Column

2026.5.19

デジタルデータで都市を結晶化 現代における彫刻の意義を探求する|佐野 翠

FabCafe Tokyo Creative Residency「AI-ダダ」アーティストインタビュー

FabCafe編集部

AI Dada Vol.3|OUR Common Playground “わたしたち”

FabCafe Tokyoを拠点に次世代のクリエイターが滞在制作を行うプログラム「Creative Residency」。2026年5月、アーティストDONG WENJUNさん、佐野 翠さん、森田祐輝さん、門田健嗣さんを迎え、AI Dada Vol.3|OUR Common Playground “わたしたち”の街を遊ぶを開催しました。

――  表現の道に進もうと決めた、きっかけは何だったのでしょうか?

明確な転機があったわけではなく、ゆるく続けてきた結果、今の自分があるという感覚です。ただ、制作に対しての別の考え方が備わった出来事はありました。ある作家に「学生のような作品を作るのはやめろ」と言われたんです。自分の作品制作に「愛好家」とは異なる「仕事」として捉えるスイッチを作りました。
プロを意識するということは、ただお金を稼げるようになることだけではなく、自分の作品が社会的にどう作用するのかということにも責任感を持ち、真摯に仕事に向き合うことだと思っています。

 

―― 普段はどのようなコンセプトを大切に、どんな手法で作品を制作されているのですか?

元々は日本画を学んでいたのですが、絵画のイリュージョン的な表現のあり方が自分にはあまりしっくり来なくて。より身体的な実感が強い、実在のある表現を求めて彫刻へ転向しました。ただ、彫刻の現場は非常にマッチョというか、フィジカルに作業強度が高い分野なんですね。肩や腰を長時間使う作業が多く、実際に活躍している作家も身体的に屈強な方々が多い。
自分は、彫刻をやっていく上で決してフィジカルに恵まれているとはいえないタイプだと感じていました。一方で、パソコンやデータと向き合う時間が人生で一番長いことに気がついて、3Dモデリングやデジタルファブリケーションを使って彫刻をする、現在のスタイルにたどり着きました。
近年は、都市や地形や統計データを鉱物や結晶の形に置き換えた彫刻作品を、3Dプリンターを主軸に制作しています。既存のデータを素材に見立て、テクノミュージックのように引き延ばしたりテンションをつけたりする「データ変調(Modulation)」の手法を用いながら、立体物を造形するスタイルです 。  自由気ままに形をつくるのではなく、自分が生まれた土地や実在する環境とリンクさせることで、造形に必然性を持たせることを大切にしています 。また、デジタルデータは、それを支えるサーバーにレアメタルなどの地下資源が使用されているユッシ・パリッカの「メディア地質学」の考え方にも影響を受けて鉱物や結晶というモチーフとの関連は深いのではないかと考えています。

―― 今回の作品に込めたメッセージを教えてください。

FabCafe Tokyoでのレジデンシーということで、渋谷を舞台にした作品を制作しました。通いながら感じた渋谷は、ちょっと匂いがきついなとか、ちょっと汚いなとか、独特な感じがあるんですね。でも、おそらく普段から渋谷で過ごしている人たちは、この街に慣れすぎていてそのことに気づかないかもしれません。
今回の作品制作では、渋谷に初めて訪れた来訪者の新鮮な視点、あるいは人間の知覚を一切持たないAIの視点を通して、この土地の異質さや特性をデータとして捉え直すことを試みました。地下には地層があり、そこに資源やデータが積み重なっています。それらは、都市における文化や美意識、思想といった、人間の営みのメタファーでもあります。現代を生きる自分たちがいま立っている足場について、いつもとは少し違った感じ方で捉え直してもらい、新鮮さと好奇心を持ち帰ってもらえたら嬉しいです。

―― AIと作品制作をしてみて、いかがでしたか?

画像生成AIが話題になった際に「画作り」の補助として試したことはありましたが、今回は、初めてAIをプロセスに深入りさせる形で作品を制作しました。これまでの自分の作品は数学的な「変調」というプロセスが主体であり、そこにはAIのような自律的な判断は介在していませんでした。
今回のプロジェクトで発見したのは、AIと自分の造形言語の違いでした。例えば、AIに「日本の渋谷のビルを描いて」と指示したのに、ヨーロッパ的な造形を出してしまうなど、文化的な文脈を理解しているわけではないことがわかります。そうした人とAIとの間にある認識の「ズレ」が逆に面白いと感じました。色々実験していくうちに、AIは表層的な建築スタイルの方が理解・学習しやすいことがわかったので、特定の建築様式の名称や、ある建築家のスタイルなど、エリアごとの象徴的な建物をその土地らしさとしてプロンプトに取り入れながら、AIによる造形を導き出しました。

―― 今後の活動について教えてください。

今後は、AIによる自動生成の探求はもちろんですが、来場者という「自分以外の第三者」の手に委ねながら私の彫刻作品をさらに拡張したり、改造したりできるような仕組みを実現したいと考えています。作品が作家の手を離れ、社会の中で勝手に増殖・変容していくような、新しい彫刻の在り方を実現したいです。

  • 佐野 翠

    1993年東京生まれ、広島在住。広島市立大学大学院博士課程2年。「変調(modulation)³」を核に、オープンデータを鉱物・結晶の形態に編集し3Dプリントで彫刻化する。窓ガラスやモニター越しの知覚が常態化した自身と現代社会において、データと物質のあいだを結晶として定義して取り出す試みを行う。AFAF AWARD登竜門2025選出、KYOTO Gathering 2025等。

    1993年東京生まれ、広島在住。広島市立大学大学院博士課程2年。「変調(modulation)³」を核に、オープンデータを鉱物・結晶の形態に編集し3Dプリントで彫刻化する。窓ガラスやモニター越しの知覚が常態化した自身と現代社会において、データと物質のあいだを結晶として定義して取り出す試みを行う。AFAF AWARD登竜門2025選出、KYOTO Gathering 2025等。

FabCafe Tokyo Creative Residency vol.3 参加アーティスト募集

デジタルとアナログを横断しながら、既存のジャンルにとらわれない表現に挑戦するアーティストを支援する「FabCafe Tokyo Creative Residency」第4回目のプログラムに参加するアーティストを募集。「AI-ダダ」をテーマに、多彩なコミュニティとの交流やデジタルファブリケーションを通して、新たな表現を探究する場を提供します。
https://fabcafe.com/jp/events/tokyo/fabcafe-Creative-residency-4/

提出期限は2026年6月1日23時59分です。
エントリーはこちらから
https://awrd.com/award/fabcafe-ai-dada-04

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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