Interview

2022.9.21

ANOTHER WORLDー多様な専門分野の交差が「もうひとつの世界」を切り拓く

『ANOTHER WORLD』メンバー対談

FabCafe Tokyo

Tokyo

本記事は、8月21日(日)にFabCafe Tokyo にて開催された「理研の研究者と探る、昆虫と共生菌の不思議な関係 」の実施メンバーによる対談記事です。

渋谷にあるFabCafeを拠点に、研究者やクリエイターなど様々な領域で活躍する人を招いてイベントやワークショップを開催している『ANOTHER WORLD』。多様な専門分野を掛け合わせながら、未知の発見や価値をつくることで「もうひとつの世界」を切り拓く活動です。

今回のコラボレーターは、理化学研究所バイオリソース研究センターの遠藤力也さんと、コンピュテーショナルデザイン・デジタルファブリケーションを軸に活動するクリエイティブチームのND3Mさん。この日は、遠藤さんによる解説とともにキクイムシのマイカンギアを実際に観察し、その構造を粘土で造形、さらにはND3Mさんと一緒に、3Dプリンタを使って現物大の模型にするというワークショップが開催されました。

イベント後に行われた座談会では、遠藤さんとND3Mの田住梓さん、池本しょうこさん、鷲見良さん、そして企画運営を担うANOTHER WORLDのメンバー、武田真梨子さんによる座談会異なる分野の人々とコラボレーションすることの重要性や難しさ、リアルでワークショップを開催する意義などについて、ワークショップの熱量そのままに語り合いました。

執筆:清水康介
撮影:池田 晶紀(株式会社ゆかい)

 

「まずは率直な感想を」という武田さんの質問に対して、遠藤さんは「大変面白くできました」と力強く答えます。

遠藤「武田さんの頑張りもあって、仕事が非常にやりやすかったです。企画段階でも「こうした方が面白いよね」みたいなことがすぐに反映されて、コラボレーターの方々に繋げてくださいました。普通に研究しているだけでは絶対に会う機会のない方々で、それがとっても楽しかったというのが第一ですね」

遠藤 力也さん(理化学研究所 バイオリソース研究センター微生物材料開発室 研究員)

田住「僕たちも普段は建築やものづくりをメインにしていて、生き物に焦点を当てることはあまりありません。そんな全然知らない世界でも、こういう技術の掛け合わせを使うことで面白いことができるんだと感じました。ワークショップ形式で色々な人にデジタルファブリケーションに触れてもらう機会もそんなにないので、参加者の方々が興味を持ってくれたのも嬉しかったです」

池本「コロナ禍でオンライン開催が増えるなか、対面でのワークショップができたことが素晴らしいと思います。3Dプリンタが目の前にあって、動いているところを実際に見ながら「これ今どういう工程ですか?」みたいな会話をリアルタイムでできたというのがすごく良かったです。リアル開催だからこそ生まれた会話だったり発見だったりしたのかなと思います」

武田「たしかに、物理的に会うことで生まれるチャンスは増えますよね。FabCafeも、本当に色々な人が出入りするハブみたいな場所になっています。そのハブを通して私も皆さんと知り合えたりしたので、皆さんにもこの機会を使ってほしいなと思っています。ちなみに、昆虫を扱うのはND3Mさんとしても初めてですか?」

田住 梓さん(ND3M)

田住「初めてですね。しかも普段は部屋をスキャンしたりといった大きいものを扱うことが多いので、今回のような5mmサイズの世界の “フォトグラメトリ(以降、スキャン)” するというのもチャレンジでした。いつも「小さいものから大きいものまで隔たりなく扱えるのがデジタルファブリケーションの良さ」と言っているんですが、ここまで小さいものも本当に扱えるんだというのも発見でした」

武田「ちゃんと触角までありましたからね。建築のサイズ感で触角が求められることないですもんね(笑)」

遠藤「正直に言うと最初は「こんなの本当にスキャンできるの?」と思っていました。でも、出来上がりを見て「やっぱりクリエイターって凄いな」と。ちょっと通じるものがあるのは、虫屋さんに「こんな昆虫いるんだけど、まあ採れないですよね」みたいに相談すると、ムキになって探してくるんですよ(笑)。今回のスキャンもその感覚に似ていて、分野は違えどプロフェッショナルな心意気に親しいものをすごく感じました」

田住「「絶対3Dモデルを生成してやろう!」とは思いましたね。ND3Mには写真技術が好きなメンバーもいるので、何とかなるだろうと」

武田「カメラについても色々と試行錯誤してくださって、そこを実現する力があるというのが、一緒にコラボレーションさせてもらって頼もしかったです。」

田住「今日は3Dプリンタとかデジタルファブリケーションに強いメンバーが来ていますが、他にもVRだったりシミュレーションだったり、色々な得意分野を持ったメンバーが揃っています。今回は、ここにいる鷲見に昆虫の知識があったことも役に立ちました」

