Event report

2021.5.9

“大人のレゴ”で1日限定のアスレチックを作って遊ぶ。建設足場×パルクールに見た可能性:POPUP ATHLETIC Ver.parkourレポート

なかがわ あすか

ライター

Nagoya

子どもの頃、夢中で遊んだレゴブロック。多種多様な大きさ・形のブロックを横につなげたり、縦に差し込んだり。思い描いた世界を、自らの手で一つひとつ、自由に作りあげる。理想を詰め込んだお城、迷路のような公園、巨大なテーマパーク……“憧れ”を形にするたび、「自分が作った世界で遊べたら、どんなに楽しいだろうか」と、考えた時代がありました。

公園に行けば、だれかが作った定番の遊具がある。自宅の押し入れには、遊び方の決まったおもちゃがある。「普遍的」で、意味やルールを「与えられる」遊びはもちろん楽しい。だけど、レゴで作った空間のように「仮設的」で、自分から「与える」遊びは、きっと、世界をより面白くする。

2021年4月3日、FabCafe Nagoyaで、そんな未来を想像させるイベントが開催されました。建設現場の足場を活用した仮設アスレチックでパルクールを体験する「POPUP ATHLETIC Ver.parkour」です。主催は足場のレンタル・販売会社である「ASNOVA(アスノバ)」。元全日本チャンピオンの木本登史さん率いる「SPEMON」とタッグを組み、1日限りの仮設空間で、参加者と共に“未来の遊び”を創造しました。

当日はどんな様子だったのか? 足場とパルクールのコラボにより、どのような未来が見えたのか?その詳細をたっぷりレポートします。


5/14(金)〜5/23(日)FabCafe Nagoya店内でこちらの映像を上映します。

FabCafe Nagoya がある名古屋・久屋大通公園に突如として現れたのは、建設足場によって仮設的に建てられたアスレチック。

「工事現場などでよく見かける足場が、なぜこんなところに……?」

周辺を行き交う人たちの足が自然と集まり、通りすがりの人も思わず視線を奪われる。何か楽しそうなことが始まろうとしている——そんな予感と期待が目の輝きに変わり、子どもも大人も、その場に居ただれもが興味津々でアスレチックを眺めていました。

観客が見守るなかポップな音楽とともに颯爽と登場したのは、6人組の集団。その正体は、名古屋を拠点に日本全国、海外でも活躍するパルクール団体「SPEMON(スペモン)」のメンバーです。リーダーを務めるパルクール日本代表の木本さんほか、パルクール好きが高じて大学にサークルを創設した者、弱冠16歳ながら堂々と演技をする者など精鋭の顔ぶれ。

挨拶がてら始まったのは、パルクールのパフォーマンス。

全長3mほどのアスレチックはたちまち彼らの遊び場になります。片手で握れる太さのポールに乗り、はたまた鉄棒のようにぶら下がったと思ったら、2mほど先の台に飛び移り、その場で半身捻りのジャンプを披露してみせる。

彼らの演技一つひとつに観客は息を飲み、盛大な拍手を送る。たった数分のうちに、観客のだれもが彼らの虜になったようでした。

特に目を奪ったのは、観客参加型のパフォーマンス。参加を希望した観客5名が地面に足を伸ばし横並びに座り、その上を飛び越えるというもの。跳躍距離はメンバーの身長より少し長いか。メンバー5人連続で飛び越えると聞いた観客は固唾を飲んで見守ります。

自然と生まれる手拍子、観客の期待に応えるべくパフォーマーが助走をつけて走り出す。連続する美しい回転ジャンプに大きな拍手が湧き上がるとともに、「すごいね!」と興奮した様子で周囲と盛り上がる声も聞こえてきました。

パフォーマンスが終わり、会場では建設足場を使ったアスレチックの組み立てと、パルクールの体験会が開かれました。第一部と第二部が開催され、合計で約200名が参加。パルクールの演技を見た人たちの多くが、親子、カップルなど世代を問わず、体験会の受付へと並ぶ様子が印象的でした。

主催者であるASNOVAスタッフが監督のもと、参加者がアスレチックを組み立て始めます。

自分の背丈よりも長いパイプを協力して持ち上げる子どもたち。太いトンカチを持って足場同士をしっかり連結させます。

その場に集まった参加者は、おそらく、ほとんどが初対面。ただ、アスレチックを組み立てるうちに自然と距離が縮まっているようでした。自分たちが遊ぶ場所を、自分たちでつくる。新鮮な体験の共有がそうさせたのかもしれません。

