Event report

2022.9.20

理研の研究者と探る、昆虫と共生菌の不思議な関係 ーワークショップレポート

武田 真梨子

FabCafe Tokyo Creative director

「理研の研究者と探る、昆虫と共生菌の不思議な関係 」が、8月21日(日)にFabCafe Tokyo にて開催されました。

本イベントでは、理化学研究所 バイオリソース研究センターの遠藤 力也さんよりキクイムシと菌類の不思議な関係や最先端の研究結果についてお話いただきながら、キクイムシのからだにあるマイカンギア(共生菌が生息する窪み:菌嚢)を観察。観察したマイカンギアの構造は、コンピュテーショナルデザイン・デジタルファブリケーションを軸に活動するクリエイティブチームND3Mと一緒に3Dプリンタを使って模型化し、未知なる世界をいろんな角度から覗いていきました。記事ではその様子をレポートします。

  • 理化学研究所 バイオリソース研究センター微生物材料開発室 研究員 /遠藤 力也
  • ND3M(Nagoya Digital Design Developers Meeting) /田住 梓 , 池本 しょうこ , 鷲見 良

photo:株式会社ゆかい /池田晶紀
企 画:FabCafe Tokyo Creative director /武田 真梨子

会場には顕微鏡とルーペが並び、開場の時間と共に参加者が続々と集まります。夏休み期間中ということもあり、参加者は小学生〜中学生が多く、動機を聞いてみると「夏休みの自由研究のテーマとして面白そうだと思った」「昆虫に興味がある」など、ディープな内容にも関わらず熱心な動機を持って参加してくれたことが伺えます。

参加者が揃ったところで、いよいよイベントスタートです。オリエンテーションの後、まずは理研の遠藤さんから今回の主役であるキクイムシと菌との関係性について、最先端の研究と併せて分かりやすくレクチャーいただきました。

キクイムシは名前と違って木を食べていないこと、キクイムシと共生関係を結んでいる菌は未発見の種が多いということ、マイカンギアの機能は未だ謎に満ちていること…などなど。知らない世界の扉がどんどん開かれていきます。

続いて、いよいよキクイムシの観察です。カシナガキクイムシとヨシブエキクイムシの2種類を観察していきます。まずは、遠藤さんと顕微鏡を見ながら、今回注目していくマイカンギアの観察方法を学びます。

全長5mmの小さなキクイムシ♀のからだ(前胸背板)には、共生菌が生息するための窪み(マイカンギア)があります。この小さなマイカンギアは肉眼では観察することができません。イベントでは、顕微鏡やルーペを駆使して、マイカンギアを観察していきます。

小学生も大人も、顕微鏡やルーペを使いキクイムシのからだを観察していきます。マイカンギアは、キクイムシの個体や種によってそのかたちや個数が異なるため、何個体も観察しながらマイカンギアの比較を行っていきます。参加者のマイカンギアを見つける目も、どんどん肥えていきます。

キクイムシのマイカンギアに焦点を当てて、観察していきます。ピンセットを使って向きや角度を整えながら、繊細な世界へと没入していく参加者たち。

イベントの後半は、ND3Mさんによるデジタルファブリケーションのレクチャーからはじまります。立体物のスキャニング方法やデジタル上でのデータ処理、そして会場に用意してくれた3Dプリンタを使いながら、その場でキクイムシのサンプルを3Dプリンティングしていきます。

続いて、キクイムシのマイカンギア参加者は、自分が観察しているキクイムシのマイカンギアを、粘土を使って立体的に再現していきます。個体によってマイカンギアの特徴が異なるため、よく観察しながら造作していきます。

完成したマイカンギアの粘土模型は、デジタルデータにするため一度スキャニングされ、キクイムシのサンプルデータと合成します。

合成したデータを3Dプリンタで出力し、自分が観察したマイカンギアの形を持つキクイムシの模型が完成します。合成したデータを3Dプリンタで出力し、自分が観察したマイカンギアの形を持つキクイムシの模型が完成します。模型は、郵送で参加者の元へと届いていきます。

世の中には、将来の革新的な技術につながる研究活動が数多く存在しています。一方で、その活動プロセスや成果は、活動外の人たちが情報にアクセスしづらく、素晴らしい活動成果や発見に触れることが難しい環境にあるのではないでしょうか。

Another Worldでは、研究活動を多様な人たちと直接シェアをする機会をつくり、研究成果や研究の意義だけでなく、魅力や更なるイノベーションが生まれる可能性を目指し、そのための機会創出を行っています。

クリエイターが集うデジタルものづくりカフェ“FabCafe”やバイオテクノロジーを扱うコミュニティ“BioClub”におけるイベントやワークショップを通じて、研究者・市民・クリエーターたちが直接出会える場所をつくり、新たな出会いによって開かれるもう一つの世界を、これからも創造していきます。

実施メンバーによる対談記事はこちら

  • 普段は聞かないようなマニアックなお話があり、面白かった。
  • 色々なことを体験出来た。
  • 観察すると、キレイに見えた。
  • 楽しかった。もっと観察や実技をしたかった。
  • “聞く→観る→造る”の流れで興味を持って参加することができました。たこ焼き器みたいでかわいかった。
  • 小学生や大人が真剣になって、キクイムシのマイカンギアを観察している空間にいられてよかったです。

Author

  • 武田 真梨子

    FabCafe Tokyo Creative director

    筑波大学生命環境科学研究科修士課程修了。遺伝子解析や土壌微生物の解析など、小さな生物の生命メカニズムを探求した後、県立高校で理科教諭、国立環境研究所で生物多様性に関する研究活動に従事。2014年、科学技術の推進と市民との対話活動を深めるため、日本科学未来館で科学コミュニケーションを基盤とした企画開発や共創実験を担当。2018年ロフトワークに入社し、これまでの自身の経験とプロジェクトマネジメントを活かして、企業・自治体、研究者、アーティスト、クリエイターなど様々な方たちと一緒に、日々新たな場づくりとチャレンジを行っている。夏と海と解剖が癒し。
    ANOTHER WORLD

    筑波大学生命環境科学研究科修士課程修了。遺伝子解析や土壌微生物の解析など、小さな生物の生命メカニズムを探求した後、県立高校で理科教諭、国立環境研究所で生物多様性に関する研究活動に従事。2014年、科学技術の推進と市民との対話活動を深めるため、日本科学未来館で科学コミュニケーションを基盤とした企画開発や共創実験を担当。2018年ロフトワークに入社し、これまでの自身の経験とプロジェクトマネジメントを活かして、企業・自治体、研究者、アーティスト、クリエイターなど様々な方たちと一緒に、日々新たな場づくりとチャレンジを行っている。夏と海と解剖が癒し。
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