業所と製造連携し「京シュトレン」を開発するお菓子屋「八方良菓」を創業。

    活動記事

    Globis知見録「巨艦Appleを動かした「修理する権利」、日本には好機─ (後編)」
    https://globis.jp/article/56811

    Yahoo! Japan SDGs「面白そう」からはじめてもいい。日本から世界への期待もかかる「サーキュラーエコノミー」入門
    https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/100.html

    IDEAS FOR GOOD「堆肥作りは、料理作り。公共コンポストで地域を“発酵”させるサーキュラーエコノミー」
    https://ideasforgood.jp/2020/09/28/kamoshidajun-yasuiakihiro-circulareconomy-compost/

    1988年生まれ。Circular Initiatives&Partners代表。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバー。ドイツ・キール大学「Sustainability, Society and the Environment」修士課程卒業。2021年、日本各地でのサーキュラーエコノミー実践と理論の普及が高く評価され、「青年版国民栄誉賞(TOYP2021)」にて「内閣総理大臣奨励賞(グランプリ)」受賞。「サステナアワード2020」にて「環境省環境経済課長賞」受賞。著書に「サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル(学芸出版社)」。

    2021年より京都市在住。京都市委嘱 成長戦略推進アドバイザー。2022年、梅酒の梅の実、生八ッ橋、酒かす、おから、レモンの皮など、京都の副産物・規格外品を活用し、福祉作業所と製造連携し「京シュトレン」を開発するお菓子屋「八方良菓」を創業。

    活動記事

    Globis知見録「巨艦Appleを動かした「修理する権利」、日本には好機─ (後編)」
    https://globis.jp/article/56811

    Yahoo! Japan SDGs「面白そう」からはじめてもいい。日本から世界への期待もかかる「サーキュラーエコノミー」入門
    https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/100.html

    IDEAS FOR GOOD「堆肥作りは、料理作り。公共コンポストで地域を“発酵”させるサーキュラーエコノミー」
    https://ideasforgood.jp/2020/09/28/kamoshidajun-yasuiakihiro-circulareconomy-compost/


  • さとう未知子 / Michiko Sato

    株式会社 淺沼組 ReQuality広報担当(PR/WRITER)・クラフトジャーナリスト

    早稲田大学第一文学部卒業。インテリアデザイン事務所・建築設計事務所の秘書・広報を経て独立。
    日本の風土・歴史・ものづくりから生み出されるストーリーを集め、建築・デザイン系メディアでの執筆を行う。
    淺沼組 GOOD CYCLE PROJECTでは、GOOD CYCLEリポーターとして、淺沼組名古屋支店の改修のプロセスを取材、PRを行う。
    早稲田大学第一文学部卒業。インテリアデザイン事務所・建築設計事務所の秘書・広報を経て独立。
    日本の風土・歴史・ものづくりから生み出されるストーリーを集め、建築・デザイン系メディアでの執筆を行う。
    淺沼組 GOOD CYCLE PROJECTでは、GOOD CYCLEリポーターとして、淺沼組名古屋支店の改修のプロセスを取材、PRを行う。
  • 谷村 佳宏 / Yoshihiro Tanimura

    豊島株式会社 営業企画室 チーフ

    1984年生まれ 大阪府出身。2007年繊維専門商社の豊島株式会社 入社。
    人事部で新卒採用担当を経て、現在メンズカジュアルを主に扱う営業マンとして過ごす傍ら、2015年食品企業とアパレル企業を結ぶ自社独自のプロジェクトブランド「FOODTEXTILE」を立ち上げる。

    昨年から営業企画室へ異動して、国内サーキュラーエコノミープロジェクト「wameguri」など循環素材を世の中に普及すべく奔走中。

    1984年生まれ 大阪府出身。2007年繊維専門商社の豊島株式会社 入社。
    人事部で新卒採用担当を経て、現在メンズカジュアルを主に扱う営業マンとして過ごす傍ら、2015年食品企業とアパレル企業を結ぶ自社独自のプロジェクトブランド「FOODTEXTILE」を立ち上げる。

    昨年から営業企画室へ異動して、国内サーキュラーエコノミープロジェクト「wameguri」など循環素材を世の中に普及すべく奔走中。

  • 矢橋 友宏 / Tomohiro Yabashi

    FabCafe Nagoya 代表取締役
    株式会社ロフトワーク 顧問

    岐阜県大垣市出身。1989年名古屋工業大学を卒業し、株式会社リクルート入社。通信事業や新規事業開発に従事。2006年ロフトワークに合流、取締役としてマーケティング・プロデュース部門の立ち上げ。プロジェクト管理、人事、労務、経理など経営システムの基盤構築・運用を指揮したのち、2023年より顧問に就任。

    これまでの経験を東海エリアでも活かしたいと、2020年、ロフトワークとOKB総研(本社 岐阜県)との合弁で株式会社FabCafe Nagoyaを立ち上げ、代表取締役に就任。東海エリアにおけるデザイン経営の浸透と循環型経済(サーキュラーエコノミー)の社会実装をテーマに、製造業をはじめとした企業へのプロジェクト提案、コミュニティラボの立上げ・運営に奔走している。
    これまでの活動・登壇

    岐阜県大垣市出身。1989年名古屋工業大学を卒業し、株式会社リクルート入社。通信事業や新規事業開発に従事。2006年ロフトワークに合流、取締役としてマーケティング・プロデュース部門の立ち上げ。プロジェクト管理、人事、労務、経理など経営システムの基盤構築・運用を指揮したのち、2023年より顧問に就任。

    これまでの経験を東海エリアでも活かしたいと、2020年、ロフトワークとOKB総研(本社 岐阜県)との合弁で株式会社FabCafe Nagoyaを立ち上げ、代表取締役に就任。東海エリアにおけるデザイン経営の浸透と循環型経済(サーキュラーエコノミー)の社会実装をテーマに、製造業をはじめとした企業へのプロジェクト提案、コミュニティラボの立上げ・運営に奔走している。
    これまでの活動・登壇

Author

  • 東 芽以子 / Meiko Higashi

    FabCafe Nagoya PR

    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



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