15〜20分ほどで計4つの足場アスレチックが完成。SPEMONのメンバーたちが補助役に回り、パルクール体験会がスタートしました。

綱渡りのようにパイプの上を歩いたり、鉄棒の要領でぶら下がったり、斜めに立てかけられた網目状の足場の板を蹴り上げてジャンプしたり。子どもはもちろん、大人も子ども時代にタイムスリップしたかのように、パルクールを無我夢中で楽しんでいました。

ここで、何名かの参加者の方に体験会の感想を聞いてみることに。よく聞かれたのは「パルクールも、建設足場も間近で見たのは初めて。演技は圧巻だったし、足場を使ってアスレチックを組み立てる体験も新鮮で楽しかった」という声。一見、組み立てが難しそうに見える足場ですが、「基礎的な知識さえあれば、自分たちでも意外に簡単に作れるものだと実感した」という意見もありました。

パルクールと足場がコラボしたことで、「工事現場でしか見かけない足場が、こんな活用の仕方もできるなんて驚き。パルクールと足場の相性がこんなにも良いなんて予想外だった」と発見した人も。
参加者の多くが、パルクールと建設足場を身近に感じるとともに、その“可能性”にも気づき始めた様子でした。

第二部のパルクール演技・体験会が終わり、SPEMON代表の木本さんを直撃。イベントの感想や、足場とコラボしたきっかけ、パルクールと足場の共通点などについて話を聞きました。

乱れた息を整えながらインタビューに応じてくれた木本さん。「楽しそうにパルクールを楽しむ子どもたちを前に、指導に熱が入りすぎました」と笑う様子から、パルクールへの愛がじんわりと感じられました。

イベントの感想を聞いていると、木本さんから「パルクールと建設足場は友達なんですよ」という言葉が飛び出します。詳細を聞くと、練習で足場を使うこともあるのだとか。

木本さん「ホームセンターでパイプなどを購入し、自分たちで組み立てたこともあります。もとから足場は身近な存在だったんです」

足場との相性の良さを知る木本さんがASNOVAと出会ったのは、イベントの開催地でもあるFabCafe Nagoyaでした。その日、店内ではASNOVAの社長が講演会を開催。偶然参加していた木本さんは、社長の話を聞いて、瞬間的に「一緒に何かやれるのでは?」と思ったと話します。

木本さん「ASNOVAさんが人手不足が深刻化する建設業界にかける思いや、建設現場だけでなく足場の可能性は無限に広がっていることを知り、パルクールとの親和性をより強く感じました。パルクールも競技人口はまだまだ伸びしろがある状態。一般的にあまり知られていない魅力や可能性を伝え広めていく点では、両者ともに目的が合致しているなと思ったんです」

一緒に面白いことをやりませんか?——先に声をかけたのは、木本さんのほう。イベントの開催が決まり、足場との関わりが増え、パルクールとの共通点もより一層感じるようになったとか。

木本さん「パルクールも足場も、自由自在なんです。パルクールはだれかと戦うところに主軸を置くスポーツではなく、自分のやりたいことを自由に挑戦できるところに魅力がある。建設足場も作り手の意思で自由にかたちを変えられますよね。だから、挑戦したい技によって好きに組み替えられる。会場のアスレチックも、僕が設計を考え、その構想通りにASNOVAの皆さんと組み立てました」

イベントを通じて、改めて足場との相性の良さを実感した木本さん。仮設のアスレチックを指差し、次回の具体的な構想についても教えてくれました。

木本さん「今回以上に大きなアスレチックを制作したり、第一部と第二部でアスレチックの構造を変えたりしても面白そうですよね。『あれ、何か形が変わったぞ!?』って。それこそ、僕たちがパフォーマンスをする舞台を参加者のかたに作ってもらっても楽しそう。参加者とともに作り上げたアスレチックで、パルクールの演技を披露してみたいです」

パルクールも、足場も「自由」。だからこそ、アイデアは無限に広がっていくのかもしれません。

コラボによってさらなる可能性を見出したのは、木本さんだけではありません。本イベントの立役者であるASNOVAの事業企画室 室長の小野真さんも、その一人です。もともと建設足場には興味のなかった小野さんは、「従来の建設業界のイメージを払拭し、未来の建設業界を創造していく」というASNOVAの熱意に惹かれ、縁のなかった世界に意を決して飛び込みました。

