日本で古くからある食文化として「おばんざい」というものがあるのをご存じですか?
おばんざいとは「京都の日常的な家庭料理」のことであり、そのほか5つの精神と呼ばれる「ほんまもん・あんばい・であいもん・もてなし・しまつ」にまとめられています。そのほか食材を無駄なく使い切ろうとしたり、季節ごとの旬や地域性を大切にしたりする思想があります。
現代社会において、生産と消費の分断や、関係性の希薄化が社会課題として挙げられている中、精神性を持ち合わせているおばんざいに着目することで、食の背景を考えるきっかけになるのではないでしょうか。
そんな仮説のもと、今回は世界の台所を探検しながら家庭料理の背景を考察し発信している、世界の台所探検家・岡根谷実里さんに話を伺いました。
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岡根谷実里(おかねや・みさと)
世界の台所探検家
世界の台所探検家。1989年、長野県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士修了後、クックパッド株式会社に勤務。世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理を通して見える暮らしや社会の様子を発信している。クックパッドニュース、日経DUAL等で記事やレシピを連載中。また、全国の小中高校への出張授業も精力的に行なっている。訪問国/地域は60以上。
世界の台所探検家。1989年、長野県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士修了後、クックパッド株式会社に勤務。世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理を通して見える暮らしや社会の様子を発信している。クックパッドニュース、日経DUAL等で記事やレシピを連載中。また、全国の小中高校への出張授業も精力的に行なっている。訪問国/地域は60以上。
食から思いもしなかった背景を知るのって面白い
「食って何を食べてるってことだけじゃなくて風景を作り出してるものだと思う。」
今回のインタビューで岡根谷さんはこう語りました。
世界各地の台所を訪れて、現地の人たちと一緒に料理を作り、料理から見える社会や文化といった背景を伝えている岡根谷さん。なぜ台所を巡りながらその背景を伝えているのでしょうか?
「『食からその土地の暮らしや思いもしなかった背景が見えてくるのって面白いじゃん』ということを共有したいからです。料理の背景を深ぼると、歴史の教科書に載っているような過去の出来事と繋がっていることを発見することができるんですよ。それって面白いよね、ということを気づかせたい。そして一緒に面白がりたいです。そうすることで、少しでも知らない世界に対して興味を持ってもらいたいです。」と語ります。
料理には知らない世界を知れる可能性がある。そう考える岡根谷さんは、コソボの山岳地帯を訪れた時のエピソードを出しながら、その地域で暮らす人にとっていかに食が大切なのか、話してくれました。
「日本にいると感じにくいのですが、その土地の食ってアイデンティティを表していると思います。例えば、アルバニアの隣にあるコソボの国の人たち。以前は違う国に占領されていたのですが、2008年に独立して国の名前が変わり、宗教が変わり、政治体制が変わりました。その中で、変わらなかったことは何かというと、食と土地です。そこから、食と土地に対してのアイデンティは特別なのだと感じました。私が現地に行った時、山岳地域だけで作られる料理を食べたのですが、味がおいしいかというよりも、その土地にその山の風景があるからこそ作れる料理であったことに価値を感じました。」
それぞれの国や地域ごとに独自の食文化があります。それは人々の暮らし、土地の気候、歴史や文化の成り立ち、価値観など、異なるものがかけ合わさってできています。
食の背景を知ろうとすると、世界中には異なる文化や価値観の人たちが住んでいることを実感し面白いですね。自分にとって新しい食に出会うことは新しい価値観に出会うことであって、終わりなき旅のように感じます。
家庭料理こそが社会を映し出す鏡
その土地に暮らす人たちと料理を作りながら、食の背景にある出来事や人々の精神性を紐解いている岡根谷さん。家庭料理について、「家庭料理は社会を映し出す鏡だ」と語ります。
「家庭料理は、その時その場所で、その家庭の人たちの合理性のもとで作り出されるのです。なので社会の生々しい動きが映し出されています。例えば、冷蔵庫にチーズが常備されている国があるように地域性が見られる一方で、どこの国に行っても朝ご飯にはトーストとシリアルが出てくることも一つのリアリティです。」
「他にも、例えば長野県では郷土料理として『おやき』が作られていますが、その理由は、長野県の山間部ではかつて小麦が主食として生産されていたからです。米が育たない土地なのでその代わりに小麦を育てています。このように、食べられている料理には土地らしさが表れています。」
このように「日常の料理こそが暮らし、土地、歴史や社会問題などさまざまなものを映し出します。」と語る岡根谷さん。ということは、日常食べているものを知ることで、まずは社会について知り、そして社会との関わり方について考える、そんなきっかけに繋がるのではないでしょうか。
しかしその一方で、実際に日々食事をする中で、食事の背景について考える機会はどれほどあるでしょうか?