鷲見 良さん(ND3M)

鷲見「小学生くらいのころに昆虫採集をしていて、標本を作ったりしていました。その知識と、写真の技術を組み合わせて、どうやって小さいものを撮るかということに対応できたかなと思います。今回のテーマはマイカンギアで、マイカンギアを観察して造形するのがメインですけど、参加者がキクイムシの観察を通して、小さな線とか周りの構造まで繊細に再現されていたことには驚きました(笑)」

武田「今回は小学校の高学年から中学生までが多かったのですが、それくらいの年齢のころに経験したことって記憶にも残るし大事だと思うんですよね。伝えたいことはたくさんあるけれど、まずは子供の目線で面白いと思えることを第一に企画を考えていました」

遠藤「今日来てくれた子たちは夢中になって観察してくれてましたね。実体験の良さを再確認しました。リモートで投影することもできるけど、子供たちが自分の手で顕微鏡を扱って「見えた!」って言うその一言。それだけで今日やって良かったなと思えました。パッと見てすぐ分かるわけではない、ちょうど良い難易度だったのが良かったのかもしれませんね」

武田「始める前は「うまく見えないんじゃないかな、見えて1匹かな」と心配していたんですけど、余裕で顕微鏡を駆使していましたね(笑)。それこそ「見たい!」という強い思いがないと、なかなかできないと思います。その集中力と熱量がすごかったです。子供だけじゃなくて、大人も必死で見ようとしてましたね。世代を超えて、人として本質的に持っている探究する楽しさが、掻き立てられたのかなと思います。」

遠藤「直感的な面白さですよね。理屈は後からでも良い。普段どうしても雑務に追われていて、見失いがちになってしまう研究本来の楽しさを今日のワークショップで確認できた気がします」

武田「やっぱり「新種」とか「未知」とか「謎」とか、ワクワクするじゃないですか。今回のテーマにも、そういう部分はすごくあったと思いますし、実はこのANOTHER WORLDという取り組みも「今まで見えてこなかったもう一つの世界を見よう」っていうコンセプトなんですよね。特に先端的な研究領域だと、新しい発見がプレスリリースで発信されても一歩外の領域にまで浸透しなかったりするけど、実はそこにブレイクスルーがあったりすると思うんですね。それは世界の見方を変えるくらいのインパクトがあるはずなので、その発見に私たちも乗っかっていける場をつくりたいというのがANOTHER WORLDの根本的なところです」

池本「まさに今日のイベントも遠藤先生のお話が面白くて、建築業界にいると知らない世界に触れられて本当に楽しかったです」

池本 しょうこさん(ND3M)

田住「僕たちに「こういう世界があるんだよ」と教えてくれるような新鮮さがありました。クリエイターって、普段からそういう面白いものを探しているんだと思うんですよね。ただ研究者の方ってすごく忙しいと思いますし、なので今回の遠藤先生のように時間を使っていただけるというのは魅力的でありがたいことだと思います」

遠藤「実際には研究者にも、他領域と協力して面白いことをしたいという人はたくさんいると思います。ただ、その ”化学反応” が発生しにくいんですよね。何でなんでしょうね」

武田 真梨子(FabCafe Tokyo Creative director)

武田「いろいろな要因はあると思いますが、ひとつはパッションだと感じています。コラボレーションしようっていうワクワク感が、その人自身に少なからずないと融合はしていかないですよね。パッションがある同士だとすぐに盛り上がれる。ジャズ奏者たちが「初めまして」でもお互いのパッションを通じてセッションを生んでいける、みたいなことだと思います」

遠藤「武田さんみたいに、引っ張ってくれる人の存在も大事ですよね。そういう情熱を掻き立ててくれる人が大学や研究機関、社会をつなげる上で求められてくると思います。」

武田「ありがとうございます(笑)熱量でいろんな人たちを巻き込んでいけるような立ち回りができるのも、FabCafeの良さだと思っています。今回の取り組みで、その一歩を切り拓けていたら嬉しいです。」

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  • FabCafe Tokyo

    FabCafeは世界中に拠点を持つ、クリエイティブコミュニティです。
    人が集うカフェに、3Dプリンターやレーザーカッター等のデジタルものづくりマシンを設置。“デジタル”と“リアル”の壁を自由に横断し、未来のイノベーションを生み出します。地域のクリエイターやアーティスト、企業とともに、食、アート、バイオ、AIから教育まで、ものづくりの枠を超えたラボ活動も行っています。FabCafe Tokyoは、2012年にスタートした第一号拠点。シングルオリジンの豆を使ったコーヒーや、旬の野菜を使ったフード、パティシェが作るスイーツなど、こだわりのドリンク&フードをご用意しています。

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