小野さんはまさに「未来の建設業界を変える」最前線に立ち、イベントの企画運営に携わってきました。見つめる先には、和気藹々と体験会に参加する大勢の人たち。この光景を「嬉しい予想外」だと話します。

小野さん「どれだけの人が参加してくれるだろうか、本当に楽しんでくれるのだろうかと不安で仕方ありませんでした。建設業界は人手不足が深刻化している業界のひとつです。その最大の理由は、多くの人が建設業界に対して自分には関係のない世界だと線引きしているから。この『無関心の壁』は厚いので、直接的に足場の魅力を伝えても自分ごと化しづらく、響かない。ならば、まずは足場を身近に感じてもらおうと、このイベントを企画しました

身近に感じることで、見えてくる足場の良さがある。それは一体何なのか?そんな問いを投げると、木本さんと同じく「自由」という言葉が出てきました。

小野さん「今日のイベントで見てもらった通り、足場を活用すれば、短時間で自分たちの欲しい場や空間を創造できます。例えば、ASNOVAが運営する仮設マガジン『POPUP SOCIETY』では、台湾にある足場を使用したオフィスの事例を紹介しています。仮設なので、使い手の意思と目的によって自由に作り変えられる。本来は建設業界のために作られたものですが、アイデア次第で業界を超えたポテンシャルを秘めているものだと思うんですよ」

仮設なので自由度が高く、作り手の創造性次第で活用の幅を広げていける。小野さんいわく、足場の性質は現代にもマッチしているそう。足場が身近になれば、どんな未来が待っているのでしょうか?

小野さん「コロナ禍でテレワークが普及し、自宅にオフィス空間を構える人も増えましたが、高い費用をかけてリフォームするのはハードルが高く期間もかかる……そこで、足場の出番です。短時間ですぐに組み立てられ、不必要になれば簡単に解体もできる。その安心感があるから、『実験』のハードルもぐっと下がりますよね。例えば、企業として何か新しい施設を作ろうとしたときに、足場を活用して仮設すれば、トライアルにおける新規事業のコストダウンも考えられる。つまり、挑戦しやすい環境を作ることができます。また、事故などの危険が多く潜む建設業界で使われる足場は強度もしっかりしているので、災害時の避難場所、仮設住宅やプライベート空間にも活用できるほか、津波の被害に備えて、高台を仮設することもアリかもしれません」

小野さんの口からは、足場のアイデアが無限に湧いてくるようでした。大きなポテンシャルを秘める足場。その魅力が社会に浸透し、可能性の幅をさらに広げていけるよう、ASNOVAの挑戦はまだまだ続きます。

小野さん「足場の活用例をたくさん話しましたが、これらは理想であって、現状はまだハードルが高い部分もあると思います。実現のためには、現在の仕様から少しカタチを変える必要があるかもしれませんね。でも、まずは足場を身近に感じてもらうことから。ほかの地域でも、パルクールなど他の業界とコラボすることで、建設足場への『無関心の壁』を少しずつ壊していきたいです」

その日、会場では「足場って、“大人のレゴ”みたいだね」という言葉を何度か耳にしました。憧れの空間や場を作っては、アイデア次第でさまざまに変化させていく。普通のレゴと違うのは、「作るだけでは終わらない」という点。作った空間で遊んだり、学んだり、働いたりできる。子どもの頃に焦がれた世界を実現したのは、私たちが生まれるはるか昔からあった「足場」だったのです

足場だからこそ、見える世界がある。そんなことを確信した1日でした。

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  • なかがわ あすか

    ライター

    滋賀県生まれのフリーライター。学生時代、スロバキアへの留学体験をブログで発信し始め、書いて伝えることの面白さを実感。複数のメディアでライターを経験したのち、大手フリーペーパー制作会社にて地域密着型の月刊誌の企画編集を経て独立。ライティングと並行してWebメディアの編集、ライティングコミュニティの運営にも携わる。ストーリーを大切にした、あたたかい文章を届けます。

    滋賀県生まれのフリーライター。学生時代、スロバキアへの留学体験をブログで発信し始め、書いて伝えることの面白さを実感。複数のメディアでライターを経験したのち、大手フリーペーパー制作会社にて地域密着型の月刊誌の企画編集を経て独立。ライティングと並行してWebメディアの編集、ライティングコミュニティの運営にも携わる。ストーリーを大切にした、あたたかい文章を届けます。

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