日々食の背景について考える機会は少ないのではないかと思います。現にどこでも食べ物が手に入る便利な世の中なので、わざわざ背景について考えなくても食べ物が手に入り生活ができます。現代社会の課題としても、生産者と消費者、都市と地方の関係性の分断などが挙げられていますが、消費者が食事の背景を知ろうとする機会が少ないからではないでしょうか。
食事の背景を知ることは、社会や文化を知ることであり、お腹を満たす以上の食体験になります。そこで、食べてお腹を満たすだけではない、身体も心も満たす食体験が必要なのではないでしょうか?お腹が満たされると同時に、知らない世界に出会うことは、心も満たされて豊かな食体験だと思います。
ではどうしたら日常から食の背景を意識することができるのでしょうか。
食の背景と精神に触れる、おばんざい
そこで着目したのが「おばんざい」です。おばんざいは「京都の日常的な家庭料理」を意味し、ほかにも食材を無駄なく使い切ろうとしたり、季節ごとの旬や地域性を大切にしたりする思想があります。そのほか、5つの精神と呼ばれる「ほんまもん・あんばい・であいもん・もてなし・しまつ」という精神性があるのが特徴です。
具体的には、食材や調味料、道具、用具をなんでも本物を選んだり、本物に固執しすぎずあんばいを取り入れながら柔軟な姿勢を持ったり、食材や季節や人との出会いを大切にしたり、あらゆるものに対して大切にし、できる限り無駄なく使い切ろうとする気持ちを持ったりすることを表しています。
このことから、おばんざいは人々の暮らしから生まれた精神が食に映し出されたものだと言え、食の精神に触れられるものだと言えます。
家庭料理のように日常から、食の背景に触れるきっかけになるものとしておばんざいを位置付けられるのであれば、このような視点を持って日常食事をすることはできないでしょうか?
世間には「ガストロノミー」という「食事と文化の関係を考察すること」を意味するという言葉があり、その視点を持つことの重要性が高まっていると考えていますが、これはまさに岡根谷さんがしていることであり、この姿勢を日常の食事の場に取り入れられると、食事をきっかけに社会で起きている出来事を知ることに繋がるのではないでしょうか。
岡根谷さんに、「世界で出会った食事の中で、おばんざいを思わせる食事はありましたか?」と伺ったところ、「メキシコ料理の『ワカモレ』を青大豆で作ってる人に出会いました。彼女がアボカドの代わりに青大豆を使う理由は、アボカドを育てるのは環境負荷が高く、わざわざ地球の反対側から輸送してきていることから、身近にある食材を活用できないかと思ったからでした。」と話してくれました。
このように、食事はその背景を伝えるのに有用です。なぜその場所でその料理が作られて食べられているのか、その背景を知れるようなツールとしておばんざいが位置付けられると面白いですね。
今回岡根谷さんからお話を伺って、日常の食事は社会と繋がっていることをより実感しました。おばんざいも家庭料理という日常の食事であり、精神性も大事にされている食事です。なのでおばんざいは、単なる家庭料理というよりも、食の背景を考えることで、食の課題に触れて社会で起きている出来事を知ったり、食事を大切にするきっかけになると考えが広がりました。
またおばんざいを現代に合う生活様式の一つとして捉えられないか?と考えています。おばんざいは京都を発祥として江戸時代から生まれた文化ですが、今の時代の価値観に合わせて伝えられると、日本の食文化の価値観を次に伝えられる可能性があるのではないでしょうか。今後も、おばんざいの解釈を広げるような実験と研究を続けていきたいと思います。
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Obanzai
おばんざいと日本酒や食とお酒が好きな春那と京香によるおばんざいと日本酒や。様々な店で不定期開催している。季節や地域ごとのおばんざいと日本酒を出すスタイルをベースに、食事を楽しむ場づくりをしている。そのほか音楽や香りなど様々なコラボレーションも行っている。
Open Labs : https://fabcafe.com/jp/labs/obanzai
Instagram : https://www.instagram.com/obanzaitosake/おばんざいと日本酒や食とお酒が好きな春那と京香によるおばんざいと日本酒や。様々な店で不定期開催している。季節や地域ごとのおばんざいと日本酒を出すスタイルをベースに、食事を楽しむ場づくりをしている。そのほか音楽や香りなど様々なコラボレーションも行っている。
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玉木春那
Loftwork クリエイティブディレクター
1999年京都生まれ。立命館大学経営学部でデザインマネジメントを学ぶ。
食への興味と環境問題の問題意識から、食とサステナビリティを基軸に様々なイベント企画・運営に取り組んできた。日本と世界各地を巡ることや、食日記を綴ることを通して「食の豊かさ」について考え発信している。不定期でユニット活動「おばんざいと日本酒や」を主宰し、おばんざいを担当している。趣味は食べ歩き。
https://www.instagram.com/haruna__tamaki/
https://note.com/tamachan_haruna
https://www.twitter.com/tamacchana/1999年京都生まれ。立命館大学経営学部でデザインマネジメントを学ぶ。
食への興味と環境問題の問題意識から、食とサステナビリティを基軸に様々なイベント企画・運営に取り組んできた。日本と世界各地を巡ることや、食日記を綴ることを通して「食の豊かさ」について考え発信している。不定期でユニット活動「おばんざいと日本酒や」を主宰し、おばんざいを担当している。趣味は食べ歩き。
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