Interview

2022.5.31

【GOOD CYCLE BUILDING】-土に還る建築から倣う循環の在り方-淺沼組名古屋支店 見学レポート

淺沼組名古屋支店はリニューアルにより環境配慮型のオフィスとして2021年9月に竣工しました。”人間にも地球にもよい循環”をつくり上げる『GOOD CYCLE BUILDING』の第一弾であり、既存の建物を生かしながら、新たに加える素材は、可能な限り自然素材を使おうと試みられ、プロジェクトの構想に3年程かかったとのこと。今回は、そんな『GOOD CYCLE BUILDING』で新しくなった、淺沼組名古屋支店にお邪魔しました。

株式会社淺沼組とは

株式会社淺沼組は、1892年に創業。130周年を迎えるゼネコン(総合建設業)です。今回の『GOOD CYCLE BUIⅬDING 001・淺沼組名古屋支店改修プロジェクト』では、築30年を経過した自社ビルを、建築家の川島範久さんと淺沼組設計部によって共同設計が行われました。
建設会社も競争がしくなってきている中、会社の独自性を見つけ出し、尚且つ循環型社会へのアプローチの一つとして、本プロジェクト開始。

入ってすぐ、パッとあたりを見渡すだけでも、木や土だけでなく、コンクリート、ガラスなど、多種多様な素材が目に入ります。実は、これも意図されているデザインとのこと。

建築家/川島範久さん
「今日、環境配慮型のプロジェクトであっても、新築であれば古いものをすべて壊し、新しいものをゼロからつくる”スクラップアンドビルド”になってしまいます。しかし、リューアルであれば古いものを生かし、少ない負荷で環境配慮型を実現することができます。今回のプロジェクトは、そんな環境配慮型リニューアルの次世代のモデルになるのではないでしょうか。コンクリート、鉄、プラスチックなど、既に存在する人工素材と自然素材を共存させることで、どう生まれ変わらせていくことができるかが、これからの未来の鍵になると考えています。」

今回のプロジェクトで使用している自然素材の一つが、土です。現在の日本家屋の壁素材は金属やセメント系の材料など土に還すことができないものが主流となっていますが、もともとは土壁でした。かつて生活の身近にあった素材を「自分たちの手で塗る」ことで、建築を身近なものにできないかと考え、淺沼組の社員が参加してワークショップを行い、およそ12トンの愛知県内で出た建設残土を、ふるいにかけて、ベンガラ、藁などを混ぜ込み、土壁を社員自らで塗ることを行いました。身近になることで愛着が湧き、メンテナンスも自分たちでしていくことができれば、建物の変化を楽しみながら長く使っていくことが出来ます。そして、自然素材はいつの日か土に還すことも出来ます。

土の部屋/建設残土を使用したテーブルと椅子、壁面。もちろん、植物プランターも環境に配慮したものを用いている

 

エントランスを入って右手にある”土の部屋”の界壁には、淺沼組技術研究所が開発した『還土ブロック』を使用。自然素材だけでつくったブロックですが、ある程度の人の声を吸収し、調湿性に優れ、室内環境を保ちます。今後、現場で積み上げて使えるように、ブロック型で製造しているとのことです。

asanuma06木の部屋/吉野杉のテーブルと、職人が丁寧に手仕事で制作した椅子。テーブルの土台には、通常、廃棄されてしまう木の皮の部分を使用

回り続ける循環について

自然素材のもう一つが、吉野杉です。
淺沼組は、奈良で創業した建設会社のため、奈良県の吉野林業とは古くから関わりがあり、今回の改修では、ふんだんに吉野杉が使用されることになりました。吉野杉は、楢や桜と比較すると軽く、柔らかい材質のため、加工しやすいのが特徴。半面、檜などに比べると耐久面で弱いため、家具には使われにくい素材でした。しかし、今回は敢えて椅子の材料として使用。循環とは、丈夫に使い続けるだけでなく、壊れたときに新たに作り直して、地域の人々や自然と連携し、新しい価値を生み出していくサイクルをつくることも、とても大切なのです。そうして、滑らかで優しい座り心地の椅子が出来上がりました。

吉野杉の柱/日にあたり乾燥させて、いつか取り換えるまた別の用途に使うことができるよう、つくられている

柱に使用している吉野杉は、会社と同じ時を重ねた推定樹齢130年の杉を使用しているそうです。吉野杉は可能な限り大きなサイズのまま、上に行くほど細くなる樹の形状を活かして取り入れ、ここで十分乾燥させる。式年遷宮のように、数十年後には取り替えて新しい杉を組み込み、古い杉は別の用途に使うことができるよう、設計されています。


アップサイクルの部屋/既存の椅子を取り入れ、新しくアップデートされる

また、全てを新しくつくっているわけではありません。改修前にエントランスで使用していた石材は、トイレの床材として活用。建材として使えない部分は、細かく砕いてセメントに入れて、改修前に使っていた応接の椅子と組み合わせて新たなプロダクトへとアップサイクルされました。

  • 社長の手形と社員みなさんの指で作られた土壁/
    このような遊び心が”愛着”を感じさせ、育まれていく

  • トイレの土壁/共創のもたらす場の熱量により、
    プロによるコラボレーションが生まれた

共創から生まれること

そして、土壁はプロの職人だけではなく、淺沼組の社員が左官作業に参加し、指や手で土壁に跡をつけています。多くの人が施工に関わってこそできる表現です。

このように、さまざまな人々と共創していくことにより、思いもよらない偶発的な出来事もあったようです。例えば、一緒に左官作業していた職人同士のコラボレーションが生まれ、新たな壁を作成されたそうです。このように、プロジェクトを言葉だけで見ると伝わりにくい、関わる人々への影響が、実際の現場には起きていたのです。


正面の階段/壁は、左官職人の久住有生氏によるアートウォール

 

Forest Bank/ヒダクマによるアップサイクル プロダクトも導入されている

 

 

 

 

 

ロボット化やAIを導入することによる、効率・スピード重視でつくるかということももちろん必要ですが。一方で、手仕事などによる温度を伝えていくことも、人が人らしく感性を豊かにするためには必要なのではないか。そんなことをリアルな肌感として得ることができた空間でした。

 

 


  • 株式会社 淺沼組

    建設会社

    淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
    以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。

    「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
    ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。

     

    Webサイト

    淺沼組の歴史は明治25年(1892年)、悠久の都「奈良」からはじまる。
    以来、互いを尊重し、理解しあう「和の精神」、何事に対しても正直に、熱心に、独創的な考えを以て挑戦する「誠意・熱意・創意」の創業理念のもと、誠実な仕事が信用を生み、次の仕事に繋がる「仕事が仕事を生む」の精神に則り、神社仏閣や学校建築を通じ、培い、磨いてきた“技術”を礎に、人々の建物に対する想いに真摯に向き合う誠実なモノづくりの精神は、決して色褪せることなく、今もなお脈々と受け継がれています。

    「ヒト」からの発想で、深みと広がりのある人間環境、そして、次世代をも考慮した人間環境を提供します。
    ASANUMAは「創環境産業」として、社会の発展、生活文化の創造に寄与します。

     

    Webサイト

  • GOOD CYCLE PROJECT

    淺沼組リニューアル事業

    総合的に環境のことを考えながらリニューアル事業に取り組みます。 事業ブランドはReQuality。 自然の力と人の創造力を掛け合わせた独自技術で、 自然物と人工物のよりよい循環を生み出すことを目指すというコンセプトをもとにしたサービス 「GOOD CYCLE SERVICE」を提供し、 人にも地球にも、より良い循環をつくります。     

     

     

    Webサイト

    総合的に環境のことを考えながらリニューアル事業に取り組みます。 事業ブランドはReQuality。 自然の力と人の創造力を掛け合わせた独自技術で、 自然物と人工物のよりよい循環を生み出すことを目指すというコンセプトをもとにしたサービス 「GOOD CYCLE SERVICE」を提供し、 人にも地球にも、より良い循環をつくります。     

     

     

    Webサイト

Author

  • 居石 有未 / Yumi Sueishi

    FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング

    名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
    美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
    FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
    好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。

    名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
    美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
    FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
    好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。

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